運命の花嫁2

ハナ…ヨ…メ………???

なんだか大変なことを聞いたような気がするが、言葉が意味をなすものとして認識されてこない。

もしもし〜マキ?? とカミューが目の前で手をひらひらさせて呼んでいるが、そんな失礼千万な態度にも怒りという感情が湧いてこない……というよりそれどころではなかった。

なに、今カミューは何をどうするって……

およめさん……

やっと意味が言葉に追いついた瞬間、よろり……とよろけそうになるのを、テーブルの縁を掴みしめることでなんとかこらえぬいた自分を褒めてやろう。

「ばばの占いでね〜、俺のおよめさんになる運命の人はここからずーと北の寒い国にいるというんだ」

夢に見たのだというその人は、黒髪の、とても澄んだ瞳をした美しい人だった。夢なのに、なぜか忘れられなくて。占ってもらったら北にいけば逢えるという。
だから探しに行くんだと、笑って話すカミューの顔はいままで見たうちでも特にうれしそうだった………。

カミューのいうばばというのは、ここ十数年ほどマキの家がある交易町に居着いている占者の老婆である。
むろんカミューと血縁関係があるわけではない。
マキは理解できない世界観をもつ偏屈な老女を苦手としていたが、外の世界と魔道に関する博識をもった彼女と話すのを、カミューはとても楽しみにしていた節がある。
老婆の方も自分の話に興味を抱いていろいろ質問してくる彼に満更ではないようで、ときどきカミューのことを占ってやったりしていた…らしい。そこで件の結果である。

カミューは北の国……マチルダで運命の恋の相手に出会い、結ばれるであろう…………と

 

そういうわけで、明日ここを発つから。

さらりと近所の八百屋に大根を買ってくるような気軽さで告げるカミューを止めることはもはや不可能だろう。
確かに老婆の占いは当たると近隣の町村まで評判になっているが、だからといって自由騎士の資格を擲って遠い未知の国に嫁を探しにいくなんてグラスランド広しといえども彼くらいなのだから。
普段は物事に慎重すぎるほどの面をもつ彼は、その実変なところで思い込みが激しい。
そんな彼はやる気になったら、自分が満足するまで決して諦めないのだから。

それでも、挨拶してから旅立とうというのは幼馴染みへの彼なりの友情なのだろう。
がんばって……と脱力しつつ呟く彼女に、最後ににっこり微笑んで手を振りながら去っていった彼への淡い思いは、そうして静かに「へんな友達」として彼女のなかで変換されたのだった…………

 ◇ ◇ ◇

それから十数年後、マキはカミューと再会する。
そしてカミューの傍らにいた黒髪、黒瞳の青年が、カミューがあのとき探し求めて旅立った「花嫁」だと確信する。感慨とともに長年の胸のつかえがとれたような納得を覚えながら……

「カミュー、あなた……」

ホ●だったのね…………

3発売までに書きたかったしょーもないSS。グラスランド関連ではほかにも莫迦っぽいネタとか友人に話したりしてるんですが、あくまでこれは外伝とか3の設定を借りただけです。うちの基本的インナースペースの騎士はやっぱりマイ設定で……(っておい…)