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上掛け布団がやけに重くなったな、と啓介は未だ眠りの国に意識の殆んどを預けつつ思った。
それに何か柔らかく頬を撫でるものがある。
「……け、……けぇ……」
耳許で囁く声が涼介のものだと認識できるまでたっぷりと時間をくった。
「…目が覚めたか? 啓介?」
白々と空が明け始めた朝方早く、何故こんな時間に起こされたのか思考が働いていないままの頭では答えが出せない。
「まだ脳が寝ているな?」
耳許の揶揄う口調の唇がそのまま啓介の耳朶に噛み付く。
「…っテ! アニキ?!」
すっかり覚醒させられた意識の下、布団が重くなった理由が分かった。
涼介が啓介の躰を挟んで四つん這いに伸し掛かっていたからだ。
「アニキっ、何で?!」
シャワーを浴びた後らしく、素肌の上にバスローブ1枚を纏っただけの挑撥的な格好である。
きっちりと閉められた襟元とは対照的に裾は拡げられた脚で弛んでいる。
「何でって、お前、昨日自分で言ったコト忘れてるな?」
涼介の重さでぴん、と張った掛け布団が拘束具となって自由に身動きがとれない。
「…何?」
「俺の時間、1日つぶしてやるって言ったから、こうして来てやっただろう? …それとも、もうその気はないか?」
薄闇の中、ひそ、と囁く様は妖艶を通り越して凄艶である。
「ある!」
2度のお預けくらい平気でする涼介だから即座に答え、意思表示を明確にする。
「そうか」
黒瞳がすっ、と笑みの形に細くなる。
涼介の脚が掛け布団を足許の方へ蹴り飛ばすと、衣服を脱ぎ捨てただけの下着姿で寝ていた啓介が自分の躰の下に涼介を巧みに組み敷く。
昨夜のお預けの仕返しと言わんばかりに啓介は激しく接吻した。口腔内だけでは足りないと、額、瞼、顳、頬、鼻先、頤、と唇を押し付ける。
「…何焦ってんだ、啓介」
くすくすと可笑しそうに尋ねる。
「だって、“疲れてる”とか“忙しい”とか、アニキ、いっつもはぐらかすから…!」
「今は、大丈夫だぞ? 5時間は寝たから、逃げる気はない」
落ち着くよう、息のあがった肩を掌でふわり、と撫でると、そのまま啓介の首に腕を回した。
「逃げる気あったとしても、もう絶対! 許さねぇんだから!」
バスローブの襟をわしづかみ、肩を剥き出しに寛げた。
とたんに、ふわり、と啓介の鼻腔を擽るソープと、涼介の肌の甘い香り。
軽く首を振ると荒々しく喰い付いて所有の証である、ヴェルヴェットローズの花弁を白い肌の上に落とした。
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