部活が終わり着替えて部室を出ると、外な見事な夕焼けだった。
「綺麗だな!」
思わず叫んだという風な馬堀の言葉に、オレは頷くことしかできなかった。
めっきり日の入りの時間が早くなった。
夕焼けが雲を染め上げ、まるで炎が燻っているようだ。
風が気持いい。
練習でかいた汗が乾き、体温が冷えていく。
馬堀と出会って、2回目の秋が来た。
本当に不思議だ。最初の印象は良くなかったのに、今では隣に居ないと落ち着かない。
何でだろうな。
解らないけど…温かい。
二人並んで歩く。
こうして一緒にいることが、普通になってしまった。
不思議な感じ。
空の色を移して朱色に輝いている町並みのせいか、まるで違う世界にいるみたいだ。
「?」
黙ってしまったオレの顔を覗き込んで、馬堀が笑う。
夕日に染まった、優しい笑顔。
―ドキッと、してしまう。
ああ、もう。どうしてなんだろう。
きっと今のオレは真っ赤になってるはずだ。
!ダメだダメだ、こんな顔見せちゃ。
慌てて顔を背けたけど、どうやら遅かったみたいだ。
すぐ隣で、クスクスと抑えた笑いがする。
次いで腕が伸びてきて、肩を掴まれ、そのまま引き寄せられた。
背中に馬堀の手にした鞄が当る。
「空よりも真っ赤だな」
楽しげな声が降りてくる。
「離せよ」
もがいても、腕は解かれない。
「あばれるなよ。何もしないから」
本当に?
そっと顔を上げてみると、馬堀の顔も…赤くなっている。
「ちょっとね、触りたかったんだ」
あああ!だからラテン野郎は恥ずかしいんだ!
なのに、どうしよう、ドキドキが止まらない。
何でこんなに好きになっちゃったんだろう。
「大好きだよ、トシ」
まるで心を見透かすような、優しい言葉。
真っ直ぐ目を見て言うなんて反則だ。逃げられないじゃないか。
「お、オレだって、好きだぞ」
反射的に答えてしまい、自分の言った言葉に憤死する。
慌てて顔を背けて表情を隠そうとしたんだけど、遅かった。
馬堀は肩を掴んでいた腕を放してオレの前に回り込むと、真っ正面から向き直った。
馬堀の瞳に、夕日とオレが映っている。
くすぐったい。
どうしよう、本当に…
好きだ。
オレは、こいつが好きだ。
また黙ってしまったオレに、馬堀の顔が近付いてくる。
キスされる?
慌てて身を離そうとすると、またクスクスと笑われた。
耳元に、口が寄せられる。
「家、来ないか?」
え、え、ええっ?
「本当は今すぐキスしたいけど、怒られそうだし」
え?
馬堀の瞳が泳いでいく。
後を追うように首を回すと、呆れたように立ち尽くす神谷さんの姿がそこにあった。
…見られてた?
神谷さんは呆れたようにオレ達を見ると、大きく溜息を吐いた。
「道の真ん中で、邪魔だぞ」
うわぁああっ!そうだ、ここって町のど真ん中!
慌てて周りを見回すと、幸い人影はまばらだけど…
「お前ら、遠巻きに見られてたぞ」
え?ええ!
「うわぁああ〜!」
どうしよう、恥ずかしい。なんだよそれ、どうしたらいいんだよ!
「大丈夫だよ」
パニくったオレの肩を、馬堀が叩く。
「いまさら隠すこともないじゃないか」
「え?」
「馬堀…お前、確信犯だな」
「ええっ?」
馬堀の不敵な微笑みに、神谷さんの諦めきった脱力顔。
え、じゃあホントに…?!
二人の顔を見比べている内に、真実が見えてくる。
「馬鹿!!」
馬堀に怒鳴ると、オレは一人走り出した。
「あ、待てよ、トシ!」
呼ばれたって振り向いてなんかやらない。
こんな恥ずかしいヤツ、もう知らない!!
走って、走り続けて
気が付けばいつもの別れ道。
息を整えるために立ち止まる。流石に全速でダッシュするには長すぎる距離だった。
後を振り向いてみると、50mくらい向こうに、赤信号なのに無理に渡ろうとしている馬堀の姿が見えた。いつもはたいして車が走っていないのに、運が悪いというかなんというか、続けざまに車が走って来ている。
焦りの色を隠さない馬堀の様子に、やっと気分が落ち着いた。
あんなに慌てて…それもオレを追いかけるために!
夕焼けの色が、少し暗くなってきた。
風も冷たさを増してくる。
だけど、走ってきたばかりのオレの身体は温かい。
やっと信号が青に変わり、馬堀が一生懸命に走ってくる。
逃げるなら今のうちと解っているけど、どうにも逃げる気が失せてしまった。
それどころか可笑しくなってくる。
ラテンで恥ずかしいヤツだけど、憎めない。
いつも真っ直ぐに(時にはマリーシアで)、オレの心に入ってくる。
「ごめん!」
追いつくと同時に、馬堀は深々と頭を下げた。
肩が激しく上下している。乱れた息を整えてるんだろう。
「もう、いいよ」
自分でも驚くほど優しい声が出た。
「本当に?!」
ばっとあげられた馬堀の顔には、満面の笑顔が浮かんでいる。ちぇっ、オレが許すってこと解ってたな。
でも―
ああ、好きだな。
しみじみと思う。
きっとオレはこいつが何をしても許すし、こいつもオレが何をしても許すだろう。
「じゃ、行こうか」
馬堀の息が整ったのを見届けて歩き出す。
「!トシ」
「なんだよ」
背後から声がかかる。だけどオレは振り向けない。だって…
「そっちの方向って、オレんち?」
「誘ったのはお前だろ!」
オレが選んだのは、馬堀の家に行く方の道。
「いいのか?」
聞かれても振り向けない。きっと今のオレってユデダコより赤いから。
黙って頷くと、背中から抱きつかれた。
「大好きだよ、トシ」
ああぁ!本当に恥ずかしい!!
恥ずかしいけど…気持ちが良い。
夕日の最後の光を浴びて、二人並んで歩く。
出会って二回目の秋。
この季節を何度も一緒に過ごしたいと、空を見ながら思った。
Aパート(馬トシ)終わり 2001.9.30.
続けて
Bパート(神谷)もございますv
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…バカップル話。珍しくトシ視点。なんだか私、脳みそ爛れてます(苦笑)