展覧会の紹介

PASSAGE -経過する風景U-
北海道在住の8名の写真家によるランドスケープ
札幌市写真ライブラリー(中央区北2東4、札幌ファクトリー・レンガ館3階)
8月22日〜29日

ぎゃらりー807 Aギャラリー
(函館市元町18の11)
11月22日〜27日

 道内の写真展というと、いわゆるネイチャーフォトとか、風景写真などとジャンル分けされるものが多いように思う。
 まあね、北海道の風景って、本州の観光客でなくても、地元の筆者だってイイと思うもん。これはある意味で当然の現象。そのこと自体をどうのこうの言うつもりはありません。
 ただ、「よくある風景写真、自然写真」じゃない写真、をとりたい人が出てくるのも、これまた当たり前のこと。今回のグループ展は、濃淡こそあれ、ひとあじ違う写真がそろったことは確かだと思う。

 で、一番好きだったのは、及川修さんの写真だった。
 最初の一枚。真ん中を白々とした歩道が奥へと伸び、中央に小さく、日傘をさした女性と、その子供と思しき人物が写っている。
 右側には寺社仏閣らしき瓦屋根と、どこまでも続く白壁。歩道の左側には、手すりが並び、その向こう側には、歩道よりも一段低い街並みが広がっている。街並みの中には、「向島工場」などという文字が読み取れるが、東京の向島にこんなアップダウンがあったかしら。
 及川さんの写真は、風景を写しているのだけれど、必ずといっていいほど、顔のはっきり入っていない人物も複数おさめられている。そのことが、見る人に「写真を読む」行為に走らせる。
 ここはどこだろう、この人たちはどういう関係で、なぜここを歩いているのだろう…と、おもわず想像を巡らせてしまうのだ。
 次の一枚は、小樽市博物館の玄関口を、横から撮った写真だ。手前には、懐かしい丸型ポストが立ち、やや離れたところにスーツ姿の男が二人立ち話をしているようだが、手に持った封筒か何かを上げているのでやっぱり顔は見えない。
 小樽を題材に、こういう写真を撮るのも珍しいんじゃないかな。
 これ以降、だれもいない船着場(小津安二郎監督の「東京物語」に登場する尾道を思わせる)、城址の前を離れて歩く男女、親子連れらでにぎわう寺の境内などの写真が続くが、写っている場所も人も特定できない。なおさら、筆者は、謎解きを楽しむかのように、これらの写真の前に立って考え込んでしまうのでありました。

 榎本典益さんは、魚眼レンズを使い、丸く切った大小のパネルを、ばらばらに壁面に並べている。
 魚眼レンズじたいは珍しいものではないけれど、徹底して使って、しかも、身の回りの人とか無人の電話ボックスとかを撮っている人は、意外といないかもしれない。

 最年長・浅野久男さんは、海面ばかりを撮っている。
 それも、場所や時間を特定できる海の風景というよりは、ひどく抽象的な海の表面なのだ。
 さまざまな海の表情を、即物的にとらえた、ユニークな試みだと思う。

 畠平諭さんの被写体はたぶん夕張の清水沢発電所跡で、これ自体は残念ながらさして目新しいものではない。
 ただ、おもしろいのは、その写真を燃やす過程を、あらためて写真に撮っていることだと思う。
 一つの被写体にとどまらず、片っ端から燃やしていくとおもしろいかもね。

 三上典久さんは、8人の中では、従来の風景写真の枠に収まりやすい写真を撮っている。
 ただし、襟裳の朝焼けを狙った一枚などは、やっぱり美しいのである。信じられないくらい凪いだ波打ち際にオレンジの光が反射するさまなんかは、ほんとに美しい。

 ほかに、泉水正也、GinK、ヤマグチタクヤの3氏が発表している。
 札幌展のあと、浅野さんから長文のメールが届いたが、ここで紹介するのはやめます。
 筆者としては、登場した若手写真家たちには、長く続けて写真に取り組んでもらうように願うしかありません。