第5章「鈍(にび)」(1)

「久瀬様…ここは?」
「なにか、感じますか?」
 佐祐理姫…倉田家の、娘。倉田は、力ある、家系だ。
「少し…いえ、例のものでは、ありませんが…なにか…」
「河原の方か…。行ってみましょう」
「ですが…」
「あんな、小さなものを探そうというのです。僅かでも、手がかりに
なりそうなものなら、逃すわけには参りません」
「はい。ですが…これは…」
 佐祐理姫の言うところでは、この場所には、なにか――
「強い、情のようなものを、感じる」
 そういう、ところであるらしい。

「…久瀬様。ここは、いけません。早く…!」
 離れた方が良い。巫女装束姿の佐祐理姫が、そう…言った。
 少し急な斜面を、姫の手を引きながら――下ったところにその河原は
あった。どうということはない。草などの繁る、美しい、河原。
「人の、情念が…渦巻いて…ああっ…!」
 姫は、私には見えない、なにかを視ている――。
「わかりました。ここには、あれはないのですね」
 その時――
「久瀬様っ!」
 がさり…と、草叢が揺れて――
「ハ…ハァ…ハッ…わた、しの…あや…め、を…おねが…い………」
 流行り病か。もう…。ん…この、娘は――?
「佐祐理姫、この方をっ」
「はいっ。略式になりますが、この地に葬るのが、よろしかろうと」
「任せるっ! …墓穴が、要るな…」
第2章 神木(かみき)の杜 へ