ハイランドに占拠されていたグリンヒルの解放に成功するころには、同盟軍の戦力は、すでにハイランドと互角といえるほどになっていた。
本拠地の城に集う誰もが、これからの正念場ともいえる戦いを前に、胸に静かに沸き上がる高揚を感じていた。
特に、兵舎の一角をまるまる居住地とする、赤と青の軍服に身を固めた騎士たちの心中は察してあまりあるものがあるだろう。次の同盟軍の軍事目標は彼等の決別した故郷であり、いつか必ず戻りたいと願う最愛の土地、マチルダ騎士団領、ロックアックスであったのだから……。
城の大広間では同盟の中枢を担う者たちが集まり、マチルダ奪還の謀議を交わしている。
「いよいよだな、マイクロトフ」
「ああ、とうとうこの日がきたな、カミュー」
すらりとした長身の、赤と青の対をなす軍服に身を包んだ青年2人は常ならぬ、やや緊張した面持ちでうなずきあった。むりもない。彼等はこれからつい最近まで命がけで守ってきた己の故郷に剣を向けようとしているのだから……。
無理をしているのではないか? 大広間に残っていた誰もが、そんな戸惑いといたわりのこもった視線を彼等にむけるのにも気付かずに、彼等は話を進めていた。
「まず、ナナミ殿は合格だろう」
「うむ」
「オウラン殿は……ちょっと厳しいかな」
「俺はかなりまずいと思う」
「???」
このあたりで聞くともなしに2人の話を聞いていた人々は頭に疑問符を浮かべた。
前後の話から統合するに、彼らの相談はロックアックス戦の戦闘メンバーの話ではなかったか。ナナミが問題ないというのはともかくとして、なぜ、あの歴戦の女戦士ではだめなのだ???
「アニタ殿やローレライ殿、トモ殿とワカバ殿も問題ないな」
「後のレディたちは……やはりだめだろうね」
「当然だ、本来連れて行くべきですらないと思うんだが……」
「ちょーっと待った!お二方!!!!」
「バレリア殿」
先ほど除外されたメンバーの代表が抗議の声をあげたのは、しかし当然のことといえよう。……というよりむしろ声と同時に攻撃魔法や鉄拳が飛んでこなかったのは奇跡といってよいかもしれない。
たまたまこの場にいた面子が(同盟のなかでは比較的)穏健だったことと、とりもなおさず問題発言の主が彼女らの密かな憧憬の対象である2人の青年だったことが、とりあえず理由を確認するという理性をのこした結果である。
「話は聞かせてもらったよ、なんでこいつ(びしっ!とアニタを指す)がよくて私がダメなんだい。」
歴戦の女剣士…今はトランの将軍職にいる彼女は口調こそ丁寧なままに、だが憤懣やるかたないといった様子で青年達をにらみつけている。
「騎士さん達はちゃんと見るとこみてるってことよ♪」
「なんだと、あんたもう一度いってみせなっっ!!」
アニタの茶々に大広間にピリピリした緊張が走り抜ける。
やばい……にやにやと事の展開を見守っていたビクトールもさすがに危険をはらみはじめた雲行きに救いの手を求めて視線を彷徨わせる。
また、ことの成りゆきに冷や汗でじっとりバンダナが湿るような心地のフリックも「今ここを動いたらヤバい」という場の雰囲気に小刻みに体を震わしているのだった。
「あの……制限(それ)って女性限定なんですよね?」
その場を収拾できる唯一の存在である少年から救いの声がかけられた。
「女性……そうですね。条件付きですが」
顎に手をかけ、少し首をかしげて考えるそぶりをみせたカミューは肯定する。
「条件。…………説明、してもらえますよね」
カミューさん、マイクロトフさん、という盟主の問いかけに同意を示し、場に集った面々は一様にこくこくとうなずいた。