邦題「猿の惑星」

原題「PLANET OF THE APES」


評者   

評価  

ひとこと

ほーく

カムバックを待て・・・。

マキトモ

チケット代返せ、とまでは言わないが…。

<コメント>

 未だ今作品をご覧になっていない方々で、次に該当する方はご遠慮したほうが賢明である。時間とお金を無駄にしないで済むし、不快な思いをしないですむだろう。

 かのオリジナル作品に好感を持っている方。
 SF映画に、新鮮な驚き(センス・オブ・ワンダー)を求めている方。
 シナリオにある程度の整合性を求めている方。
 話の展開がややこしくなるのを好まない方。
 ティム・バートン作品に、何らかの刺激を求めている方。
 メインキャスト陣の活躍を期待している方。

 それでも、敢えてご覧になる方にひとつだけお願いをしたい。
 どうか、彼にもう一度チャンスをください。

さて、これ以降はご覧になった方への文章となる。かなりの長文となるのでご注意いただきたい。

検察側の意見(マキトモ)

 本作は、「猿の惑星」という看板を取ったら、単なるB級SF映画である。「技術は格段に上がったが、シナリオの衝撃度はオリジナルと比べて今一つ」という類の世評は甘く、「平凡で駄作だ!(しかも古い)」と誰かが声を大にして言うべきレベルだと思う。

 基本的には、どこにでもある冒険活劇基調の脚本だが、原作が妙に社会派であることが災いしているのか、人物設定と展開が噛み合っていない。肝心な山場シーンで、取ってつけたような言い訳(「猿は水を恐れる」だの「燃料が一回分だけ残っていた」だの)が多く芸が無い。人物が揃いも揃ってイモなのは致命的で、特に主人公に媚びる女性像が不快だ。あと娯楽という観点で言えば、アクションシーンも貧弱だった。

 で、「格段に上がった」とされる技術だが、もはやこの程度の映像技術など、現在のハリウッド大作では平均点でしかない。特殊メイクは、牡ザルはともかく、牝ザルの鼻梁を強調し皮膚を色白にしたコンセプトに、作為を感じる。猿たちの表情づけは、やたらと眉毛&口元を上下させる人間化した不自然なものだが、これはハリウッド全般に言えることだ(なにせ爬虫類がニラんだりする)。画面は、ティム・バートンらしい黒を基調として、引き締まっているが、彼が本気を出せば、もっと凝ったアングルや照明が出来たはず。

 先日、ティム・バートンが本作に関するインタビュー記事を読んだ。とても抽象的(つまり具体的でないということ)で過激な内容(ZAKZAKのサイトで構造上リンクを引けないが興味のある人はhttp://www.zakzak.co.jp/から「HOLLYWOOD」というタブで探してみてください。「続編を作るぐらいなら、窓から飛び降りた方がいい」とか「ハリウッドでは人の言うことを聞いてくれるのは、人が怒り狂い、精神的におかしくなった時だけだ」とか「私はもう死んでいるんだから」等が具体的にどういう現象を言っているのか、記事だけでは判断がつかないが、本作に満足していないのと、泣きが入っているのは確かな模様だ。映画会社が撮影にGOサインを出さないまま企画が長期間野ざらしにされて、ぶち切れたみたいだ。

 長々と腐したが、ホントに救いようのない作品だった。オリジナルの利点をほとんど引き継いでいない、というかオリジナルが足枷にしかなっていない。オリジナルの完成度がそれだけ高かったのだ、ということなのだろう。いや、オリジナルのシナリオがトリッキー(スペースオペラ/宇宙版西部劇のお約束を逆手に取った)で、続編のベースとしては、話の膨らましようが無かったのだ。

被告側弁護人(ほーく)<最終弁論>

 ティム・バートン作品を愛するひとりとして、こういった形でこの席に立たざるを得なくなったことは非常に残念です。しかし、どんな攻撃が行われようともも被告を弁護するのが努めです。わたしは、彼の無罪を信じていますし、いくつかの証拠を通じて皆さんにもその真実の姿が見えているはずです。 
 検察は言いました。 『本作は、「猿の惑星」という看板を取ったら、単なるB級SF映画である。』と。それは違います。この作品は最初から「猿の惑星」という看板なくしては成立しない企画だったのです。彼は、映画のパンフレットに掲載されているインタビューでこう答えています。『オリジナルは、”続き”を展開するのが難しい終わりかただ。僕がオリジナルを好きな点の一つがそれだった。それにオリジナルは独特のスタイルとデザインのセンスを備えている。僕たちはそれを真似ようとするよりも、この題材をリ・ビジュアライズ、またはre-envision(心に思い描く)することで、何がでてくるのか観てみようってことに決めたんだ。類人猿が世界を支配し、人間達が支配される側であるというアイディア。逆転のアイディアはそのまま使用した。基本的にはそれが唯一の共通点だろうね。』
 そう、彼は唯一の共通点だけから、この作品を構築しようとしていたのです。今までにも彼は、その手法でそのものの持つ従来のイメージを残しながらも新解釈し、作品を作り出してきました。バットマンシリーズ然り、マーズ・アタック然り、スリピー・ホロウ然り。ナイトメア・ビフォア・クリスマスや、フランケンウィニーもそうです。そこには、いつも新しい感覚があったのです。
 しかし、悲しいかな、今回のスタップには大物が多すぎました。
 まず、脚本のウィリアム・ブロイルス・Jrは、「アポロ13」でアカデミー賞にノミネートされており、現在はエンターテイメント系情報発信にも強い”エスクァイア”の顧問編集者というステイタスの持ち主です。当然、ハリウッド界にも顔が利くでしょう。残りの二人も映画デビューが「ロマンシング・ストーン ナイルの宝石」(’85 マイケル・ダグラス版「インディ・ジョーンズ」のようなもの)と、コテコテのハリウッド印のライターです。これで、新解釈の芽がなくなりました。
 更に、特殊メイク界の大物、リック・ベイカー氏です。彼も同じくパンフレット掲載のインタビューでこう話します。『私は率直に、「是非やりたいけれど、リアルにやりたいんだ。そういう(バートンっぽい)映画ならやりたくないよ」といった(笑)。ティムは「とんでもない、僕はリアルにしたいんだ」と言ってくれ、わたしと同じように考えていたことがわかったんだ。』大御所にこう言われては仕方ありません。リアルな猿で演出する方針になりました。
 とどめは、制作のリチャード・D・ザナック。彼の父ダリルは「ハリウッドの最後のタイクーン」と呼ばれた20世紀フォックスの社長(パンフレット原文ママ)。もちろん息子の彼も社長に就任した時期もあります。しかも、オリジナル作にGOサインを出したのも彼です。彼のおかげかせいか、オリジナルで主演したチャールトン・ヘストンの出演が決定し、その場面を用意する必要がでてきました。70年代の「ジョーズ」や「スティング」といったヒット作品を支えてきた重鎮のリクエストに逆らうことはできません。たぶん、似たような理由で元モデルのエステラ・ウォーレンが起用されたのでしょう。
 ティムに残されたのは美術デザイン部門と俳優陣。美術デザインのほうは辛うじて、20年来の相棒、リック・ヘインリックスがプロダクション・デザイナーとしてバックアップ。猿軍団の兜や甲冑に刻まれた紋章など目が届きにくいところにまで匠の技を施すと思えば、宇宙船の内外部、ポッド、猿の城下町などではステレオタイプなほどぞんざいと、ある意味バートン組らしいアンバランスの一端を感じさせました。
 著名俳優陣のほとんどが人寄せパンダとしての自覚しかなかったようで、猿組は猿学校で特訓を受けたにもかかわらず、ヘレナ・ボナム=カーターはイギリス人のプライドがすべてを拒絶したのか(まあ役柄もあんなのだから仕方ないが)気品を感じさせませんし、マイケル・クラーク・ダンカンは体格のよさだけで選ばれたつもりなのかそれ以上のものがありません。ですから、(パンフレットによると)マーシャル・アーツの達人(らしい)ケリー・ヒロユキ・タガワとのタイマン勝負も台無し。そもそも、そういうキャスティングのつもりならばもっと見せ場を作ってほしかったというものです。ティム・ロスの熱演はああでもしなきゃ誰も気づいてくれないというほどの役者魂の塊の表れであり、彼のプロ意識を感じさせる半面、周りとの温度差が浮き彫りとなる皮肉な結果を生むことになりました。唯一の救いはポール・ジャマッティ演じる奴隷商人でしょう。彼は見事求められる役に対して十二分に応え、実に猿らしい振る舞いでかつあの世界で一番親しみやすい存在となりえました。特殊メイクなしの彼に会いたければ、ジム・キャリーと共演した「マン・オン・ザ・ムーン」をお薦めします。
 以上、長々とお話してきましたが、ここで見えてきた事実とはなんでしょう。それは、大手ハリウッド資本の手によって、自分の表現力をがんじがらめにされ、企画に多大な干渉を受け、貴重な時間を奪われたうえに完成をせかされ、しかもその不本意であったろう作品に自分の名前を冠して世界に発表せざるを得なかった、これからも活躍を期待される映画監督と、その強大なシステムによって生み出され、そのシステムを維持するために、知名度だけで国内外に宣伝され、興行された作品の姿です。
 皆さん、どうかよく考えてください。この作品が我々にもたらしたものは何かを、またこの作品を生み出した背景を、そして本当に罪を犯したのは誰かを。わたしは、皆さんすべてが真実を見抜く目を持っていると信じております。どうか正しき判断をお願いします。

 という訳ですが、同じようなことを、三谷幸喜監督が「ラヂオの時間」で描いてるので、未見の方は参考までにどうぞ。ジョン・トラボルタ主演の「ゲット・ショーティ」もそういう業界話だったような・・・。
 なお、このような弁護方法はかなり応用が利き、対象は監督に限らず、俳優にも当てはまるが、多用できないのでその点はご注意いただきたい。

☆ひぐらし@ひぐらし亭さんの評は、こちらへ(ただし、ネタバレ!)


主演 マーク・ウォルバーグ
共演              ティム・ロス@セード将軍
監督 ティム・バートン
原作 ピエール・ブール
脚本 ウィリアム・ブロイルス、Jr.、ローレンス・コナー&マーク・ローゼンタール
衣装デザイナー コリーン・アトウッド
特殊視覚効果 ILM(インダストリアル・ライト&マジック)
特殊メイクアップ効果デザイン&クリエイト リック・ベイカー
撮影 フィリップ・ルースロ
音楽 ダニー・エルフマン
編集 クリス・リーベンゾン
OST 未購入
2001年作品