運命の花嫁1

「ロックアックスにいってマチルダ騎士団に入ろうと思う」

グラスランドのなかでもカマロにごく近い街道沿いの交易の町。マキの家を突然訪ねてきたカミューの話は唐突だった。

父の仕事についてきたマキが仕事先の村で知り合ったカミューとは、周りに同じ年頃の子供がいないこともあり、いろいろ話をする友人(?)として数年がたっていた。おかげで彼の一風変わった性格は熟知しているつもりになっていたけれど……、まだまだ甘かったらしい。

カマロの自由騎士団。絶対的な主を戴くことなく、グラスランドの治安と外敵からの侵略を阻むための自治組織であるそこは、グラスランド内のみならずハイランドやトラン共和国など周辺の強国にも名をしられた組織である。
自由騎士団に入ることは、グラスランド人にとって栄誉であり、当然、年頃の少年達には憧れの存在であった。
しかし、当然入団することは難しい。剣士としての腕前はもちろんのこと、人としての心構えをもち、馬術を得意とするグラスランド人のなかでも乗馬の技術が抜きん出て優れていなくてはならない。

そして今年14歳になるカミューは先頃自由騎士団に志願し、見事入団の許可を得た、はず……だった、…が……。

「カミュー、どうして急にロックアックスなんかに……? 自由騎士団はどうしたのよ」

当然といえば当然の質問である。

「ああ、心配しないでくれ、ちゃんと自由騎士団には話はつけたから。 ほら!マチルダ騎士団への紹介状までいただいてきたよ♪」

………カミューがどうやって「話をつけてきた」のかは、精神衛生上きかないでおくことにする、が、それでも「はいそうですか」といってよい内容ではない。

「……私はマチルダにいく理由を聞いているんだけど」

カミューが一度決意したことはそうそう覆すことはないとわかっていたが、それでも聞かずにはいられなかった。第一、カミューの口からマチルダ騎士団へ入団したいなぞという話を、今まで一度たりとも聞いたことがない。
「一体どうしてまた突然に」と、思ったとしてもやむを得まい。
と、そこで今迄自信が溢れんばかりに喋っていたカミューが急に黙り込み、うつむいた。

こころなし、頬が赤らんでいると思うのは気のせいか。

「……そうだね、マキにはほんとのことを話しておこうか」

別に友誼を感じての台詞ではなく、話して当たり障りのない相手が他にいなかったんだろうとは思ったが、確かにカミューの話の続きは気になるのでこのさいつっこむのはやめておこう。そう思い先を促すマキにも、カミューの発言は想像の範疇を果てしなく超えていた。

「花嫁を探しに行くんだ」、と。