ライダーという物語。

わざわざこんな事を書いたのは今現在「特撮物」なんて・・。という方にも是非見て欲しいからだ。
少なくとも「特撮マニア」向けの作品ではない。

はじめに

先に言ってしまうが,最近の「特撮」や、「ヒーロー物」というものを私はまったく知らない。
そういうものから随分離れて暮らしている。

私が小学生の頃は「ライダースナック」を山ほど買い込んでカードを集めたクチで大ファンではあったのだが、
それは遠い昔のことだった。 最近「クウガ」と出会うまでは。

世界征服をたくらむ組織のエージェントとして改造された男が脳改造の前に逃げ出し,その組織と戦う・・。
というのがライダーの世界だ。いわゆる忍者でいう「抜け忍」である。

はるか昔から「ヒーロー」が活躍する番組は多かった。
「仮面ライダー」はその延長で作られてはいたが、その怪奇性、ヒーローの孤独感、人間であって人間ではないという悲愴感を描く事により新しい「ヒーロー像」を作り出した。

そう、「仮面ライダー」は「ヒーロー番組」としての“変身”をも果たしたのだ。

しかし爆発的ヒットの後に作られたシリーズ作品群はアクションを重視するあまり、そのテーマは影をひそめてしまう。

仮面ライダーという記号

どんなにシリーズが続いても変わらない記号が「ライダー」には存在する。
これさえふまえればどんな話にしても「ライダー」になるという記号が。

記号1     世界征服の野望を抱く悪の組織の存在。
記号2      孤独に戦う正義の戦士 ライダー
記号3      その正体はごく一部の人を除いて誰も知らない。
記号4      敵は怪人を幹部として作戦を遂行し、戦闘員を多数従え行動する。
記号5      敵の首領は謎の存在であり最終回でもはっきりしない。

これらの記号に縛られたまま「さらに派手な戦闘シーン」「敵の強力化」とシリーズを続ければ続けるほど
ライダーは現代の社会からかけ離れた舞台設定となってしまった。

「悪と戦うヒーロー」として「ライダー」を描くとどうしても悪の組織の存在が必要になる。

しかし子供番組とはいえいまどきそんな秘密結社にリアルさを感じるこどもがいるだろうか?

また、ある日突然力を手に入れ敵が迫った時自分を投げ出して人を守る…と考える人がどれくらいいるだろうか?

この二つを考えただけでも「仮面ライダー」は物語として現代に存在できない。

クウガ、登場!

先ほどの記号を「クウガ」に当てはめてみる。

記号1 組織は存在するが秘密結社ではなく、超古代の種族という設定だ。
しかもその目的ははっきりしないが単なる「ゲーム」らしい。
記号2 クウガ(五代雄介)は孤独ではない。妹もいるし,桜子や「ポレポレ」のマスターなどの友人を持つ。
記号3 特別「クウガ」であることを隠していない。自分で「クウガだ。」とよく言っている。しかし敵を「未確認生命体」と呼ぶこの世界ではクウガも「第四号」と呼ばれているため「クウガ」と口に出しても誰も気がつかないのだ。
記号4 敵は内部のルールで「ゲーム」をしているらしい。そのため大勢いるのだが,同時にではなく一体ずつの出現となる。
ここには奇声を発する戦闘員は存在しない。
記号5 クウガでも首領らしき存在は謎だが,ヒントになるNO・2がいる。

30年前には通用した空想設定を引きずることなく切り捨てるところは切り捨て,現代に「ヒーロー物」を存在させようとしているのが解るだろう。

また、実際の放映では実在の場所と時間を表示して現実感を出すのに成功している。

そしてその上でスタッフが訴えるメッセージはなんだろうか?

新しい記号「笑顔」

このような分析はほとんど意味をなさない。過去の作品と設定を変えたところでよい作品とはならないからだ。

それでももうひとつだけ、過去の作品と決定的に違う点をあげたいと思う。

「笑顔」だ。

これほどにこやかな「ヒーロー」はいない。どんなに苦境でも彼は笑っているのだ。
しかし,その笑顔がただの楽天家ではない事を我々は彼の周りの人物の言動から知る事が出来る。

「クウガ」となった雄介は本来戦いを好まない冒険好きの自由人であること。
ベルトからの影響で体が変化し,相当な激痛を感じていること。

かつて「ヒーロー」は仮面を「正体」を隠すために使用して来た。

雄介は「クウガ」であることを隠してはいない。他人の前で変身したり、解いたりというシーンが随所に見られる。

この「クウガ」における「仮面」とは雄介の辛さを隠して「笑顔」でい続けるための仮面なのだ。
仮面の下に辛さ、痛さ、苦しさを隠してそれでも彼は戦い続ける。

仮面を取り、雄介になった時廻りの心配する声に親指を立てて「大丈夫!」といって笑ってくれるのだ。

これこそ本当の「強さ」ではないのか?

今までのヒーローがいとも簡単に敵を倒し、「さすがヒーロー」とその腕力の強さに視聴者が憧れるのとは根本的に異なっている。

ついでに言うと「クウガ」の戦闘シーンはいつも爽快感が無い。これは意図したものだと思うのだが、はあはあした息づかいが伝わる非常に辛いシーンとなっている。

過去のライダーと違い、クウガは胸が裂けたりへこんだりしながら懸命に戦うのだ。

「みんなの笑顔を守りたい。泣き顔なんか見たくない。」と戦う雄介の笑顔には今までになかった新しい「ヒーロー」の「強さ」がはっきりと描かれているのだ。

そして・・・。

「仮面ライダークウガ」はとうとうヒーロー番組の黄金律までも否定してドラマを展開する。


私がここまで惹かれている核心に触れてみたいと思う。