評者　　　

評価　　

ひとこと

ほーく

５

マキトモ

４．５

＜コメント＞

　周到に伏線を敷き詰めた、重層的なアンサンブルが破局へと収束してゆく見事な脚本。一般に、エンディングの処理は中盤の矛盾が噴出して難しいものだが、本作は見事なサスペンスに仕上がった。多様なキャラを、場合分けして上手く捌いている。つまり、ステレオタイプな妻にはカリカチュア満載の編集をし、変人のフィッツ一家を描く際は、ナチスの皿や壁に架けられている銃のコレクションなどの小道具を象徴的に使う手法をとる、という具合に、描くキャラクターによって、映像の作風がガラッと変わってしまう。そしてガラッと変わるのに、ブチ切れになっていない。この辺の手練が、本作を奥深いものにしている。経験値の高いスタッフがじっくり腰を据えて取り組んだ作品だ。

　様々な志向を持つ、一見多様な人物たちが登場する本作だが、彼らには大きな共通点というか限定項が２つある。一つは、持ち家、芝生、ベンツ、４万ドルのソファー、に象徴される「白人中流層」（WASP）だということ。彼らは、ティーンの坊やがSONYのビデオカメラや大画面テレビを個室に持っていたり、マリファナにポンと2000＄出すのが、不自然でない階層である。東欧、ロシア、イタリア、アジアからの移民や黒人、ヒスパニックは、画面の隅を横切るだけだ。本作で描かれる「アメリカ」は決して人種の坩堝としてのアメリカではない。

　もう一つの共通点は、違う価値観の持ち主と分かり合う努力、あるいは自分の見方を広げようとする営みをしない点だ。波長の合う者同士は滑稽なくらいベタベタし、波長の合わない人とは無視するか、敵意で自分を守ろうとする。例外（結構マトモなゲイのカップルがチョイ役で出てくるけど）は、隣家のマッチョ親父が自分のゲイをカミングアウトする重要なシーンだが、不器用な冒険は無残に失敗し、物語は破局に向かうのだった。

　登場人物全員が脛に傷を持つ物語を提示して、「誰が一番悪くないか」を被験者に答えさせる心理テストゲームがある。本作も、誰に共感するかで、心理ゲーム同様の下世話な心理分析が可能だろう。たとえば、夫レスターが娘の同級生アンジェラに熱烈に恋し、最後は、かなりイイ感じになる。「中身がない醜い女」と言われて打ちのめされたアンジェラを「キミほど美しい女性はいない」と慰めるレスター。レスターの抱える中年の倦怠に共感する人には、たまらないシーンだ。だが「（アンジェラ＋20年）＝妻キャロライン」or「（キャロライン−20年）＝アンジェラ」ではなかろうか？　妻を抱くよりシャワールームでオナニーする方を選ぶ夫レスター。彼は20年前、アンジェラに対して言ったのと同様な賛美を口にし、キャロラインと結婚したような気がしてならない。そしてレスターの頭の中をアメリカンビューティ（という種類のバラ）で埋め尽くしたアンジェラもまた、将来キャロライン化するのだろう。

（マキトモ）