日々は、あっという間に過ぎて行く。
楽しい時間ほど、その流れる速度は早いのではないだろうか。
サッカーには、天気は関係ない。
雨が降ろうが雪が積ろうがお構いなし。槍が降ったって試合を続けるのがサッカーだ。
しかし、ここ掛川高校では事情が別だった。
練習をするのは小雨まで。それ以上では中止となる。
以前、大雨の中で練習した翌日のグラウンド整備に死ぬ思いをしてからというもの、雨の練習はしないというのが暗黙の了解になっている。─せめて来年、人手が増えるまでは止めようというのが一致した見解だ。
そんな訳で、今日のような雨の日は、人通りの少ない廊下を使った柔軟体操の後で、部室に集まってミーティングというのがいつもの決まりだった。
所が、本日のミーティングは一味違った…。
「でぇぇ〜っ!すっげえ〜」
「こらっ、大塚、声でけぇぞ」
部室内では一冊の本を中心にして、異様な熱気が渦巻いていた。
「でもよ、ほらっ、これこれ!」
大塚の指さす写真は、水着というには小さすぎる布に身を包んだ女性の物だった。濡れた水着は着ていないのにも等しいラインを描いている。
「こんなに激マブなのに、ここまでやるかぁ」
「う〜ん、やっぱりひとみちゃんはいい!」
大塚と赤堀がクラスメートから借りてきた写真集は、元アイドルが初めて脱いだというシロモノで、そのあまりの過激さで世間を騒がせている噂の一冊だった。
新設校の強みで、先輩も後輩もないタメ年の仲間は、こういった時にも団結力が強かった。
部室のドアと窓を閉め切り、カーテンまで引いて作った密室は、実に安全な『鑑賞会場』になっている。
「それじゃ、次のページに行くぜ!」
大塚の、借りてきた特権とばかりに場を仕切る声に、一同は威勢の良い「おおっ!」という声で答えた。
「ひゃぁぁ〜☆」
「こ、これはまた…」
遂に一糸まとわぬ姿となった彼女は、危ない所だけを上手く隠して、誘うような媚びを全身で表している。
「すげぇ〜」
「うん、こりゃまた結構」
溜息や興奮した声が上がる中、
「お、オレ、便所行ってくる」
慌てて矢野が飛び出して行く。
微かに前屈みの姿に、一同から笑い声が漏れた。
「お〜お、元気だねぇ〜」
そう言う神谷も、どことなく緊張しているのは、やはり来るモノがあるのだろう。よく見れば、殆どの連中がモジモジし始めている。
「まぁ仕方ないさ。男だもんなvはははっ!」
こういう場面で笑い飛ばせる所が、久保嘉晴の強さなのかも知れない。羽織ったジャージの前を合わせながら、楽しげに声を立てた。
「…彼女の居る奴は余裕だね。おい、オレにも女紹介してくれるって約束、忘れてないだろうな?」
大塚がジト目で訊ねるのに笑顔で答える。
「うん。美奈子に頼んどいた。お前の好みも伝えといたから、安心しろって」
途端に大塚の機嫌が良くなる。
「よろしく頼ま。良し、んじゃ矢野にはまた改めて見せるとして、次のページ行くか!」
上がるのは同意の雄叫び。…こうして日々チームワークは培われていくのかも知れない…。
「これも凄いぞ」
赤堀のセリフに、
「オレのおふくろも巨乳だけど、ありゃタレてるだけだもんな」
返された服部の言葉が話題を逸らせて行く。
「お前、まさかまだママとお風呂一緒なの…ってクチ、じゃないよな」
「バ、馬鹿言うんじゃねぇよ!あいつ、趣味が水泳でさ、新しい水着買ってくるたんび、着て見せに来るんだよ」
「んなこと言って、結構楽しみにしてんじゃないの?」
「中年太りのファッションショーなんか見たかねーよ」
「確かにそりゃ、超ゲロ状態だな」
遂に耐えきれなくなった久保が吹き出すのを合図にして、全員が笑い出した。
「?おい、何受けてんだよ」
ちょうど戻って来た矢野が、訳もわからず立ち尽くす。その姿が笑いを更に増加させ、爆笑へと変えた。
ひいひいと息を継ぎながら、神谷が隣の席の久保にしがみつく。と、次の瞬間、背中に回した指に感じた異常な湿り気にギョッとなった。
「久保、お前すごい汗だぞ。熱いならジャージ脱げよ」
「ん?」
言われて改めて自分の姿を見ると、確かにかなりの厚着をしている。学生服の上からジャージを羽織るなんて、大量の汗をかいても仕方がない。
しかし、実はさっきから寒気を感じていたのだ。
「なんかな、寒いんだ」
「ここ、暑いぞ。風邪引いたんじゃないのか?」
額に置かれた手のひらの温もりにうっとりする。
心配げに覗き込んでくる瞳に向けて、心配ないと笑顔で返事をして、額の手を退けた。
「そうかもな。今晩は早めに寝るよ」
「頼むぜ。今度の土曜は天竜市まで遠征だぞ」
「解ってるって」
そんな会話を交わしている内に皆の笑いの発作も収まり、次のページに行くという大塚の宣言が流れる。
「うおぉ〜、これはまたダイタンな」
新たな興奮に包まれて、一同のテンションは高まる一方だ。
「なぁ、お前の美奈子ちゃんと、どっちが良い?」
悪のりした服部が、写真集を取り上げて久保の鼻先に突き付ける。
「美奈子の勝ちだな、やっぱり」
余裕綽々の答えに、服部の目が据わった。
「なんか気にくわない。彼女持ちには見せてやんな〜い」
本を閉じて、スタスタと部屋の隅に行こうとする。
「おい、待てよ」
慌てて追おうとして、椅子に躓いてその場にひっくり返ってしまう。
床に頭を打ち付けた、ゴンという鈍い音が響く。
「久保ぉ、何やってんだ」
倒れたまま起き上がって来ない久保の横にしゃがみ込んだ神谷が、俯せ状態を仰向けにして、膝の上に頭を抱え上げる。
「おい、久保!起きろ!みっともない」
頬を叩いても、久保の目は開かれようとしない。
神谷の声に必死なものが混ざり始めたのに気付き、皆も心配して周りに集まり出す。
「ちっ、駄目だ」
呆れたというように、神谷が肩を竦める。
「完全に気絶してやがる」
途端に部屋中に、またもや爆笑の渦が巻き起こった。
「う〜ん、一生の不覚」
傘の下で身体が縮こまる。倒れたときに出来た額の痣の上に貼られたガーゼが、痛々しげでありながら滑稽で、不思議な雰囲気を醸し出している。
「まったくだな。ヌード写真集を追っかけて気絶したなんて、美奈子ちゃんには言えないよな」
人の悪げな笑顔を浮かべた神谷の右手には、自分の分の他にもう一つ、久保の鞄が下がっていた。
「だから、あれはいきなり立ち上がったんで、貧血起こしたんだってば」
「ま、そういう事にしとこうや」
必至で言い訳をする久保に、神谷は笑いを噛み殺せないでいた。
そんな神谷の様子に、久保の機嫌が一気に降下する。
「もう、勝手に言ってろよ!」
プイッとむくれて向こうを向いてしまう。
神谷は、こんな子供っぽい動作をする久保を、いつも可愛いと思ってしまう。
―ボールを蹴っている時とのギャップが面白いんだよな。
中学三年の時。サッカーが出来る場所を探して入ったヤマハで、ドイツ帰りの久保に出会った。
名門チームでエースを背負っていたというだけあって、その天才的なプレーは目に焼き付いた。
それでも最初は気にくわなかった。すんなりと仲間内に馴染んでしまう人懐っこさが鼻についたのだ。
今考えると、自分が得られなかった仲間を易々と手に入れてしまった事に、やっかみが有ったのだろう。
なのに久保の方は、自分のどこが気に入ったのか、いつの間にか側に居た。
気が付いたら、コンビを組んで走っていた。
そして、前以上にサッカーが好きになっていた。
久保を好きになったのも、その頃からだ。
今では、久保とサッカーのどちらが好きかと訊かれたら、好きのレベルが限りなく近付いてしまっているので、真剣に答えに困ってしまう。
「土曜までには絆創膏は取れよ。折角の練習試合なんだから、ケガでナメられちゃ悔しいからな」
「わかってるよ」
後ろも振り向かず、スタスタと前を行く。
「おい、鞄いらねぇのか?」
掛けられた言葉に、久保はムッとしたまま取って返して鞄をふんだくると、クルリと背を向け立ち止まる。
「なぁ、サッカー、したいな」
そのままの姿勢で、久保が呟いた。
「死にそうなくらい、サッカーがしたい」
横に並び、傘越しに空を見上げる。
雨の勢いは先程からたいして変わっていないようだ。この分だと明日も雨だろう。
顔を覗き込むと、視線が合う。
同意の意味を込めて、お互いに微笑んだ。
三日後―土曜日は昨日までの雨が嘘のように晴れ渡り、絶好のスポーツ日和となった。
「こちらから出向かなくては行けないところ、お呼び出してしまいまして申し訳ありません」
「いやこちらこそ、電車賃を半額負担してくださりありがとうございます。なにせ創立したてなもので、備品を揃えただけで部費が少なくなっていまして。助かります」
いかにも体育会系の天竜高校の監督に対して、我らが磯谷先生の方は場違いという雰囲気を発散している。
インターハイ予選ベスト8というのは、一年生だけの小さなチームにとっては計り知れない恩恵になった。
それまでは『天才・久保』の名を出さないと練習試合相手にも事欠いていたが、今では向こうの方から申し込んでくれる。
不断の練習だけでは得られない『カン』とでもいうものが、試合では得られる。自分たちの技量を客観的に見るにも必要だ。
今日の相手の天竜高校は、ここ2〜3年で実力を付けてきたチームで、典型的なプレスタイプだ。
点を取って防衛力の弱さをカバーするカウンタータイプの掛川とは違って、相手を徹底的に封じ込めてFWの
宮野の取った点を守り抜く、鉄壁の防御陣を誇っている。
「宮野を抑えると相手も苦しい。もう一人、マークするのは7番の瀬川だ。宮野の得点は必ず彼が絡んでくる」
久保の指示に、一同が頷く。
「神谷、点取り頼むぞ。引きつけておくから走り込んでいてくれ。DFに圧力を掛ける。流れはこちらが取る!」
試合開始のホイッスルが鳴った。
試合開始後一分もかからずに取った先制点は、ゲームの流れを掛川にもたらした。
三人のマークが付いたのにもかかわらず、久保と神谷のコンビは確実に点を重ねていく。
二人にディフェンスが集まると、伏兵の大塚が攻撃に上がり点を取る。
宮野の攻撃は赤堀が小笠原をフォローして抑え、なかなか点を許さない。
終わってみれば、試合は4−1で掛川が勝っていた。
「ありがとうございました!」
声が、夕焼けの青空の下に響く。
オレンジ色に染まった雲が、爽やかな風にゆっくりと流されて行く。
「一年だけのチームと油断していた、我々の完全な負けです。でも、選手権予選では、負けない。対戦できることを楽しみにしています」
宮野が久保と握手を交わしながら言う。三年生の彼と戦えるのは、冬の選手権が最期になるかも知れない。
予選はもうすぐに始まる。
神谷の方は、瀬川と話し込んでいた。
「いやぁ〜、あんたの噂は後輩から聞いていたんだけどさ、噂ってのは当てになんないな。あの久保とあそこまでやんだから」
勢い良く背を叩かれ、神谷が顔を顰める。
「どうせ良くない噂だったんでしょう?」
「だ〜か〜ら、噂なんて所詮は信用できないもんだって。オレ、お前気に入ったぜ」
瀬川はどうやらラテン系だったらしい。今度は肩を掴むと、空いている方の手で神谷の髪をクシャクシャと掻き回した。年長者のはしゃぎぶりに抵抗する気も失せて、神谷もされるがままになっている。
それにムッとしたのが久保だった。
宮野との話を打ち切って、瀬川の背後に回り込み、がら空きの両脇を擽った。
「ひえぇ〜っ!」
瀬川は不意の攻撃を受けて、思わず神谷をかまっていた手を放す。
その隙をついて、久保の神谷奪回作戦は成功した。
「うちの大切なFWに、手を出さないでくださいよ。こいつ人見知りするんだから。ほら、こんなに怯えてる」
腕に抱き込まれた上にそんなことを言われたので、遂に神谷が切れた。力任せに腕を振り払い頬をはたく。
「オレは野生の動物か!」
「痛〜、ジョークだってば〜」
突然の二人のど突き漫才に、瀬川のメンバーまたかというように苦笑し、天竜の方は唖然とする。
「こんな中坊みたいな奴らに、オレ達やられたの?」
瀬川の呆れ声に、
「いや、あいつらが特別変なだけだから」
赤堀がフォローにならないフォローを入れた。
「では皆さん、ここで解散します。もう遅いですから寄り道は駄目ですよ」
先生の号令の後、掛川駅で解散となる。
「お疲れ〜」
「また明日な!」
そのまま電車に乗って行く者、バス乗り場に向かう者、自転車を取りに行く者と、それぞれに散って行く。
「中坊の試合のビデオか。ほんっと、研究熱心だな」
「良いチームだぜ、掛西は。今回不祥事とかでダメになったけど、こいつらが来年は高校に上がってくるんだ。味方になるか敵になるかは解らんが、見ていて損は無いよ」
「ふ〜ん。で、良いのは居るのか?」
「ま、見てのお楽しみってね」
ヤマハ時代の友人に頼んでおいたビデオが手に入ったということで、神谷は久保の家に呼ばれていた。
バス停も一つしか違わないということで、前からお互いの家へ時々遊びに行っていて、家族とも親しくなっている。
「酒でも買ってくか?まだ自販機買える時間だろ?」
「大丈夫。ビールなら、ちゃんと冷やしてあるよ」
「じゃ、ツマミだけ仕入れていくか」
「そうだな」
親に内緒の酒盛り計画に、共犯者の秘めやかな笑いが浮かぶ。
「朝練に遅れないように、控えめにだぞ」
「もちろん」
自然、足取りも軽くなっていった。
キーパーがガッチリとボールをキャッチすると、大きくパスを出す。
とうてい間に合わないと思われたそのボールに、俊足のウイングが追いついた。ラインギリギリを素晴らしいテクニックで敵をかわしながら進み、センタリングを上げる。
前線に走り込んでいたCFが、その絶妙なパスをボレーシュートでゴールに叩き込んだ。
「これが掛西中トリオの必勝パターンだ。GKの白石・FWの平松に田仲。田仲は大会の得点王だ」
ビデオをコマ送りにしながら説明する。
「平松、って言ったっけ。お前と似たタイプの選手だな。凄いテクニシャンだ」
先に一杯始めている神谷が、眼鏡の少年を顎で指す。
それを笑顔で受けた久保が、まだ泡の引かない自分のグラスを取り上げて、気泡を飛ばすようにツマミのプリッツで掻き回しながら話を続ける。
「白石の度胸も良い。注目株は田仲だな。シュート力は中学トップだし、プレーも柔軟性に富んでいる。それになんと言っても楽しそうにやっている所が良い」
湿気ったプリッツを囓り、ちょっとだけ変な表情をした。その様子に、、笑いを堪えながら神谷が言い返す。
「お前好みの個人技を生かした自由なプレーか。確かにこいつらが上がってくるとなると、ちょっと厄介だな」
「楽しみが増すって事だよ。うちに入ってくれると良いんだけどな」
「どうせ藤田東か掛北あたりにいっちまうんだろ」
「うちの方が、こいつらを生かせると思うんだけど」
「声掛けて見るか?」
「強制は、趣味じゃない」
「良く言うよ。オレを落としたヤツがよ」
「サッカーが好きかと訊いただけだぞ」
「それ以上の口説き文句があるなら、ぜひとも教えて貰いたいね」
「んー、あるよ。良いのが」
そこまで言うと、久保は続きを言い淀んだ。
『何だ?』と言うように神谷が睨むと、おちゃらけたように肩を竦める。
そしてビールの泡が完全に消えたのを確かめると、実に旨そうな一気飲みをした。
「よくそんな不味そうなもんが飲めるな。…そこまで炭酸抜きにこだわること無いだろうに」
ブツブツ言いながらも空になったグラスにビールを注いでやると、すかさず久保からのご返杯が来た。
テレビは掛西中の勝利を告げていた。そのまま今度は次の試合『明林中対国見台』が始まる。
それを誤魔化す機会と見て取って、久保は次のチームの解説を始めた。
「結局この大会は国見台が優勝するんだけど、掛西中と比べるとこれといった選手は居ないな。それぞれにある程度のレベルはあるんだけど、管理されすぎていてね。まるで監督が試合をしているようなもんだ」
「でもこの9番はなかなかじゃないか?」
「波多野か。オレは明林の4番・スイーパーの近藤を押すな。良いリベロになりそうだ。」
「ふ〜ん」
そこで会話が途切れる。
部屋は、テレビからの試合の音声と、ビールとツマミを口にするときに立つ僅かな音だけが支配した。
いつの間にか試合観戦に夢中になっていた。チャンスの度に身を乗り出し、阻止されると溜息を吐く。
と、不意に電話のベルが鳴った。
「はい、久保です。―やぁ!」
表情が明るくなる。通話部を手のひらで押え、神谷に小声で美奈子からの電話だと告げる。
神谷がはいはいというように手を振って答えると、電話の会話に戻った。
「うん、もちろん勝ったさ。そう、4−1。宮野っていうのがなかなか手強くってさ。…うん、あ、そう」
恋人同士の電話に居合わせてもしょうがないと、トイレに立つ。久保の飲むスピードが遅い分、こちらが余分に飲んでしまったようで、結構酔っぱらい始めていた。
「…おい、どこ行くんだ?あ、今神谷が来ててさぁ。中学の県選抜のビデオ見てたんだ。…ああ」
便所に行くと口パクで伝えると、久保は頷いてすまないというように片手を拝む形に上げた。
一階にあるトイレを借りるべく階段を下りると、ちょうど入れ違ったのだろう、洗面台の所で久保の母親とかち合った。
酔って顔が赤いであろう自分に気付いて慌てる。
久保の母親は『しょうがないわね』と笑うと、冷たい水と胃腸薬を手渡してくれた。
「すみません」
「主人には内緒よ。本当は未成年が飲酒しちゃダメなんですからね」
「ほんと、すみません」
ぺこぺこと頭を下げ続ける神谷に、『解ったのならよろしい』と、早く薬を飲むように促した。
「あの、おじさんは?」
「明日接待ゴルフなんでもう寝たわ。あなた達も部活があるんでしょ?早く寝なさいよ」
「すみません」
薬を飲んでコップを返すと、久保の母親はお休みの挨拶をして一階の寝室へと戻っていった。
見送ると、急いでトイレに入った。
用はすぐに足せたのだが、まだ久保が電話を終わらせていないだろうと考え、便座に腰掛けたまま今日の試合と先程見たビデオの検証を始めた。
どの位そうしていただろう。流石に身体が冷えてきて、二階に戻ることにした。
部屋に入ると、とうに電話を終わらせていたらしい久保が、気の抜けたビールをチビチビとやっていた。
「電話終わってたんなら、呼びに来てくれればいいのに」
「長便なら悪いと思ったのさ」
ニッコリと返される。
どうもこの笑顔が曲者だ。腹を立てる気も失せる。
「下でおふくろさんに会ったぜ。早jく寝ろとさ」
「うん、そうしようか」
残りのビールを一息に飲み干し、片付けを始めた。
続くのですが…
ここから先は18禁です。
18再未満の方はここまでにしてくださいねv
注・この作品を書いた当時、久保伝4は描かれていませんでした。その為、久保と掛西中トリオの
直接の出会いは無いことになっています。
※Deepから来た方は、ブラウザの「戻る」でお戻りください。
1994年4.月6日脱稿
初出:BLUE LEGEND サークル・K'sさま
「天の軌道」収録(初版・再版とも完売)