展覧会の紹介

澄川喜一彫刻展 2001年9月30日(日)〜11月4日(日)
札幌彫刻美術館(中央区宮の森2の14)

 すぐれた野外彫刻に贈られる、本年度の第10回本郷新賞を受賞した、澄川喜一の個展。
 受賞作は、島根県松江市の松江湖畔公園に設営された「風門」である。
 この作品については、美術館で20分のビデオを見た。
 澄川喜一、といえば「そりのあるかたち」シリーズがすぐに思い出されるが、その微妙な曲線の原点に、彼が中学時代に住んでいた岩国の錦帯橋があるという話が、興味深かった。「風門」は、「そりの…」シリーズとは違い、二つの塔のような形が並び立ち、その間に背の低いアーチ橋のかたちが挟まっているというもの。神話の国のモニュメントとして、宍道湖(しんじこ)のそばに立っている。
 個展会場には、釧路駅前の「光る風」や、東京都アクアラインの「風の塔」「カッターフェイス」などの写真も、掲示されていた。
 屋外作品としては、やはり島根出身ということで、島根や岩国の仕事が多いようである。
 さて、今回の個展の出品作は木彫ばかり11点。
 いずれも93年以降の作品である。
 このうち、「そりのあるかたち」が8点。やっぱり、このシリーズがいい。
 比較的小さい「風」の2点も、緩やかなカーブを描く木片を中軸とした造型で、「そりの…」と同じ系統である。
 考えてみると、「風」というタイトルは、「そりの…」に付いていても、全然おかしくない題である。「そりの…」のかたちこそ、さっと通り過ぎていく一陣の風を思わせる。
 「そりのあるかたち1」が、いちばん楽しかった。筆者は、ものすごくひさしぶりにこびとになったような気がした。子どものころ、じぶんがこびとになって、模型やブロックの中を歩いたり飛んだりした気持ちになったことはないだろうか。あの時と同じで、彫刻のスロープの上を目で滑って楽しんだのだった。
 自然界の中に、直線というのは、それほど存在していない。とりわけ、動物を構成しているのはほとんど曲線である。そう思うと、そりのあるかたちというのは、非常に理にかなっているといえる。
 もし、「そりのあるかたち4」や「同2000」の主軸部分が、まっすぐだったらどうだろう。タトリンの「インターナショナル塔」じゃないけれど、社会主義国のモニュメントのような、力強くはあるけれど、遊びや自然さに乏しいつまらないものになっていたのではないだろうか。
 微妙なカーブが、人間味につながっているのだろうと思う。
 澄川は1931年生まれ。新制作会員。前東京芸大学長。

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