「・・・で。なんのつもりです?」 「こんなつもりです」 そう聞こえたと同時に、右下腹と胸に当たっていた大きな手の感触が消えた。 解放された、と思ったのは束の間。 「あ、痛っ・・・痛い、です」 大きな手が机の上に延びたかと思うと、自身の右足首を掴んでこちら側に引き寄せた。善行はあまり体の柔軟な方ではない。すぐに膝裏と腿の筋が悲鳴を上げる。 それでも若宮が無理に引き寄せるので、反作用で善行の体は机側に滑った。腰が持ち上がり、机に乗りかかるくらいのところで止まる。そんな不安定な姿勢に不安を覚えた両腕は、自然縋りつく対象を求め・・・逞しい左腕にそれを求めてしまった。 もはや、善行の視界は天地逆さま。逆さまになった若宮の腹しか見えない。そして後頭部にはその・・・若宮自身の固くなったものが当たっていて、猛烈に情けない気分に襲われる。 「さきほどは申し訳ありませんでした・・・痛かったでしょう」 若宮は、無理やり引き寄せている脚・・・善行の妙にキレイにスベスベになった右脛に顔を寄せた。そこはまだ微かに熱を持っており、触れられるとコソリと痛んだ。その過敏になっているところへ湿ったものが触れたかと思うと、ぞわり、蠢く。 「ひゃ・・・ン」 舐められている。そう判ったとたん、ズキリと自身が痛んだ。 限界が近い。 指一本触れられていないというのに。 しかし恋人のそんな状態に、気づいているのかいないのか。若宮は皮膜の破れめくれ上がっている一端を口で銜えると、そのまま右手に掴んだ足首を前方へと遠ざけた。 「やっ、やめ・・ッ」 手を伸ばし、止めようとする善行。 だがその手は、若宮の左腕によって身体ごと抱き締められ封じられた。 細い線をなして、皮膜が剥がされていった。 当然そこらへんの、毛とか産毛とかも一緒なので、スムーズにとはいかず、ところどころ停滞しながら、線は膝の横を通り、太腿の内側を抜け、脚の付け根で止まった。 善行の体はその間じゅう正体なく震えた。 「・・・痛かったですか?」 顔を見下ろすと、意地悪く答えの判った質問をする若宮。 問われた善行は答えられる状態ではなかった。潤んだ目で何かしきりに訴えようとするが・・・口を開閉するだけで、言葉らしい言葉を紡ぐ事ができない。 「ミスター。返事は大きな声でハッキリと、です・・・教練が必要ですな」 舌舐めずりせんばかり、若宮は嬉々として宣言した。 教練・・・かつてそれが地獄のように繰り返されたように。今度も一度では済まなかった。若宮は銜えては剥がす、を繰り返した。何度目かからは線の方向が乱れ、それでも繰り返すうちに善行の脚には、奇妙な幾何学模様が描かれて行った。 はじめこそ苦痛に堪え縋る手に力を込めていた善行だったが、やがて何か一線を超えたらしく、全身の力を抜いてなされるがままになった。薄茶の瞳の焦点がぼやけ、表情まで虚ろになる。ただ口元をきつく結び、声を上げまいとしているのが、彼の矜持の最後の抵抗であるようだった。 やがて彼の脚は白い線で一杯になった。いや、すでに肌の見えている面積の方が多いので、グレーの線が残った、という方が正しい。無惨に引き裂かれ、素肌の上を申しわけ程度に被う皮膜、それは細い紐を幾重にも架け渡したようにも見え、卑猥な装飾と化している。これなら全部脱いでいる方がよほど潔い。若宮ですら、女のストッキングを破いてするのが好きな野郎の気持ちが分からなくもないと・・・そんな奇妙な感慨に耽らせるほどに。 若宮は今一度彼の右足を引き寄せると、ところどころ斑模様が浮きはじめ、血が滲んでいる肌を、あちらこちらと彷徨いながら舌でなぞっていき・・・膝に軽く歯をたてた。 牙にかかった獲物が息を呑む。鋭い音が伝わった。 その息を吐いた、口が。 漸く、絞り出すように。 「・・・も・・・イか、せて」 「それが、人にものを頼む言い方ですか?」 酷薄にも見える、薄笑みを浮かべる若宮。 「イかせて、下さい」 素直に言い直す善行。よほど切羽詰まっているのだろう。 若宮は左手を一気に誘導服の下、局所を被うパックの中に入れた。 中はすでに膨張した彼自身と、その先端から溢れた粘液とで一杯になっていた。ようやく欲しくてたまらなかった刺激が与えられ、善行は安堵の息をつく。 「あふ・・・も、触って、はやく・・・はやく」 言いながら、腰を自ら動かし若宮の手指に擦りつける。 たった、それだけ。なんの手管も必要とせず。 海老のように背を丸め、恋人の腕に爪を立てながら、善行は達した。 本能から寄せる波に全てを委ねる。 添えられた指を熱く濡らし、二度、三度。 びくり、と身を震わすそのたびに、白濁の液が溢れ、ゴム皮膜と肌との間に滲出する。 もちろんそれは、裂けた隙間からもそれは漏れて、若宮のスラックスにも飛沫を残した。だがほとんどは汗を吸うよう作られた特殊なマテリアルに染み込み、あとかたもなく消えた。ほんの少しぬめった感触が残ったきり、である。 放ち終わった善行は、己をかき抱く腕を緩めさせると、身体を捻った。首に両腕を回すと、若宮の口元に激しく噛み付く。これが今晩、はじめてのキス。歯が当たった音がして、二人は共に僅かな鉄の味を舌先に味わったが、それさえ恋人達にはサッカリンより甘く・・・甘かった。 数分が過ぎた。 突然、クリアになる意識。 「ああ・・・今、何時・・・2時?」 跳ね起きる善行。 「・・・なんです?」 再び背の開きから、手を入れようとしていた若宮が、唸った。 「タイムリミットです。」 善行は立ち上がると、右手でずれた眼鏡を直した。蕩けた風情はウソのように消え、いつもの表情と声・・・委員長の顔になっている。 「行きますよ。」 「は?・・・イクって?」 若宮は椅子に掛けたままで、恋人の顔を見上げた。 彼の発した言葉の意味のビミョウなズレには一切構わず、善行は畳み掛けた。 「更衣室に行くんですよ! 邪魔しないで下さい、たとえ貴方でも許しません。」 「し、しかし。・・・では、自分はどうなるのでありますか?」 自分というのはこの場合、股間に有る方のを主に指す。若宮は哀れっぽく言いながら、恋人の身体をもう一度、その腕の中に捕らえようとした。するとかの人はその手を払い除け、ミノすけも跳ね飛ばす勢いで、一気にまくしたてた。 「いいですか? カブれるのは僕なんですよ! 僕が明日、そうですね、たとえば因幡の白兎みたいに皆の笑いものになっても。それでもいいって言うんですか?・・・人非人。戦士あなた、そんなヒドイ人だったんですか!?」 若宮もさすがに、その剣幕にはあっけにとられたが・・・・ 「ミスター、声が大きいですよ。外に聞こえます」 しれっと答える。さっき無人を確認したことなど、ちゃっかり棚に上げ。 「それにミスター。今日はテレポートセル、お持ちじゃないようですが」 「え?・・・あ、はい」 「お帰りになるのは構いませんが・・・そのままで?」 善行ははっとなって我が身を顧みた。誘導服の右脚だけ見る影もなく引き裂かれている上、バック全開・・・もし誰かに見られたら・・・どう見ても怪しい。怪しすぎる。ただの変態だと思われるならまだしも、幻獣だか共生派だかに襲われただとか、そんな大きな話にでもなった日には、バカバカしすぎて目も当てられない。 しかし・・しかし制服は・・・女子高の更衣室のロッカー! 「それともあれですか。誰かにその格好、見て欲しいんですか?」 「そんな訳・・・ないでしょう」 「では、これで行くしかないでしょうな」 若宮はそう言いながら、善行の目の前で左手首をひらひらさせた。見せつけたかったのは、そこに埋まった結晶にばっちりインストール済みのテレポートセル。 「さあ。御一緒に参りましょう」 提案・一緒に歩こう。 若宮は両腕を差し出しながら、精悍な口元をにやりと歪めた。まさに舌なめずりする肉食獣。 「はあ・・・・・ では、頼みましたよ・・・・・・」 なにやら不穏な気配を感じながら、善行はその腕に身を預けた。一方、上機嫌の若宮はというと、そんな恋人の足元をさっと掬い、身体を横にしながら胸に抱き上げる・・・そう、いわゆる「お姫サマだっこ」。 そのままテレポートセル起動、と思われたが・・・ 次の瞬間善行は、青いんだか赤いんだか名状しがたい顔色になり喚いた。 「ちょっ・・・と、待ちなさい!どこ触るンで・・・テレポートしなさいよ?!」 「それはですな。ムリ、ですな」 「ああ、もう! タイムリミットだって、言ってるでしょうが!」 「しかしですな・・・自分もタイムリミットであります!!」 実際の所。若宮も必死だったのである。ここまできてお預けを食らっては、この盛り上がった体をどうしろというのだ。若宮には一人でなんとかするシュミはまったく、ナイ。 「くそっ、覚えてなさい! 謹慎です! あなた明日から謹慎ですからねッ!!」 悲痛な絶叫が響き渡ったがしかし、聞く者は今度こそ、誰ひとりいなかった。 小隊長室、AM2:00。 夜明けまでは、まだまだ遠かった。 翌日。 「なー。今日、委員長どないしたん?」 「朝は会議に出てたけど、すごく辛そうだったんだよね。だから、みんなで言って早退してもらったんだ」 「カブれたな。奴らしくない失態だな」 「え、あー・・・、ウォードレス?」 「うむ、ゴムだ」 「ゴ・・・その言い方やめようよ、舞」 「なんだ? ゴムをゴムと言って何が悪い」 「・・・・・・・・・・・。」 「あ、え〜と・・・そやー・・・な。委員長、あの後も仕事してはったんやなあ。でも、そないに急ぎの仕事してはるようにも、見えへんかったけどなぁ」 「仕事っていうより、おツトメってカンジだけど」 「なんやそれ?」 「ううん、こっちのこと。それよりさ、委員長って今まで働き詰だったんだもの。この際、ゆっくり休ませてあげようよ」 「ふむ、よいだろう。厚志、お主にしては殊勝なことを言う」 「そう?(まあ・・・かえって辛いことになるかもしれないけど・・・腰とか)」 翌々日。 「なんや委員長、また休みかいな。」 「病欠だって。ほら・・・カブれたの、まだ直んないんだよ、きっと。いいじゃない、どうせあれっきり出撃もないし」 「しかし、いくら戦況がよくとも、油断は禁物だ。善行は何をしているのだ? 厚志! 奴の鞄と制服に盗聴機をつけたはず。即刻、奴を捕捉せよ」 「あ、それ、やめたほうがいいと思う・・・この前みたいになるとやだしね。あは!」 (実際・・・聞こえるの・・・ああいうのばっかりだしー) 「そないなことせんでも、テレパスセル使うたらわかるんちゃう?」 「あ、それもダメ!・・・さっき試したけど、ダメだったんだ!」 (昨日から、ずーっと司令の自宅って出るんだよね・・・二人ともーー) 若宮の謹慎の解けるまで、こーんな状態が続いたとかいう話である。 《劇終》・・・おそまつさま。 《あとがき》 す、すみません・・・(土下座) ぜんぜん色っぽくない上、なんと最後までやってないではないですか!(爆) なんせ、生まれて初めて書くこういう類いのものでして・・・。 どうか広〜い心で受け止めてやって下さいませませ(滝汗) 自分的にも、こんなはずじゃ・・・と思ってますので、 そのうちリベンジあるかもしれません。 だのに、なぜか一部変態風味で、本人的に公開を悩んだのもこれ実話。 ある方の「見たい」の一言がなかったら、永遠に封印されていたことでしょう。 (お心当たりのある方へ。ありがとうございました。そしてたぶん期待外れでゴメンナサイ★) 一応、お断りして置きますが。たぶん誘導服はこんなアソビには使えないと思います。 サウナ使用後、溶解液で溶かすという事なので、たぶんメチャメチャ強固な素材なのでしょう。 この話はあくまでも、ひとりのWDフェチの妄想ですんで、深く追求しないで下さい。 それにしてもWDはイイ!すごくイイィー! WD愛好会とかあったらすぐ入るのにな・・・。 20030113 ASIA |