ある晴れた日に

 

 

サンルームで啓介は不貞腐れて藤製の安楽椅子に納まっていた。
清々しい五月晴れの陽光を全身に浴びて涼介は庭の芝生に水を撒いている。
白いシャツの袖を捲り上げ、シャツより白い滑らかな肘を曝して広すぎる庭をゆったりとブルーのホースを引いて涼介は歩く。煌く虹が付き従って。
足首もスラックスの裾を二、三度折ってあるために丸見え、その上サンダル履き。
一緒に庭に出て、あわよくば水遊びに持ち込み、びしょ濡れになって戯れたいところだが、啓介はそうしなかった。
ここのところ構ってもらえず拗ねていたからだ。
「結局昨夜だって、さっさと一人で寝ちまうしぃ」
四月は何回だったかと指を折ろうとして、折りかけてやめた。
悲しくなってくるからだ。
「俺はアニキより2コ下で、…若いんだよ!」
ぼすっと母親お気に入りのクッションに拳を入れ八つ当たりして抱き締め、横目に涼介を眺める。
広い庭の水遣りはもう暫くかかるだろう。
「…スプリンクラー使えばいいのに」
呟いたその時、涼介の歩みが止まった。
小首を傾げ、屈んでスラックスの右膝の辺りを摘んで、ぱさぱさと揺すっている。
そしてたっぷり5秒間固まり…。
「けいすけーっ! ブラインド下ろせっ!!」
青い顔をして疾走してくるものだから、ワケが解らずとも咄嗟に指示に従った。
乱雑にサンダルを履き捨て、ブラインドで外を遮ってあることをざっと確かめると、滅多に無い荒々しい手付きでベルトを外し、スラックスを脱ぎ捨てた。
「ア、 アニキっ?!」
明るいサンルームの中、視界に飛び込んできた涼介の白磁の脚にくらり、と眩暈が襲ってくる。
「そんな、俺、明るいトコでやってみたいな、なんて思ったコトあっけど、いきなりは刺激、強スギで…」
シャツの裾から垣間見える下着の様なんてすぐさま剥ぎ取って愛撫してやりたい程の悩殺具合で、ニヤける顔の下半分を震える左手で覆う。
しかし、涼介は聞く耳を持たずに今度はバスルームに向かって走り去る。
「啓介、スラックス、触んなよ!」
そう捨て置いて。
「…そんな、アニキったらシャワーなんて…」
まいったな〜と頭を掻きつつ拗ねていたことを忘れ果て、啓介は涼介の後を追った。
リビングから廊下に出るドアも開けっ放し、廊下から脱衣室へのドアも開けっ放し、止めの様に脱衣室から浴室へのドアも開けっ放し。
「…アニキってば、ダイタン…」
涼介の躰を包むために大判のバスタオルを手にし、水がタイルを敲く音に敗北して開け放しのドアから中を覗いた。
けれど啓介の期待した色っぽい涼介はそこには存在せず、丁寧に右の膝下、脛と脹脛をシャワーヘッドから勢いよく噴出す冷水でゴシゴシ洗う素気無い涼介がいた。
「けいすけ…」
見上げてきた黒曜石の瞳にうっすらと泪の膜が張っていて、啓介の浮かれたヤマシイ気持ちが呆気なく消え去る。
「どうした?! アニキ?!」
「……し、が…」
「え?」
「……毛虫が、スラックスの中に入ってきた…」
確かに毛虫に接触してしまった場合には、まず、その毒のある毛を洗い流さねばならない。
だが、血相を変えた涼介の顔を思い出し、
「…アニキ、意外に虫、ダメなん…?」
可愛らしくなって自分のジーンズの裾をたくし上げバスルームに入り、涼介の右足を見てやった。
「…テントウムシも嫌いだ」
口惜しそうに呟く涼介の右足は一見したところ、刺された様子はない。
「…冬に、サッシの隙間にうぞっと固まってるところを見てから、もうダメだ。キモチワルイ…」
念のため消毒くらいはしておいたほうが良いだろうと啓介は判断する。
コックを捻ってシャワーを止め、多少大きいがバスタオルで水滴を拭う。
「消毒すっから、リビング来いよ」
「カーテン閉めとけ」
「わかってるよ」
「ついでに言わせてもらうが、消毒だけじゃイヤだ。虫刺されの薬も用意しろ」
「はいはい」
リビングを閉め切ると途端に室内の空気がひんやりと温度を下げる。
救急箱を出して準備をする。
涼介は見計らってリビングに入ってくる。腰には先程のバスタオルを巻いていた。
ソファに腰掛けた涼介の足許の跪いて恭しく右足を持ち上げた。
「どの辺にくっつかれたの?」
「いいから、全体的に消毒しろ」
「…潔癖すぎんじゃねぇ?」
「用心して何が悪い?」
「………」
口で勝てた例が皆無だったから早めに白旗を掲げて降参。
「あと水撒き、お前、続きやっといてくれ。……そうだ、毛虫の毛が付いているだろうからスラックスを洗濯しなくては」
処置を済まさせると、替えを穿きに二階へ上がり、薬が付かないよう右足だけ膝上まで丁寧に裾を折り上げる。
口付け、噛み付きたくなるその白皙の肌を啓介の前に曝し続けたのだが。
その日一日中、消毒アルコール臭と虫刺され薬のメントール臭のする涼介に欲情を殺がれ、啓介がカナシくなったことは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 仁礼麗子様よりいただきましたv

 いつも×2素敵な作品をありがとうございますv

 UPするまではもう一人占め状態♪ 

 いえ、それでUPが遅れる訳ではないんですが(汗)。

 と、とにかく、ご来店のみなさまにもようやくのお裾分けでございます。

 

 

 そしてまたもや、こっそりいただいていた<おまけ>をUPするご許可をいただきましたv

 かなり強引にお許しをいただいたので(すみません、仁礼様)、念入りに隠した、つもりです。探してくださいね。

 

 

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