覧会の紹介

坂野コレクション巡回展
北海道―
 花、人、自然
西区民センター(琴似2の7)=9月13日(木)〜15日(土)
南区民センター(真駒内幸町2)=17日(月)〜19日(水)
北区民センター(北24西6)=21日(金)〜23日(日)
豊平区民センター(平岸6の10)=25日(火)〜27日(木)
市役所1階ロビー(北1西2)=10月1日(月)〜3日(水)

 坂野守さん(1927年〜)は、日糧製パンに勤務したサラリーマンですが、ほぼ北海道の画家に的を絞ってコレクションを進めた人です。その成果は、1996年にスカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階)で開かれた「北海道美術史を彩った作家たち」展や、翌97年、芸術の森美術館での「坂野守コレクション展」などで披露され、反響を呼びました。

 その後坂野さんはコレクションの一部を市に寄贈され、昨年、市内の区民センターで展示が行われました。今回はそれに次ぐもので、美術館ではなく身近な区民センターで陳列するというあたりに、ゲタ履きで気軽に見にきてほしいという主催者側の願いがうかがえます。

 じっさい、展示されている50点は、静物、人物、風景に題材を得た、分かりやすい絵画ばかりです。裏返して言えば、美術業界でいう「売り絵」が主体なのですが、それでも50人の1点ずつが集まれば、おのずと北海道の美術史を通覧するものになっているといえそうです。それほど、北海道の美術史に欠かせぬ画家が集まっているのです。

 筆者の目をもっとも引いたのは、小山昇「摩周湖」(34年)でした。
 同じ題の作品が道立近代美術館に所蔵されています。深い湖面の青緑が美しい、筆者の大好きな絵です。
 今回の出品作は、それに比べるとひとまわり小さく、色彩もやや褪せた感がありますが、同じデッサンをもとにしてかいたのは確実で、姉妹作といってもいいと思います。
 褪せたといっても、画面の大半を占める湖面の、平坦に塗られた青緑は、吸い込まれるような神秘的な深さを保っています。周囲の山々は白とベージュの厚塗りで表現され、上部の雲が画面に動きを与えています。

 そのとなりには、小山の妻でやはり画家だった小山浩子「双湖台の秋」も展示されていました。
 小山昇は戦前夭折しましたが、浩子は戦後も道展日本画部、のちに洋画で息の長い活動を続けました。
 輪郭をぼかした、淡い色彩の配置が心地よさを感じさせます。 

 風景画は道内各地のものがそろっていて、いながらにして道内旅行の観があります。
 札幌がモティーフになっているものとしては、野口彌太郎「札幌(植物園)」、長谷川三雄「大通風景」、三雲祥之助「札幌風景」、松島正幸「北大構内」、小島真佐吉「円山公園」、今裕「北大周辺」、寺島春雄「植物園風景」があります。

 このうち野口の作品は、のびのびとした太い筆がモダンで開放的な印象を与えています。

 長谷川の作品は、制作年不明とありますが、道新(北海道新聞社)の旧社屋と、2丁目の古い郵便局舎が健在なことから、昭和30年代よりも前の作品でしょう。

 よく分からないのが、三雲の作品です。右側に高いポプラが並び、並木道を大勢の人が歩いている図なのですが、道の先は上り坂になっているのです。札幌の中心部はわりあい平坦ですが、彼はいったいどこを描いたのでしょうか。三雲は全道展の創立会員で、戦争直後に札幌に疎開していますから、あまり郊外ではないはずです。といって、陸橋のあった北5西5近辺にも見えませんが。

 小島の作品は明るい黄緑が支配的で、画面に乳牛を導入した晩年のシリーズとどこか通じるものがあります。
 今は、早春のポプラなどを描いているのですが、下は湿地のようです。いや、たしかに、北大の構内ってこういうところが、いまでもあるもんな。

 木田金次郎「晩秋羊蹄山」は53年の作品。
 彼の絵の大半を灰燼に帰した岩内大火の前年の作です。しかし、奔放で激しいタッチは、大火後の作品に共通するものがあります。
 もう一人、羊蹄山を題材にした画家がいました。
 倶知安の小川原脩の「後志羊蹄山」です。
 いかにも売り絵なのですが、キャンバスの地が見えそうな有珠塗り、整理された少ない色数は、まさに小川原調であります。
 96年に札幌時計台ギャラリーで開かれた個展で小川原さんは、久しぶりに羊蹄山を描いた小品を出品していました。「身近すぎてかきづらいけど、これからかいてみるんだ」と話していた小川原さんですが、その後は闘病生活を送っています。

 この調子ですと、いつまでたっても終わりませんので、あとは、いくつか目についた作品に絞りましょう。
 静物では、昨年亡くなった小野州一「花」のモダンさ、大月源二「タケシマユリ」の相変わらずの巧さが、目を引きました。
 また、近年は行動展、全道展で、直線のまったくない躍動的な抽象画を発表しているベテラン大谷久子が「静物」という、アンティームな色合いがボナールを想起させる作品を描いていました。装飾的な壁紙と、前景の2つの花が響き合っているのも、独特のものがあります。

 人物では、蛯子善悦「黒衣婦人像」が、マチエールに気を配った、独自の肖像画です。
 高橋北修、一木万寿美がいずれも「裸婦」を描いています。一木のほうは相当デフォルメされていますが、どちらも陰影の表現に緑を用いるなど、マティスなどの影響は明らかです。

 風景でさきほど挙げなかったもので、意外だったのは、「氷人」シリーズで知られる国松登の「春雷」です。
 手前に瓦屋根が描かれ、その上に黄色い空。白い雨足が画面を走り、右手には黒い稲妻が見えます。上部には紺青の空が広がり、独特の色彩感覚です。
 色彩といえば、カラリストで知られた田辺三重松の「支笏湖」は、恵庭岳の中腹をまばゆい黄色が覆い、それがすべてともいえる作品になっています。
 また、国井澄「上野の埜」は、太い線と丸いフォルムで木々を表現し、どこかアンリ・ルソーに通じるユニークな絵でした。

 こうしてみると、全道展創立19人(彫刻の山内壮夫と版画の川上澄生を除く)のうち、14人の絵があるというのもおもしろい。
 ほかの出品作品は次の通り。
 上野山清貢「百合一輪」、井串佳一「ダリヤ図」、天間正五郎「ダリヤ」、竹部武一「ダリヤ」、小川マリ「バラ」、今井幸子「花」、菊地精二「くちなし」、森本三郎「花」、今田敬一「パンヂー」
 能勢眞美「みなづき」、中村善策「裏庭の植木鉢」
 林竹治郎「肖像」、工藤三郎「裸女」、長谷川昇「爪を切る裸女」、菊地又男「婦人像」、亀山良雄「赤の人物」、西村計雄「人物」
 田中忠雄「果樹園早春」、金子誠治「小樽風景」、鈴木傳「小樽港を望む」、朝倉力男「屏風岩の怒涛」、岡部文之助「北海道川湯硫黄山麓」、岩船修三「海」、小寺健吉「室蘭風景」、山崎省三「岩内港」、佐藤栄次郎「茅沼風景」、八鍬四郎「風景」、関真衛「山頂」、金丸直衛「夏の硫黄山」、義江清司「風景」