絢爛たる悪意

物語
感想



物語

500年もの長きに渡り戦乱の続く日本大陸。
将軍黒田清鷹の台頭により、終焉するかと思われたその争いは、しかし、 彼によった始められたある行いによって、いっそうの混迷を迎えていた。
『人狩り』。
15年前に突如として始められたそれは、領地を巡る戦いなどではない。
場所を選ばず、相手を選ばず、ただひたすらに繰り返される殺戮であった。
殺そうとするものと生き延びようとするものとの壮絶な殺し合い。
その中では、恐怖と狂気とが増幅され、すべてを覆い尽くしていく。

そういった戦場の1つ、大州の砦に、1人の少年の姿があった。
少年の名は朱童一馬。
手練れの傭兵として戦場を転々と渡り歩く彼には、ある目的があった。
数ヶ月前、彼の村を襲い、彼からすべてを奪っていったもの・・・それを探し出し、 敵を討つこと――それが、彼の目的であった。

黒田の兵には手に負えない戦場にそれは現れる。
彼が大州で戦い始めて5日。果たしてそれは現れた。
人を食らう、常人ではいくら斬っても倒すことのできない巨大な化け物の群れ。
しかし一馬には、彼らを倒すことができた。
剣を揮い化け物たちを斬り伏せていく一馬。
しかし、突如現れた男――彼の村を滅ぼした張本人、志魔利の前に再度敗退する。
傷を負い、気を失った一馬は志魔利によって何処かに連れ去られそうになるが、 そこに現れた僧侶に助けられる。

意識を失っている間に、彼は夢を見る。
村を襲われたときの夢・・・それは一馬にとって、非常に忌まわしい思い出であった
目を覚ました一馬は、凍えるのも構わず、冬の川で何度も体を洗い続ける。
それを止めに入った僧侶をも拒絶し、気を失う一馬だったが、次に目を覚ましたときには、 僧侶が自分を介抱してくれていたことに気付く。
そこで彼は僧侶から、あの化け物たちが「闇の者」と呼ばれること、自分には「霊力」という、 「闇の者を倒す力」があること、そして志魔利がまだ生きているということを教えられる。

その時、二人の前に、再び志魔利が現れた。
一馬の霊力を持ってしか志魔利を倒すことはできないという僧侶の言葉に、 彼は霊力を高めようとするがうまくいかない。
そんな彼を落ち着かせようとかけた僧侶の励ましの言葉に、不思議な既視感を覚える一馬。
そして、その言葉が彼の胸の奥にある何かを蘇らせた。
一気に高まった霊力は、志魔利を倒すのに十分なものであった。
志魔利は消し飛び、一馬は自分が仇を討てたことを知る。

彼を助けた僧侶は不知火と名乗った。
闇の者を追っているという彼と、いったんは別の道を行こうとした一馬であったが、 闇の者のこと、霊力のこと、そして自身が狙われた理由について、自分が何も知らないことに思い至った時、 ふと思い直したかのように、不知火の後を追うのだった。



感想

以上、一馬オンリー視点の第一話。一馬以外ははしょったのに、100ページもあると長いです。

さて、感想。
なんかもう、すっごい痛くてかっこよくてヤバイ話ですよ! どうよ、コレ!
一馬なんて、目が据わっちゃてますよ。予告の絵(カラーの方ね、1巻の扉のやつ)ではなんか、 ちょまっとしていてかわいいのに、本編はこうですかい! って感じに怖い人。
主人公なのに、えらいさくさくと人を殺しているし。もうこの時点でかなりヤバイよね。
で、その一連の殺戮シーンと、世界設定の説明が終わった後に、一転して闇の中に降りつもる雪と、 錫杖の音、一人歩いていく僧侶の絵という、静の世界に転ずるなんてところが、もう、それだけできれい。 かっこよすぎ。
その錫杖がそこで細切れになって死んでいる人のものと同じだったりして、 ああ、この子はこの人の関係者なのかな、なんてことは、すごいちゃんと読んでなきゃいけなかったり、 うっかりな私なんかにはその人が出て来てくれるところまで来てから、 後で読み返して、それも10回目か20回目くらいでやっと気が付いて、 「ああああああっ!!!」なんて思ってしまったりするのですが、 もう、そんな細かさが、堪らなく気持ちいい! (しかもちゃんと、「ほら、同じなんですよ」という演出がされているのもいい!)

で、やっぱりこの回の基本は、一馬と不知火との対比のような気がします。
一馬も不知火も、かつて大切な人を目の前で殺されている、という共通の過去を持っているのですが、 一馬はなんかもうひどい目にあっていて(私、未だにあの頁、まともに読めないんですけど。痛々しくて)、 ピリピリしていて、人を殺すことで食いつないでいたりして、でも、お姉さんを助けられなかっのに自分だけが助かったこととか、 辱めを受けたこととかでもやっぱりそれでも生き延びてきたこととか、 憎しみに任せて人を殺してきたこととか、そういうものをみんな穢れとして引き受けていそうで、 それに押しつぶされそうになっているのに、 不知火の方はそうでもなくて、そんな風にして死んでいった人たちの弔いをして回っていたりする。
一馬は闇の者のことなんて知らなくて、霊力は強いのにうまく使う術を知らず、 不知火は闇の者に対する知識があって、霊力はさほどでもないのに使い方には非常に長けている。
その違いというか、対照性というか、対称性が現れていて面白いのでした。
色も、赤と緑で補色だし。
だからもう、この回で一馬は不知火の上に違う誰かの影を見ているのだけれど、 後を追っかけてしまうのは闇の者のことが知りたいからなのかもしれないんだけれども、 不知火に心惹かれているのはそういうところだけじゃなくて、自分にない、 自分はなくしてしまった穏やかさというか、穢れに染まった自分を受け止めて雪いでくれるような静かさを持っているからなのかなあ、 と、思ったりもするのでした。

とは言え、このままでは、あまりにも一馬と不知火の話ばかりなので、他の人についても。
残りの3人が登場して、雨が降り出すシーンはこれもまた視覚的に大変美しいシーンです。
顔見世として、うわっ誰コレ! 的なインパクトは十分です。
でもって、私は水貴へGO! なのでした。

それにしても、言葉にしてしまうと、なんか感じが違うなあ・・・。
まあ、何にせよ、今回は仇が取れてよかったネ!

おまけへ>



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