電撃戦 by 佐藤クラリス 2012/11/11

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電撃戦とは何か?

シミュレーション:中国による対日侵攻作戦

第1案:元寇方式。100個師団程度の大部隊を海上輸送で侵攻させる。

第2案:オランダ侵攻方式:パラシュート部隊と空輸歩兵部隊で首都を制圧する。

第3案:偽装輸送艦から発進する戦闘ヘリコプターにより首都機能を瞬殺・制圧する。

小説 対日侵攻作戦

第1章 中国皇帝

第2章 オレンジ作戦

第3章 赤壁

第4章 攻撃

解説:SPEARとは?


電撃戦とは何か?


 「電撃戦」とは、制空権確保の下、対峙する敵集団の背後へ迅速に回り込み、その通信と兵站網を破壊し、前線兵士と統帥および政府にパニックを引き起こし、戦意喪失により降伏に追いやる、戦争終結手段である。

戦争システムを階層化したモデルで説明する。

戦争システム階層モデル
第7層 - 兵器 性能、数、故障率、操作性
第6層 - 兵士 士気、服従、能力
第5層 - 兵站 弾薬、燃料、修理、食料、医療
第4層 - 通信 情報と通信の正確さ、迅速さ
第3層 - 統帥 司令官の意志、権限、分析力、決断力
第2層 - 国家 国家体制、国民の気風、人口
第1層 - 国土 隣国との位置と国土の地形


 第一次世界大戦で、ドイツが敗北した理由は、第5層の兵站速度が、戦線の移動速度に追いつかなかったこと。更に、第6層の兵士が長距離徒歩行軍で疲労していたこと。
 シュリーフェンプラン(注1)により、ルクセンブルクを回転支軸としたドアのように戦線は移動しパリを襲うはずだったが、戦線の移動速度が遅く、敵に逆襲を許す時間を与えてしまった。長期の塹壕戦に陥った結果、戦争は双方計で数百万人の損害を出す悲劇となった。

ならば、自動車で第5層の兵站速度を上げ、かつ、第6層の兵士も自動車で移動すればどうか?
対峙する敵陣を穿つ強力なナイフである機甲師団が自身で兵站を持ち、自動車速度で侵攻すればどうか?
第一次世界大戦同様の動員速度、兵站移動速度でしか考えていないフランスに勝てるのではないか。

 電撃戦の機甲師団は第7層から第4層または第5層までを一つのユニットとし、全て自動車化している。進路前方の敵拠点を空軍が破壊する中、可能な限りの全速力で敵の通信・兵站網を通過、侵攻経路を確保し、後続部隊を導く。後続部隊は、機甲部隊が穿った敵集団の「穴」を拡大し、堅牢化する。敵集団は前面と背後から包囲され、退却することも出来ず、通信・兵站も断たれ、大混乱の内に敗北して行く。

 真の「電撃戦」はフランス戦(1940.05.10-06.21)だけである。ポーランド戦は兵站が第1次世界大戦同様、鉄道と馬匹による輸送を中心としていた。敵地は機甲部隊の高速移動を助けるために道路網が発達した文明国である必要があり、敵の国民性は攻撃に対して敏感である事が要求される。この点、対ソ戦は電撃戦に不利であった。

 なお、オランダ侵攻では、当初、首都ハーグをパラシュート部隊と空輸歩兵部隊で急襲し王族と主要政府機関を占拠する計画であった。つまり、第2層、第3層を一気に攻める作戦である。

注1:
シュリーフェン・プラン(Schlieffen-Plan)は、第一次世界大戦時にドイツ帝国軍人アルフレート・フォン・シュリーフェンによって立案された、ドイツ軍の対フランス侵攻作戦計画である。
Schlieffen_Plan


アルフレート・フォン・シュリーフェン伯爵(Alfred Graf von Schlieffen, 1833年2月28日 - 1913年1月4日)は、ドイツの軍人。陸軍元帥。大モルトケの2代あとの、ドイツ帝国参謀総長(1891〜1905年)。戦術家であり、第二次世界大戦に至るまで使われ続けた、対仏侵攻作戦「シュリーフェン・プラン」の考案者。
Alfred Graf von Schlieffen


マンシュタイン・プラン(Manstein-Plan)は第二次世界大戦時に実施された、ドイツ軍の対フランス侵攻作戦の原案である。
Manstein_Plan


エーリッヒ・フォン・マンシュタイン(Erich von Manstein, 1887年11月24日 - 1973年6月10日)は、ドイツの軍人。第二次世界大戦中のドイツ国防軍における陸軍元帥であり、最も有名な指揮官の一人。彼は1940年のフランス侵攻作戦「黄作戦」(Fall Gelb) の立案者であった。国境を挟んで対峙する200個師団以上の大軍の戦いを、僅か1ヶ月でフランスの降伏と云う形で決着付けたこの作戦は「電撃戦」として、世界史上有名。
Erich von Manstein



シミュレーション:中国による対日侵攻作戦


 戦争は過去の物では無い。外交が行き詰まった時にそれは使われる。敵の立場に立って戦争を研究し、防御する事で戦争を防ぐことが出来る。外交の行き詰まりを戦争につなげないことが、国民と国家に対する国防の義務である。現代に於ける電撃戦の一例を、中国による対日侵攻作戦というカタチで見てみる。

第1案:元寇方式。100個師団程度の大部隊を海上輸送で侵攻させる。

元寇(げんこう)とは、日本の鎌倉時代中期に、当時大陸を支配していたモンゴル帝国(元)及びその服属政権となった高麗王国によって二度に亘り行われた対日本侵攻の呼称である。一度目を文永の役(ぶんえいのえき・1274年)、二度目を弘安の役(こうあんのえき・1281年)という。蒙古襲来とも。主に九州北部が戦場となった。文永の役:総計27,000〜40,000人を乗せた大小900余艘。弘安の役:約140,000〜156,989人・軍船4,400艘。
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シミュレーション:中国による対日侵攻作戦

第2案:オランダ侵攻方式:パラシュート部隊と空輸歩兵部隊で首都を制圧する。

 対日侵攻作戦の終着点は首都東京の占領である。と言うことは、ドイツによるオランダ侵攻と同様、パラシュート部隊と空輸歩兵部隊で統帥と国家を一気に攻め取る電撃戦も十分にありえる。攻撃は最大の防御と言う様に、攻撃側には攻撃点を選ぶ自由があるのに対し、防御側はあらゆる位置と時期に対して備えをする必要があり、つまりは不利。結果、奇襲攻撃は必ず成功するのである。

 精鋭10万を空輸で東京に集中投入し、混乱を突いて数10万の後続部隊を続々と送り込み、戦果を確実にする。必勝の作戦のようであるが、実際に行うのは容易ではない。

 最大の問題は日本海を越える大輸送である。戦闘用物資は兵員当たり1トンの貨物つまり合計10万トンに達する。これを空輸する場合、最大積載量150トンと言われるAn-124ルスラーンでは700機を要する。輸送距離は衛星国家の北朝鮮から約1000キロメートル。最高速度でも1時間を超える。電撃戦の命は速度なので、1回の輸送で10万の兵力を輸送できなければ意味がない。An-124ルスラーンは現存60機程度なので、新規に700機を製作する必要がある。費用は700億ドル程度。
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 次の問題は作戦準備の秘匿である。700機に及ぶ大量の大型輸送機を生産し東京に近い地域に集結させれば、その様な派手な動きは日米軍に容易に悟られる。何のためにこれだけの輸送機を準備する必要があるのか。中国軍の侵攻計画はバレバレである。侵攻計画を抑止するため米軍の空母打撃群が日本近海と黄海付近に集結するであろう。一つの空母打撃群の戦闘機は80機程度と言われているので、4つの空母打撃群は日本が運用する戦闘機数に匹敵する。中国軍の勝ち目は薄くなる。ここで陽動作戦が必要となる。日本近海以外の地域で紛争を起こし、米軍が運用する9つの空母打撃群の殆どをそちらに釘付けし、侵攻作戦中は支援できないようにする。同時に、大量の輸送機の配備先も各地に分散させ日本を目標としていることが判らないようにする。侵攻作戦直前になって輸送機の移動を頻繁に繰り返して行方をくらまし、最後は侵攻発進地へ移動させる。
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 次は韓国及び日本上空の制空権確保である。電撃戦の成功は制空権が確保されているかどうかに掛かっている。日米軍の制空権下に於いて侵攻部隊はただの餌食となるだろう。侵攻作戦開始後、日本海の空を埋め尽くす大部隊を日米軍が見逃すはずもなく、たとえドイツ軍侵攻時のフランス軍司令部並みだったとしても離陸後30分あれば侵攻の意図を理解し日米軍は全力で反撃してくるだろう。ただし、中国軍が圧倒的に優勢な機数でしかも全滅覚悟で戦い、日米軍に弾薬の大量消費を強いることが出来れば、日米軍は弾切れにより沈黙し、中国軍は制空権を確保することが可能だろう。その時点で輸送機の90%程度は生存している必要がある。

 次の問題は荷下ろしである。パラシュート部隊は適切な場所で降下できるが、露出部隊単体では鎮圧される可能性が高く、軽戦車や火器を積んだ装甲車などの支援火力が必要である。それらはパラシュートで投下し、地上の部隊が拾って運用することになる。投下ポイントの選定が重要である。

 最後に後続部隊である。先発攻撃部隊を送り届けた輸送機は発進基地に戻り今度は後続部隊を乗せて再び東京に向かう。この繰り返しにより先発攻撃部隊が生き残っている間に投入兵力を増大させ、戦果を確実にする。輸送機の消耗を如何に抑えるかが侵攻作戦の要点となる。輸送機を補うために高速の輸送艦を多数使用する方法もある。速度は30ノット程度しかなく海上片道20時間もかかり、しかも上陸後に長距離陸上移動しなければならないので、占領後の部隊及び資材輸送用となる。

 この様な作戦で迅速に東京を制圧支配し、日本政府を作戦開始後6時間以内に無条件降伏、戦闘終結に追い込むことが出来れば、電撃戦は成功したこととなる。それ以上の時間がかかると米軍が周辺地域の部隊を動員して核攻撃を含む反撃を実行することになるだろう。日米安全保障条約に基づき、米国は対中戦闘中の日本政府を支援すると言う名目が成り立つ。日本政府が中国の支配を受け入れ、日米安全保障条約を破棄すれば、米国としては攻撃の大義名分が無くなる。

 全面核戦争の可能性。電撃戦の結果、日本政府が中国政府の支配下になった場合、米国がどう動くかと言う議論がある。米国は日米安全保障条約があるものの、あくまで自国の安全を第一とするので同盟国と運命を共にすることはありえない。特に中国が核戦争を示唆し、さらに日本政府が中国との安全保障条約締結を宣言することで、米国は先には進めないだろう。両国は高度の緊張関係にはなるものの全面核戦争に突入することは無い。

 現在の戦力比を見てみる。中国空軍は総兵力33万人(空挺部隊3万5千人)。作戦機は約2500機であり、その構成は戦闘機約1570機、攻撃機/爆撃機約550機、輸送機約300機だ。一方、日本の戦闘機は約360機、在日米軍の戦闘機は約150機。他に米軍の空母打撃群の戦力が加算される。戦闘機の数だけで言うと、中国空軍は日米軍の約3倍と圧倒的に優位であるが、兵器や燃料補給のために遠距離を往復しなければならないので作戦時間が制約される。任務は重大であり、侵攻部隊を乗せた輸送機群の護衛、韓国及び日本上空での日米戦闘機の制圧、東京周辺の日米基地撃破と多忙を極める。このため、戦力は分散され、よって生存率はかなり低いと考えられる。この侵攻作戦は長期戦はありえない。1分1秒でも早く日本政府を降伏させることが敵の反撃を防ぐ唯一の手段である。圧倒的な戦力で一気に戦意喪失させると言う電撃戦本来のスタイルが要求される。

第3案:偽装輸送艦から発進する戦闘ヘリコプターにより首都機能を瞬殺・制圧する。

 第2案は正統な大部隊空輸による電撃戦であるが、戦争は機略を基本とする。目立つ輸送機の数を減らしながら大部隊を送り込む手段は無いか? 数10機の輸送機には重装備のパラシュート部隊だけを乗せ、支援火力は民間船を装った輸送船で東京湾に進入させると言う作戦である。1万トン程度の貨物船に偽装した輸送艦を多数東京湾に進入させ、作戦開始後、輸送艦から多数の戦闘ヘリコプターを発進させ主要目標を迅速に攻撃する。同時に港湾に待機した工作員を起動し特殊部隊を満載した戦闘車両を上陸させ一気に目標に向かう。輸送機部隊及び戦闘機の大部隊も同時に発進を開始しており、日米軍は同時に両面から攻撃を受けることになる。しかも、日本政府と日米軍の主要施設は既に攻撃を受けており情報や通信および統帥を含めて東京は大混乱状態。10万のパラシュート部隊の到着まで1時間しか無く、無条件降伏は時間の問題である。この様な作戦は真の電撃戦と言うべきものであろう。
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小説 対日侵攻作戦


この作品はフィクションであり、登場する人物、団体、組織、器材、環境、歴史、名称、設定は全て架空のものです。


第1章 中国皇帝


荒天の東シナ海。
二隻の古ぼけた大型タンカーが全速力でしかも激しく蛇行を繰り返していた。その速度はタンカーとは思えないほど速く、ざっと30ノットはありそうだった。先頭のタンカーが舵を左に一杯に切った、つまり、取り舵一杯にした瞬間、強烈な衝撃が船を振動させ、次の瞬間、船の中央部から火柱が立ち上り、船は真っ二つ、たちまち沈没していった。その一分後、もう一隻のタンカーも同じ運命を辿った。海上には原油ではなく黄色い水が広がった。その水域から約30キロメートル離れた水域には10隻を超える軍艦が巡航しており、軍艦から飛び立ったヘリコプターが黄色い水を目がけて飛んでいった。艦隊の旗艦と思われる艦のブリッジでは、歓声が上がっていた。地上から発射した弾道飛行するミサイルで高速移動する大型艦、つまり最終的には合衆国の原子力航空母艦を撃沈する演習に成功した瞬間だった。これで合衆国海軍に勝てる。実験成功の知らせは直ちに中国皇帝に伝えられた。

同時刻。中国帝国の中枢、中南海。

天体の動きは地上の動きの反映である。即ち、天空は地上を映す鏡である。
中国皇帝は秘密の鏡を元に世界と未来を知り、決断を下す。
現皇帝「秀」は満天の星空の下にあった。ただし、本当の星空ではなく、特に精巧に作られたプラネタリウムである。

「陛下。五星(水金火木土)が全て太白(金星)に従って一箇所に集まると、その下の国は武力によって天下を平定することが出来ます。そして、辰星(水星)がいつも東方にあって赤いときには中国が勝ちます。この条件を満たすとき、つまり戦争の好機は2年後です。」

中国皇帝はプラネタリウムに映し出された半球天井の満天から目をそらし、占星官に目を向けた。

「照明を」

それを合図に照明が強くなり、星座は消え去った。

「占星官、2年後なのだな。」

「はい、陛下。」

皇帝はうなずき、控える侍従官に言った。

「国防会議を招集せよ。」

国防会議は陸海空3軍の各大臣と財務、外務、内務各大臣をメンバーとする、国防関係の最高議決機関である。
実質的には、議長である皇帝の命令を受領し、実行するための組織となる。その性格上、皇帝の暴走や判断ミスを修正或いは阻止することはありえない。

2日後の朝、国防会議が開かれた。メンバーは既に会議室に集合しており、皇帝の到着を待った。
会議の趣旨は既に内示されているので、皇帝の質疑に耐えうる専門家を数名ずつ随行していた。
この時期、中国帝国の組織は厳格な縦割りとなっており、更に大臣によって私物化、利権化されていた。大臣達の望みは自分の権力が増大することであり、その為には他の大臣の欠点をあげつらい、失脚させ、その縄張りを自分の物にすると言うことが日常的に行われていた。結果、組織同士の意思の疎通とか合理性は皆無であった。例えば、陸軍大臣はかつて自分の物だったパラシュート部隊を空軍に奪われたと恨んでいたし、空軍は陸軍が腹いせに空軍用兵站輸送を拒否したために物資輸送に困難をきたしていることに怒っていた。海軍は制空権確保に空軍を期待していたが、空軍が海軍基地の使用を要求したために、その期待は実現しなかった。
会議が始まる前の雰囲気としては、冷たい風が吹いているような状態であったが、随行員たちは大体が各軍大学校の出身でもあり、年齢的にも近い者が多かったため、大臣には見えないところで情報交換に熱中していた。

「まもなく皇帝陛下が入場されます」

侍従官の声に応え、メンバー全員が指定の席に着いた。

「皇帝陛下」

侍従官の声が会議室に響き、メンバーは全員起立して不動の姿勢を取り、扉が開かれ、皇帝は入場した。皇帝は玉座に一旦着席し、すぐに起立してメンバーと向かい合った。

「国防会議メンバーの諸君、諸君らに集まってもらったのは我が国100年の繁栄を確実にするためである。対日侵攻作戦を実施する。日本は我が国の生存圏である。生存圏。国家にとって生存は権利であり、国家の力が拡大するに伴い生存に必要な資源も国土も拡大して行く。今後100年の我が国の発展を支えるためには太平洋全域を生存圏とする必要がある。それを妨害し我が国の太平洋進出を拒むものは日本である。更には日本を背後で操る合衆国こそ最大の敵である。日米の妨害を打倒し日本を我が国の支配下に置き、ここを起点として太平洋に進出し支配することで我が国の繁栄は約束される。資源、工業、貿易の要である日本を手に入れる。これが我が国の悲願であり、これが実現しない限り我が国は列強の圧力の前に衰弱して行くしかないであろう。我が国は屈しない。断固として独立と生存を守り抜く。よって命令する。日本侵攻作戦を2年後に実施し、完全な成功を収めるべし!」

多分に儀礼的な事ではあるが、メンバー達は一斉に盛大な拍手をし、皇帝の意志に従うことを表明した。

皇帝は、右手を少し挙げ、拍手を収めさせた。

「言い忘れたことがあった。先ほど、対艦弾道ミサイルの実験に成功した。今日からは合衆国の強さのシンボルであった空母打撃群はただの的(マト)になるであろう。」

再び、盛大な拍手。皇帝は玉座に戻り、侍従官に言わせた。

「全員、着席して下さい。」

「諸君らは、先ず、作戦の指揮官を決定すべし。次に参謀長を決定すべし。この2名に作戦の全権を委ね、思うままに実行させるべし。」

国防会議のメンバーを代表して、陸軍大臣「林」が発言した。

「恐れながら、陛下に申し上げます。」

「何か?」

「陛下が希望される人事はございますか?」

「戦争は勝てばいい。大砲の弾は当たればいい。だが、強いて言えば、指揮官には劉陸軍大将、参謀長には孫海軍中将が好ましいのではないか?」

「ははっ。我々にも異論はございません。では、その2名に決定いたします。」

「判った。では、進捗は1月後に聞く。ぬかりなく進めよ。」

「陛下、ご退席」

侍従官の声に従い、国防会議のメンバーが起立する中、皇帝は退席した。

実務者の会議が始まった。
皇帝の指名により指揮官と参謀長が決まったとはいえ、その任に堪える人物か、更には国防会議のメンバーの眼鏡にかなう人物かを見定めなければならない。多少クセのある人物であれば補佐役をつけることによって国防会議との意思疎通ができるだろうし、絶対的に不適切な人物なら理由を作って降りてもらうことになる。大きな計画の幹部ともなれば部下への統帥力はもとより、上部機関に対する絶対的忠誠と従順もなくてはならない要件なのだ。
指揮官に推挙された劉陸軍大将は皇帝が推すだけあって、全陸軍でも有数の猛将と言われる。ただの猛将と異なるのは、対人関係の柔らかさである。決して妥協的ではないし、弱腰でもない。その本質は頑固であり、しかし、進取の気性は忘れていないと言った人物である。上官はもとより同僚、部下の話を良く聞き、本質的な物事を抽出する能力は高いと言われている。戦場にあっては、自ら最前線に立ち、部下達を鼓舞するタイプでもある。目的万能主義と言われる現皇帝にとっては、理想の軍人であろう。国防会議のメンバーにとっても特に問題のある人物ではなく、むしろ自分たちの命令を忠実に実行してくれる優秀な軍人と言った意見が多かった。この人選に関して異論は出なかった。
次に、参謀長に推挙された孫海軍中将である。歴史上有名な軍師である孫子の末裔であり、先祖に劣らず、優れた作戦により多くの武勲を立てている人物である。生まれも育ちも良い、遺伝子レベルのエリートには良く有る事だが、自尊心の高さと自負心の強さが際立ちすぎて、司令官との衝突は多少ある。カミソリ何とかと言われる、いわゆる、切れすぎる刀である。
第3次南沙諸島防衛戦と言う戦闘があった。生存圏拡大を狙う中国帝国がフィリピンと領土領海を争った戦いの一つである。当時、中国帝国の領土領海拡大政策に対抗するため日米がフィリピンを支援しており、装備や教育を通じてフィリピン海軍の能力を高めていた途上の話である。
謀略によりフィリピン領の珊瑚礁に基地を建設して領土を奪取した中国帝国に対して、自信をつけ始めたフィリピン海軍が領土奪回作戦を実施した。敵基地を攻略する場合、必要な戦力は敵の3倍と言われている。事前調査で戦力が薄いことを確認したフィリピン海軍は、巡洋艦5、簡易空母2、艦載機20と言う大兵力で中国帝国基地を包囲殲滅しようとした。諜報によりこれを事前に察知した中国海軍は孫少将(当時)の作戦により、新編成のステルス潜水艦隊12隻を出動させ、敵は居ないと油断しきったフィリピン海軍艦船を潜水艦発射対艦ミサイルで全艦撃沈させてしまった。事件は大きな外交問題となったが、虎の子の海軍を半減してしまったフィリピンは遠吠えするだけしか手がなかった。
中国海軍はこの機にフィリピン海軍の息の根を止め、中国海軍の圧倒的優位を確保しようとし、第1次フィリピン沖防衛戦を引き起こした。第3次南沙諸島防衛戦の敗戦で動揺するフィリピンと合衆国のスキを突き、青島級高速空母打撃群1(空母1、巡洋艦10、搭載機50)および先行させたステルス潜水艦隊12隻を使い、フィリピン領海外から軍港2箇所を急襲し、巡洋艦4を撃沈、巡洋艦3を大破、施設を空爆で大破、隣接する空軍基地を巡航ミサイルで空襲し大破させた。これによって、フィリピン海軍は事実上壊滅し、再建には最低でも10年は掛かるとされた。つまり、既に20年は先行していた中国海軍は更に10年先行することになった。合衆国の中国包囲網は大きな後退を強いられた。この攻撃の戦果によって孫少将は中将に昇進した。それに伴い彼の鼻も伸びたのは否めない。それでも成果の高さの方を評価する国防会議メンバーは多く、参謀長への推挙は反対もなく認められた。

皇帝に指名された2名は4時間後にやってきた。
劉陸軍大将は60歳近くの老人だが、筋骨逞しく、目つきや動きは年齢を感じさせない。日焼けした肌は艶も良く、口元には常に良好な笑みがあり、いかにも信頼できそうな雰囲気を醸し出している。
孫海軍中将は50歳位で、やや丸みを帯びた顔に切れ長の目をした、色白の美男子である。平素は落ち着いた雰囲気であるが、自分の意見を通すことにかけては絶対に妥協しないと言われ、敵も多い。

「陸軍大将、劉であります。」

陸軍大臣が言う。「功績を述べよ。」

「自分は劉備玄徳様の血を引く者です。第138集団軍の軍長です。参加した作戦は第3次ロシア国境防衛戦、第7次インド国境防衛戦であります。」

「その戦いでの功績は有名だ。期待しているぞ。」

「ありがとうございます。」

「では、孫中将。」

「はい。海軍中将、孫であります。」

「功績を述べよ。」

「自分は古代の兵法家である孫子の末裔であります。南海艦隊参謀本部所属であります。参加した作戦は第3次南沙諸島防衛戦、第1次フィリピン沖防衛戦です。」

陸軍大臣は重々しく言った。「皇帝の命令である。両者は対日侵攻作戦を指導し、作戦を成功に導くべし。作戦に制約はない。また、作戦に必要な人員、兵器、兵站は両者が無制限に調達できる。報告は国防会議にのみ行うべし。以上だ。」

「命令、有り難く受領いたしました。我々は全力をあげて、陛下のご期待に沿い、我が国の名誉と国力を上げるべく行動いたします。」

(20130217,20130302)


第2章 オレンジ作戦


劉大将は対日侵攻作戦の立案を孫中将に命じた。作戦名は「オレンジ作戦」である。孫中将は参謀長として1ヶ月の間に作戦の大筋をつくり、3名の参謀を選んで、作戦の具体案を作成した。

孫参謀長は言う。
「まず、オレンジ作戦は短期決戦でなければならない。なぜなら、長期戦になると日本の工業設備が破壊され、さらに同盟国の合衆国が介入してくるからだ。合衆国が介入すると結局は我が国と合衆国の直接戦争に発展する。それは全面核戦争につながり、両国の利益とはならない。よって、短期決戦が必要だ。
第2点は第1点に関連するが、作戦は奇襲攻撃でなければならない。じわじわと緊張を高める作戦では合衆国が進出してくる時間を与えてしまうからだ。
第3点は作戦のゴールだ。首都東京の主要施設を占領し、日本政府が無条件降伏と我が国との安全保障条約締結を宣言した時点で、作戦は終了だ。一気に攻め込み、敵に反撃の隙を与えず、首筋にナイフを突きつける。敵は戦意喪失し、降伏する。これは典型的な電撃戦となるだろう。質問があれば聞こう。」

電撃戦とは何か?
電撃戦とは、制空権確保の下、対峙する敵集団の背後へ迅速に回り込み、その通信と兵站網を破壊し、前線兵士と統帥および政府にパニックを引き起こし、戦意喪失により降伏に追いやる、戦争終結手段である。

意訳すれば、孫中将の述べたように、「一気に攻め込み、敵に反撃の隙を与えず、首筋にナイフを突きつける。敵は戦意喪失し、降伏する。」に尽きる。
パニックとか、戦意喪失とか、何か心理学用語の様に聞こえるが、戦争という行動が人間の組織に関わっている限り、人間の心理と切り離すことは出来ない。歴史上、指揮者の意志の優劣によって戦局が変化した例は多くあるし、それを誤解して意志さえあれば結果が手に入るという精神主義に陥った組織も多い。孫子を始め優れた作戦家は組織と人間という隙だらけの存在を十分に理解しており、それを利用して勝てる作戦を作り上げたのだ。極論すれば「戦争は心理学」と言うのが奥義であろう。

孫子は言う。「戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。」

つまり、戦って勝つ者より、戦わずして勝つ者の方が上である。

電撃戦の狙いはこれに近い。突然、首筋にナイフを突きつけ、相手をへなへなにするのだ。

戦争を実施するための組織、システムは7層のモデルとなる。地理的条件から始まり、組織、兵器となる。この1層でも破壊すれば、敵の戦争システムは崩壊し、つまりは戦争勝利となる。電撃戦はこの層の内「統帥」或いは「兵站」を狙う。

戦争システムの層を説明しよう。
先ずは第1層「国土」。地形や隣国との位置関係が重要である。隣国が強国なのか、陸続きなのか、島国なのか、半島なのか。
国土を破壊すると言う戦争は、全面核戦争以外ない。
第2層「国家」。国家体制、気風、人口などである。民主国家なのか、独裁制なのか、温和な気質か、戦闘的か、人口は多いのかなど。これを破壊する手段は全面核戦争以外に、革命がある。政権転覆により戦争勝利するのはかなり困難である。外国から攻撃されている国家では、国民はどんな政府であれ、それにすがろうとするからである。
第3層「統帥」。司令官の能力と意思が重要である。日露戦争当時の神経質で完全主義者のクロパトキン将軍は日本軍に性格を利用され、自ら墓穴を掘ったと言われている。司令官に「我が軍は負けた」と思わせる事が戦争勝利に繋がる。
第4層「通信」。人間に於ける神経であり、組織的行動を必要とする戦争に於いては最も重要な機能の一つである。敵の通信を遮断したり妨害したり偽情報をながしたりすることは最大級の効果を期待できる。また、大規模な戦争に於いて司令官は通信で戦況を確認するため、通信を破壊することは統帥に大きな敗北感を与える。
第5層「兵站」。前線に対する栄養供給であり、ここを破壊されることは戦争遂行に於いて致命傷となる。つまりは狙うべき場所である。
第6層「兵士」。兵士を破壊することは必ずしも殺すことではない。勇敢な兵士をパニックを広めるだけのただの「烏合の衆」にすることで、結果は得られる。兵士は心理学的攻撃に最も脆弱な層である。兵士の士気を一気に叩き潰すことにより、通信網を経て統帥に敗北を現実的な事実として突きつけることになる。
第7層「兵器」。兵士は兵器を扱うことにより戦争を遂行する。兵器が信頼できるものであるとき、兵士にとって兵器は強力な武器となる。逆に信頼できない兵器は兵士にとってやっかいものでしかない。兵器をあっさりと破壊することにより、兵士の自信と信頼も破壊され、雪崩のようにパニックが広がって行く。

過去の戦争が、どの層で戦われていたかを見てみる。

第一次世界大戦でドイツが敗北した理由は第5層の兵站速度が戦線の移動速度に追いつかなかったこと。更に第6層の兵士が長距離徒歩行軍で疲労していたことと言われる。
偉大な作戦家である大モルトケの2代あとの、ドイツ帝国参謀総長(1891〜1905年)アルフレート・フォン・シュリーフェン伯爵によって考案されたドイツ軍の対フランス侵攻作戦計画「シュリーフェン・プラン」により、ドイツ軍はルクセンブルクを回転支軸としたドアのように戦線を移動しパリを襲うはずだったが兵站の移動速度が遅く、敵に逆襲の時間を与えてしまい、長期の塹壕戦に陥った結果、戦争は双方計で数百万人の損害を出す悲劇となった。つまり、兵站が致命傷となった。

この敗北の反省を元に作られたのが、「マンシュタイン・プラン」である。
ドイツの陸軍元帥であり、最も有名な指揮官の一人であったエーリッヒ・フォン・マンシュタインは、1940年のフランス侵攻作戦「黄作戦」(Fall Gelb) の立案者であった。これが「マンシュタイン・プラン」である。国境を挟んで対峙する200個師団以上の大軍の戦いを、僅か1ヶ月でフランスの降伏と云う形で決着付けたこの作戦は「電撃戦」として世界史上に有名である。

この計画では自動車で第5層「兵站」の兵站速度を上げ、かつ、第6層「兵士」も自動車で移動させた。
電撃戦中核を成す機甲師団は第7層「兵器」から第4層「通信」または第5層「兵站」までを一つのユニットとし全て自動車化した。進路前方の敵拠点を長距離砲代わりの急降下爆撃機が破壊し、フランス軍の第6層「兵士」はパニック状態に陥った。機甲師団は可能な限りの全速力で敵の第4層「通信」・第5層「兵站」を通過、侵攻経路を確保し、後続部隊を導いた。後続部隊は、機甲部隊が穿った敵集団の「穴」を拡大し、堅牢化した。敵集団は前面と背後から包囲され、退却することも出来ず、通信・兵站も断たれ、大混乱の内に敗北して行った。フランス軍の第4層「通信」によりパニック情報がフランス軍司令部に集まり、第3層「統帥」は早々に敗北を認めてしまった。つまり、兵士と兵站が敗北原因となった。

なお、オランダ侵攻では、当初、首都ハーグをパラシュート部隊と空輸歩兵部隊で急襲し王族と主要政府機関を占拠する計画であった。つまり、第2層「国家」、第3層「統帥」を一気に攻める作戦である。


さて、中国による対日侵攻作戦である。

侵攻とは基本的に、A国が兵隊を送り込んでB国の首都を占領し、B国の首脳に降伏文書を書かせると言うプロセスになる。

通常は軍隊が陸地を伝って敵国に侵攻するのだが、日本の場合は島国であり、いわゆる自然の要害と言うものがある。よって、日本に対する侵攻の場合、海を如何に渡るかと言う点が重要である。

次の3つの作戦が考えられる。

第1案:元寇方式。100個師団(100万人から200万人)程度の大部隊を海上輸送で侵攻させる。
元寇(げんこう)とは、日本の鎌倉時代中期に、当時大陸を支配していたモンゴル帝国(元)及びその服属政権となった高麗王国によって二度に亘り行われた対日本侵攻の呼称である。一度目を文永の役(ぶんえいのえき・1274年)、二度目を弘安の役(こうあんのえき・1281年)という。蒙古襲来とも。主に九州北部が戦場となった。文永の役:総計27,000〜40,000人を乗せた大小900余艘。弘安の役:約140,000〜156,989人・軍船4,400艘。
戦争システムで言えば、第6層「兵士」を力押しで叩き潰すと言う、攻撃側の犠牲が最も大きい、効率の悪い方法である。
制空権という考えがなかった時代のことである。日本海を埋め尽くす100万人の大船団と言うのは勇壮ではあるが、兵員と装備品を載せた輸送船千隻を作るのにどれだけの時間が掛かる事か。輸送船を建造している間に、日米軍は対艦ミサイルを大量生産するであろうから、空と海から攻撃され、結局は撃沈されるだけのことになってしまう。たとえ、日本に上陸したとしても、事前に建設した陣地を利用して戦う日本軍を攻めるには3倍の戦力が必要となる。輸送船の建造の間に日本軍は完全に動員を終わらせているだろうから、中国軍が相手しなければならないのは少なくとも15万人と考えなければならない。陣地攻撃のためにその3倍が必要となると、45万人。海上輸送中の敵攻撃による損失を考えると、兵力は100万人近く必要となるだろう。装備品や食料の輸送は輸送船のピストン輸送による。

第2案:オランダ侵攻方式:パラシュート部隊と空輸歩兵部隊で首都を制圧する。
 対日侵攻作戦の終着点は首都東京の占領である。と言うことは、ドイツによるオランダ侵攻と同様、パラシュート部隊と空輸歩兵部隊で第3層「統帥」と第2層「国家」を一気に攻め取る作戦は極めて有効である。しかも航空機を使えば、第1案に於ける兵員や装備品および食料などの輸送を迅速に行うことができる。
 東京占領に必要な戦力はどれくらいか。警視庁の警官4万人に東京付近の自衛隊戦力を2万人として戦力としては約3万人相当とみると、これに対抗するには3倍の戦力が必要となるので10万人の戦力が必要となる。
 精鋭10万を空輸で東京に集中投入し、混乱を突いて数10万の後続部隊を続々と送り込み、戦果を確実にする。必勝の作戦のようであるが、実際に行うのは容易ではない。
 最大の問題は日本海を越える大輸送である。戦闘用物資は兵員当たり1トンの貨物つまり合計10万トンに達する。これを空輸する場合、最大積載量150トンと言われるAn-124ルスラーンでは700機を要する。輸送距離は衛星国家の北朝鮮から約1000キロメートル。最高速度でも1時間を超える。電撃戦の命は速度なので、1回の輸送で10万の兵力を輸送できなければ意味がない。An-124ルスラーンは現存60機程度なので、新規に700機を製作する必要がある。費用は700億ドル程度掛かるだろう。
 次の問題は作戦準備の秘匿である。700機に及ぶ大量の大型輸送機を生産し東京に近い地域に集結させれば、その様な派手な動きは日米軍に容易に悟られる。何のためにこれだけの輸送機を準備する必要があるのか。中国軍の侵攻計画はバレバレである。侵攻計画を抑止するため米軍の空母打撃群が日本近海と黄海付近に集結するであろう。一つの空母打撃群の戦闘機は80機程度と言われているので、4つの空母打撃群は日本が運用する戦闘機数に匹敵する。中国軍の勝ち目は薄くなる。ここで陽動作戦が必要となる。日本近海以外の地域で紛争を起こし、米軍が運用する9つの空母打撃群の殆どをそちらに釘付けし、侵攻作戦中は支援できないようにする。同時に、大量の輸送機の配備先も各地に分散させ日本を目標としていることが判らないようにする。侵攻作戦直前になって輸送機の移動を頻繁に繰り返して行方をくらまし、最後は侵攻発進地へ移動させる。
 次は韓国及び日本上空の制空権確保である。電撃戦の成功は制空権が確保されているかどうかに掛かっている。日米軍の制空権下に於いて侵攻部隊はただの餌食となるだろう。侵攻作戦開始後、日本海の空を埋め尽くす大部隊を日米軍が見逃すはずもなく、たとえドイツ軍侵攻時のフランス軍司令部並みだったとしても離陸後30分あれば侵攻の意図を理解し日米軍は全力で反撃してくるだろう。ただし、中国軍が圧倒的に優勢な機数でしかも全滅覚悟で戦い、日米軍に弾薬の大量消費を強いることが出来れば、日米軍は弾切れにより沈黙し、中国軍は制空権を確保することが可能だろう。その時点で輸送機の90%程度は生存している必要がある。
 次の問題は荷下ろしである。パラシュート部隊は適切な場所で降下できるが、露出部隊単体では鎮圧される可能性が高く、軽戦車や火器を積んだ装甲車などの支援火力が必要である。それらはパラシュートで投下し、地上の部隊が拾って運用することになる。投下ポイントの選定が重要である。
 最後に後続部隊である。先発攻撃部隊を送り届けた輸送機は発進基地に戻り今度は後続部隊を乗せて再び東京に向かう。この繰り返しにより先発攻撃部隊が生き残っている間に投入兵力を増大させ、戦果を確実にする。輸送機の消耗を如何に抑えるかが侵攻作戦の要点となる。輸送機を補うために高速の輸送艦を多数使用する方法もある。速度は30ノット程度しかなく海上片道20時間もかかり、しかも上陸後に長距離陸上移動しなければならないので、占領後の部隊及び資材輸送用となる。
 この様な作戦で迅速に東京を制圧支配し、日本政府を作戦開始後6時間以内に無条件降伏、戦闘終結に追い込むことが出来れば、電撃戦は成功したこととなる。それ以上の時間がかかると米軍が周辺地域の部隊を動員して核攻撃を含む反撃を実行することになるだろう。日米安全保障条約に基づき、米国は対中戦闘中の日本政府を支援すると言う名目が成り立つ。日本政府が中国の支配を受け入れ、日米安全保障条約を破棄すれば、米国としては攻撃の大義名分が無くなる。
 全面核戦争の可能性。電撃戦の結果、日本政府が中国政府の支配下になった場合、米国がどう動くかと言う議論がある。米国は日米安全保障条約があるものの、あくまで自国の安全を第一とするので同盟国と運命を共にすることはありえない。特に中国が核戦争を示唆し、さらに日本政府が中国との安全保障条約締結を宣言することで、米国は先には進めないだろう。両国は高度の緊張関係にはなるものの全面核戦争に突入することは無い。
 現在の戦力比を見てみる。中国空軍は総兵力33万人(空挺部隊3万5千人)。作戦機は約2500機であり、その構成は戦闘機約1570機、攻撃機/爆撃機約550機、輸送機約300機だ。一方、日本の戦闘機は約360機、在日米軍の戦闘機は約150機。他に米軍の空母打撃群の戦力が加算される。戦闘機の数だけで言うと、中国空軍は日米軍の約3倍と圧倒的に優位であるが、兵器や燃料補給のために遠距離を往復しなければならないので作戦時間が制約される。任務は重大であり、侵攻部隊を乗せた輸送機群の護衛、韓国及び日本上空での日米戦闘機の制圧、東京周辺の日米基地撃破と多忙を極める。このため、戦力は分散され、よって生存率はかなり低いと考えられる。この侵攻作戦は長期戦はありえない。1分1秒でも早く日本政府を降伏させることが敵の反撃を防ぐ唯一の手段である。圧倒的な戦力で一気に戦意喪失させると言う電撃戦本来のスタイルが要求される。


第3案:偽装輸送艦から発進する戦闘ヘリコプターにより首都機能を瞬殺・制圧する。
 第2案は正統な大部隊空輸による電撃戦であるが、戦争は機略を基本とする。目立つ輸送機の数を減らしながら大部隊を送り込む手段は無いか? 数10機の輸送機には重装備のパラシュート部隊だけを乗せ、支援火力は民間船を装った輸送船で東京湾に進入させると言う作戦である。1万トン程度の貨物船に偽装した輸送艦を多数東京湾に進入させ、作戦開始後、輸送艦から多数の戦闘ヘリコプターを発進させ主要目標を迅速に攻撃する。同時に港湾に待機した工作員を起動し特殊部隊を満載した戦闘車両を上陸させ一気に目標に向かう。輸送機部隊及び戦闘機の大部隊も同時に発進を開始しており、日米軍は同時に両面から攻撃を受けることになる。しかも、日本政府と日米軍の主要施設は既に攻撃を受けており情報や通信および統帥を含めて東京は大混乱状態。10万のパラシュート部隊の到着まで1時間しか無く、無条件降伏は時間の問題である。この様な作戦は真の電撃戦と言うべきものであろう。


首席参謀が代表して質問する。
「参謀長。日本政府が無条件降伏しても、合衆国は安全保障条約を盾に介入してくるのではないですか?」

「肝心の日本政府が我が国との安全保障条約を結んでいるのだ。ここで介入すれば合衆国の侵略となるのは明白だ。その様なことはしない。」

「参謀長。合衆国が安全保障の危機と捉え、我が国に対して全面核戦争に踏み切る可能性はありませんか?」

「合衆国もバカではない。西太平洋を失っても、世界を失ったわけではない。結局は我が国が提案した様に、太平洋分割策に乗らざるを得ないだろう。全面核戦争に踏み切る無謀さは持っていない。」

「参謀長。この作戦は電撃戦となりますが、問題なのは日本海です。これを電撃的に渡るにはどうするのですか?」

「高速の大型輸送機で兵員と装備を運ぶ。船では時間がかかりすぎて電撃戦にならない。北朝鮮の各地から輸送機を発進させ、東京に送り込むのが良いだろう。距離は約1000キロメートル。所要時間は約1時間だな。」

「参謀長。兵員はどれほど必要ですか?」

「初段は1万人だが、反撃に対抗して陣地を維持し、敵の降伏を得るには10万人は必要だろう。完全装備の兵隊一人の重量を100キログラムとして、最大の輸送機An-124ルスラーン1機に1500人。10万人なら67機だ。これらを一度に全てパラシュート降下させる。」

「参謀長。一度にですか?輸送機によるピストン輸送は無しですか?」

「兵力は小出しにすべきではない。一気に攻めることで最大の戦果が得られる。君はランチェスターの法則を知っているだろう。戦力とは兵力数の2乗に個々の単位の武器効率を乗じたものに比例する、と言うヤツだ。攻撃は全力で一気に行うべし。それにピストン輸送なら往復だけで2時間はかかる。整備・補給に1時間だと計3時間。作戦は終わってしまう。」

「参謀長。10万人とは云え、歩兵だけでは占領地が維持できません。装甲戦闘車両、軽戦車、弾薬の補給も必要です。」

「それをルスラーンの往復便で行えばいいだろう。対戦車装備を持たせた歩兵なら、3時間は維持できる。その間に大火力を持ち込むのだ。」

「参謀長。東京周辺の地形は複雑で障害物も多いです。パラシュート部隊の損耗が大きいと考えます。」

「戦争は勝てばいい。それを考慮しての10万人だ。更に、降下ポイントの選定とパラシュート部隊の練度によって、損耗は減らすことが可能だ。」

「参謀長。占拠する目標はどこですか?」

「中央官庁と宮城、放送局だ。」

「参謀長。作戦には表と裏がありますが、裏の方はどの様な作戦ですか?」

「イイ質問だ。正面のパラシュート部隊に気を取られている隙に、背後から急所を斬り込むと言う作戦だ。つまり、北朝鮮から作戦機が発進するのと同時に東京湾から攻撃機が発進し、自衛隊本部、自衛隊基地、米軍基地を襲って、後方と情報を大混乱させると言う手だ。具体的には偽装した貨物船を東京湾に進入させ、攻撃ヘリコプターを発進させて、目標を撃破。一方、貨物船からは装甲戦闘車などを降ろして、港湾に潜む我が国の特殊部隊隊員を乗せ、目標地域を攻撃させる。この2つの作戦で日米両軍は挟み撃ちとなり、一気に戦意喪失し、作戦開始から6時間以内に無条件降伏に持ち込めるだろう。」

「参謀長。この作戦は制空権確保が必須であります。どの程度の空軍力が必要でしょうか?」

「空軍力の全てだ。我が空軍は総兵力33万人(空挺部隊3万5千人)。作戦機は約2500機であり、その構成は戦闘機約1570機、攻撃機/爆撃機約550機、輸送機約300機だ。一方、日本の戦闘機は約360機、米軍の戦闘機は約150機。他に米軍の空母打撃群の戦力が加算される。空母打撃群は1つ当たり約80機の戦闘機を持っているので4個の空母打撃群を想定すると敵戦闘機の総数は830機となり、我が空軍戦闘機の半数となる。我が空軍の優位は間違いないが、戦場は日本近海となるので、長駆しなければならない我が空軍には戦闘時間の不利がある。よって、我が空軍は持てる全ての戦力を投入しない限り、圧倒的に勝つ事は困難だ。空軍は全滅の覚悟で敵を叩かなければならない。」


オレンジ作戦の骨子は次の通りである。

作戦決行日 XデーY時間。電子戦開始。

(1).東京湾に進入し目標(B1埠頭からB30埠頭)に向かって進行しつつある特殊部隊A(偽装貨物船30隻、戦闘ヘリコプター20機搭載、戦闘車両30両搭載)は、戦闘ヘリコプターを発進させ、戦略目標(T1からT20)を攻撃すべし。
(2).パラシュート師団(C1からC10)を載せた輸送軍Dは北朝鮮基地(E1からE20)及び我が空軍基地(E21からE40)より順次発進し、目標(F1からF40)に全速力で進み、目標付近で全パラシュート師団を降下すべし。その後、直ちに我が基地に戻るべし。
(3).空軍護衛部隊(G1からG20)は我が空軍基地(E41からE80)より順次発進し、本作戦期間中日本上空の制空権を確保、指定のパラシュート師団を護衛しつつ、目標に向かうべし。特にパラシュート師団の被害は最小限に抑えるべし。
(4).高速輸送艦部隊Hおよび護衛艦隊Mは北朝鮮基地(J1からJ20)より出航し、日本海を横断して東京湾に進入、目標(B1埠頭からB30埠頭)に接岸し、戦闘資材を陸揚げすべし。

Z時間。

(5).特殊部隊Aは目標(B1埠頭からB30埠頭)に接岸し、戦闘車両を陸揚げし、待機する特殊部隊Kに引き渡すべし。その後、後続の高速輸送艦部隊の接岸を容易にするため、付近を制圧すべし。
(6).特殊部隊Kは直ちに戦略目標(T21からT40)に向かい、これを攻撃すると共に、制圧、占領すべし。敵の攻撃に対しては戦力の消耗を避け、パラシュート部隊の到着まで占領を維持すること。

ZA時間。

(7).降下した全パラシュート師団は降下地点を制圧しつつ、特殊部隊Kが占領している戦略目標(T21からT40)を完全に制圧、占領し、反撃する敵を殲滅すべし。
(8).輸送軍Dは我が空軍基地に戻り、戦闘資材を積載後、再び目標(F1からF40)に向かい、戦闘資材を投下すべし。
(9).外務省は日本政府に対して、戦略目標(T1からT40)の制圧完了を宣告し、無条件降伏を勧告すべし。更に、我が国との安全保障条約締結を要求すべし。

(10).陸軍は周辺諸国からの侵攻に備え、警戒すべし。
(11).対諜報部門は最高度の体制で警戒すべし。
(12).戦略ロケット軍は最高度の体制で警戒すべし。


作戦の骨子を元に、作戦の詳細案が作られた。

(1)作戦を統括する組織の編成
(2)命令系統および権限の確定
(3)必要な予算の申請
(4)全体スケジュールの作成と進捗管理
(5)戦略目標の選択
(6)東京との距離と設備から投入部隊と基地の選択
(7)必要な装備、開発が必要な新装備や新兵器の決定
(8)投入部隊の教育計画の策定

詳細案は国防会議に報告された。これに対して、財務大臣は「大型輸送機の製造に対して予算が膨大すぎる」と疑念を表明し、外務大臣は「作戦の発進基地として北朝鮮に依存しすぎる。北朝鮮に足元を見られて交渉が困難になる」と反対を唱えた。陸軍大臣は「問題が有ることは判ったが、それを何とかするのが貴官らの仕事であろう。何より陛下がこの作戦を望まれているのだ。」として、異論を排除した。

詳細案を元に師団以上の各実施部隊への命令書が作成され、実施部隊の参謀本部は、部隊の行動計画を作成した。オレンジ作戦の準備は着々と進みつつあった。

(20130222,20130305)


第3章 赤壁


 作戦を現実の物にするために実務者が必要となる。オレンジ作戦が現実の物となる過程を或る地域を例に見てゆこう。

 ウラジオストクに近い、松江市。パラシュート部隊第3師団の発進基地として、この地が選定されたのは東京への近さからであった。この地にパラシュート部隊第3師団の司令部および訓練施設を設けた。更に近くには空軍防衛部隊の発進基地も建設するため、10キロメートル四方の用地を接収し、4500メートル滑走路4本を建設し、軍関係者10万人が移動してくる。当時の軍のルールでは、全ての準備は各部隊自身が行う事になっていた。空軍防衛部隊はパラシュート部隊第3師団専用の護衛となるので、パラシュート部隊第3師団が併せて面倒を見なくてはならない。よって、師団長「周」は幕僚を引き連れ、関係者と交渉し、或いは依頼し、或いは買収し、或いは恫喝して、欲しい物を手に入れる業務に奔走していた。
 彼が手始めに行ったのは、州知事の買収である。中国帝国は公地公民なので、土地を利用する際にはその地域のボスを味方につける必要がある。州知事は形式上は皇帝からの任命で就く官職であるが、実際は地域のボスであり、州王と言うべき存在である。州王を敵に回したら、書類の1枚さえもハンコを押してもらえない状態となり、その地で仕事をすることは不可能となる。中国人は仕事をやるからには見返りがあるはずと言う感覚を持っており、国からもらう給料は自分の地位に対する報酬で、仕事の報酬はそれとは別枠である。
 新しく仕事をする場合には、州王に対して報酬を予め払っておく必要がある。それは仕事の大きさによって決まってくる。皇帝の命令によるオレンジ作戦に関しては重要性と地域に投下される資本の大きさから、予算総額の10%は必要となる。松江市基地関連の予算は100億ドルなので10億ドルがいわゆる賄賂となる。
 この買収により、周師団長の仕事は極めて楽になった。「周師団長の仕事は我が国家にとって極めて重要なものであるので、全ての役人は周師団長の要求を即座に最大限実現させるように」と言う州王の命令と賄賂の分配により、本来ならば数百項目におよぶ書類や審査が全てパスされ、審査に掛かる十数年分の時間が不要となった。基地の用地は即刻決定され、翌日には州の警察隊二千人が住民をたたき出し、全ての家々を数十台のブルドーザーで破壊し、更地にすることが出来た。何十年も住み慣れた家を一瞬で奪われ、住むところさえ無くした数千人住民の天にまで届く嘆きの声が耳に残った。
 感傷に浸る間もなく、周師団長は建設業者との折衝に追われた。売り込みに来た数社は全て州王か空軍大臣か陸軍大臣の息の掛かった業者で、賄賂をちらつかせながら「我が社と契約すれば他社よりも早く安くできますよ」と言うかと思えば「私に逆らうと州王の機嫌が悪くなりますよ」と言った恫喝を効かせたりする。安くできるというのはウソで、契約後には建築資材の値上がりを口実にするか、納期が遅れるのを盾に値上げをするのは明らかである。州王の関係者と契約せざるを得なかった。その業者に対しても書類審査をスムースに通すと言う名目で賄賂は必要であった。
 空軍基地に必要な特殊装備として、滑走路、管制塔、格納庫、燃料タンク、修理工場、弾薬貯蔵庫、宿舎、通信システム、電源など一般の建設とは異なる装備が挙げられる。特殊な工法、特殊な材料、特殊な試験方法を採用するこれらを建設するのは地元の業者ではムリで、遠く帝国中部湾岸地方から呼び寄せなければならない。ところが、基地の建設は帝国中一斉に始まったので業者はどこでも引っ張りだこである。業者のみならず、建設資材も急激に需要が増え天井知らずの価格上昇である。状況に委せると納期通りには完成しないと判断した周師団長は空軍大臣にねじ込み、パラシュート部隊第3師団の優先順位を上げてもらった。当然10億ドル程度の賄賂が必要だったのは最早言うまでもない。
 基地建設部隊がやってきたのはそれからまもなくであった。資材到着は1ヶ月後なので、取り敢えず状況説明と接待の日々となった。建設開始早々、追い出した住民がいつのまにか基地予定地に居座っていることが判り、住民と基地建設部隊および州警察隊入り乱れての大乱闘となった。基地建設部隊の責任者は「こんな状態では我々の安全が確保できない。帰らせてもらう」と怒り狂ったが、周師団長の必死の説得と接待で、一応沈静化した。
 基地および付帯施設の建設自体は順調に進み、進捗を確認するため時々空軍監察部からやってくる検査官には問題のない施設を見せた上、接待により対応した。接待が悪いと、有りもしない問題をねつ造して本部に報告されるからだ。
 事件が起きたのは、滑走路の建設も完了間近の時であった。4500メートル第2滑走路の中央部が突如2百数10メートルにわたって陥没したのである。もともと谷川であった地域を山土で埋め、その上に人々は生活していた様だが、地中の川はトンネル状に地中を穿っており、その後の滑走路建設により過大な圧力が掛かり、じわじわと崩落したようであった。地盤検査を怠った、つまりは手抜き工事の結果である。悪いことに空軍検査官が来るのは翌日であり、しかも滑走路の着陸試験を兼ね、輸送機で着陸するとのことである。これほど大規模な穴は上空から見たら隠しようもない。
「閣下。ビニールシートで覆いましょうか?」
「そんなことより、先ずは穴を土砂で埋めろ。で、その上には巨大な国旗を貼り付けろ」
「なるほど。熱烈歓迎ですね」
 手抜き工事がばれた基地建設部隊は今までとは打って変わった猛烈な勢いで穴埋めを行い、その間、周師団長の部下達はありったけの赤い布をかき集め、穴埋めの終わった場所に貼り付けていった。翌日の太陽が周りの高い山のカタチを浮き上がらせる頃には、立派な国旗が地上に出来上がっていた。
 昼近く、空軍監察官を乗せた大型輸送機がやってきた。機は基地上空を何度も旋回しながら、やっと第1滑走路に着陸した。空軍監察官は出迎えた周師団長に開口一番、「閣下。素晴らしい出来映えです」と讃えた。空軍監察官がその夜の懇親会で語った内容としては、事前情報として滑走路がどうにかこうにか出来上がった状態と聞いていたので、まさか、国旗で飾るという余裕まであるとは想像だにしなかったとのことであった。空軍監察官がそうは言うものの、内通者から情報が入るのを危惧した周師団長は「滑走路はまだまだです。完ペキになるまで手直しが必要ですので、大臣への完成報告は今しばらくお待ち下さい」と釘を刺し、手厚く賄した。事実、今さらながら地盤調査を行ったところ、陥没が発生したり発生する可能性のある箇所は20箇所以上にのぼり、基地建設部隊は周師団長にハッパを掛けられ、穴埋めに奔走した。追い出した住民の住んでいた家屋の廃材は所構わず埋められていたので、時間と共に廃材が腐敗し、陥没の原因となっていた。
 更にやっかいな問題も浮上した。大型輸送機の生産問題である。世界最大の輸送機An-124ルスラーンはロシア製であり、中国はこれを生産する能力がない。予備機を含めて100機は必要なこの輸送機の調達をどうするか。ルスラーンにこだわらず、もっと小型の輸送機を大量生産する方法が最も現実的だが、空軍大臣がこの件に介入してルスラーンの自国生産にこだわった。と言ってもロシアに対して交渉を行ってくれるわけではなく、単にパラシュート部隊の各師団長に対して「最重要な軍備であり、自国生産すべし」と命じただけである。各師団長は共通の問題として協議した。その結果、エンジンだけをロシアから非公式に輸入して、機体はコピーで対応しようという事になった。ロシアに対しては100億ドルの賄賂が送られ、500基のエンジンを100億ドルで購入する秘密契約が結ばれた。自国生産をどの企業にやらせるかで事態は一段と困難化した。購入するエンジンを含めて総額200億ドルにもなる事案である。元来は空軍の案件なのに、空軍大臣や航空機工場のある州の知事はもとより、陸軍大臣はまぁ判るとして、外務大臣、海軍大臣まで介入してくるとなると収拾が付かない。いつまで経っても自国生産は動き出さない。業を煮やした空軍大臣が皇帝臨席の国防会議で問題を提起した結果、皇帝の裁断で帝国最大の航空機製造企業であるGCエアーシステムズに決定した。「輸送機は輸送機に最も長けた者に任せるが良いだろう」と言うことであった。空軍大臣としては、オレンジ作戦の要となる装備であるため遅延や失敗は許されないので最善の選択ではあったが、選に漏れた連中にとっては大きな獲物を失ったことで空軍大臣憎しの声が高まり、その後の装備品調達などに多大の妨害を受けることになるのだが、その影響をもろに被るのは部下の将軍達とGCエアーシステムズであった。「空軍大臣とGCは結託して、恐れ多くも皇帝陛下を騙し、自らの利益をむさぼっている」、「国賊である」と言う非難であった。その影響はエンジンの納期と性能試験、機体の設計と試験および性能試験にも波及し、性能未達による再設計と再試験の繰り返しは納期が迫るに従って一段と担当者にのしかかり、設計主任が次から次へと自殺する事態となった。「だからGCには任せられないのだ」との声が日に日に高まり、やっとたどり着いた試験飛行で、試験機が墜落するに至って、不満は一気に爆発した。空軍はGCとの契約を破棄し、新たに陸軍大臣系の企業であるCF重工業と300億ドルで契約を締結した。開発期間が短い分、費用が高くなったと説明された。CF重工業は多額の賄賂とロシアとの繋がりを利用してルスラーンの全ての設計図とロシア人技術者多数を入手し、即刻生産に着手した。24時間体制の生産で大型輸送機は続々と生産され、試験飛行もほぼ完ペキであり、各地の基地に順次配備された。機体はCC−124と呼ばれた。
 パラシュート部隊第3師団にも先ず4機が到着した。最終的には予備機を含めて10機が配備される。この頃には、基地の設備はほぼ完成しており、軍関係者も8万人が移動を完了していた。これに付随して、軍関係者の親族家族、人口増加を見込んだ商人たちが続々と松江市にやってきており、市は大変な賑わいとなっていた。パラシュート部隊第3師団を護衛する空軍防衛部隊は80機の戦闘機および航空機からなっており、大型輸送機との編隊飛行や防御訓練を連日繰り返していた。戦闘機は10日に1機は墜落しており、それはすぐに補充された。
 目標地点の確認も別な意味でやっかいな作業であった。パラシュート部隊第3師団、空軍防衛部隊、輸送軍とも目標地点へはレーダーとGPSによる誘導で接近するが、敵の電子戦によりこれらが全て使えない場合を想定して、目視による目標接近とパラシュート降下の訓練をした。上空からの地形識別はグーグルなどの写真を使って行ったが、降下後の視線での行動は現地に行かないと判らないため、大調査団を東京周辺に派遣することとなった。ごつい連中が双眼鏡とカメラを携えてぞろぞろと徘徊する姿は異様と言うよりこっけいな感じを与えた。日米諜報部門の知るところとなったのは言うまでもない。
 かくして、オレンジ作戦の準備は開始後ほぼ2年で完了した。この間動いた資金の総額は3000億ドルに達し、中国帝国の財政を急激に悪化させた。政府要人が海外へ送金した額は1000億ドルを超え、賄賂と闇がねの規模を暗示させた。資金の動き、地方都市の開発、人の動き、燃料や資材の動きをウォッチしている人間なら誰でもこの異常な状態の意味するところが判った。情報統制など何の役にも立たず、各国は中国帝国の対日侵攻作戦が近いことを肌で感じていた。

(20130223)


第4章 攻撃


 対日侵攻作戦直前の国防会議で、作戦の実施日時が確定した。9月3日午前6時である。夜間攻撃でない理由はパラシュート降下の難易度が高い事と、目標地点を目視で確認しなければならない事態を考慮したためである。
 国防会議では各部隊の準備状況が報告され、準備は完全に終了している事が報告された。皇帝は他国の状況を質した。外務大臣が答えるには、「日米両国とも警戒レベルは上げておりますが、臨戦態勢ではありません。我が国の行動には気付いておりません。また、北朝鮮に於ける基地の機密保持も充分であり作戦の実行に支障はありません」
「よし。全ての準備は整った。我が中国帝国はいまこそ太平洋に雄飛し世界唯一の超大国となるであろう!」
 参加者の盛大な拍手により会議は終了し、大臣達は自分の部署へと急ぎ戻っていった。

 そして、Xデーはやってきた。

 午前5時。中国とインドの国境、カシミール地方。強烈な爆音を響かせて、10機ほどのインド空軍戦闘爆撃機が中国領内に侵入した。中国陸軍の対空砲、対空ミサイルが次々と発射されるがインド軍の長距離砲と戦闘爆撃機の激しい空爆でたびたび沈黙を強いられる。中国陸軍司令部の電話は鳴りっぱなしとなった。
「いつもの攻撃だ。何をびびっているんだ」
「いつもの攻撃ではありません。明らかに我が軍に空軍の支援がないことを知っての近接航空支援です」
「バカな!オレンジ作戦は漏れてはおらん」
「しかし、このタイミングでのこの行動。異様です」
「大事の前の小事。現場で支えろ」
「…しかし、制空権がなければ支えきれません!」
オレンジ作戦前の緊張の中、この事件は波紋のように司令部全体の不安として広がっていった。

 こちらは東京湾内を進む偽装貨物船団。作戦開始まであと30分。
「通信班、異常はないか?」
「はっ。定時連絡は通常通りです。通信調査艦からも周辺の通信状況に異常なしとの連絡が入っています」
「レーダー班、異常はないか?」
「はっ。本船の付近は全て民間船のみです。遠くには軍艦と思われる船影がいくつかあります」
「大きさは?」
「多分、6000トン級です」
「イージス艦か?」
「不明ですが、情報によりますと最近警備強化のために配備されたとか」
「装備班。戦闘ヘリの準備はイイか?」
「準備完了。屋根を開けば3分で発進できます」
「よし。ミサイルをたっぷり積み込んでおけ」

 パラシュート部隊第3師団、約1万人が輸送軍の大型輸送機8機に搭乗していた。彼らはパラシュートと自動小銃および対戦車ロケット弾を装備しており、降下後すぐに行動できるようになっていた。空軍防衛部隊の戦闘機や空中給油機、早期警戒機など80機も離陸準備に入っていた。彼らは基地周辺の警備のために大型輸送機よりも一足早く離陸することになっていた。数機が4本の滑走路を使って一斉に離陸し始めた。次に離陸する機も移動を開始した。いよいよ作戦開始である。

 日本海北部。高速輸送艦50隻がほぼ真東に全速力の30ノットで驀進していた。北朝鮮の各地から出航した各輸送船は途中で護衛艦隊と合流し、津軽海峡経由で太平洋に出て東京湾に進入する作戦である。護衛艦隊は約50隻の巡洋艦からなる。全国の艦隊から攻撃力が大きい高速艦を選び、護衛艦隊として連日猛訓練してきたのである。護衛艦は6隻が1ユニットで隊列は単縦陣(つまりは一列縦隊)である。これが8ユニットある。ユニットの配置は上から見ると大体8角形で中央に高速輸送艦を包み込んでいる。「八卦の陣」または「八門金鎖の陣」あるいは「八荒の陣」と呼ぶ。
 パラシュート部隊が使う携帯兵器を運んでいる輸送機部隊とは異なり、高速輸送艦は重量物の戦車、装甲車、それに関わる戦闘資材を運んでいる。パラシュート部隊と特殊部隊が生き残っている間に大火力の兵器を運び込み、敵の反撃を完全に叩き潰すという重要任務なのである。敵側からするとこの兵器群は絶対に運び込ませたくない。つまり、敵の攻撃は猛烈であろうと想像できる。その為の護衛艦隊である。
 高速輸送艦隊は時間を稼ぐために作戦開始時間より1時間前に出航している。作戦開始と同時に敵味方とも電子戦に入り、電磁波を使うレーダーおよび暗号通信は全て使えなくなった。妨害手段だが、レーダーは敵の周波数を補足後、同じ周波数で電波強度を変えたレーダー波を相手に発射することで、測的を混乱させたり測的を阻止したりする。暗号通信は周波数を敵に補足されまいとしてミリ秒と言う極めて短時間ごとに周波数を変えているため、その動きについて行くことは困難である。よって、面倒だと言うことで考えられる全帯域に強力な妨害電波を発射し、敵味方の通信を完全に遮断する方法を採った。結果、基地との通信は途絶、艦隊内での通信はモールス信号をライトで伝えると言う前時代的な世界に落ちてしまった。護衛艦隊司令官の言葉によれば「日清戦争に戻ってしまったな」と言うことになる。
 中国軍の電子戦を担当しているのは護衛艦隊の巡洋艦と、上空で制空権確保の戦いをしているはずの空軍のAWACS(早期警戒機)である。彼らは日米軍のレーダーを妨害し、味方の所在を隠すと共にレーダーを使用した対空誘導ミサイルおよび対艦誘導ミサイルを無効化する。もっとも、これらのミサイルはレーダーと赤外線センサーおよびGPSも併用しているから、レーダーだけではなく他の防御手段、例えば赤外線センサーに対してはフレアーなどの偽の発熱源により攪乱し、GPSに関してはGPSジャマーと言う電波妨害装置を使う。これらの装置も現在正常に動作あるいは待機中である。

 東京湾のとある埠頭。戦闘車両を陸揚げし戦略目標へ進撃する拠点である。偽装した大型トラック数台には120名の特殊部隊隊員が潜んで偽装輸送船の到着を待っていた。周辺は何台かのトラックが往来しており、いつもの風景であった。

 東京湾内を進む偽装貨物船団。
「時間だ…屋根を開けろ」
 船長が命令した。それと同時に甲高い声が響いた。
「船長!レーダーに異常!」
「船長!通信途絶!敵の電子戦!全帯域でジャミングが掛かっています!」
「落ち着け! 屋根を開け! ヘリコプターを発進させろ!」
「船長!右舷に光!僚艦、爆発だ!」
 シュッ、ドカン!と言う猛烈な音と光と衝撃が同時に襲い、右舷300メートルに居た僚艦が炎で真っ二つに裂け、恐ろしい速度で沈没した。
「屋根を開け!」
「開きません!爆風で変形!ヘリコプターは転倒!」
「手で開けろ! なんとしてもヘリコプターを発進させろ!」
「右舷からミサイル来ます!回避できません!」
「屋根を開けろぉ!」
 次の瞬間には火と海水のるつぼと化していた。イージス艦の発射した対艦ミサイルが偽装貨物船団を一挙に撃沈した瞬間である。偽装貨物船に搭載された戦闘ヘリコプターで発進できたのは2機だったが、その機も対空ミサイルの餌食となり、飛行時間は1分以内だった。

「何事だ」
 大型トラックに潜んでいた特殊部隊隊員はふと顔を上げた。東京湾のはるか彼方に閃光が見えた。さらに煙が立ち上った。
「通信途絶…ジャミングだ!」
「トラップだ! 全員離脱!」
 隊長が指示を出そうとした瞬間、近くの倉庫のシャッターが開き始め、そこから対戦車ロケット弾と機銃掃射が飛び出してきた。隊員達は爆発寸前の大型トラックからかろうじて飛び出したものの、3方向から数千発の12.7ミリ機銃弾および7.72ミリライフル弾を浴び、生存の可能性は皆無であった。身柄確保ではなく殲滅が目的である。

 空軍防衛部隊に護衛されたパラシュート部隊第3師団は順調に東京に向かっていた。とは言うものの通信は途絶、早期警戒機のレーダーは敵の電子戦により途中から使えなくなった。GPSさえ使えない状況であった。予想された事態とはいえ、これは最悪の部類であった。GPS誘導が使えないと、目標を目視で確認しなければならないため、例のグーグル写真が役に立つことになる。飛行の途中で他のパラシュート部隊である第4師団と第5師団に遭遇したので、合流して移動した。戦力は大きい方がよい。
 東京まであと20分と言う所で、編隊は日米軍戦闘機の大群から攻撃を受けた。レーダーが使えないため目視で警戒していたが、視界外の遠距離から多数の対空ミサイル一斉攻撃を浴び、大型輸送機10機、戦闘機16機、空中給油機2機、早期警戒機1機が一挙に撃墜された。その後、空軍防衛部隊の電子戦で敵のレーダーを妨害したため、日米軍は戦術を変えて高高度からのいわゆる「ダイブ・アンド・ズーム」(急降下と急上昇)で攻撃してきた。空軍防衛部隊戦闘機合計約220機が10数キロメートルに渡って展開しているところに対して、日米軍は約200機が密集してしかも大型輸送機だけを狙ってきた。日米軍はアクロバットのような見事な飛行術を演じつつ、1機1機と確実に大型輸送機を撃墜していった。空戦最初の5分だけで10機の輸送機を撃墜され、パラシュート部隊はほぼ全滅となった。空軍防衛部隊戦闘機は体当たりで輸送機攻撃を防ごうとするが、必死の特攻にも関わらず簡単に後ろを取られ、ミサイルの餌食となった。空軍防衛部隊戦闘機はゴミの様にばらばらと落下していった。15分続いた空戦の結果、空軍防衛部隊計約240機は約180機を喪失。彼らの守るべきパラシュート部隊は全滅した。輸送機の全滅を受け、戦闘目的を失った空軍防衛部隊は算を乱して本国に向け転進した。日米軍戦闘機約180機は逃走する空軍防衛部隊を追撃し、容赦なく撃墜した。生き残って基地に帰還できた戦闘機は3機に過ぎなかった。

 海では不思議なことが良く起こるものである。予報では天気晴朗のはずが、なぜか霧を含んだ見通しの悪い風景となっていた。長年船乗りをしている士官達が、何やら上空を気にし始めた。「雨でも来ますか?」若い乗組員が声を掛けたが、「そうじゃないんだが」と煮え切らない。「前方に航空機!」と言う声が聞こえ、皆の注意がそちらに行った瞬間、天が落ちてきた。それほどの衝撃が艦隊を包んだ。爆発の衝撃とその直後に天空から到着した衝撃波の威力は物凄く、1万トン級の巡洋艦が30度ほど傾き、振り子のように揺さぶられた。
 「か、核攻撃か!」「被害状況を確認しろ!」「艦隊中、3号艦、転覆の模様」「黒煙が10本ほど立ち上っています」「輸送艦はよく見えませんが健在の模様」
 安心する間もなく、第2波がトドメを刺しにやってきた。
 「…報告しろ!」「…敵攻撃は対艦弾道ミサイルの模様。上空からの落下と思われる…」「なんだと!合衆国のSPEAR(槍)か、これが」
 SPEARは合衆国が中国の対艦弾道ミサイルに対抗する為に開発したものである。対艦隊弾道ミサイルとも言われる。衝撃力強化対艦隊再突入装置(Shock Power Enhanced Anti-fleet Re-entry vehicle)である。 ペイロード(積載能力)10トンの大型ロケットに搭載して打ち上げ、弾道飛行させて艦隊上空に投下するのである。質量400キログラムの劣化ウラン製槍を25本、マッハ10程度の速度で4キロメートル四方に叩き込むことで、その運動エネルギーはTNT火薬換算25トンとなる。海面に衝突するときの爆発力と槍の発生する衝撃波によって、艦隊の広範囲にわたって目や耳となるレーダーやセンサ類を破壊するのが目的である。槍が直接船体に当たれば撃沈必至であるが、可能性は低い。
 実戦初登場となったこの戦いでは、監視衛星によって誘導された10発のSPEARが使用され、巡洋艦3を撃沈、巡洋艦6を中破、高速輸送艦5を大破させた。艦隊は陣形が壊れたため進行を停止し海域で修理を行った。装置の破壊によって艦隊のジャミングは停止し、敵側からはレーダーで丸見えとなった。
 「このままでは危険です。対艦ミサイルの餌食になります。艦隊を移動しながら修理しましょう」士官が進言したが、艦長は「上空は我が空軍が制空権を握っているはず。敵の攻撃はない」と譲らなかった。20分後には最初の敵攻撃が始まった。巡航ミサイルが多数肉眼で確認できた。ガトリング砲などの近接火力で対抗したが故障している物も多く、巡洋艦は次から次へと爆沈していった。艦隊の右半分の護衛艦隊が沈黙したのは敵攻撃から10分後であった。続いて、護衛のない高速輸送艦隊がその餌食となり、無抵抗のまま次から次へと沈んでいった。日米の戦闘機が肉眼で見えた頃には、白旗を掲げた数隻の高速輸送艦だけが浮いていた。彼らはしばらく放置され、その後ヘリコプターでやってきた日米軍に拿捕され、新潟港に運ばれた。

 オレンジ作戦開始後から途絶していた通信とレーダーは、電子戦部隊の電子防護が効果を上げ始めた3時間後にやっと使用可能状態に復帰した。その結果、国防会議が入手した戦況は驚くべきものだった。

 オレンジ作戦攻撃軍全滅。輸送艦はほぼ全滅。空軍戦闘機残数50。インド軍、我が領内に約20キロメートル侵攻、抑えきれず。

「…これは事実か?」皇帝がかすれた声で質した。
「暫定ではありますが、まず、間違い有りません。事実です。」陸軍大臣が代表して答えた。
「空軍大臣、一体何が起きたのだ?」
「…敵の待ち伏せ攻撃です。完全にウラをかかれました」
「作戦は完ペキのはずではなかったのか…」

 外務大臣が進み出た。
「陛下。日米両政府から連名で最後通告が来ております。直ちに無条件で降伏せよ。さもなくば、我々は中国帝国に侵攻を開始するだろう。日本海に展開する我が潜水艦弾道ミサイルの照準は北京を狙っている。そして、貴国の戦略ロケット軍は我がイージス艦の餌食となるだろう、と。」
「つまり、我々は手も足も出ないと言っているのか?」
「…」

「陛下。これ以上の戦闘は我が国民を苦しめるのみです。ここは我が国民を助ける為、ご決断を!」

これを聞いた皇帝は顔色を真っ赤に変え怒鳴った。
「…調子の良いことをいうな! 全ての責任をワシになすりつけて、貴様らたちは賄賂を握って外国に高飛びか?そんなことは許さん!」

 皇帝は背後を見て、親衛隊に命令を下した。
「大臣共を全員逮捕しろ!」

 親衛隊隊長は立ち上がり、ピストルを取り出すと、皇帝の頭を打ち抜いた。

「親衛隊長、ご苦労」

 陸軍大臣が立ち上がった。

「さぁ、外務大臣。早速、日米両国に使者を出せ。我が皇帝は死を以て罪を償ったと。国民は無罪であり、危害を加えないで欲しいと。」

完(20130224,20130310,20130313)



解説:SPEARとは?



SPEARは合衆国が中国の対艦弾道ミサイルに対抗する為に開発したものである。対艦隊弾道ミサイルとも言われる。衝撃力強化対艦隊再突入装置(Shock Power Enhanced Anti-fleet Re-entry vehicle)である。
SPEAR_攻撃手順
SPEARの攻撃を受けた艦隊の画像である。
艦隊の広範囲に打撃を与えることが出来る。海面上の波面は水蒸気爆発の衝撃波によって生じたものである。また、ドーム状の霧は質量体落下による衝撃波によって生じた気圧変化によるものである。
SPEAR_攻撃イメージ
ペイロード(積載能力)10トンの大型ロケットに搭載して打ち上げ、弾道飛行させて艦隊上空に投下するのである。質量400キログラムの劣化ウラン製槍を25本、マッハ10程度の速度で4キロメートル四方に叩き込むことで、その運動エネルギーはTNT火薬換算25トンとなる。海面に衝突するときの水蒸気爆発と槍の発生する衝撃波によって、艦隊の広範囲にわたって目や耳となるレーダーやセンサ類を破壊するのが目的である。槍が直接船体に当たれば撃沈必至であるが、可能性は低い。
SPEAR_基本原理
SPEAR_効果

技術的なポイントは、質量体群の作り出す前面形状である。中央がへこんだカップ状になるよう意図的に成形している。これは、中央部よりも周辺の質量体群が先に衝突し、海面にフタをするような機能を期待している。直後に発生する水蒸気爆発はこのフタの効果により十分に圧力が高まるまで外側に噴出できない。一旦噴出した爆発は巨大な衝撃波となって、付近の艦船を襲うことになる。この前面形状を作り出すには、質量体の射出タイミングを微妙にコントロールする必要がある。質量体の最終落下速度が秒速3キロメートルであれば、千分の1秒のコントロールとなる。