SOL艦隊旗艦「やまと」

やまと浮上せり

by 佐藤クラリス & オータム (PC-VAN宮崎駿ネットワーカーFC)

 2000年10月05日アップデート → メールアドレス変更
 このページは、PC-VAN宮崎駿ネットワーカーFCの佐藤クラリスさんとオータムさんが、そこで連載した作品やまと浮上せりの全文を掲載しています。なお、無断転載等は厳禁です。(編集者)  なお、文中「西東遊治郎」=「佐藤クラリス」、「上瀬秋雄」=「オータム」です。
やまと浮上せり    西東遊治郎・上瀬秋雄

Yamato Fujou Seri by Yujiro Saito and Akio Kamise Copyright (c) 1991 by Yujiro Saito and Akio Kamise

ネオ日本の国旗について
登場人物紹介
●AKIRA
 神にも等しい超能力(サイキック)の持ち主。偽りの理想を掲げた専制政治の打倒を狙う。
●舞
 AKIRAに匹敵するサイキック能力を持った少女。戦いを止めさせるために、AKIRAの前に立ちふさがる。
●銀河
 注国随一のサイキック能力者の少女。ネオ日本の注国侵攻に敢然と立ち向かう。
●徳川アイ子
 ネオ日本軍で最も魅力的だと言われる女性士官。ファンクラブの会員は多い。
●古代進
 原子力潜水艦やまと艦長代理。やまとが宇宙戦艦に改造された後に、正式に艦長に任命される。
●真田佐助
 やまと技師長。天才的な才能で、次々とスーパーメカを発明し、ピンチを救う。
●大佐
 ネオ日本の影の支配者。世界制覇を狙っている。
●アメリカーナ大統領
 大陸帝国アメリカーナの期限付帝王。世界制覇を狙っている。
●燈皇帝
 注国の皇帝。無数のサイキック達を操り、世界制覇を狙っている。



主要登場メカ紹介
●原子力潜水艦やまと
 日本初の100パーセント国産の原子力潜水艦。アメリカーナ第7艦隊所属という隠れ蓑の下で建造されたが、日本の国難を救うために、アメリカーナの指揮系統を離脱、独自の行動を取る。後に、宇宙戦艦に改造され、ネオ日本SOL艦隊旗艦となる。
●ニミッツ
 白色の彗星とあだ名されるアメリカーナ最強の原子力空母。全長4500メートル。最大速力35ノット。最新式ハンドレ・ページ超重爆撃機80機を登載可能。その他、中小型艦載機は500機を超え、46隻の巡洋艦や駆逐艦などを従えた無敵の空母。別名を浮かぶ飛行島と呼ばれる。
●B83ハンドレ・ページ超重爆撃機
 核ジェットエンジン6基を装備した超大型の爆撃機。ステルス能力を持っているが、ネオ日本の差分回析レーダーの前には、姿を隠すことは出来なかった。結局4機が生産されただけで終戦を迎えた。唯一無傷で残った4号機はネオ日本に運ばれ、テストを受け、あらためてアメリカーナの兵器に対する技術の高さが評価された。
●SOL(Satellite Orbital Laser-weapon)艦隊
 衛星軌道上に展開するレーザー砲装備宇宙艦隊。ネオ日本では、雷神2改型宇宙アクティブ・レーザー砲艦と火龍改型宇宙パッシブ・レーザー砲艦、計2000隻を実戦配備しており、正に世界最強を誇る。
●雷神2改型宇宙アクティブ・レーザー砲艦
 ネオ日本の誇る宇宙空間より地上を砲撃するためのレーザー砲装備艦。次の「火龍改」と異なり、原子炉とレーザー砲を装備しているため、自力で攻撃が可能。全長200m。旗艦「やまと」は全長300mの巨大さを誇る。主砲は全長250mに及ぶ多重反射型ガラスレーザー砲(メーカーはネオ日本のHOYAA)であり、その破壊力は1秒当たりTNT火薬3メガトンに相当すると云われている。
●火龍改型宇宙パッシブ・レーザー砲艦
 ネオ日本の、巨大な反射板を装備した反射型レーザー砲艦。地上レーザー基地よりのレーザー光線を反射させることにより、地上を攻撃する。
●宇宙往還機天竜
 ネオ日本の誇る宇宙より地上への強襲揚陸艇。外部装甲と対置攻撃ポッドを取り外すと、多目的スペースシャトルとしても利用できる便利な設計になっている。従って、通常は自動操縦で衛星軌道と地上を往復する輸送機として利用されていることが多い。
●イ−40000級原子力潜水空母『轟天』
 ネオ日本が極秘に開発中の原子力潜水空母。深度1万メートルを50ノットで進み、深度5千メートルで発射可能な中距離核弾頭ミサイルを24基登載。初の国産VTOL全次元戦闘爆撃機『神武』を16機登載している。富士山麓の光子力研究所で、河馬都博士が研究中の光子エンジンを装備すると、宇宙空母となる。艦首に冷凍光線砲を装備。
●VTOL全次元戦闘爆撃機『神武』
 スカイ・ユニットとダイバー・ユニットから構成されていてる。ダイバー・ユニットの前部にスカイ・ユニットが結合されている状態で、深度千メートルの母艦より発進する。そして、空中進出地点の深度百メートルで、スカイ・ユニットが切り放され、一気に空中に舞い上がるという仕組み。スカイ・ユニットにも、簡易潜水艇としての機能があるので、回収も海中で行う。制宙権を失い宇宙空間からのレーザー砲撃にさらされた場合でも稼働できるための配慮といえる。


プロローグ
西暦2001年。
新たな脅威が不気味に世界を席巻し始めていた。巨大な帝国アメリカーナが膨張と収縮を繰り返し、その軍事力によって、多くの国々を破壊し、そこから進出する機動部隊がすさまじい猛攻を加えた。征服された国の人々は、囚人として資源採掘の作業に従事させられていた。かつてのやまとの戦士、古代、相原らは石油輸送船団の護衛任務に就いていた。ネオ日本への輸送航海の途中、古代らは未知の国からの不思議な発信音をキャッチした。
「ェいま、私たちのェ巨大なェあなた方ェかも知れませんェ危機ェ時間がェ早くェ誰かがェこの通信をェ早くェ立ち上がってェ」
通信はそこで切れた。レーダーには巨大な空母機動部隊が出現していた。しかも、それは急速にネオ日本へと接近しつつあるのだ。古代と真田は、早速この件を国防会議に提出したが、ネオ日本政府は、世界の何処かで起こりつつある危機を無視して、取り合おうともしなかった。世界の果ての国の事なんかどうでもいいと云うのだろうか。ネオ日本だけが平和であればいいのだろうか。ネオ日本は世界の平和を守るリーダーではなかったのか・・・。ネオ日本が直接の被害を受けてからでは遅すぎるのだ!しかし、古代や真田にはネオ日本政府の方針を批判する事は許されなかった。国防会議のメンバー達は笑った。「キミらは正気かね?アメリカーナはそんな野蛮な国ではない。それにアメリカーナは我がネオ日本と安全保障条約を結んでいるのだ。我国を侵略するはずが無いではないか。訓練に決まっている」彼らの努力は虚しく過ぎて行き、やがて、空母ニミッツを中核とする機動部隊が東京湾に出現した。
やまと浮上せり 第1部

大統領 「日本か、美しい国だ。よし、とめろ」
東京湾沖で、停止するニミッツ。
東京の上空に乱舞する艦載機。
使節 「アメリカ国民とアメリカ大統領の名において、日本民族に告げる。降伏か死か、選択するときが来た。一時間以内に回答せよ。さもなくば、攻撃を開始する」
国会議事堂で。政治家に食い下がる記者達。
記者A 「降伏するんですか!?」
記者B 「戦う手段はあるんですか!?」
街頭でテレビを見ている群衆。
子供 「ねえ、やまとはどうしたの? やまとが来たら、あんなのやっつけれくれるよね」
民衆A 「やまと・・・」
民衆B 「そうだ、まだ我々にはやまとがあるぞ!」
民衆C 「やまとはどうした!?」
民衆D 「やまとを出せ!?」
民衆のやまとの大合唱。
防衛庁長官 「やまと・・・・」
そのころ、やまとでは。
真田 「これが、ゴルバチョフの教えてくれたニミッツの中心核だ」
古代 「ニミッツが止まってくれたおかげで分かったわけですね」
真田 「しかし、ここを核魚雷で狙うには、ニミッツの前に出なければならない」
古代 「よし、潜航しよう」
ニミッツのブリッジ。
艦長 「通告の一時間はが過ぎました」
大統領 「よし、進撃を開始せよ」
そのとき、ニミッツの前、東京湾内に浮上するやまと。
大統領 「おもしろい、ふみつぶせ」
やまと艦内。
古代 「おちつけ、おちつくんだ。この一発に日本の運命がかかっているんだ」
古代 「発射!」
一直線に吸い込まれる核魚雷。
崩壊する巨大空母ニミッツ。
爆発に翻弄されるやまと。
土方 「左反転180度、取り舵いっぱい、出力全開、全速離脱!」
日本の民衆、歓喜している。
しかし、爆発の煙が晴れていくと、ニミッツのいた太平洋の彼方に、巨大な大陸帝国アメリカーナが・・・・。
大統領 「ふっふっふ。そこまではよくやったとほめてやろう。だが、もはや通常弾頭魚雷すら残ってはいまい。次はどうする、やまとよ」

森雪 「自爆しましょう!ここで対消滅エンジンを爆発させれば、アメリカーナは吹き飛び、日本は救われるのです。それが我々の目的だったのではないのですかっ!不具戴天の敵を焼き、日本の自由を取り戻すに何をためらうのですっ!」
古代 「ダメだっ!それは出来ん。たとえ世界が滅びようとも、この上も無く愛しているキミを失う訳には行かん!」
森雪 「まぁ〜、古代くんったら、こんな所で・・・イヤァ〜ン」
真田 「この非常時にこんな事をしているこいつらって一体・・・(^_^;)そ、そうだっ! AKIRAを呼べっ!28号のパワアを使えば、アメリカーナなんか屁でも無いわい!」

大佐 「さあ行くのだ。日本の国難を救うのだ、28号」
鉄雄 「うおぉぉぉぉぉぉ」
いきなりパワーが解放されて壊滅する東京。終わり
大佐 「というようなパターンになっては困るので、昏睡状態の28号を入れたカプセルを、H2ロケットで弾道軌道に打ち上げて、アメリカーナに直接たたき込む」
部下 「それは無理です。H2はまだ実用化されていません」
大佐 「では、どういう手段があるというのだ」
部下 「はぁ。石油を絶たれた日本が使える輸送手段と言ったら・・・、気球にくくりつけて、ジェット気流に乗せてアメリカーナまで飛ばすと言うのはどうでしょうか。レーダーにも映りませんから、一石二鳥です」
のけぞる大佐。
大佐 「やむをえん、準備しろ」

真田 「大佐ア。私に良い考えが有ります」
大佐 「うむ、話してみたまえ」
真田 「やまとにAKIRAを乗せてアメリカーナに特攻させるのです。彼のパワアを以てすれば、アメリカーナのストライクフォースも全く歯が立ちません。必ずやアメリカーナを消滅させるでしょう! 大佐っ! ご決断をっ!」
大佐 「なるほど・・・。世界最強のやまとと人間水爆AKIRAを合体させるのかっ!む、無敵だっ! こ、これだ!! 日本は勝てるっ! 勝てるぞ!! 直ちに実行したまえ!!」
真田 「ハハッ!!」

かくて、AKIRAを乗せたやまとは悪の帝国アメリカーナに向かって発進した。日本滅亡まで、あと156日。

AKIRAを乗せたやまとは、一直線に大陸帝国に向かって行った。
それを見ている大統領達。
大統領 「やむをえん、最終兵器を召集するのだ」
補佐官 「はい!」
ぞくぞく集まってくる変なアメリカ人。
大統領 「よくきてくれた。さっそくだが、我がアメリカーナに危機が迫っている。君達の力で、アメリカーナの正義を守って欲しい」
スーパーマン 「はい、大統領。守って差し上げたいの山々なのですが、最近はふるさとの農民達が、不公正な日本の非関税障壁のせいで、大きな損害を受けていますので、その補償が先です」
大統領 「そういえば、君は下院議員に当選したんだったね」
ワンダーウーマン 「わたしも、アメリカーナのために働きたいのはやまやまですが・・・、セクシャルハラスメントをなんとかしてくれないと・・・。男達は、私のコスチュームばかり見つめて、不愉快です」
大統領 「いやあ、よーくわかるよ、お嬢さん」
(と言いつつ、胸のあたりを見つめている)
スパイダーマン 「私のような特異体質でも、平等に生きて行ける権利を!」
大統領 「分かっているとも、私は君を蜘蛛男だなんておもっちゃいないとも」
スパイダーマン 「ぎくっ。言ったな、いちばん気にしている『蜘蛛男』という言葉を・・・」
UFOマン 「あのぉ、差し出がましいようなんですが、先に攻撃をかけたのは、わが国ではないでしょうか。それに反撃してくるのは当然のことですから、このへんで和平交渉を提案してはどうでしょうか」
大統領 「ほう、君がザ・グレイテスト・アメリカン・ヒーローと呼ばれた男だね。悪いが、ああいう子供っぽい国には、しっかりと誰が主人か教え込まなければならないのだよ」
UFOマン 「それじゃあ、民主主義はいったいどうなるんですか。わが国の自由は。基本的人権の尊重は」
大統領 「そういえば君のコスチュームは真っ赤だね。警備兵、アカが忍び込んでいるぞ、逮捕したまえ」
そして、誰も居なくなった。
大統領 「ああ、なんということだ!」
そのとき、笑い声が大統領の耳に届いた。
大統領 「誰だ!?」
ぬうっと闇から出てきたのは、なんと・・・・。

大統領 「誰だ!?」
ぬうっと闇から出てきたのは、なんと・・・・美しい東洋の少女だった。

大統領 「キミの名は・・?」
少女 「あたしの名前は”舞”です」
大統領 「キミが、やまととAKIRAをやっつけてくれると云うのかね」
少女 「そうですわ。大統領」
大統領 「何故だ? キミは日本人だろう。どうしてアメリカの味方をするのだ」
少女 「争いはいけません。一番傷付くのは両方の国の国民なんです」
大統領 「ハハハ。良い子だ。そうなんだよ。キミは良く分かっているね」
少女 「そう・・・・。今分かりました。あたし、人の心が読めるんです。一番分かっていないのは大統領、貴方だと云う事が・・・。支持率が低下しているのは当然ですわね」
大統領 「・・な、なんだとォ!警備兵! こいつを叩き殺せ!! ズタズタに引き裂くんだ!」
しかし、次の瞬間、物凄いパワアでせんべいの様に潰れたのは大統領の方であった。

というわけで、舞台は替わって、太平洋。
堂々と洋上を航行するやまと。左右に護衛艦が従っている。
AKIRA 「かたまって航海しているな、まるで襲撃を恐れているような」
そのとき、上空から、急降下してくる1機の戦闘機。
いきなり攻撃され、炎上する護衛艦。
兵隊A 「3番艦が食われた!」
兵隊B 「しんがりを巻き込んだぞ!」
やまとも命中弾を受け、炎上する。
AKIRA、甲板に走り出て、いきなり攻撃してくる戦闘機に向かって、両手を広げる!
戦闘機のパイロット、引き金を引こうとして、はっと気がついて、戦闘機を旋回される。その瞬間、イージス艦から発射されたミサイルが戦闘機に命中する。
AKIRA、炎の中の船内に戻る。炎に包まれた格納庫に、コスモタイガーが格納されている。
AKIRA 「まだ使えるかもしれない」
コクピットの乗り込んで、調べるAKIRA。
そのとき、格納庫の入り口に現れる古代。
見つめあうAKIRAと古代。
AKIRA 「来い!」
無言で後部座席に乗り込む古代。
コスモタイガーの機銃で吹き飛ばされる水密扉。
やまとから飛び出すコスモタイガー。
AKIRA 「戦闘機のパイロットが、アメリカーナに落ちた。それを救出する」
アメリカーナに向け旋回するコスモタイガー。
戦闘機の残骸を発見し、近くの荒れ地に着陸するコスモタイガー
AKIRA、コスモタイガーから降りる。
古代 「まて、動くな」
AKIRAゆっくり振り返る。
AKIRA 「あなたは何も分かっていないんだ。ここは、アメリカーナなんだよ、銃を使っただけで何が起こるか分からない世界なんだ」
歩きだそうとするAKIRAの目の前の地面に銃を打ち込む古代。
AKIRA 「あなたは何を恐れているんだい? おびえたキツネリスのように」
その時、遥か上空から無数の爆弾が降ってきた。

古代 「ゲゲッ! B83だっ! 水爆だ!!」
しかし、水爆は途中でフッと消えてしまった。

古代 「ど〜したの?」
AKIRA 「瞬間移動さ。今ごろ水爆はアメリカーナの基地を爆撃している」
古代 「え・・? う・・。 あ・・・ははははは。そ、そうか、、、。キミって凄いんだねぇ〜。尊敬しちゃうよ」

古代は、持っていた銃をそっと捨てた。

古代 「所で、これから何処へ行くんだい」
AKIRA 「アメリカーナの中心部。SAC(戦略空軍司令部)。彼女はそこに居る」
古代 「彼女?」
AKIRA 「そう。既にアメリカーナは大統領を失って大混乱だ。それは分かった。しかし、彼女は、ボクがアメリカーナを滅ぼすのを止めさせようとしている。だが、滅びはアメリカーナの運命なんだ。時間の流れは止められないんだよ。彼女はそれが分かっていない。だからボク達は戦わなくちゃならないんだ」

だが、大統領は死んではいなかった。
瓦礫が落ちてきた瞬間、床の抜け穴から脱出したのではない。
実は、アメリカーナの大統領には、生命の危機に瀕すると、巨大化するという特性があったのだ。
ワシントンDCの人々は、恐怖の表情で、大統領にも似た巨大な物体を見上げた。
老婦人 「まあ、なんてはしたない」
そう、肉体が巨大化しても服までは巨大化しないので、フルチン姿になっていたのだ。
大統領 「うぉぉぉぉぉぉぅ」
大統領は、何か言った。しかし、巨大化した喉から発せられる声は遥かに低い周波数となってしまうため、人間の可聴範囲を出てしまったのだ。
必死に、私は大統領だ!と言っても通じない。
そのとき、一人の少年が、1冊のコミックスを振りかざして叫んだ。
少年 「あれは、巨神兵だ!」
もちろん、そのコミックスとは、英語版ナウシカであった。

SAC(戦略空軍司令部)で。
異様な物体がワシントンDCに出現の報は、ただちにここに届けられた。
兵士 「おお、ついにハルマゲドンのときを迎えたのか! アーメン」
舞 「あれこそが、アメリカーナの邪悪の象徴だわ!」
兵士 「我々は滅びるしかないんでしょうか」
舞 「そんなことはないわ。私達もワシントンDCに行きましょう」

西部の荒れ地で。
古代とAKIRAは、コスモタイガーを駆って、SAC(戦略空軍司令部)を目指していた。
AKIRA 「!?」
古代 「どうしたんですか?」
AKIRA 「遥かの巨大で邪悪な存在が、あらわれたんだ」
古代 「といいますと?」
AKIRA 「いってみよう」

そして、彼らはワシントンDCに集まった。

ここはワシントンDC。ついに復活した巨神兵。

舞 「んマァ〜! やだァ〜! なによ、これ・・・!」
AKIRA 「うーん、これは確かに巨大な邪悪だ・・」
古代 「そうだよ。邪悪だよ。デカければイイってもんじゃないんだぞ!森雪がこれを見たらなんて云うかなぁ〜」

観衆は皆、眉をひそめて、この様な話をしておりました。それを聞いた大統領は、次第に恥ずかしくなり、段々小さくなってしまいました。で、とうとう元の大きさになってしまいました。

大統領 「み、皆さん、私は大統領です。分かりますよね」
観衆 「しらんぷりっ!」

警官 「キミキミ! 裸で歩いちゃダメじゃないか。あやうく大事件になるところだ!! 町中を裸で飛び回るなんて非常識極まり無い。住所と名前は?」

AKIRA、舞はもとより、TVや新聞や様々なマスコミが取材にきていた。もちろん、アメリカーナ以外からもたくさん。
警官 「はやく、住所と名前をいいたまえ」
大統領 「私は、合衆国の大統領だ!」
警官 「大統領を語るとは、なんというやつだ」
大統領 「ほんとうだ!」
警官 「そう言われてみると、似ているなあ」
大統領 「私は本人だ!!」
取材陣 「おお、これは、ニュースだ! 大統領ストリーキングす!」
いきなり、フラッシュの嵐。撮影される大統領。
大統領 「やめてくれえ!」

その日すぐに、このニュースはCNNで流され、翌日には世界中に。
失笑を買ったアメリカーナの国際的な地位は失墜した。独立する州が多数出るわ、軍隊も解散、見るに見かねたカナダの援助で持ち直して、「カナダがくしゃみをすると、アメリカーナが風邪を引く」と言われるようになってしまった。

そのなりゆきを唖然として見ていた。AKIRAと舞。
舞 「結局、どんな超能力よりも、マスコミは強かったというわけね」
AKIRA 「出番がなかった」
古代 「そんなことはないです。こんどは朝鮮半島がAKIRA先生のパワーを待っています。あ、ヨイショ」

日米経済摩擦編(完)
やまと浮上せり 第2部

だが、その頃、日本では、アメリカーナが抜けた軍事的空白を埋めようと、「やまと」級原潜と「むさし」級原子力空母の量産計画と徴兵制施行が決定されていた。
ここはネオ日本。実質的な日本の支配者「大佐」による「世界制覇作戦会議」が始まろうとしていた。

大佐 「諸君!我々はついに勝った!あの鬼畜米英はついに世界地図から消え去った。先ずは祝おう」

大佐 「かつて、世界には、日本を除いて3つの大国が有った。アメリカーナ、ソ連、注国の3国だ。この内、アメリカーナとソ連は軍事優先の経済の破綻により国家は分裂し事実上滅んだ。残るは注国ただ1国。これを取れば、ゲームは終わりだ。ところで諸君。キミ達は注国東北部の漫州が我が日本の固有の領土だと云う事を忘れてはいまいね。我々には漫州を併合する権利と義務がある。我々は遠交近攻策に則って、今こそ大陸へ雄飛しようではないかっ!因に、この計画の名前は『雄飛に向かって走れ』だっ!」
大佐 「では、これからその雄大な計画の説明をする。おい、始めろ」
部下 「はっ。では、我国の防衛システムの現況報告と計画の進捗状況説明を致します。既に我が国はやまと級原潜艦隊3を実戦配備し、むさし級原子力空母を中核とする機動部隊2を同様に実戦配備しました。これらの艦隊は現在、日本海海域で訓練を実施中です。次に、対空防衛システムですが、次の物が建設中です。
1.対超磁力兵器用防空システム SMC( Super Magnetic field Canceler )
2.全自動防御システム FALSE(Full-Automatic muLti defense SystEm)
3.反射衛星全方位攻撃システム MS−DOS(Mirror Satellite - all Direction Offensive System )
4.無制限核画像照合X線防衛システム UNIX( Unlimited Nuclear and Image compare X-ray difense system )
5.OS/2 (Offence Strategy / 2)
現在の完成度は総合で20%となっています。これらのシステムが完成しました暁には、我国は如何なる攻撃をも受け付けない無敵の帝国となるでしょう。尚、これらの建設に要する費用は100兆円/年です。以上」
大蔵大臣 「大佐、予算が余りにも大きすぎます。これでは経済が破綻します」
大佐 「・・・大蔵大臣。キミの仕事は、軍隊が必要とするだけ札束を印刷する事だ。分かっているな」
大蔵大臣 「は、はい・・・」

その頃、注国では、極秘裡に、コンピューターを用いて、ネオ日本の戦力を分析していた。
広大な大地に、表に1、裏に0と書いたプレートを持った注国人民が整然と並んでいた。そのあいだを、バスが走り回っている。
高台の上に、注国共産党の書記長が立っていた。
書記長 「壮観な眺めだな。記憶容量はどれぐらいあるんだ?」
部下 「はっ。8人で1バイトとなりますので、800万人ほどおりますので、100万バイト、つまり、1メガバイトぐらいだと思われます」
書記長 「そうか、それは素晴らしい。ほれ、あのネオ日本の最新コンピューター、英知98とかいう奴。あれは640Kバイトしか使えないのであろう? わが国人民の英知の勝利だのう。ぐわっはっは」
部下 「はい。それに、わが国コンピューターは記憶素子1ビットごとに、インテリジェンスが備わっております。素子1ビットごとに、CPUとしての機能もあるわけです」
書記長 「素晴らしいぞ」
部下 「しかも、情報交換のために同時に複数のバスを走らせているのは、わが国だけです」
書記長 「かっかっか。科学力では、世界のどの国にも追いつけまい!」
部下 「あと70時間ほどで、ネオ日本軍の動向の未来予測が出ます」
書記長 「うむ、あとは頼むぞ」

その頃。コンピューターの内部では。
人民A 「あれ? 俺1だっけ、0だっけ。バスの中で世間話に夢中になって、忘れてしまったよ」
人民B 「おまえは、1だ」
人民C 「いいや、0だ」
人民B 「なにを!」
道の真ん中で喧嘩が始まる。
喧嘩に邪魔されて、止められてしまうバス。
人民D 「あー、腹が減った」
人民E 「配給はまだか?」
ごろりと横になる人々。

とあるバスが、人々の真ん中に座り込んでいる一人の老婆の前に止まる。
一人の人民が降り立つ。
人民F 「聞きたいことがあるんだが。ネオ日本軍は次に、どう動くかな」
老婆、水晶球をのぞき込んで。
老婆 「おおお、見えるぞ、不幸は東じゃ。東からやってくるのじゃ」
人民F 「ありがとよ、婆さん」

書記長に報告が入る。
部下 「結果が出ました。ネオ日本軍は東から侵攻してくるそうです」
書記長 「そうか。素晴らしい。やはりコンピューターは違うのぉ」

この時、注国の燈皇帝が現れた。

書記長 「ハイル、ヒンケル!」
燈皇帝 「導師よ。楽にするが良い」
書記長 「陛下。本日は突然のご降臨、恐縮至極にございます。して、本日のご用件は何でございましょう?」
燈皇帝 「余には未来が見える。ネオ日本軍が東の海を埋めて我国に攻め込んでくるのだ。備えは完璧か?導師よ」
書記長 「はっ!恐れながら、陛下。我が甚眠会報軍は陸軍だけでも350万人を数えます。如何にネオ日本軍が強兵であろうと、得意の人海戦術で、生まれてきた事を後悔させてやりますわい。ガハハハ」
燈皇帝 「ふむ。その心意気は善しとしよう。しかし、相手は人間ではないのだ。ドリンク剤を呑みながら、裸足で地雷原を走ってくるネオ日本軍だぞ。しかも24時間戦えるのだ。更にpotionと云う秘薬が有って、それを呑めば怪我人は立ち上がり、死人は甦るそうだ。手ごわいぞ。ゆめゆめ油断するな」

こちらは、ネオ日本。
自衛隊にかわって1991年に設置された、国連平和協力隊の基地。
ずらりと並んだステルス戦闘爆撃機と、強力な空挺戦車部隊。そして、それを輸送する超音速輸送機群。
兵士A 「まもなく、出動がかかるそうだぜ」
兵士B 「しかし、俺達は国連決議がないと動けないはずだろう?」
兵士A 「なんでも、世界中に金をばらまいて、国連で日本の平和協力隊の注国派遣を認めさせるとか言う話だ」
兵士B 「それは、大変だな」
兵士A 「おいおい。我が軍じゃなかった我が部隊の飛行機は敵のレーダーにはひっかからないんだぞ。爆弾とミサイルを落としておしまいさ」

こちらは注国。
兵士A 「ネオ日本の飛行機はレーダーに映らないそうだ」
兵士B 「関係ないよ。どうせ、誰かが肉眼で見ているさ」

こちらはネオ日本。
兵士A 「俺、注国に行ったら、絶対に行きたい場所があるんだ」
兵士B 「どこだ?」
兵士A 「呪泉境ってーとこだよ。そこに、溺娘泉てーのがあってな。昔々、若い娘が溺れた悲劇的伝説があるんだ。以来そこで溺れた者、みんな若い娘になってしまうのだ」
兵士B 「で、そこに行って、どうするんだ?」
兵士A 「もちろん、その泉の水を浴びるのさ」
兵士B 「女になるのか?」
兵士A 「だって、女の方が、世の中得だぜ。チヤホヤされるし、徴兵だってないし」
兵士B 「おい、男女雇用機会均等法を改正して、女性も徴兵するようになるって噂を聞いてないのか?」

こちらは注国。
兵士A 「ネオ日本軍が来たらさ。俺ぜひともやりたいことがあるんだ」
兵士B 「なんだい?」
兵士A 「ネオ日本軍の陣地に忍び込んでさ」
兵士B 「重要機密でも盗むのか?」
兵士A 「まさか、もっといいものを盗むのさ」
兵士B 「それはいったい!?」
兵士A 「そりゃ、デジタルウォッチと、ウォークマンと、ファミコンに決まっているじゃないか」

ここは注国の内モンゴル自治区。動く物さえ見あたらないゴビ砂漠の中に、突然緊張が走った。大規模な遺跡を発掘中、妙な物がゴロゴロ出てきたのだ。それは異常な固さを持つ焼き物で作られた、巨人のホネであった。

阿斗六 「博士・・。これは一体何なのでしょうか? 古代人の宗教儀式の道具でしょうか。それとも埴輪の一種なのでしょうか?」
御茶水博士 「うーむ、噂には聞いていたが、実物を見るのは初めてだ。これは、日本の史書『那宇史華』に出てくる『巨神兵』だ」
阿斗六 「ええっ!!あ、あの『火炎七日間』で全世界を焼き尽くしたと云う旧世界の怪物ですか!?」
御茶水博士 「そうだ。そして、これは実に幸運な事だ。我々が先に発見したと云う事が。ネオ日本が我が漫州を狙ったのは実はこれに気付いていたからかも知れない。これが有れば、世界は思いのままだからな」
阿斗六 「早速、燈皇帝にご報告を!」
御茶水博士 「既にしておいた。陛下はまもなくここに来られる。直ちに巨神兵を復活させ、ネオ日本を迎撃せよとのご下命だ。早速取り掛かろう。復活のやり方は『那宇史華』第三巻に出ている」

阿斗六 「博士っ!大変です。黒い箱の中に秘石が見当たりませんっ!」
御茶水博士 「な、なに〜っ!そ、それでは巨神兵の復活が出来ないではないかっ!いや、必ず、どこかに有るはずだ。探せっ!」
阿斗六 「えーと、デコボコした板にはなんか、石の様な物が付いているのですが、形が違います。何だ?この金属の塊は? ダ、ダメだっ!やっぱりどこにも有りませんっ! 博士・・・。どうしましょう。巨神兵のバージョンが違う様です」
御茶水博士 「ううう、そ、そう云う可能性も有ったな。や、やばいっ!燈皇帝がここに来るって云うのにこの有り様では我々のクビが危ないっ!に、逃げるんじゃ。ネオ日本に亡命だっ!」

同時刻。注国国境付近をネオ日本に向かうステルス輸送機「忍者2号」の機内で笑う特務機関の隊長の姿が有った。

隊長 「愚かなり、燈皇帝。人民コンピュータを使わずとも、自分の足元にこの様なマシンが無数に埋もれているのを知らんとは・・。敗れたり! 注国っ!」

輸送機には黒い箱が満載されていた。それには「NeXT」と云う刻印が有った。

ここはネオ日本。
大佐以下国家中枢を担う人々の前で、神秘のキューブは開かれた。
隊長 「では、スイッチを入れます」
NeXT 「なんぞ、ご用でっしゃろか!?」
大佐 「おお、喋ったぞ」
NeXT 「そりゃ当然でんがな。DSP内蔵、音声合成機能では負けまへんで」
大佐 「しかし、いきなり日本語で喋るとは、どういうことなんだ?」
NeXT 「わてのパーツの9割は日本製どす。組み立てだけアメリカでメイドインアメリカーナってわけでんがな」
大佐 「それで?」
NeXT 「聞くも涙、語るも涙の物語。昔昔あるところにおんじさんとゆー、それはそれは頑固で人嫌いで隠れロリコンのじいさんがアルムの山の上に住んでいたそうな」
大佐 「ほお、それがどうした!?」
NeXT 「おこらんといてーな。ちょっとおちゃめしただけやないか。ほな、真面目に、もういちど。ユーラシア大陸の西のはずれの発生した産業文明は・・・」
大佐 「もうよい、消せ」
大佐、隊長を振り返る。
大佐 「これのどこが、神秘、注国5000年の歴史を誇る謎のコンピューターなのだ」
隊長 「さあ!?」
大佐 「我々は注国の実力を買いかぶっていた様だな。この様な箱さえ扱えない様な科学者って一体・・・。すぐにでも攻略を開始すべきだった。隊長、直ちに国家安全保障会議を開催したまえ。ネオ日本軍の出動だっ!」
隊長 「ハッ!」

ここはネオ日本軍総参謀本部。地下100メートルの要塞の中では対注国戦のシミュレーションが行われていた。数百台のNeXTcubeには各種のシミュレーションプログラムが走っており、しかも各プロセッサは高速バスで結合されており、データの共有が行われていた。シミュレーションプログラムは「大戦略:世界制覇バージョンVリリース12」、「フリートコマンダー:日本海海戦バージョン」、「スペースエンパイア:テラバージョン」、「大海令:ネオ帝国海軍バージョン」、「シムアース:極東バージョン」等が使われており、操作する技官は日本中から選抜された戦略ゲームのプロ達であった。
ここはネオ日本軍総参謀本部。
画面に並ぶ6角形を前にして、数人のスタッフが額を集めている。
ジョバンニ少佐 「やはり、生産型は、アメリカが強いですね」
サカイ少佐 「シミュレーションの結果もそれを裏付けています」
ジジ少佐 「それよりも、強力な兵器を編集して、新しい生産型を作った方が・・・」
サカイ少佐 「そこまでやるんなら、ユニットエディタで、無敵の兵器をデザインしましょう。シルエットのデザインなら任せて下さい」
ジジ少佐 「しかし、エディタで入力できる数値には限界があるから、けた外れに強い兵器はつくれないぞ」
サカイ少佐 「パッチをあてれば大丈夫です。情報は持っています」
かくして、画面の上には、口径100センチの大砲と艦内工場で無限に追加生産される無限巡航ミサイルを装備し、オーガ並みの装甲と破壊力を持つ空挺戦車1師団と、3段可変戦闘機500機を登載し、マッハ15で空を飛び、太陽エネルギーを獲得すると宇宙にも出られると言う無敵の巨大空中戦艦が出現した。
ジジ少佐 「シミュレーションを開始せよ」
ジョバンニ少佐 「シミュレーションの条件は、ブルー・ネオ日本軍、レッド・注国軍、初期予算はブルー1000000000、レッド100です」
サカイ少佐 「第1ターン、ブルーは空中戦艦1隻を建造します」
ジョバンニ少佐 「第1ターン、レッドは、人民兵をいきなり大量配備してきました」
サカイ少佐 「第2ターン、ブルーは巡航ミサイルの一斉発射です」
ジョバンニ少佐 「駄目です。あまりにも目標が細かすぎて、人民兵にはダメージを与えられません」
サカイ少佐 「人民兵の反撃です。小銃の集中砲火で、巡航ミサイルを迎撃しています」
ジジ少佐 「うーむ、超低空で飛行すると、かえって人民兵のいい的だな」
そのとき、彼らの背後に、ぬうっと現れた大佐。
大佐 「こら、おまえたちの仕事は、こっちだ」大佐は、部屋の片隅の大戦略2の走っている98ではなく、部屋じゅうをうめつくすNeXTを指さした。
大佐 「いいか、戦争は戦闘の集合体ではないのだ。ポイントは、戦略。つまり、どの様に始め、どの様に終わらせるか、この一点に掛かっているのだ。開戦には大義名分が必要だ。かつてアメリカーナが旧中東でやった方法が一般的だ。自分が勝手に開戦までの期限を付け、一方では外交交渉をしているフリで他国の干渉を排し時間稼ぎ。で、やむなく戦争に突入すると云う形は、実にうまい方法だ。勿論、始めから開戦は決まっていた訳だ。悪いのは相手であって、悪人はどんな殺し方をしても良いと云う考えだな。我国の対注国政策の目的は、我国の領土拡張である事が明確だ。そして、最終的には注国全土をかいらい政権で支配すると云う事になる。これには、あと100年は掛かるだろう。先ずは注国の体力を低下させると云うのが、今回の作戦のポイントである。いいか、完全破壊ではない。戦略拠点の破壊と、国土の実質的分断を持続させる事が必要なのだ。では、作戦会議を始めよう」
真田 「シミュレーションの結果が出揃いました。各担当から説明させます」
特務部 「かいらい政権の母体は既に注国に於いて活動を開始しております。それに対して勿論注国政府は大弾圧を実施しております。つまり、国民の当然の民主化要求を弾圧し、多くの虐殺を行っている訳です。これは人道的見地から当然看過出来ない事です。この事実を全世界に宣伝し、それに対して、全世界が断固たる処置を取る様にネオ国際連盟の議決を取りましょう。勿論、旧中東の時の様に、武力行使を前提にした物にする訳です。この様な筋書きにすれば、世界は我々の軍事行動を非難出来なくなるでしょう」
大佐 「うむ。正にその通りだ。早速外務省に命令せよ。3ヶ月以内にその様な環境を作れとな。我国はネオ国際連盟の常任理事国で、しかも安全保障委員会議長も兼ねているからすぐに出来るだろう」
特務部 「ハッ!」
大佐 「さて、これで開戦は可能になった。問題はどうやって終戦させるかだ」
作戦部 「ハイテク電撃戦で行けるのではないでしょうか。我が軍の誇るSOL艦隊によって、重要拠点を空襲すれば、注国の経済活動を一気に34%迄低下させる事が可能です。その後に、和平交渉を提案すれば、乗って来ざるを得ないでしょう。尚、空襲に要する時間は50分です」
大佐 「SOLか。あれの配備状況はどうなっている?」
施設部 「現在、原子炉搭載型が200基、反射衛星型が1500基、いずれも静止軌道上に実戦配備されています。稼働率92%、現時点で攻撃に使えるのは全体の87%です。尚、配備数は一日当たり10基ずつ増加しております」
大佐 「注国指導部は敗北を認めるだろうか?」
特務部 「78%の確率で、それは有り得ないでしょう。我が軍のかいらい組織を使って政権を倒します」
大佐 「注国民衆はその政権を支持するだろうか?」
特務部 「国民の民主化要求を受け入れる事になりますから支持する確率は74%です」
大佐 「民主化と云うのは両刃の剣なのだ。注国の民衆は誇り高いから、一旦民主主義に味をしめると、かいらい政権が支配しにくくなると云う事になるのではないか?」
特務部 「その心配は無用です。大議会を作り、代議員制民主主義の弊害である、底辺の意見の抹殺を顕在化させれば、民衆は民主主義に何も求めなくなるでしょう。議会をかいらい組織に支配させれば、合法的に注国の全てをコントロール出来ます」
大佐 「分かった。良く計画されている。この作戦の成功確率はどの位だ」
真田 「総合で78%です」
大佐 「低いではないか?何が問題なのだ?」
特務部 「注国のサイキック部隊です」
大佐 「フム、我国のAKIRA、舞に相当する様な連中か?」
特務部 「はい、これに関する情報はかなり掴んでいます。部隊名は『素乾』、メンバーは、渾沌、幻影達、菊凶、世沙明、銀河、紅葉、玉遥樹、双槐樹と云う名前で呼ばれています」
大佐 「こいつらが活動した場合の我が軍の損害は?」
作戦部 「全兵員の28%、全火力の63%が失われます」
大佐 「・・ううっ! そ、それほどか・・・。対策はどうなっている?」
作戦部 「全てのSOLを動員し、サイキック部隊の拠点を作戦の最初に総攻撃します。現在、彼らの瞬間移動距離を計算中です。それが分かれば、その範囲全域を破壊します」
大佐 「ウム、それが本作戦のポイントとなるだろう。十分検討せよ。計算結果が分かり次第報告せよ」
作戦部 「ハッ!」
真田 「では、本日の安全保障会議を終了致します」

今を去ること数年前。
注国皇帝が崩御した。
そして、臣下から最初に出た言葉は。
「サイキック狩りだ!」
かくして、皇帝の代替わりごとに行われる、宮廷に仕えるサイキックの面々の総入れ替えが行われたのだ。
皇帝 「そなた、名前はなんという」
銀河 「あたい、銀河」
皇帝 「すると、太平洋戦争中の日本海軍の双発爆撃機」
銀河 「それは、銀河だよ」
皇帝 「では、西洋ではミルクが流れていると言われている」
銀河 「それは、銀河でしょ」
皇帝 「しからば、英雄伝説が伝えられている場所」
銀河 「それって、銀河のことでしょ?? 違うよ。あたいは、銀河っていうの」
皇帝 「サイキックの感性って難しい・・・・」
サイキックの重要な役目には、内務と外務の二つがある。外務は主に諜報活動である。内務は、皇帝のプライベートライフに仕えるのが仕事である。
内務担当サイキックは、一人一人個室と豪華な寝台を与えられ、毎晩皇帝が来るのを待つ。もちろん、サイキックの能力を使って、常人ではなし得ないような快楽を与える能力があるために、彼女ら内務担当サイキックは寵愛されているのである。
しかしながら、近年では、内務サイキックも外務に転向させられて、諜報活動と外貨獲得の一石二鳥を狙って、ネオ日本のネオ・ソープランドに出稼ぎに来ているとの噂も上がっている。
特務部 「報告します。注国のサイキックが一部わが国に潜入しているようです」
大佐 「なに、スパイ活動が目的か」
特務部 「はあ、表向きはスパイ活動のようですが・・・」
大佐 「なんだ?」
特務部 「本音は外貨獲得のための出稼ぎのようです」
大佐 「で、評判の方はどうなんだ?」
特務部 「一度やったら病みつきになるとかで、すでに情報部員数名が注国サイキックのソープ嬢の虜になっております」
大佐 「なんと、それは一度ためしてみたい・・・じゃなくて、これはわが国伝統の大和撫子の芸者衆に対する挑戦であるぞ」
特務部 「はあ?」
大佐 「わが国もサイキックを繰り出して、ソープ戦争を受けて立つのだ」

ここはネオ東京の新宿シティーホール地下街。都庁が引っ越してきた為に急速に発達した歓楽街であった。かつての歌舞伎町がそのまま引っ越してきたと考えれば良い。しかし、さすがの不夜城も午前5時ともなると、歩く人も少ない。
地下街を如何にも玄人風の女性が歩いている。すると、何処からとも無く、数人の黒メガメの男達が現れ、その女性を取り囲んだ。
その中の一人が、進み出た。
女性 「何するのよっ!」
無須暇 「我々は国防省特務部の者です。貴女は世沙明さんですね。重要なお話が有るのですが、我々と同道して頂けませんか?それが無理でしたら、ここでお話しても構いませんが」
世沙明 「私が世沙明だったら、どうだと云うのです。勿論貴方達は私の実力を知っているわね」
無須暇 「勿論、貴女がサイキッカーである事は知っています。ですから、貴女を力づくで連行しようなんて事は全く考えていません。端的に云いましょう。我々に協力して頂きたいのです」
世沙明 「アハハハ。なんて事を・・・。そんな事を私に云う人が居るなんて・・・」
無須暇 「確かに、お笑い草かも知れません。我国を調査に来たエージェントに対してその様な提案をすると云う事が・・・。しかし、貴女の立場を考えると、そうすべきだと思うのですが」
世沙明 「・・な、何ですって! 私の立場がどうしたんですって?」
無須暇 「いいですか、貴女は本来、燈皇帝の后になるはずの女性だったのです。美貌と云い、家柄と云い、正にふさわしいはずでした。しかし、皇帝は銀河を選んだのです。しかも、貴女は皇帝のお側付きである内務担当を外されて外務担当と回され、男性の快楽の対象となって、日銭を稼いでいる毎日です。燈皇帝の后と現在の貴女と比べ物になるでしょうか?」
世沙明 「ぶ、無礼者っ!私を侮辱する気ですかっ!」
無須暇 「違います。我々は貴女がこのまま朽ち果ててしまうのを見るに忍びないと惜しんでいるのです。どうして、貴女はこの屈辱的な待遇に我慢しようとしているのですか。貴女の姿を貴女の先祖が見たら、どんなに嘆き悲しむでしょう」
世沙明 「わ、私だって、私だって、悔しいわよっ!でも・・・」
無須暇 「失礼な事を申し上げますが、お許し下さい。貴女が皇帝を心の底から愛しているのは分かっています。しかし、既に勝敗は決したのです。これ以上、連綿と慕情を持っていた所で、皇帝も銀河も貴女の事など、すっかり忘れてしまっているでしょう。何故復讐しようとしないのですか?今の注国は皇帝の贅沢な暮らしのために民衆は塗炭の苦しみを味わっています。民衆は、皇帝を太陽になぞらえ、なぜ日は沈まないのかと呪っている毎日です。貴女の家系は皇帝に近い。今こそ、民衆の不満をテコに皇帝を倒し、銀河を生きながら焼き殺し、新しい王朝を打ち立てようとしないのですか?やるべきです。今の貴女は自分の為だけに生きている。しかし、貴女は注国全民衆の自由と正義のために立ち上がらなければならないと思います」
世沙明 「・・・・う、ううう、うううう。・・・わ、分かりました。貴方に云われるまでもなく、実は既に分かっていたのです。全ては終わったと云う事が。でも、私の弱さが、それに目を反らそうとしていたんです。私は卑怯でした。バカ者でした。でも、これでやっと吹っ切れました。貴方方に協力します。いえ、協力させて下さい」

ここは国防省。

特務部長 「ウム、そうか、分かった。ご苦労」
大佐に向き直った特務部長は、得意気に報告した。
特務部長 「大佐。注国サイキック部隊の一角が崩れました。世沙明が我々に協力する事になりました」
大佐 「おおっ!!でかしたぞ。しかし、何処まで情報が得られるかな?」
特務部長 「部隊の拠点の大体の位置を割り出す事が可能でしょう」
大佐 「そこまで行けば上出来だ。いや、それより、サイキック部隊の何人かと接触してくれれば、こっちの物だが」
特務部長 「その件ですが、世沙明が例の細菌兵器に感染している事を確認しました」
大佐 「そうか。特務部員の犠牲もムダでは無かったな・・」
ここはネオ日本軍総参謀本部。深夜、すでに勤務時間は過ぎているが、この部屋だけは眠らない。大きなコンピューターの前に人が集まっている。シミュレーション・プログラムが走っている。
少女B 「ほら、そこだ。もう一度」
男A 「オーライ、1ターン前のデータを再ロードだ」
男B 「まったく、また負けちまいそうじゃないか」
男A 「ちっとは黙ってろって。お前は本番向きの男だからな」
少女A 「ねー、まだおわんないの?」
少女B 「もうちょっと」
その頃、やはり徹夜で仕事をこなしていた大佐は、一人、総参謀本部の廊下を歩いていた。
大佐 「おや、シミュレーションルームに誰かいるぞ。仕事熱心なのは関心だ。愛国者の鏡だな」大佐はドアを開けた。すると。注国風の服を来た一団と目があってしまった。
大佐 「なにものだ、おまえたちは」
少女A 「人に名前を聞くときは、自分から名乗るものよ」
大佐 「それもそうだな・・・、じゃない。おまえたち、どっから入ってきた!」
少女A 「しょーがないなあ。私は銀河、こっちは紅葉で、幻影達に混沌」
混沌 「以後よろしく」
幻影達はニカッと笑い、紅葉は無表情だった。
大佐 「おまえたちは、注国のサイキック・・・・・!」
銀河 「今まで、コンピューターを無料で貸してくれてありがとう」
混沌 「例を言うぜ」
紅葉 「深夜は他にユーザーがいなくて、全能力を使えたから、とてもシミュレーションがはかどった」
大佐 「なんてことだ。深夜の我々のハイテク機器を勝手に使いおって。警備兵はどうした!警備兵は!!」
銀河 「じゃあね!」4人は空中にかききえるように消えてしまった。
大佐 「なんてことだ」
注国に戻った4人。
銀河 「なにか、分かった?」
紅葉 「やっぱり、ネオ日本軍に勝つには、巨神兵を復活させるしかないわね」
混沌 「やろうぜ!」
幻影達 「おう!」

注国サイキック部隊の、ネオ日本軍総参謀本部への侵入と云う、ショッキングな夜が明けた。大佐以下、主だったメンバーは対策会議の真っ最中であった。

大佐 「どうだ。連中の侵入の影響の評価は出たか?」
施設部長 「はい。完全に解析しました」
大佐 「被害はどうなった?」
施設部長 「3重のパスワードシステムの内、第2レベルまで突破しています。残業していた技官を気絶させて、そのまま端末を使用していました。侵入経路は瞬間移動です」
大佐 「全く手に負えん奴らだ」
施設部長 「データの破壊は全体の12%でした。しかし、ハイパーミラーディスクの機能により、即座に復旧しました。で、彼らのやっていたシミュレーションも判明しました。不思議な事に主戦場をネオ日本本土と考えています。SOL艦隊を叩く事は考えていません」
大佐 「どう云う事だ」
施設部長 「おそらく、彼らの瞬間移動距離は小さいと云う事でしょう。高度550KmのSOLは遠すぎると云う事ではないでしょうか?あるいは、宇宙空間での活動が困難だとか?」
大佐 「ふーむ、すると、SOLによる注国空襲は問題無しと云う事かな。それとも罠か?」
作戦部長 「罠の可能性は低いと思います。我国のAKIRAの調査結果や、偵察衛星による観測結果を元にした最新の計算によりますと、彼らの瞬間移動距離は最大で43Kmプラスマイナス2Kmです」
大佐 「なるほど、SOLには手が出せないと云う訳だ。で、日本本土での戦闘を考えた訳か。しかし、高度に武装した我国とどうやって戦うと云うのだ?しかも、海を渡って来るなど不可能ではないか」
特務部長 「おそらく、巨神兵でしょう。先日我国に亡命してきた御茶水博士が発見したと云っていた例の物です。旧世界の怪物、無敵の巨神兵を大量に復活し、我国に上陸させれば戦局を逆転出来ると云う判断でしょう」
大佐 「おのれっ!そうはさせるか! 直ちにSOL艦隊に命令だ! ゴビ砂漠上空に展開し、レーザー砲発射準備。特務部の情報が入り次第、目標を中心に半径50Kmの円形地域全域を一斉射撃だっ! サイキック部隊を一人も逃すなっ!」

その頃。
ネオ日本の小笠原、宇宙往還機基地。
SOLの集中稼働に備えて、日本版スペースシャトル『天竜』が、ひっきりなしに離発着している。
そして、隣の島には、基地要員をあてこんだ歓楽街。
その街の中の注国風の娼館。基地からの距離、約40km。
銀河 「兵隊さん達の様子があわただしいよ」
紅葉 「とうとう動きだしたようだな」
混沌 「どうして、俺達がSOLを相手にしてないのか、その理由を教えてやるか」
いまにも発射されようとしていた『天竜』の機内に、いきなり出現する注国サイキックの一団。
銀河 「誰もいないよ」
混沌 「無人操縦のシャトルだからな。ハイテク日本の乗り物に忍び込むのは楽でいいや」
紅葉 「さ、はやくシートについて」
やがて、『天竜』は、宇宙に舞い上がった。SOLに向かって。

こちらはゴビ砂漠上空550Kmに展開するSOL艦隊。現在、SOL艦隊は、全体で2000基にも達する規模に拡大していた。中核となるのが原子炉搭載型の「雷神2改」約500基、残りが反射衛星型の「火龍改」であった。
反射衛星型の場合、レーザー砲はネオ日本本土に有る為、作戦行動の範囲が限定される欠点が有ったが、原子炉搭載型では、重量が大きくなるものの、行動の制約は無くなる。最近になって、ネオ日本が原子炉搭載型を強化してきているのは、世界制覇を狙う野心の現れと見られていた。
原子炉搭載型の「雷神2改」の一般型は全長200m程度であるが、旗艦「やまと」は全長300mの巨大さを誇っていた。主砲は全長250mに及ぶ多重反射型ガラスレーザー砲(メーカーはネオ日本のHOYAA)であり、その破壊力は1秒当たりTNT火薬3メガトンに相当すると云われている。

「やまと」の古代艦長が、SOL提督に報告をした。

古代艦長 「提督。SOL艦隊はただ今予定通りゴビ砂漠上空に展開を完了しました」
提督 「ご苦労だった。特務部からの情報は極めて消極的な内容の様だが」
古代艦長 「はい。注国サイキック部隊の行方は未だ掴めず、ゴビ砂漠の巨神兵周辺に来ている様子も無い様です」
提督 「ふむ。我が軍はウラをかかれたと云うべきではないかな。やつらはSOLを叩く積もりだ」
古代艦長 「しかし、どういう手段で此処にやってくると云うのでしょう」

提督は一瞬船外に広がる宇宙と地球を眺め、目を閉じた。

提督 「・・・やってきた。私はそれを感じる」
古代艦長 「ええっ!! どこですか?」
提督 「スペースシャトル天竜ST321だ。やつらはそれに乗っている」
古代艦長 「直ちに調べろっ!」
索敵担当官 「ST321は現在地球高度70Kmを上昇中です。これは無人のはずですが・・・」
古代艦長 「AKIRA提督の力は実証済みだ。疑いの余地は無い。『火龍改』の第87艦隊に下令。ST321を直ちに破壊せよっ!」
通信担当官 「ハッ!」
AKIRA 「彼らの力はかなり大きい。死ぬ事はあるまい」
古代艦長 「しかし、彼らを生かしておいては我国の障りになります」
AKIRA 「時の流れは止める事が出来ない。巨大なエネルギーの流れだ。我々はその巨大な流れに従っているだけだ。ネオ日本の世界制覇は歴史的必然なのだ。ま、それも100年と持たないが・・」

通信担当官 「第87艦隊司令より入電。目標を捕捉、攻撃準備完了せり」
AKIRA 「第87艦隊司令に伝えよ。司令官の好きな時に攻撃を開始せよ」
索敵担当官 「現在、ST321はSOL最前線から350Km。あ、第87艦隊砲撃を開始しました。ST321消滅せり。ST321消滅せり」
AKIRA 「良くやったと伝えよ。しかし、やつらは地球に向かって降下中だ。そうか44Kmが彼らの瞬間移動の限度か・・・。情報部に通達せよ。瞬間移動の連続で彼らは相当ダメージを受けているはずだ。これで懲りてくれればしめた物なのだが・・」

だが、天竜ST321は死んではいなかった。
注国サイキックの結集したパワーが、ST321をテレポートさせたのだ。
とはいえ、ダメージを負ったST321は瀕死の状態だった。
銀河 「かなりやられちゃったね」
混沌 「敵にもサイキックがいたようだ。こいつは、一筋縄ではいかんぞ」
銀河 「これから、どうする?」
紅葉 「死んだふりをしましょう」
ST321は全ての動力を切断し、大気圏への落下軌道を直進した。

こちらはやまと。
古代 「AKIRA提督の感知した箇所をセンサーで探れ」
索敵担当官 「了解です」
古代 「無知な注国人のことだ、宇宙服もなしで宇宙に逃げ出して、死んでいてくれると楽なんだか」
索敵担当官 「たいへんです! 天竜タイプのシャトルがいます。ST321です!」
古代 「なに? まだ動いているのか?」
索敵担当官 「いえ、いかなる動力も感知できません。かなりのダメージを負っているようです」
古代 「そうか・・・・。宇宙零戦隊を発進させろ。とどめをさす」

ST321の中では。
混沌 「敵だ。今度は、確実にしとめるために、軌道戦闘機を繰り出してきたようだな」
銀河 「どうするの?」
紅葉 「若い二人を生き延びさせるために、船長室を切り放す」
銀河 「船長室って、シャトルのどこに、そんなものがあるの?」
紅葉 「ただの冗談だ」
あくまで無表情の紅葉。
紅葉 「こうなったら、カーゴブロックを切り放して、敵編隊の真ん中で爆発させるしかない」

宇宙零戦隊は天竜ST321に接近した。

加藤隊長 「こちら加藤隊だ。目標を確認。直ちに攻撃に移る。どうぞっ!」
古代艦長 「こちら、やまと。了解。気をつけろ」

紅葉 「よ〜し、カーゴブロックを放出しなっ!」
銀河 「中身は何なの?」
混沌 「SOLの軌道修正用モーターの固体燃料さ。こいつを一度に燃やすと、ちょっとしたロケット弾になるぜ」
紅葉 「そーれ、発射あ〜!」

カーゴブロックは射出用ブースターにより、猛烈なスピードで宇宙零戦隊に向かって行った。

副隊長 「・・て、敵の攻撃だ。高速飛行物体接近っ!」
加藤隊長 「散開しろっ!」

カーゴブロックは宇宙零戦隊に突っ込み、その内の1機を直撃した。すると、中身の固体燃料が一気に発火し、燃料体は花火の様に四散、周辺は巨大な火球と化した。10機以上の宇宙零戦が巻き込まれ、あるいは燃料体の破片の餌食となった。

銀河 「やったぁ〜!」
幻影達 「よーし、いまだっ!瞬間移動で宇宙零戦に乗り移るんだっ!どさくさに紛れてSOLに接近だっ!」

加藤隊長 「えーい、ひるむなっ! 攻撃開始っ!」

天竜ST321は、宇宙零戦の集中砲火の前に宇宙の藻屑と化した。

50分後、ネオ日本政府では緊急記者会見が行われていた。

広報官 「本日未明、我が国の宇宙艦隊と注国特務機関の間で軍事衝突が発生した。注国特務機関は我国のスペースシャトルを奪取して、我が国の宇宙艦隊に攻撃を加えた。それに対して我が軍は直ちに応戦したが、我が軍に23名の犠牲者が発生した。我が国とネオ国際連盟安全保障委員会、ネオ国際連盟多国籍平和協力隊、及び、ネオ国際連盟に加盟する全ての加盟国は注国に対して、この様な軍事的挑発行動を直ちに止める様警告する。これを無視して一層の軍事的冒険行動を行う場合、ネオ国際連盟は決議1941、つまり注国に於ける基本的人権抑圧行為の即時停止要求決議に基づき、直接的な軍事行動を含む、あらゆる手段を以て、注国に対する制裁行動を行う。尚、決議1941に基づいて、我が宇宙艦隊は注国上空に進出、臨戦体制に入った。注国政府が、理性的判断により行動する様希望する。我々は戦争を望んでいない。注国政府の今後の行動に全てが掛かっている」
SOL艦隊の標準型無人砲艦『ホ−401』の艦内。
紅葉 「ついに来たぞ」
混沌 「俺達の思考波シールドは長くはもたん、敵のサイキックに感づかれる前に頼むぜ」
紅葉 「銀河、例のものを」
銀河 「はい」
紅葉、その得体の知れないものをコンピューター本体の通気口に差し込む。
コンピューター 「ふにゃああ」
なぜか、酔っぱらったように、ふらふらとランプを点滅させるコンピューター。
紅葉 「成功だ。マタタビが利いたようだな。よし、この隙にこのプログラムをインプットして、と」
ホ−401は、突然、対地レーザー砲をゴビ砂漠に向かって発射する。しかし、出力は小さい。やがて、ホ−401のレーザーには微妙な振動が与えられた。そして、ゴビ砂漠の上には、なんと、ゆらゆら揺れる、ネコジャラシの絵が!
銀河 「そらー、まいけるぅ」
銀河がはやしたてると、「ニャン」というテレパシーインパルスが全てのSOL艦から発せられ、ゴビ砂漠に向かって、落下を始めた。

やまとの艦橋で。
古代 「これはいったい、何が起こったんだ!?」

提督司令部で。
AKIRA 「しまった、SOL艦の制御にネコの脳を使っているのがばれていたのか!」

突如、落下中のSOLの眼前で閃光が走った。衝撃がSOLを揺さぶった。
銀河 「ど、どうしたのっ!」
幻影達 「ネオ日本のサイキックがエネルギーの放出を行った様だ。ネコ達の目が覚めてしまったぞ」
混沌 「サイキックの位置が分かった。左前方110Kmの大型艦だ」
幻影達 「よーし、やってやるぜっ!紅葉、この艦のネコは云う事を聞くか?」
紅葉 「大丈夫よ。私達の支配下だわ」
幻影達 「では、その艦をレーザー攻撃だ。出来るか?」
紅葉 「勿論っ! さぁ、わたしの可愛い小ネコちゃん。レーザー攻撃よっ!」
ホ−401 「お早う、チャンドラ博士。わたしはH・A・Lです。了解しました。パルス原子力エンジン始動。最大出力。臨界まであと3.00。測的開始。測的完了。姿勢制御開始。座標X12.265。Y52.687。Z91.245。姿勢制御56%完了。原子炉、臨界に達しました。コンデンサゲートオープン。エネルギー注入開始。レーザー砲シャッター解除。レーザー砲発射まであと5.14。エネルギー注入48%完了」
こちらは「やまと」
索敵担当官 「艦長っ!雷神2改ホ−401の行動が異常です。レーザー砲を本艦に向けていますっ!エネルギー輻射も増大しています」
古代艦長 「な、何だとっ!直ちに姿勢制御命令を出せっ!」
AKIRA 「その艦は注国サイキックに乗っ取られたのだ。やつらはこの『やまと』を狙っている」
古代艦長 「直ちに反射衛星を使って本艦の盾にせよ」
作戦担当官 「ハッ!」
古代艦長 「親衛艦隊に下令。レールガン発射用意。目標ホ−401。SOL全艦隊に命令。レーザー砲発射用意。目標、注国戦略拠点。10分後に提督の命令で一斉に発射せよ。政府に打電せよ。注国は侵略行動を拡大中。我が軍に対する攻撃による被害はますます広がっている。ネオ国際連盟決議1941号に基き、我々、ネオ国際連盟多国籍平和協力隊は注国に対して軍事行動を実施する。これによって生じたあらゆる責任は全て注国政府にある」
ホ−401から、レーザー砲が発射された。しかし、それは、旗艦やまとを狙ったものではなかった。レーザー砲は、ミラー展開中の反射衛星の一つのミラーを的確に捉え、反射され、そして、予想もしなかった方向から、やまとを襲った。
紅葉 「甘かったわね。CAN(Cat Area Network)を通して、全てのSOL艦隊の動きは、こっちに筒抜けよ!」
古代 「ああ、もう駄目だ! やまとはおしまいだ!」
AKIRA 「うろたえるな!」
しかし、もはや、AKIRAもサイキック能力を発揮する時間がない!その瞬間。やまとの全体を、銀色の皮膜が覆った。その皮膜に反射するレーザー。そして、もと来た経路を引き帰す。レーザーがホ−401に突き刺さる。注国サイキック達の絶叫が、宇宙にこだまする。爆発し、大気圏に落下していく、ホー401。
真田 「反射衛星砲にヒントを得てつくっておいた空間磁力メッキが役にたったようだな」
古代 「さすがは真田さん」
AKIRA 「爆発時にホ−401から44km以内にいた、宇宙艦または軌道戦闘機はいるか?」
古代 「いえ、いません」
AKIRA 「テレポートでも逃げられなかったか。どうやら、終わったようだな」
古代 「注国への攻撃は、いかがいたしましょう。今の騒ぎで、艦隊を組み直すのに1時間はかかりますが」
AKIRA 「分かった。1時間後に全面攻撃だ。それまで、僕はひと休みするよ」
プライベートルームに戻るAKIRA。だが、そこには、一人の少女が待っていた。
AKIRA 「!」
銀河 「待っていたわ、提督さん。死んで貰うわ」
AKIRA 「君が来たのは分かっていたよ。無人艦とはいえ、ホ−401に非常用の宇宙服が多数格納されていたはずだ。その宇宙服を着て、何回かテレポートしてきたんだろう?」
銀河 「それを分かっていて、なぜ!」
AKIRA 「君に興味があったからさ」
銀河 「それなら、もう分かっているはずでしょ。仲間が、他の艦にテレポートして、爆弾をしかけているわ」
AKIRA 「構わないさ、僕と同格のサイキックのギャルと親しくなれるならね」
銀河 「そうはいくかしら、おませな坊やちゃん。わたしはあなたを殺しにきたのよ」
AKIRA 「君だって、まだ子供さ。それに、君は、まだ、皇帝に抱かれていないのだろう?」
一瞬立ち尽くす銀河。
AKIRA 「君は、燈皇帝にとって、便利な道具に過ぎないんだ。利用されているだけなんだよ。僕のお嫁さんになれ。僕は君を大事にするよ。一緒に世界を手にいれよう」
銀河 「まあ、素敵だわ。すると世界中をグルメ出来るのね」
AKIRA 「勿論だとも、キミが良く食べている満漢全席なんかよりももっと美味しい物が沢山有るんだよ」
銀河 「イイわ。あなたのお嫁さんになってあげる」
その時、ドアが荒々しく開けられ、一人の少女が血相変えて飛び込んできた。
舞 「ちょっと、AKIRAっ! 一体どう云う積もりなの?あたしと云う者が有りながら、こんな不細工なメス猫を引っ張り込むなんて、どう云う了見なの?」
銀河 「何よっ!この女っ!突然現れて失礼しちゃうわねっ!」
AKIRA 「まま、キミ達。まずは話し合おうじゃないか。これは誰がボクのお嫁さんになるかと云う様な問題ではないのだよ。我々ニュータイプはもっと協力して行かなければならないのだよ。世界の大勢が決してもいないのに、こんな所で争っていたのでは、我々が負けてしまうではないか。いいかい、ベイビ〜。このSOL艦隊は現在、世界最強の存在なのだ。我々はそれを握っている。つまり、我々は世界の王になる事が出来るのだ。考えてもみたまえ。我々は天空にあり、恐るべき破壊力で地上を支配する恐怖の帝国になる事が出来るのだ。その怒りは予告もなく、音も無くやってくる。正に沈黙の艦隊ではないか。共に世界を支配し、共に繁栄しようではないかっ!」
舞 「そうね。ここでつまらない事で争えば、お宝もグルメも手に入らないわ」
銀河 「協力して行きましょう」
AKIRA 「そうとも、世界は一つ、ニュータイプは皆兄弟なのだ。話は決まった。間もなく対注国攻撃の準備が完了する。銀河は他のサイキックが我々の仲間になる様説得してくれ。出来るか?」
銀河 「それは大丈夫よ。みんな欲が深いからね。それよりもSOL艦隊のサイキック以外の人間はどうするの」
AKIRA 「とっくに洗脳済みさ。統一による世界平和って事で、丸め込んである。それに連中は我々の力を知っているから、抵抗出来ない」
銀河 「分かったわ。さすがだね」
AKIRA 「よーし、では、作戦第1段、開始だ」
AKIRAは内心、安堵のため息をつき、ブリッジに向かった。

古代艦長 「提督、攻撃準備完了しました」
AKIRA 「ご苦労。例の作戦を発動する。我が艦隊の4隻が爆破されるのを合図に一斉射撃だっ!」
古代艦長 「ハッ!」

作戦担当官 「SOL艦隊、稼働率84%。発射まで、1.00」
突如、艦隊のあちこちで閃光が走った。
測的担当官 「て、敵の攻撃ですっ!4隻やられましたっ!」
AKIRA 「政府に打電せよ。注国の大規模攻撃を確認せり。被害甚大。ネオ国際連盟決議1941号に基き、我が艦隊は注国に対する制裁を開始する」
通信担当官 「ハッ!」
AKIRAはすっくと立ち上がった。
AKIRA 「全艦、レーザー砲、発射っ!」
宇宙空間でのきらめきは、即時に地上の破壊をもたらした。注国の主要施設、交通の要所は、巨大な破壊力によって、ずたずたに引き裂かれた。
AKIRA 「見よ。正に天の光ではないかっ!」
作戦担当官 「第2次攻撃準備っ!エネルギー充填急げっ!」
古代艦長 「第2次攻撃は10分後です」
AKIRA 「うむ。さて、これからが問題だな。ネオ日本が・・・」

注国は、不本意ながら総力戦に突入していた。皇帝の居城は第1撃で完全に破壊されていたが、居城に寝起きしていたのは、すでに影武者であった。皇帝本人は、混論山脈の地下奥深くの戦略人民軍司令部に居て、攻撃を逃れていた。とはいえ。その混論要塞も、SOL艦隊の攻撃目標から逃れていた訳ではない。そこに大規模地下建造物が存在することは、宇宙空間から簡単に察知できたのである。混論要塞が生き延びたのは、ひとえに、上にかぶさる土砂の量のおかげと言ってよかった。
燈皇帝 「馬鹿もの、なにが、ネオ日本軍は東からくるだ」
大臣 「申し訳ございません。我がサイキック部隊からの最後の連絡によりますと、敵に強力なサイキックがいるとか。予定であれば、すでに、ネオ日本の宇宙艦隊は壊滅していたはずなのですが・・・」
燈皇帝 「ええい、言い訳など聞きたくない。我が宇宙軍はどうなっておるか!」
宇宙軍長官 「全滅です」
燈皇帝 「なに、アメリカーナを騙して巻き上げたスペースシャトルがあるだろうが」
宇宙軍長官 「人海戦術こそわが国の必殺戦法であるとの皇帝の命により、人民兵を満杯に詰め込んで発進させたところ、重すぎて墜落いたしました」
燈皇帝 「アメリカーナめ、不良品をつかませおって」

こちらは、やまと。銀河とAKIRAと古代と真田が、会議室で大型ディスプレイを見つめている。
古代 「はて、こちらのお嬢様は?」
AKIRA 「身分は最高機密だが、僕の仲間だ」
古代 「ははあ、そうですか。いよっっ、おにあいですぜ、大将」
AKIRA 「では、頼む」
銀河 「はい。ここが、注国最強の、混論要塞です」
銀河はディスプレイ上の地図を指さした。
真田 「ここですか。ここにも攻撃をかけましたが、戦果は上がりませんでした。なにしろ、戦力の大半が地下深くに仕舞い込まれていましてね」
銀河 「そう、軌道上からいくら攻撃しても無駄というわけ。そう簡単にはおとせないわよ」
古代 「難問ですなあ。しかし、なにもこの要塞を破壊しなくても、注国を追いつめて降伏させれば十分でないでしょうか。恐い目に合わせれば、注国の皇帝だって、誰が強いのか理解するでしょうから」
AKIRA 「古代君、君はまだ分かっていないようだね。降伏させるのではなく、屈服させるか、さもなくば死を、だよ」
古代 「はあ。さすがは、AKIRA先生、あヨイショ」
AKIRA 「よし、攻撃目標を絞り込もう。地下要塞への出入口を全て破壊できるか?」
真田 「地表近くのトンネルは全て把握していますし、SOL艦の照準能力も、誤差コンマ5メートル以下ですから、やれと言われれば、できますが」
AKIRA 「それを完全に遂行するには、どれだけのSOL艦が必要か?」
真田 「細かい通路が多数ありますので、全艦の戦力を必要とするかと」
AKIRA 「分かった。第2次攻撃の目標は、混論要塞の全ての出入口だ。穴蔵に閉じ込もるつもりなら、出口を封じて、生き埋めにするだけだ」
銀河 「そうよ、そうよ、やっちゃいなさい!」
真田 「私にアイディアが有るのですが・・」
AKIRA 「うむ、云ってみたまえ」
真田 「ハッ。要塞の固有振動数を計算し、攻撃のタイミングをコントロールする事により要塞を共振破壊させるのです」
AKIRA 「面白い。中から壊そうと云うのか。やってみたまえ」
真田 「ハッ!」
測的担当官 「3次元重力センサー準備。測的用意。測的完了。真田さん、要塞のデータが入手出来ました」
真田 「直ちに計算に入れ。全艦隊をデータ結合しろ」
通信担当官 「全艦隊、データ結合開始します。各攻撃群、スタートポロジー結合。通信周波数802.3。通信遅延補正完了。データ結合完了しました」
測的担当官 「要塞データより、攻撃パターンの計算を完了しました。メインプロセッサにセット完了しました」
作戦担当官 「SOL艦隊、稼働率81%。発射まで、0.20」
真田 「攻撃準備、完了しました」
AKIRA 「うむ。全艦、レーザー砲、発射っ!」

一瞬、混論山脈が膨れ上がった様に見え、やがて猛烈な砂塵が空中にそそり立った。それは巨大な雲の様に山脈を覆った。

測的担当官 「2次爆発を確認。エネルギー輻射増大。亀裂が入った様です」
AKIRA 「やまと主砲用意。目標、エネルギー輻射増大地点っ!」
火器管制官 「主砲、エネルギー充填120%。発射準備よしっ!」

AKIRA 「発射せよ」

測的担当官 「命中しました。目視出来ませんが、センサーによれば完全に破壊した様です」
AKIRA 「よくやった。見事だ。まあ、万が一、生きていたとしても既に無力だ」

作戦担当官 「SOL艦隊は第3次攻撃の準備に入っています。あと、8.00です」
AKIRA 「その必要はあるまい」
作戦担当官 「・・・それはどう云う事ですか?」
通信担当官 「提督っ!大佐から入電です。画像音声通信です」
AKIRA 「つなげ」
大佐 「やあ、提督。ご苦労様。SOL艦隊の攻撃は素晴らしかったよ。燈皇帝もこれで終わりだな。我々のかいらい勢力である、自由人民開放戦線がほう起した。現在、皇帝の残存勢力を駆逐している所だ。暫定政府も成立した。全ては我々の計画通りだ。SOL艦隊も休んでくれたまえ」
AKIRA 「ハッ。了解しました。SOL艦隊も敵の攻撃でだいぶやられましたので、メンテナンスをしたいと思います」
大佐 「よかろう。SOL地上基地との交通規制も解除しよう」
AKIRA 「有り難うございます」
通信担当官 「通信終了しました」
AKIRA 「この区域の全ての通信をシークレットにしてくれ」
通信担当官 「ハッ。セット完了しました」
通信用ディスプレイから向き直ったAKIRAはSOL艦隊幹部を前に、ちょっと緊張した顔を見せた。
AKIRA 「・・・と云う事で、我々の任務は終わったのだが、実はこれからが本番だったりする訳だ」
古代 「正に・・・」
AKIRA 「諸君、ついに、やまと計画を発動する時が来た。注国は倒れ、既に世界はネオ日本の手中にある。しかし、それも束の間だ。我々こそが世界の帝王なのだ」
AKIRAは自分の言葉の効果を確かめる様に、幹部達の顔を見つめた。
AKIRA 「さて、本作戦の要所はSOL地上基地の制圧にある。これが失われた場合、SOL艦隊の火力は1/3に低下してしまう。ぜひとも、SOL地上基地が必要なのだ。そこで・・・」
AKIRAの顔は一人の荒武者の方に向けられた。
AKIRA 「斎藤陸戦隊機甲師団長っ!」
斎藤 「ハッ!」
AKIRA 「キミにはSOL地上基地の制圧をやってもらいたい。シャトルで地上に降下し、基地を制圧するのだ」
斎藤 「ハッ!身に余る重責、有り難うございますっ!」
AKIRA 「我々は制圧に合わせて、ネオ日本を攻撃するっ!艦隊の整備を急げっ!」
ここは、ネオ日本の小笠原、宇宙往還機基地。すでに、基地は戦勝ムードに包まれていた。七面鳥が絞められ、爆竹が鳴らされ、ビールを掛け合い、誰もが浮かれ騒いでいた。スピーカーがわれんばかりの大きな音で、命令を伝える。
スピーカー 「SOL艦隊からの帰還第1陣のシャトル編隊が帰ってくるぞ。受け入れ準備にかかれ」
しかし、すでに、空にはポツポツと黒い点が。
酔兵A 「なんか、見えるぞ」
酔兵B 「おお、我らが英雄のご帰還だ」
酔兵A 「でも、変だぞ。なにか、機体の下が膨らんでないか?」
酔兵B 「ああ、あれか。あれは、天竜の対地攻撃ポッドだよ。あれを使うときは、機内に突撃兵を満載してな、強襲するわけだ」
酔兵A 「へー、あはは、みんな、そのポッドをぶら下げているぞ」
酔兵B 「やれやれ! 連中花火でも打ち上げるつもりかな?」
先頭の天竜の機体下部が開き、凶悪そうなロケッド弾ランチャーが姿を現した。
酔兵A 「おー、やれーやれー」
その瞬間、ロケット弾は、立て続けにランチャーを離れ、主通信アンテナに吹き飛ばした。
酔兵A 「派手な花火やなあ」
酔兵B 「馬鹿、これは!」
二人の後ろで、予備アンテナも別の天竜のロケット弾に粉砕されていた。
酔兵B 「奇襲攻撃だ!」
しかし、そのとき、すでに滑走路には数機の天竜が滑り込んでいて、大量の突撃兵を吐き出していた。
酔兵A 「奇襲攻撃バンザーイ!」
酔兵B 「馬鹿はやく逃げろ」
物陰に隠れる二人。
酔兵B 「隣の島までなら、携帯無線でも届くはずだ」
通信機を試す酔兵B。
酔兵B 「駄目だ、妨害電波までかけやがってるぜ」
酔兵A 「そいつはめでたい!」
酔兵B 「今のうちに、ボートを奪って、隣の島まで逃げるぞ」
戦勝ムードに酔いしれていた基地は、一瞬の虚を突いた奇襲攻撃に、反撃らしい反撃もなく、制圧された。脱出したのは、たった2名の酔っぱらい兵であり、隣の島の駐在分隊はの隊長は、その酒臭さに、彼らを脱走兵扱いし、話を信じようとはしなかった。

小笠原宇宙往還機基地の隣に、SOL艦隊の生命線と云うべき「SOL艦隊地上基地」が有る。洋上に建設された直径10Kmの人工の島は、正に「不沈要塞」の趣を持っていた。SOL艦隊の内、反射衛星型の「火龍改」約1500機のレーザー砲本体と原子炉はこの「SOL艦隊地上基地」に有り、レーザー反射ミラーだけが、宇宙に存在する。戦闘時は地上基地司令部のプロセッサと直接データ結合して、SOL艦隊の指令の下にレーザー砲を発射するが、それを許可するのは最終的に「SOL艦隊地上基地司令」徳川彦左衛門であった。彼は基地の戦略的重要さゆえに、大佐の絶対的な信頼の下、この要職に任命されていた。

通信担当官 「斎藤陸戦隊分隊より入電。小笠原宇宙往還機基地を制圧しました。衛星の姿勢制御用燃料を輸送開始します」
AKIRA 「先ずは衛星の兵糧と云うべき物資の確保は出来そうだな」
古代艦長 「はい、次は問題のSOL艦隊地上基地ですね」
AKIRA 「斎藤にも云って有るが、徳川司令をその椅子から叩き出す事が重要なのだ。SOL艦隊地上基地を破壊する事は我々にとって実にたやすい。しかし、無傷で手に入れる事が必要なのだ。外側から攻めるとなると、相手は無敵の不沈要塞。5つの外洋艦隊が周辺海域をパトロールしているし、自動化された警報システムは如何なる侵入者も見逃さない。注国サイキック部隊でさえ侵入出来なかったのだ。まともに行ってはいかん。しかし、所詮は人間の作った組織さ」

徳川アイ子少尉。18歳。任官したばかりのういういしいギャルである。正式には第0種女性士官特殊作業軍服と呼称される超ミニのツーピースを着込んでいた。腰を細くきゅっと締めるベルトをアクセントにして、はちきれそうな豊満なバストが窮屈そうに揺れている。まぶしいばかりのふとももを、惜しげもなく周囲の軍人達に見せびらかしながら、コツコツとハイヒールの音を響かせ歩いていた。あの徳川彦左衛門の孫娘が、こんなに立派に成長するとは、誰も予想もしていなかった。
アイ子 「徳川少尉、入ります」
凛としたアイ子の声が響いた。
大佐 「入りたまえ」
アイ子 「ハッ!」大佐の執務室に入るアイ子。
大佐 「SOL艦隊地上基地のお父上に、これを届けてくれ」
大佐は、書類を差し出す。
アイ子 「ハッ! 了解いたしました」
大佐 「頼む」
アイ子 「失礼いたします!」
部屋を出るアイ子。
ビル屋上のヘリポート。数機のステルスタイプのジェットヘリが並んでいる。
アイ子 「高速ジェットヘリの準備はできているか?」
兵 「ハイ。いつでも出発できます」
アイ子 「では、すぐに出る」
ヘリに乗り込むアイ子。
パイロット 「これは、徳川少尉! らっきー!!」
アイ子 「なんですか?」
パイロット 「いえ、なんでもありません。出発します」
アイ子 「あ、識別信号は停止しなさい。秘密の任務です」
パイロット 「了解、識別シグナル、切ります」
窓からその飛び去っていくヘリを見つめる大佐。
大佐 「徳川の孫娘だ。機密情報を任せても安心だ」
しかし、そのヘリをじっと見ている他の目があった。
嗚呼、薄幸の美少女、徳川アイ子の運命やいかに。

こちらはSOL艦隊旗艦「やまと」。
通信担当官 「銀河から入電です。防衛軍司令部より高速ジェットヘリが発進しました。識別信号を出していません。精神走査の結果、目的地はSOL艦隊地上基地だそうです」
AKIRA 「大佐が動いたな。斎藤が派手にやったので、気付いたのだろう。よし、今度は舞の出番だ。パターン3で罠を仕掛けろ。斎藤陸戦隊長に打電。SOL艦隊地上基地に上陸用意だ。装備はN2で行け」

高速ジェットヘリは3時間後、SOL艦隊地上基地に接近した。
アイ子少尉 「そろそろSOL艦隊地上基地の防空域に入るわ。識別信号を出しなさい。コードTHX−1138」
地上基地 「やあ、司令部からだったのか。もうすぐ撃墜命令が出る所だったぜ。感謝してくれよ」
アイ子少尉 「こちらは、徳川アイ子少尉。防衛軍司令部より、大佐からの機密情報を徳川司令に伝達すべく命令されて参りましたっ!」
地上基地 「え?  ・ああ・・りょ、了解。直ちに司令に伝達します」
アイ子少尉 「随分弛んでいるんじゃないの?あの人達」
パイロット 「無理も無いですよ。最大のライバル、注国は内乱状態で、ネオ日本を中心とするネオ国際連盟平和協力隊が暫定政府の軍事訓練をしている位ですから」
アイ子少尉 「自由人民開放戦線は注国全土を制圧したはずよ」
パイロット 「燈皇帝が抱えていた秘密警察軍は凄いらしいですよ。ゲリラになって抵抗しているらしいですね。彼らも命が掛かってますから、必死ですよ。とにかく注国はここ当分停滞しそうですね」
アイ子少尉 「ま、いずれ落ちつくでしょう。それよりネオ日本のこれからが問題よね」
パイロット 「ええ。外国からは世界制覇の国と見られている様ですが、我々は平和を求めているって事を身を以て示さないとね」
アイ子少尉 「うーん、貴方ってなかなか見所が有るんじゃないっ!?アハハハ」
パイロット 「やだなぁ〜。からかっちゃあ〜。おっと、あれが基地ですよ。ここは何回か来られたんですか?」
アイ子少尉 「今度が初めてよ。う〜ん、凄いねぇ〜。コバルトの海に浮かぶ金色の蜂の巣って所かな?絵になるわ〜」
パイロット 「この辺は絶対制空域ですから、普通の人は見る事が出来ませんよ。少尉はラッキーですね」

高速ジェットヘリはSOL艦隊地上基地のヘリポートに着陸した。
アイ子少尉 「有り難う。パイロットさん。そうそう。お名前は?」
パイロット 「あ、相原義一軍曹です。徳川少尉」
アイ子少尉 「憶えておくわ。相原サン(^_^)」

徳川アイ子少尉は出迎えを受けた後、司令官室に案内された。
アイ子少尉 「徳川アイ子少尉、大佐の命により、機密情報を持参致しましたっ!」
徳川司令 「うむ。ご苦労。さあ、楽にしたまえ。少尉」
アイ子少尉 「ハッ!」

徳川司令は厳しい中にも、孫に対する優しさがにじみでていた。機密情報は特殊なターミナルに記録されており、秘密の操作によって文字や画像を出す事が出来た。
徳川司令 「これか・・・。おおっ・・・・うーむ」

優しい顔が急に険しくなった。
アイ子少尉 「どうしました?おじいさま、いえ、司令」
徳川司令 「うむ。悪いが、少尉は隣の部屋に下がっていてくれ」
アイ子少尉 「わかりました・・・」

副司令が呼ばれた。
徳川司令 「どうも、この情報は変なのだ」
副司令 「どう云った内容なのですか?」
徳川司令 「注国が倒れたので、ネオ日本が世界の指導国家になった。ついては、異動を行う。ワシはネオ国際連盟平和協力隊隊長。世界の視線を浴びながらの仕事なので、重責との事だ。で、後任はAKIRA提督だそうだ。どうもおかしい。大佐はAKIRAだけには気をつけろと云われていた。その為にワシをこのSOL艦隊地上基地に派遣したのだ。そのAKIRAに宇宙艦隊の全てを任せようとは・・・。更に、もっとおかしな点がある。大佐の命令には特殊な暗号が有るのだ。お前にも云えないが、それが無いのだ。しかし、映像も言葉も全て大佐その物だ。怪しい。情報操作か?」
副司令 「では、大佐に連絡をされては如何ですか?」
徳川司令 「いや、万一、情報が筒抜けだったら、まずい。危険だが、直接大佐に会いに行こう。お前はワシの留守中、この基地を守ってくれ」
副司令 「ハッ!全力を挙げて使命を全うしますっ!」
徳川司令 「少尉、来てくれたまえ。すまんが、ワシと共に大佐の所に行って欲しいのだ」
アイ子少尉 「えっ!司令がですか・・・」
徳川司令 「極めて重要な事なのだ」
アイ子少尉 「分かりました。では、早速参りましょう」

こちらはSOL艦隊旗艦「やまと」。
通信担当官 「舞から入電です。SOL艦隊地上基地から高速ジェットヘリが発進しました。徳川司令が乗っています。目的地は防衛軍司令部です」
AKIRA 「徳川司令。キミの負けだ。さらばだ。斎藤陸戦隊長に打電。作戦を発動しろっ!」
ここはSOL艦隊地上基地、ジェットヘリ専用発着ポート。
徳川指令 「妨害電波のため、電波による通信は途絶えているが、注国の残党による妨害かもしれぬ。くれぐれも、油断せぬよう。あとは頼んだぞ」
薮副指令 「ハッ、お任せ下さい。海底ケーブルでは、まだ本土と連絡がついておりますから、大丈夫です」
徳川指令 「それが不安なのだが」
薮副指令 「は?」
徳川指令 「では、ゆくぞ、少尉」
アイ子少尉 「ハイ」アイ子少尉の後ろ姿を見つめる薮の視線。発進するジェットヘリ。
こちらは、陸戦隊の斉藤。
斉藤 「よし、作戦第1段階の発動を」
部下 「はっ」
1機のシャトルがSOL艦隊地上基地上空に飛来した。
シャトル 「非常事態発生、往還機基地が、注国のサイキックに襲撃された。至急救援を乞う」
地上基地 「それはほんとうか! すぐに副指令に伝える」
シャトル 「その前に、着陸許可をくれ! こっちは大気圏突入機で、燃料がほとんど残ってないんだ」
地上基地 「了解した。7番滑走路の装甲シャッターを開く。オート・アプローチのIDシグナルは、93だ」
シャトル 「感謝する!」
地上基地 「シャッターが開ききるまで、3分かかる。それまでもつか」
シャトル 「ぎりぎりだが、なんとかなる」
堅固な要塞である地上基地の全面装甲の一部が大きく開いた。シャッターの中に、何本もの滑走路、巨大な兵器庫、そして、宇宙を睨む多数のレーザー砲がひしめいている。その中に飛び込むシャトル
地上基地 「おい、速度が速すぎるぞ」
シャトル 「助けてくれ、制御できない!」
シャトルは、滑走路の上を通過すると、真っ直ぐにレーザー砲にエネルギーを供給する核融合炉に向かった。
地上基地 「おい、そっちは、核融合炉だ。なんてこったい、ぶつかるぞ!」
シャトルは、神業のごとき操縦で、核融合炉の付帯設備であるうなぎ養殖場前広場にソリを使って強行着陸した。シャトル上部から、迫り出すロケット弾の発射ランチャー。それが、照準を核融合炉にあわせる。シャトルから降りる斉藤
斉藤 「手出しする者があれば、これを核融合炉に打ち込む」
それから、1分も経ってから、非常サイレンが鳴り響いた。シャトルが入ってきた装甲シャッターが重々しく閉じ始めた。しかし、そのころには、陸戦隊は、核融合炉の制御室を制圧していた。
斉藤 「全ての電源を切れ」
要塞の全ての動力は停止した。7番滑走路の装甲シャッターは、3分の2しか閉まっていない状態で停止していた。装甲シャッター前の海面に次々と浮上する斉藤指揮下の潜水揚陸艦。完全武装の装甲兵がロケット・ブースターでジャンプして、シャッターの隙間から突入してくる。しかし、要塞の重火器は、全て動力を絶たれ、沈黙している。どちらにせよ、大型の兵器は全て要塞の外側に向けられている。
薮副指令 「守備隊を集めろ、敵は少ないぞ、効果的に防戦するんだ」
部下 「だ、だめです。敵には勢いがあります。それに、寝返っている守備隊の兵士もおります」
薮副指令 「な、なぜだ。なぜ、あんな正体不明の連中に寝返っているのだ」
部下 「仲間になったら、徳川アイ子少尉の生写真をくれるそうで」
薮副指令 「なんだって! なぜそれを早く言わないんだ」
司令部を出て、前線に走る薮。
薮副指令 「私は、アイ子ちゃんファンクラブ、会員番号93番、薮助治だああ。あのガードの堅いアイ子ちゃんの生写真なんて、どうやって手にいれたんだ! 俺にもくれ!」
衿の内側の会員証を見せる薮。
こちらはSOL艦隊旗艦「やまと」。メインスタッフが、AKIRAのまわりに集まっている。
真田 「さすが、代理指令官の性格を読んだAKIRA指令の読み勝ちですな」
古代 「アイ子ちゃんの生写真だってええええええ!!!!」
AKIRA 「どうしたんだ、古代」
古代 「そんなに美味しいものがあるなら、ぜひぜひ、私にも下さいませ」
AKIRA 「おまえに、そんな趣味があるとは知らなかった」
古代 「アイ子ちゃんファンクラブ、会員番号3番、古代進」
衿の中の会員証を見せる古代。
古代 「これでも、私は、ずっと前に徳川さんのお宅にお年始にいったとき、当時5歳のアイ子ちゃんに目をつけていたんです」
島 「おい、古代。おまえには、雪というフィアンセがいるじゃないか」
古代 「島君、君にイイ言葉をおしえてあげよう。それはそれ、これはこれ、だ」
島 「おまえには負けたよ」
衿の中の会員証を見せる島。なんと、会員番号は2番。
古代 「がーん、おまえが会員番号2番だったのか! それじゃあ、会員番号1番はいったい、誰が」
真田 「こほん。古代、今まで俺はおまえを実の弟のように思ってきた」
古代 「さなだ・・・さん?」
真田 「しかし、この件だけは別だ。私が、会員番号1番、幻のアイ子ちゃんファンクラブ会長だったのだ! どわっはっは!!」
古代 「がーん、そんな馬鹿な」
真田 「その会員証は、やまと艦内の万能工作機械を私用で使い込んで、ばらまいたものなのだ。みたか、マニアの根性!!」
AKIRA 「あのお、私たち戦争中なんですけど」
古代 「それよりも、AKIRA指令!」
異様な雰囲気に恐怖を感じたAKIRA。
AKIRA 「は、はい」
古代 「どうやって、あのガードの堅いアイ子ちゃんの写真を?」
AKIRA 「舞が透視して念写した」
古代 「なんて、サイキックはうらやましいんだ!」

通信担当官 「斎藤陸戦隊長から入電です。SOL艦隊地上基地の制圧に成功せり。現在全システムのチェックを実施中。作戦第2段階まで、あと30分掛かるそうです」
AKIRA 「うむ。予定通りだ。見事だと伝えよ。徳川司令は現在何処だ?」
索敵担当官 「防衛軍司令部迄30分の距離に接近しています」
AKIRA 「SOL艦隊のメンテナンス状況はどうだ?」
作戦担当官 「全艦の修理は既に完了しております。軌道修正用燃料も補給を終了しています。バッチリですよ」

こちらは防衛軍司令部。
大佐 「SOL艦隊の動きはどうだ?」
情報担当官 「特に変わったところは有りません。天竜タイプのシャトルが多数動いていますが、艦の修理と軌道修正用燃料の運搬が目的の様です」
大佐 「小笠原宇宙往還機基地からの緊急信号の原因は分かったのか?」
情報担当官 「不明です。問い合わせに対しては、装置の故障だと云う返答がありましたが・・・」
索敵担当官 「大佐。SOL艦隊地上基地に派遣したジェットヘリが戻ってきました」
大佐 「そうか。直ちに徳川少尉を呼びたまえ」

徳川司令がアイ子少尉と共にやってきたのを見た大佐は驚いた。
大佐 「徳川司令!一体どうしたのだ。なぜ、やってきたのだ!?」
徳川司令 「ハッ!大佐より機密文書を頂きましたが、内容に不審な点がありましたので、直接参りました」
大佐 「不審な点?何処が不審だったのだ?」
徳川司令 「大佐。文章に誤りが有りませんでした。スパイの偽手紙を見破るためにわざと誤字を入れているはずの文章にです」
大佐 「何っ!それはおかしいっ!見せろ」

大佐はターミナルに表示された文書を一目見るなり、うなった。
大佐 「う。これは・・・。偽物だっ!わしはAKIRA提督に対して厳戒体制を取れと命令したのだっ!」
徳川司令 「ええっ!!そ、それは一体、どう云う事ですか・・・!?」
大佐 「AKIRAの動きがおかしい。小笠原宇宙往還機基地が襲撃された様なのだ。我々が戦勝気分で油断しきっている今、奴が動くとすれば、一体何が目的か?奴はSOL艦隊を使ってクーデターを計画しているのではないか?」
徳川司令 「しかし、、まさか・・」
大佐 「偽手紙でお前をここに来させたのが、AKIRAの仕業とすると、SOL艦隊地上基地が危ないっ!大至急連絡を取れっ!」
通信担当官 「ハッ! あ、連絡取れました。定時連絡です。異状無しとの事です」
徳川司令 「まだ、無事の様ですね」
通信担当官 「おっと、SOL艦隊より入電です。これより修理完了後の出力上昇テストを実施するとの事です」
索敵担当官 「SOL艦隊、エネルギー輻射増大中。原子炉搭載型全艦出力増大しています・・・。う、大佐っ!ちょっと来て下さいっ!SOL艦隊地上基地からもエネルギー輻射が出ています」
大佐 「どう云う事だっ!反射衛星に出力上昇テストは不要だ。副司令に連絡を取るんだっ!」
通信担当官 「不通です。データ通信が切断されました」
徳川司令 「た、大佐っ!これは一体・・・」
大佐 「AKIRAめっ!SOL艦隊全部を使ってネオ日本をやる気かっ!」

こちらはSOL艦隊旗艦「やまと」。
作戦担当官 「作戦第2段階実施中です。SOL艦隊稼働率99%。エネルギー充填85%。攻撃まで、あと2分です。全艦姿勢制御完了」
古代艦長 「目標、ネオ日本連合艦隊機動部隊全部隊、及びネオ日本戦略拠点。第1次攻撃後、直ちに第2次攻撃を準備せよ」
AKIRA 「いよいよ、さらばだな。大佐・・。権力のとりことなったキミのアホ面を見なくて済むのは実に愉快だね」
古代艦長 「提督・・。防衛軍司令部には、我々のアイドルである、アイ子ちゃんが居るんです。絶対に助けてやって下さいよっ!」
AKIRA 「勿論。キミ達の希望を裏切る様な事はしないよ。銀河がアイ子ちゃんを保護した様だ」
古代艦長 「ああ・・・・よかった」
AKIRA 「それに大佐達も死にはしないよ。残念だがね。あそこのシェルターは強力だ」

同時刻、防衛軍司令部。
大佐 「うう、全軍に第1級非常体制を発令っ!全軍直ちにSOL艦隊地上基地を破壊せよっ!ありったけの水爆を使って叩き潰すんだっ!」
徳川司令 「ま、、まさか・・大佐っ!」
大佐 「バカものっ! いいかっ!AKIRAに、まさかは無いんだっ!」

同時刻、SOL艦隊旗艦「やまと」。
作戦担当官 「エネルギー充填120%。提督、全艦攻撃準備完了しましたっ!」
AKIRA 「うむ。地図に載せる価値も無い世界の終わりだ。そして、神の時代の始まりだ」

AKIRAは立ち上がり、厳粛に宣言した。
AKIRA 「全艦、レーザー砲、発射っ!」

1秒後、東アジア各地、各海域に展開していた、世界最強のネオ日本連合艦隊機動部隊は、中核となる原子力空母もろとも消滅した。更に、原潜艦隊及び空軍基地等の軍事施設も空襲によって大破した。数波に及ぶ容赦無いレーザー攻撃の後に残されたのは、統制を失った兵隊と、行く当ても無く漂う小型の艦船だけであった。都市と軍事工場が残されたのは、勿論、SOL艦隊の維持の為であった。
防衛軍司令部内の緊急時専用大深度地下指令室。そこには、特別に訓練された18歳の少女達が大佐直属のオペレーターとして勤務していた。地上及び、地下20メートルまでの設備は全て破壊された。しかし、それは司令部の施設のほんの5パーセントに過ぎないのだ。地下指令室に入る大佐と徳川指令。少女達が、次々に報告をする。
オペレーターA 「第1から第7艦隊まで連絡途絶!」
ちなみに、オペレーターAは、ノンという名前で、ちょっときつそうな顔立ちである。
オペレーターB 「注国派遣部隊司令部と連絡が取れません」
ちなみに、オペレーターBは、クミという名前で、子供っぽい、ちょっととぼけたような顔立ちである。
オペレーターC 「SOL艦隊、依然として宇宙空間で攻撃体勢を取っています」
ちなみに、オペレーターCは、ヴァネッサという名前で、ちょっと大柄ではあるが、落ちついた物腰で、ちょっと大人の魅力を発散させていた。
大佐 「ネオ日本全土に緊急事態宣言だ」
オペレーターB 「イエッサー」
大佐 「所沢と厚木には連絡が取れるか?」
オペレーターC 「はい、高速デジタル回線は切断されていますが、通常の公衆回線はつながります」
大佐 「使える飛行機を全部出して、小笠原の宇宙関係の施設を破壊させろ」
徳川指令 「破壊してしまっては、SOL艦隊が運用できません。SOL艦隊なしには、国際的なネオ日本の優位が保てません」
大佐 「我々には、もうSOL艦隊はないのだ」
徳川指令 「しかし、SOL艦隊に、通常の航空機による攻撃が通用するでしょうか」
大佐 「そんなものは、フェイントだ」大佐は振り返った。
大佐 「南の島の秘密基地の、潜水空母艦隊に、出撃命令を」
オペレーターA 「了解!」
徳川指令 「潜水空母艦隊、そんなものがあったのですか!」
大佐 「秘密にしておいて悪かったが、やむを得ない保安処置だったのだよ」
徳川指令 「して、その性能は?」
大佐 「主力は、イ−40000級原子力潜水空母。深度1万メートルを50ノットで進む能力を持っている。深度5千メートルで発射可能な中距離核弾頭ミサイルを24基登載しているだけでなく、初の国産VTOL全次元戦闘爆撃機『神武』を16機登載している」
徳川指令 「しかし、艦載機を発進させるために浮上してしまえば、しょせんはSOL艦隊の標的です」
大佐 「神武はただの戦闘爆撃機ではない。スカイ・ユニットとダイバー・ユニットから構成されていてるのだ。ダイバー・ユニットの前部にスカイ・ユニットが結合されている状態で、深度千メートルの母艦より発進する。そして、空中進出地点の深度百メートルで、スカイ・ユニットが切り放され、一気に空中に舞い上がるという仕組みだ。スカイ・ユニットにも、簡易潜水艇としての機能があるので、回収も海中で行う。従って、宇宙の連中には手出しが出来ないと言うわけだ。しかも・・・」
徳川指令 「しかも?」
大佐 「イ−40000級潜水空母は、富士山麓の光子力研究所で、河馬都博士が研究中の光子エンジンを装備すると、宇宙空母となって大宇宙にはばたくのだ。もちろん、艦載機の神武も、核融合ジェットエンジンだから、反動推進材タンクを装備すれば、宇宙も飛べるのだ」
オペレーターA 「秘密基地の神宮寺艦長が出ました」
神宮寺 「大佐、この基地にもSOL艦隊のレーザー攻撃がありました。どうやら、隠し通せなかったようですな」
大佐 「損害を報告したまえ」
神宮寺 「ドックが破壊されたために、イ−40001以下の建造中の艦はスクラップと化してしまいました。それから、海底ドックの入り口が完全に破壊されてしまい、瓦礫の下にすでに完成しているイ−40000が埋まってしまいました」
徳川指令 「もうおしまいだ」
神宮寺 「では、これより、イ−40000は単艦で出動します」
徳川指令 「しかし、どうやって」
神宮寺 「艦首ドリルで、地中を掘り進めば、問題ありません」
大佐 「うむ、頼むぞ」
神宮寺 「では、ネオ日本の興廃を掛けて、海底空母轟天は発進いたします」
画面の中にはためくZ旗があらわれ、景気よく軍艦マーチが鳴り響いた。
オペレーター達 「キャーキャー、パチンコ屋さんみたい!」

その頃、AKIRAは全世界に向けて「神の時代」の到来を宣言する演説を行なっていた。
通信担当官 「放送準備完了しました。全世界の通信衛星及び放送衛星システムを占領しました。各国語で同時通訳しながら放送します。視聴者は全世界の30億人に達するはずです。TV、ラジオ、無線、電話に到るまでAKIRA提督の声を伝えます」
AKIRA 「良くやった。ナハハハ、スーパースターって奴だな。こりゃ(^_^)オホン。では、行ってみようか〜」
通信担当官 「ハイ! スタートっ!」
AKIRA 「え〜、全世界の人類諸君。わたしは神人AKIRAである。神はわたしを代理として、その意志を諸君に伝えるのだ。聞け。神の声を。かつて神は人間を地上に降り立たせた。それは大地の富を共に分かち合おうとしての事だ。しかし、人間はその意志に背き、自らを神と思い込んだ。これこそが、人類最大の罪である。人間は、神のマネをした。神の様に自然を作り変え、神の様に命を操り、神の様に地球を離れた。しかし、人間は神ではない。ついに神罰が下ったのだ。かつて世界には大国が存在した。欲望の帝国だ。隣国を喰らい、自分と同じ人間を焼き、ついには自らの重みで、滅びた。ソ連、アメリカーナ、注国、ネオ日本。これらは全て欲望が自らを喰い尽くした成れの果てなのだ。地上は汚物と疫病と飢餓に満ちている。これが神ならぬ人間の愚行の成果物なのだ。人間の手は血まみれだ。人間はそれを洗い、清めねばならない。それこそが、人間の次の仕事なのだ。神罰は世界から兵器を消した。戦いは終わったのだ。他国を脅かす国も無い。今こそ、人間は神の意志に従って、神との協調への道を歩まねばならない。人間は神ではない。それを忘れるな。もし、再び人間が神の意志を忘れ、神のマネをするならば、神罰はその頭上に下されるだろう。神罰が下る時、天は炎に包まれ、家は砂になり、人々は塩の柱と化すだろう。それから逃れる事は誰も出来ない。人間よ、恐れよ。神は見逃さない。人間よ、おびえよ。神は許さない。人間は神にとって必要な物では無いのだから。神はお前たちの頭上に有る」
通信担当官 「はい、終わりですっ!」
AKIRA 「おーし、キマったぜっ!」
森雪 「わたし、神様が見えない・・・。何処に居るのかしら?」
AKIRA 「ばーか、あれは只の演説さ。ああ云う事を云っておけば、あと100年もすると信じる奴が出てくる。500年経てば宗教になる。1000年過ぎたら神話になるさ」

索敵担当官 「提督っ!地上から多数の航空機が発進しました。SOL艦隊地上基地に向かっています」
AKIRA 「フ。奴らはさっきの神の声を聞いていなかったのか。これ以上戦ってどうなると云うのだ。我々を叩き潰して、再び世界の王になろうと云うのか?世界が滅びようとしている今、そんな世界の王になってどうしようと云うのだ。今の世界に必要なのは、正に神ではないか。奴らもそれを分かっているだろうに。愚かな・・・。まあ、それが神ならぬ人間の性と云う物なのだろう。早速、神罰の出番だ。準備しろっ!」
作戦担当官 「ハッ!SOL艦隊、稼働率82%。エネルギー充填94%。まもなく攻撃準備完了です」
AKIRA 「さて、今回は古代艦長に任せよう。やってみたまえ」
古代艦長 「ハッ!光栄です。・・・目標、敵航空機群。準備いいか?」
作戦担当官 「エネルギー充填120%攻撃準備完了っ!」
索敵担当官 「目標数1192。かなり分散しています。ちょっと多いな。まあ、火力でカバー出来るでしょう。第2次攻撃も準備した方が良いですね」
古代艦長 「分かった。では、全艦、レーザー砲、発射っ!」

索敵担当官 「ほぼ全滅です。残存数24・・いや、21に減少。・・・ン? あ、あ、大型飛行物体が出現しましたっ!SOL艦隊地上基地に向かっています」
古代艦長 「な、何いっ!し、しまったあ、ワナだったか・・・」
作戦担当官 「次の攻撃まであと8分掛かりますっ!」
古代艦長 「間に合わないっ!」
AKIRA 「SOL艦隊地上基地に通報っ!敵の空襲に備えろっ!」

神宮寺艦長 「ふふ。折角お目に掛かったと思ったら、もう、お別れの時が来た様だね。やまと帝国の諸君。この神宮寺が世界をもらったよ。神武を発進させろ。水爆をSOL艦隊地上基地に叩き込むんだ。原子炉搭載SOLはこの海底空母轟天に任せろ。わたしが作った拡散波動爆弾の威力を見せてやろうではないか。ワッハハハ」
光子エンジンを轟かせて、イ−40000「轟天」は、海中から空中に躍り上がった。SOL艦隊地上基地は目前だった。基地の防衛兵器、対艦、対空ミサイル、レーザー、対ミサイルバルカン砲などが、一斉に轟天めがけて攻撃を開始した。
神宮寺艦長 「ぐわっはっは。そんな武器が役にたつか。冷凍光線砲、撃て」
轟天の艦首から発射された青い光が、ミサイルやレーザーを包み込むと、すべて凍り付いて、海上にバラバラと落下していく。
斉藤陸戦隊隊長 「そんな馬鹿な。レーザーの光線まで凍り付くとは。漫画じゃあるまいし」
部下 「それを言うなら、某『たのしいまくちん』とかいうグループの出している変てこりんな小説本じゃあるまいし、というべきですね」
こちらは、やまと。
古代 「真田さん、これはいったい!」
真田 「分かったぞ、これは、熱を奪う兵器ではない、空間そのものの時間を停止させて、凍り付かせる兵器なのだ」
古代 「いったい、どういうことなんですか!?」
真田 「1991年の1月に、それまで超紐理論と呼ばれていた理論が、泥縄理論と呼ばれる理論に進化した」
古代 「ひもから、なわへ、ですか」
真田 「つまり、この世界は、すべからく泥縄でできているという理論なのだ。素粒子の量子数は、縄を編むときに入れる繊維の本数で決まるというのが、その骨子だ。つまり、空間を非ユークリッド的な4次元空間とみなしたとき、その3次元的断面は、全て一本の長い縄の断面に過ぎないというわけだ」
古代 「しかし、それがいったい、どうしてあんな結果を引き起こすのですか?」
真田 「ある特定の空間に属する縄を全て切断してしまえば、どうなると思う? 時間を含む、全ての物理的な相互作用が消滅するのだ。それが、あの凍ったレーザーの正体なのだ」
古代 「しかし、そんなに簡単に、その縄を切ることができるのでしょうか」
真田 「あれをみたまえ。あの謎の潜水艦の、艦首のドリルこそ、縄を効率よく切断するための装備に違いない」
古代 「なるほど。真田さん、対抗策はないんですか!」
真田 「うーむ、いまのところ、ない」
AKIRA 「SOL艦隊など、しょせんは、道具に過ぎない。本当の力というのがどういうものか、見せるときが来たようだな」
古代 「い、いったい、どうするおつもりで!?」
AKIRA 「私がじきじきに、あれを叩いて来よう」

舞と銀河と紅葉を従えて、AKIRAは、やまとの甲板に宇宙服も着ないで、すっくと立った。もちろん、風にマントがたなびいている。
ついに、AKIRAのおそるべき力が解放される時がきた。
驚異のサイキック、AKIRAと美少女サイキック軍団が勝つか。
科学の奇跡、万能潜水艦イ−40000轟天が勝つか。
いま、今世紀最大の、大決戦が始まる(のかなあ)。
AKIRA、舞、銀河、紅葉のサイキック軍団は紺碧の南海を進む「轟天」を睨めつけ、やがて忽然と消えた。

こちらは「轟天」艦内。
神宮寺艦長 「勝利は我が手に有り。さあ、野郎ども、拡散波動爆弾の用意だ。連中のエネルギー充填が完了する前にカタをつけてやる!」

と、突然、艦長の後ろから声が掛かった。
声の主 「神宮寺艦長!」
神宮寺艦長 「ん? 何だぁ、俺は今、とっても忙しいのだ」
AKIRA 「ほう、上官の声も忘れたのかね」
神宮寺艦長 「え?」

振り向く神宮寺艦長。そこにはAKIRA以下のサイキック軍団が立っていた。神宮寺艦長 「ゲ、ゲエッ! あ、AKIRA提督!」
AKIRA 「直接、決着を付けに来た。これ以上我々が戦っても、どうなる物でもあるまい」
神宮寺艦長 「ふん。世界を支配するのは、あんたでは無く、俺なんだ。その辺を分かっていない様だね」
AKIRA 「キミに覇者の器はない。勿論、大佐にもだ。それが出来る唯一の者は神人AKIRA。つまりわたしだ」
神宮寺艦長 「へん、吹きやがるぜ。よーし、それ程云うならこの場で決着を付けてやろうじゃないか。男なら素手で来いっ!」
AKIRA 「よかろう。何でやる?ボクシングか?」
神宮寺艦長 「良い度胸だ。俺がかつてボクシングのウルフと呼ばれていた事を知っての事だな」
AKIRA 「そう云う訳だ」

向かい合う神宮寺艦長とAKIRA。周りにはサイキック軍団、「轟天」の乗組員が黒山の人ざかり。どさくさに紛れてサイキック軍団にちょっかいを出す奴もいる始末。
舞 「キャア〜!AKIRA様っ!かっこいいっ!」
銀河 「こっち向いてっ!キャア、キャア!」

神宮寺艦長 「小僧っ!かかってこい!」

AKIRAは最初ガードを固めていたが、何を思ったか、ガードを降ろした。
神宮寺艦長 「ふ、素人め。ガードのイロハも知らんとは・・。だが、容赦はしないぜっ!」
バキっ!ベキっ!猛烈なパンチがAKIRAの顔面を捉えた。たちまち膨れ上がるAKIRAの顔。
舞・銀河 「キャアっ! AKIRA様っ!」
神宮寺艦長 「そーれ、次はストレートだ。アッパーはどうだっ!」
倒れるAKIRA。しかし、やっとの事で立ち上がる。
神宮寺艦長 「ほう?坊や。根性は有る様だな。だが、寝ていた方が楽だぜ」
グワッシャア! エルボースマッシュが決まり、AKIRAの身体はぶっとんだ。
神宮寺艦長 「ふ、これで決まったな。なあ、AKIRA提督閣下」
しかし、AKIRAはよろめきながらも立ち上がった。
神宮寺艦長 「うう、なんて奴だっ!クソっ!えーい、とどめのストレートだっ!」
すると、AKIRAの目が光り、風の様に腕が唸った。
グシャアっ!神宮寺艦長が倒れた。ギャラリーから驚きの声が沸き上がった。
AKIRA 「クロスカウンターだよ。艦長」
やっとの事で立ち上がった神宮寺艦長。
神宮寺艦長 「ふ、俺とした事が、油断したよ」
たたみ掛けるAKIRA。追いつめられた神宮寺艦長。苦し紛れに再びストレートを出す。再び、AKIRAのクロスカウンター!・・・しかし、今度は神宮寺艦長が、その上を行くダブルクロスカウンターを放った。3mも吹き飛ばされたAKIRA。ピクリともしない。
神宮寺艦長 「わはははは。俺がウルフと呼ばれる訳がやっと分かっただろう。クロスカウンター封じのこのパンチ。手に入れる迄にはそれこそ血を吐く思いだったぜ」
ピクっ! AKIRAの身体が動いた。
神宮寺艦長 「な、何とっ!ま、まさか・・・このダブルクロスカウンターから起きあがった奴は一人としていないのだっ!」
しかし、AKIRAは亡霊の様に立ち上がった。が、殆ど何も見えない様であった。
神宮寺艦長 「・・ま、世の中には奇跡って物が有る訳だ。こいつがそれだって訳さ。まあ、良い。とどめのとどめって奴を見せてやろう。さあ、坊や、ストレートだ。クロスカウンターを撃ってこいっ!」
神宮寺艦長は、さそいのストレートを放ったっ!AKIRAのクロスカウンター!上を行く神宮寺艦長のダブルクロスカウンターが放たれた。と、AKIRAの腕が、ライフル弾の様に走り、神宮寺艦長の顔面を直撃したっ!
バキイイっ!
猛烈な音と共に、神宮寺艦長は泥の様に崩れ落ちた。AKIRAも倒れた。しかし、AKIRAは立ち上がった。
AKIRA 「ふふふ。見たかね。これこそトリプルクロスカウンターだ。神宮寺艦長のアゴは複雑骨折したはずだ。2度とくっつかない。わたしが真の勝者だと云う事が分かったかね」
驚愕にどよめく艦内。
AKIRA 「さて、マイクを貸してもらおう。やまとに打電だ」
AKIRAはマイクを取った。
AKIRA 「AKIRAだ」
古代艦長 「提督っ!ご無事ですかっ!SOL艦隊、攻撃準備完了しましたっ!」
AKIRA 「うむ。SOL艦隊、レーザー砲、発射!」
古代艦長 「ハッ! レーザー砲、発射!」

「轟天」、「神武」は備える暇も無く、レーザー砲の直撃を喰らった。
轟天副長 「ぐわああ、ネオ日本に栄光あれっ!」
次の瞬間、彼らは消滅した。

AKIRA達は「やまと」に戻った。
古代艦長 「提督っ!おいたわしやっ!」
銀河・舞 「ええ、まるでアンパンマンみたいよ。マントも着てるし」
AKIRA 「おーい、ジャムおじさん。新しい顔を作ってくれ!」
久しぶりにドッと爆笑する艦内であった。
AKIRA 「そうか、アンパンマンというのも悪くないな」
古代 「へ?」
AKIRA 「アンパンマンのコスチュームで、正体を隠して、地上の悪をけちらすんだ」
古代 「水戸黄門みたいですね」
AKIRA 「おーい。ジャムおじさん、顔をつくってくれよ」
真田 「誰がジャムおじさんやねん」
古代 「じゃあ、バタ子さんは?」
AKIRA 「森雪にでもやってもらおう」
古代 「で、チーズは?」思わず古代を指さすAKIRA。
古代 「わんわん」
あくまでもAKIRAには卑屈な古代であった。
そのころ、世界各国は、無条件降伏受諾の連絡を、やまとに送ってきていた。
AKIRA 「ネオ日本の降伏はまだか?」
通信士 「まだです。まだ連絡がないのは、ネオ日本とムーミン谷だけです」
AKIRA 「ムーミン谷は住民がみんな冬眠中だ。とりあえず、ほうっておけ」
こちらはネオ日本の地下指令室。
大佐 「なんということだ。あれだけの必殺兵器を与えたのに、ボクシングで負けてしまうとは!」
徳川指令 「もはや、これまでです。降伏しましょう」
大佐 「なに、もう1度言ってみろ」
徳川指令 「もはや、我々には、反撃する手段がありません。降伏しましょう」
大佐 「何を言っているんだ。まだ日本列島は我々が掌握している。連中が宇宙から降りてきたら、ゲリラ戦で目にものを見せてくれる」
徳川指令 「彼らは宇宙から降りてくるつもりなんかありません。あくまで、恐怖という名の姿なき軍隊で、地上を支配するつもりなんです」
大佐 「なにを寝言を言っているんだ。陸上部隊が入ってこなければ制圧したとは言えないのだぞ」
徳川指令 「それは、あまりにも古い考え方です。もはや、時代が違います」
拳銃を抜いて徳川に向ける大佐。
大佐 「よく分かった。君も仲間だったとはな。どうりで、あんなに簡単にSOL艦隊地上基地を職場放棄して、司令部に来たわけだ。君を反逆罪で逮捕する」
徳川指令 「なんてことを」
大佐 「ただし、現在は非常時なので、ネオ日本連合戦闘部隊最高指令官の権限により、即刻処刑を行う」
徳川指令 「大佐、冷静になって下さい!」
大佐 「死ね、裏切り者!」大佐は引き金を引いた。
そのちょっと前。オペレーターの3少女は、ひそひそと話をしていた。
オペB 「ちょっと旗色が変わってきたみたいじゃない?」
オペA 「えー、そうなの?」
オペC 「そうね、もう負けは確実ね」
オペB 「この際だからさ、勝つ方に寝返っちゃおうか」
オペA 「えーーーーーっ 負けちゃうの!?」
オペC 「しーっ。声が大きいわ」
オペB 「でもね、ただ敵の方に行っても、信用されないからこっちがスパイ容疑で処刑されるかもしれないでしょ」
オペC 「うん」
オペB 「だから、大佐の首を持って行くのよ」
オペA 「きゃーーーーーっ 残酷う」
オペB 「やるの、やらないの?」
オペC 「分かったわ。やりましょう」
オペA 「ああん、残酷よ、そんなの」
オペB 「やらないの?」
オペA 「やる」
銃声が響いたとき、徳川指令は思わず目を閉じた。しかし、倒れたのは、大佐の方だった。
大佐 「そ、そんな馬鹿な」
後ろに、拳銃を構えた3人の少女が立っていた。オペレーターBの拳銃から硝煙。

徳川指令 「君達・・・・・」
オペB 「さあ、はやく、大佐の首を切りましょう」
オペC 「調理場から包丁をもってくるわね」
オペA 「残酷だけど、ゾクゾクしちゃう!」
徳川指令 「なんということをするんだ。いやしくも、君達の上官だったのだぞ」
オペB 「徳川指令、私達、寝室にまで連れ込まれたんですよ。貞操を奪われた恨みぐらい、はらさせて下さい」
徳川指令 「うう、それは・・・・」
そのとき、老・徳川の脳裏に浮かんだのは、孫娘、アイ子の貞操の安否であった。
徳川指令 「大佐の司令部においておくのではなかった。それにしても、アイ子よ、無事でいてくれ!」

世界のアイドル徳川アイ子、いったい、どこにいるのであろうか。

徳川司令とオペレータ達は「やまと」に無条件降伏を打電した。
通信担当官 「提督っ!ネオ日本から無条件降伏の連絡が入りました」
AKIRA 「ほう・・。あの大佐、急に賢くなったのかな。アルジャーノン・ゴードン効果って奴かな」
しかし、全くウケないので、ちょっと落ち込んだが、気を取り直して続けた。
AKIRA 「大佐と話がしたい。連絡してくれ」
通信担当官 「えーと、ええっ!!大佐は亡くなったそうです・・」
AKIRA 「ウソだろ。あのタコ、アタマを潰しても死ぬ訳無いよ」
通信担当官 「い、いや。本当に死んだそうです」
AKIRA 「ふーん。まあ、イイだろう。じゃあ、代わりの者に云ってくれ。大佐の首を持ってやって来いって」
通信担当官 「了解だそうです」
AKIRA 「おい、おい。こいつは本物かも知れないぞっ!」
古代艦長 「いや、大佐のワナかも知れませんね」
AKIRA 「うむ。では、『やまと』ではなく、他の艦で会おう。『ちはや』がイイかな」

原子炉搭載型艦の「ちはや」にスペースシャトルが到着した。徳川司令と3人のオペレータは、会見の部屋に案内された。やがて、AKIRAが現れた。
AKIRA 「徳川司令。久しぶりだね。キミはネオ日本の代表として無条件降伏を申し出に来たそうだが間違い無いか?」
徳川司令 「はい。その通りです。これが政府の無条件降伏文書です」
AKIRA 「うむ、確かに間違い無い。して、大佐の首は?」
徳川司令 「これです」
徳川司令は袱紗包みの首桶を前に置き、中から大佐の首を出した。AKIRAはしかめっ面でそれを見ていたが、やがて云った。
AKIRA 「首には無念首と従容首が有るそうな。大佐は部下に殺されたのだから、さぞや無念であったろう。この首は無念を絵に書いた様なツラをしている。まさしく無念首である。まさしく大佐の首だ。大義であったな。さぞや辛かったであろう。大佐をしとめたのは司令か?」
徳川司令 「いえ、わたしは大佐に殺されかけましたが、その様な事は出来ませんでした」
AKIRA 「そうか、すると、お前たちか・・・」
オペレータ 「はい。私達とて、恨みが無ければ、どうしてこの様な事をするでしょうか?辱められたからです」
AKIRA 「うーむ、確かに見るからにスケベそうな男だったからな・・・。お前たちの行いは非難されない。見事な行いだ」
AKIRA 「さて、司令。キミに会わせたい人物がいる。さあ、入りなさい」
AKIRAが合図をすると、扉が開き、中から銀河と共に美しい女性が現れた。
美しい女性 「おじいさま・・・」
徳川司令 「おおっ!!お前はアイ子ではないかっ!無事だったかっ!大佐の慰み物になったりはしなかったか?」
アイ子 「ハイ、この銀河さんがわたしを防衛軍司令部から救ってくれたんです。SOLの攻撃前に・・・」
徳川司令 「そうでしたか・・・。有り難うございます」
AKIRA 「気にする事は無い。ところで司令。わたしの頼みを聞いてはくれまいか」
徳川司令 「ハ。どの様な事でしょうか?」
AKIRA 「キミにネオ日本を任せたい。どうだ。やってくれるか?」
徳川司令 「ええっ!!わたしがネオ日本を治めるのですかっ!」
AKIRA 「うむ。キミの忠節は昔から知っている。しかし、大佐は死んだ。これからは私達のために働いてくれ」
徳川司令 「ハハッ!身に余る大任。この徳川彦左衛門、身命をかけて尽力致します」
AKIRA 「うむ。頼んだぞ。このアイ子少尉と、この女性たちの力を借りて、新しい国を作ってくれ給え。勿論、SOL艦隊への補給と整備も頼む」
徳川司令 「ハハッ!かしこまりましたっ!」

徳川司令の健闘を祈念して一同で祝杯を挙げ、彼らは上機嫌で地上に帰って行った。AKIRA達は「やまと」に戻った。

古代艦長 「あの司令は信用出来ますか?」
AKIRA 「勿論だ。愚直な武者で、恩には感じ易いのだ。わたしの見る所、彼が健在な間は我々は枕を高くして寝られるぞ。何と云っても、ネオ日本は我々の補給線だからな」
古代艦長 「さすがはAKIRA提督・・・」
AKIRA 「無条件降伏をした他の国の指導者に連絡せよ。従来通り、国を治める事を許す。但し、我々に貢ぎ物を納めるべしとな」
通信担当官 「了解しました」

AKIRA 「それはともかく、みんな来たまえ。夜明けだ。まるで我々を祝ってくれているかの様ではないか。ま、大半の人類はそうではあるまいが。ははは」
銀河 「SOL艦隊が輝いているわ」
久住舞 「見てっ!今日は地球がとっても青いわ」

AKIRA 「地球か・・・何もかも皆美しい・・・」
第2部終了

特別付録 元祖やまと浮上せり
ニューヨーク沖に浮上するやまと。
米兵 「やまと浮上しました」
笑うのをやめて、振り返る大統領
米兵 「爆雷攻撃を続けますか?」
大統領 「当然だ。いや、まて。ミサイルに切り替えろ。合衆国の全ICBMを、やまとの頭上から見舞うのだ!」
副大統領 「大統領、おやめください」
大統領 「なにい?」
副大統領 「まだお気づきにならないのですか。我が大ア**カといえども破れることはあったのです。おそまきながら「やまと」との和平を、日本との共存の道を。大統領!」
銃声。
倒れる副大統領。
・・・・・・・・・・・
ナレーション 「そこに都市はなかった。破壊の限りを尽くされた地上には音もなく、動くものもなかった。古代は知った、いま、一つの国が死んだのだ」
森雪 「わたしたちは、なんてことをしてしまったの? わたしにたちには、もう、陛下の前にでることができない!」
古代 「俺達は、生まれたときから、戦って勝つことを要求されてきた。でも、俺達がしなければならなかったのは、戦うことじゃない。愛し合うことだったんだ。勝利か、クソでも食らえ!」
古代 「雪、行こう、ソ連に。他にどうしようもないじゃないか」
こっくりとうなずく雪。
やまとブリッジに戻る古代。
島 「古代、無事だったか」
古代 「よおし、総員警戒配置につけ。ソ連に向けて、全速発進!」
戦えやまと、皇国の興廃この1戦にあり! 日本の石油備蓄が尽きるまで、あと161日、あと161日しかないのだ!


あとがき 西東遊治郎(さいとう・ゆうじろう)
(事実関係は全てフィクションである)

 「やまと浮上せり」は、国際社会に於ける「覇権」をメインテーマにした近未来小説である。
 90年8月2日(現地時間)に開始された、所謂「湾岸戦争」は世界の人々に、そして、私たちに多くの課題を残して行った。平和とは? 戦争とは? 人間とは? 国家とは?
 私たちはその解答を未だに見つけていない。しかし、今まで置き去りにしてきた物を目の前に晒されて、私たちは色々な事を考えた様だ。新聞の投書欄に掲載された代表的な論調を何件かお見せしよう。

「1990年、日本は再び軍事大国への道を歩み始めた」
中東危機に対する国連平和協力隊と云う名の下に、事実上の海外派兵を認めた政府の決定を、後世の歴史家はその様に書くかも知れない。かつて敗戦国日本は、戦争の罪と悲惨さを2度と繰り返さない為に自ら2つの足かせをはめた。核武装と海外派兵の禁止である。これは経済大国が、軍事大国にならなくとも世界に存在出来ると云う壮大な実験のはずだった。しかし、敗戦から半世紀を経て、それはついに消える事になった。経済大国は必ず軍事大国になると云う歴史的事実が証明された訳だ。核武装禁止の柱であった非核3原則は、核搭載艦に核兵器が積んであるか否かを問わないと云う消極的な官僚主義によってすり替えられ、久しく空虚化している。今回、更に海外派兵に道を開いた事は、事実上日本が「野に放たれたトラ」と化したと云えるのではないか。特に日本の場合、同じ敗戦国のドイツと異なり、過去に対する反省が少ないと云う事が周辺諸国に対して大きな脅威となるだろう。トラがこれから何をしようとしているのか。日本を見る海外の目は厳しい。トラを飼い慣らす事が出来るかどうか、日本国民に課された責任は大きいと云えよう。
(90年10月8日付 東京:会社員)

あの自由と正義の、輝けるアメリカは用心棒に堕落してしまったのだろうか?スポンサーから金を集め、ギャングと戦う構図を思い起こし、うんざりしてしまった。真の大国なら、イラクが会議のテーブルに着くまで待つべきではなかったか?経済制裁の効果を見極めない内に、形だけの外交交渉をして、実は始めから戦争を計画していたのではないか?安全保障と云う美名の下に、戦争を生業とする国家の様に見える。国民に悲惨さをもたらし、一部の軍事産業と一部の石油会社の繁栄と、アメリカ大統領の人気しかもたらさない戦争って一体何なのだろう?うさんくさい大義名分さえ持たない、この様な戦争は直ちにやめるべきだ。全ての国は、この戦争に金を出すのをやめるべきである。それこそが、戦争を早期に集結させる道だと考える。日本はいかなる戦争も手助けしてはならない。それが2000万人と云われる隣人と、300万人以上の同胞の血で得た結論では無かったか?それを忘れ、アメリカの果てしない要求に応えようとする政府は、結局全てを失う事だろう。国家の独立と安全も、そして、守るべき国民と国家さえも。
(91年1月23日付 神奈川:自由業)

政府は多国籍軍に対する90億ドルの追加支援を行うそうだ。その理由は日本の国際的孤立を避ける為だそうだ。実に愚かな事である。戦争はその理由に関わらず悪である。第二次大戦での教訓から私たちはそれを身に染みて理解したはずであった。正義の戦いと云う物は無く、そこに有るのは死と破壊と限りない悲しみだけである。正に悲劇、正に歴史の汚点である。私たちはそれを放棄した。実に偉大な勇気である。更にその勇気を維持すると云う事はもっと崇高な行為なのである。それにも関わらず政府は勇気を捨て、再び自らの手を血で汚そうとしている。なぜ孤立するのが恐いのか?自ら戦争を引き起こし、孤立したならいざ知らず、如何なる戦争にも反対し手助けをしないと云う行為のどこを恥じると云うのか。もし、政府が真の勇気を揮って、その結果国際社会から孤立したとしても私たちは決して恥じない。返って政府の勇気を誇りに思うであろう。アメリカの日本叩きが激しくなったとしても私たちはそれに耐えよう。しかし、ビジョンも無くアメリカの限りない要求を受け入れるだけの政府を私たちは恥じ、そして憎むであろう。
(91年1月27日付 北海道:公務員)

歴史は時として、真実を垣間見させてくれる事がある。今回の湾岸戦争の場合、軍事大国の世界戦略なる物が良く分かる。それは次の様なプロセスである。先ず野心家の国に兵器を売り込み、領土拡張をけしかける。しかも、それによっておびえる隣国にも安全保障の名の下に兵器を売り込む。その内、どこかの野心家が隣国に攻め込む。すると、大国は彼に世界平和の敵と云うレッテルを貼り、ボロボロになる迄叩きのめす。その場合は世界共通の敵と云う事にして、戦費を世間知らずの国からふんだくり、自国の国民の増税にはしない。増税は政権の不人気の元になるからだ。さて、ボロボロになった国は復旧させねばならない。新しい指導者は大国の云う事を素直に聞いてくれる人間がふさわしい。ついでに駐留軍も置いて、その費用は勿論破壊された国が払う事にする。破壊された国土は破壊した国の企業が直す事になる。その費用は全て破壊された国が払う。かくして、大国は自作自演の猿芝居で、戦争を飯の種にしている事になる。さて、日本は大国の仲間入りをしたのだろうか?それとも、相変わらすの貧乏クジか?
(91年2月6日付 九州:自営業)

 人々は、国際社会の理想と現実の狭間に揺れていたのかも知れない。
 武力を使わず平和が得られると云う思想と、平和は力によってのみ得られると云う力の論理である。しかし、現実は後者によって支配された様である。
 私たちがこの作品を連載していた時は、この戦争が動いている、正にその時であった。大国の覇権主義に揺さぶられ、不安と混乱のるつぼと化す日本。その様な構図を見た時、一つの理想、一つの解決策を示すべきではないかと云う想いに駆られた。
 その結論の一つは「神との協調」と云う物であった。超越者としての神。その威力の前に傲慢さを失う人間。それを私たちは提示した。
 あるいは愚かさかも知れない。あるいは輝ける存在かも知れない。その答は、読者諸賢の胸の中にこそ有るのだ。


あとがき

 作者の片割れの上瀬秋雄(別名オータム)でございます。
 この作品は、パソコン通信では日本最大と言われているPC−VANの中の、宮崎駿ネットワーカーFCというSIG(趣味のクラブのようなものです)でリレー連載された小説です。
 ちなみに、「なぜ、宮崎駿のFCの人間が、こんなオタッキーな小説を書くのか」、という質問だけはなさらないようにお願いします。(これは一番の弱みですね)。
 さて、私が小説を志したのは、ずいぶん昔、小学生の頃にさかのぼります。最初に書こうとしたのは、ずばり「ドリトル先生とタイムマシン」というタイトルで、遠い未来、異星人とのコミュニケーションがうまく取れないので、タイムマシンで過去に遡って、ドリトル先生に異星人の言葉を研究して貰おうと、未来人がドリトル邸にやってくると言う、とんでもない内容でした。もちろん、僅かな分量を書いただけで、挫折してしまいましたが。
 さて、それ以来、小説家になりたいという気持ちが心の中にありながら、マイコン(のちにはパソコンと呼ばれるようになった)という邪悪な機械が私の心を捉えて離さず、その関係に就職することになってしまいました。それでも、「30歳で作家デビュー、40歳で専業作家になるんだい」などと、無謀な夢想的計画を巡らしていたわけです。
 ところが、最近、「こりゃ凄い」と思える作家が、主に富士見ファンタジア文庫や角川スニーカー文庫(一部は、ハヤカワJAとか、ENIX文庫とかにもです)から出てきて、危機感を感じるようになりました。
 なにせ、やっちゃった者の勝ちというアイデア勝負のネタに関しては、それこそ先にやっちゃった者の勝ちなわけで。
 特に吉岡平という作家が、やってくれるのです。
 例えば、「巨大ロボットプロレスアニメ小説」ということで、「重合鉄神ザンガイオウ」というのネタを暖めていたところ、「鉄甲巨兵SOMELINE」などというのを書かれてしまうし。ちゃんと26話ある(全部サブタイトル付き)とか、合体の基本パターンがコンバトラーVだとか、女の子の登場員が二人居るとか、主役ロボットを作った博士がロボットヲタクだとか、類似点が山ほどあります。
 それに、あの無責任艦長タイラーシリーズは、もっと問題ですね。ちゃんと旧国名をつけた戦艦がぞろぞろ出てくるあたりのセンスは、好きな世界なんだけど、さすがに羞恥心が、書くのを押しとどめていた部分ですから。それは別にしても、宇宙の軍艦の登場する小説のネタはたくさんあります。戦車や自動車やバイクのように、普通のヲタクが大好きなメカは出番があまりありません。軍艦と・・・・一部は飛行機。これで決まりです。
 とりあえず、PC−VANで連載中(というか中断中)の「風のラト姫」という私の小説の中でも、主人公の乗艦、巡洋艦オスルムを始め、軍艦多数。艦隊戦シーンもかなり多いです。(軍艦は主役だ。けしてやられメカではない。その点、ガンダムは邪悪だ!)
 そういう趣味ですから、困ったことに、タイラーシリーズを読んでいると、嬉しくてたまらないわけです。
 とはいえ、このままだと、作家デビューしたときに、吉岡の亜流と評価されそうでまずいなあと思っていました。
 そこで、共作でしかも同人誌の形態ではありますが、私の作品を世間に発表することで、多少なりともオリジナリティを主張したいと思います。
 もちろん、意識的に宇宙戦艦ヤマトのパロディにしてある部分が多いので、こんなものがオリジナリティと言えるかどうか、分かりませんが・・・・。(やっぱり、違うよなあ。うんうん、違う。オリジナリティとは言えない。とほほ)。
 さて、この作品、「やまと浮上せり」は、99パーセントがパロディから構成されています。
 全部の元ネタが分かった人がいたら、あんたは偉い! ヲタクの鏡です。
 普通のヲタクで、半分ぐらいでしょうか。
 でも、新米(あらこめだよ!しんまいじゃなくて)とか根本とか杉山とかヤレタラとか出てこないだけマシと思わなくちゃ駄目ですよ。(この名前全部分かった人は立派なヤマトヲタクです!)。ちなみに、この名前全部放送された番組内で出た名前ばかりです。非公開の設定資料にしか書いてない内容をネタにして自慢をするのは、下等なヲタクです。(そんな奴には、アステロイド6返しだ!)
 と、ヲタク論はそのへんに置いておいて。
 この作品(の私が書いた部分)は吉岡平先生に捧げましょう。
 吉岡先生、昔TAD−NET(注:吉岡先生のファンクラブのパソコン通信BBSである)におじゃましたときは、あの雰囲気についていけず(戦車の好きな右翼ヲタクの人が仕切っているんだもん)脱落してしまいましたが、機会がありましたら軍艦のお話をしましょう。ちなみに、私は、4本煙突の5500トン軽巡が好きです。(と言って、何人の読者に理解できるのだろうか・・・・・)。戦艦なら金剛、空母なら大鳳ですね。(私は何を口走っているのだろう・・・・意味不明だ)。
 ちなみに、この本を表紙その他を描いているシルエット氏も、かなりの軍艦ヲタクです。(ね、そうだよね)
 では、このようなものを買って、後書きまで読んで下さった読者の方々には感謝いたします。万一次の同人誌が作れたら、そこでまたお会いしましょう。何年か先に、まかりまちがって、商業誌で私の名前を見かけましたら・・・・、ぜひとも、そちらもお付き合い願います。

                            上瀬秋雄/オータム

パソコン通信上の連絡先:(1991年10月現在で定期的にアクセスしている場所)
     PC−VAN:SVD85360 オータム
      日経MIX:autumn


まくちん文庫発刊に際して            上瀬秋雄
 先のM君事件でのヲタクに対する世間の偏見は、ヲタクへの無理解による偏見という以上に、私達ヲタクの自己主張の弱さゆえの偏見だった。私たちの文化が偏見に対して如何に無力であり、単なるあだ花に過ぎなかったかを、私たちは身を以て体験し痛感した。情報化時代のヲタク文化の発展にあって、宇宙戦艦ヤマト以来の十数余年の歳月は決して短すぎたとは言えない。にもかかわらず、社会的に認知されたヲタク文化を確立し、自由な批判と柔軟な良識に富む文化層として自らを形成することに私たちは失敗してきた。そしてこれは、各層へのヲタク文化の普及浸透を任務とする商業誌同人誌関係者の責任でもあった。
 M君事件以来、私たちは再び振出しに戻り、第一歩から自己主張を繰り返すことを余儀なくされた。これは大きな不幸ではあるが、反面、これまでの混沌・無知・歪曲の中にあったヲタク文化に秩序と確たるインデンティティを確立するためには絶好の機会でもある。同人「たのしいまくちん」は、このようなヲタクの文化的危機にあたり、微力をも顧みず再建の礎石たるべき抱負と決意とをもって出発したが、ここに創立以来の念願を果たすべく「まくちん文庫」を発刊する。
 これまで発刊されたあらゆる商業誌同人誌の長所と短所とを検討し、宮崎駿ネットワーカーFCの不朽の典籍を、良心的編集のもとに、廉価に、そして書架にふさわしい美本として、多くの人々に提供しようとする。しかし、私たちは徒らに内輪ネタ的ウケ線狙いの閉鎖的集団を作ることを目的とせず、あくまでヲタク文化の社会的再認知への道を示し、この文庫を同人「たのしいまくちん」の栄ある事業として、今後気が向いたら継続発展せしめ、ヲタクとマニアの殿堂として大成せんこととなったらたいへんである。多くのヲタク諸子が我々の思想と大義とを受け継ぎ、ヲタクを日本社会のエリート階級とするだけに留まらず、この大宇宙環境に生息する全ての知的生命体の尊敬を受ける精神的リーダーとして評価せしめられんことを願うものであるが・・・。けどね。
一九九一年四月二十日

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著者: 佐藤クラリス/ nausicaa@msa.biglobe.ne.jp
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