展覧会の紹介

竹内敏信写真展 文化の鏡 日本とオランダ 富士フォトサロン札幌
(中央区北2西4札幌三井ビル別館)
9月21日(金)〜10月3日(水)

 風景写真なんて、みんな撮ってるし、いまさら…という気がしなくもないのだが、これだけすばらしい作品群を見せられると、素直に「美しい!」と感嘆するほかなくなってしまう。さすがに、風景写真の第一人者といわれるだけのことはあると思った。理屈の上では、カメラを向ければアマチュアだって撮れるはずなのに、やっぱりアマチュアが逆立ちしたってモノにできそうもない完璧な構図の作品が並んでいるのだから。

 日本とオランダの交流が始まって500年になるのを記念して両国の写真家がお互いの国を撮影するという企画だが、会場の都合で札幌には竹内氏の写真しか陳列していない。写真は、四季の移ろいに沿って排列されている。強いていえば、オランダのほうが人の手が加わった場所の写真が多く、日本は大半が、人の手の痕跡が見えない場所を撮影しているという違いがある。

 春。
 日本は、やっぱり、桜だ。
 ほかに、十勝管内広尾町のカタクリとおぼしき野の花の写真がある。
 オランダは、春に限らず、アーネムという土地の田園風景がいずれもすばらしい。春は、畑のへりの一本道。ただそれだけなのに、なぜか心を打つ。

 夏。
 雨竜沼湿原は若々しい緑に覆われている。
 長野県安曇村の乗鞍高原は、神々しい雲海だ。
 日光・華厳の滝は、白い瀑布の前を鳥たちが横切る。
 一方、南の端、伊良部島では、穏やかに打ち付ける波の裏側が見える。海というより、まるでミント入りのゼリーみたいだ。
 オランダは、リゼンホクトの驟雨の写真が目を引いた。舗装の上でダンスする雨粒。こういう時にさっとカメラを構えるフットワークの良さが、いい一枚につながっているんだろう。
 ホーフトドルプの宵の写真は、群青の水面に灯りがゆらゆらと反射して、フィルムの広告にでも使われそうな見事な一枚。

 秋。
 摩周湖もきれいだが、日光・小田代ヶ原がすごいと思った。霜のために、木も草も銀色に光っているのである。
 オランダもさびしげだ。オーステルビークで、立ち並ぶ木々の向こうに沈む夕日と、木々のシルエットを映す池。平凡だが、人を感傷的にさせる写真である。

 冬。
 道内の写真が多い。
 十勝管内豊頃町の、朝焼けに凍る川。
 屈斜路湖のおみ渡り。
 冷え込む釧路湿原や十勝平野。
 いずれも、冬の斜光を生かして、気候の厳しさを物語っている。
 その点オランダは穏やかだが、ザントフォートに激しく寄せる鉛色の波はさすがに凍てついている。波打ち際を歩く3人が何者なのか、或る物語をも宿した1枚だ。
 デルフトの、雨の石畳も美しい。こういう街中の風景がばしっと決まるのは、ヨーロッパの古都ならではである。よく考えたら、日本の都市にはちょっとカメラは向けづらいだろう。金村修や大西みつぐのような写真を撮るならともかく…。
 美しい風景を撮影しようと思ったら、日本では、人間のいないところへ行かなくてはいけないようだ。

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