ヴァスト・シエンバーは、民家の外壁の内側から銃を構えて敵の動きを注視していた。城壁が邪魔だ。いっそ、透明な壁に出来ないか、そう思う。生き残ったら進言してやる。でもなあ、ガラスより堅いものか――それ以上は、頭が回らない。いつ敵が飛び出してきてもいいように、神経を研ぎ澄ましておかねばならない。銃というのは強いように見えて、単体では実に弱い。一撃で仕留められなかったのが悔やまれる。もっと精度を上げないとダメだ。遠距離からでも絶対に外さない銃。それに、続けざまに撃てるような工夫。弾と火薬を込めたまま何本も用意しておいたって、敵から目を離したら意味がない。そんなすぐに狙いなんてつけられるか。
「――銃身を、増やす?」
 なんとなく、なにかが見えた気がした。それも、一瞬で消え去る。黒い影が動いた!
「きたぞ! 正面! 黒服のニンジャだ、撃ち斃せぇ!!」
 自身も狙いを定めて、銃を撃ち放す。バァンという音がうるさい。発射のタイミングが、
「だからっ!」
 バレるんだよ、うるさいからっ!
 投げ捨てて、背後の台に並べてあった次の銃を、銃身を引っ掴んで取り上げる。
 構えて――
「速いぞ、バカやろう!」
 バァン!
 先に立っていた方が、後方に吹き飛んで倒れた。それを軽く避けて、後ろの奴が、来る。
「つ――、
 次の銃を掴んだ時に、廊下状になったその空間の、右の扉が開いた。黒い塊が飛び込んできて、近くにいた銃手を突き殺す。倒れた。ニンジャはそいつの身体から刀を抜き、
「くそォ」
 ヴァストは銃身を掴んだまま、肩の高さまで振り被って、そいつの頭目掛けて思いきり堅い銃底を振り下ろす。ガスっという音と共に横に倒れ込んだ黒装束は、さらに頭部を石の壁に叩きつけて、たぶん死んだ。後ろで物音。扉の開く音。前からもう一人。
「オォ!!」
 銃底を前に向け、水平に構えて敵の腹部へ身体ごと突き掛かる。だめだ、押し倒せない。体重が軽すぎた。狭い空間で、勢いがつかなったのもある。
「んなっ、」
 勢いに負けて押し戻されながら、ヴァストは、ぐりんと手首で銃を回転させている。
「らぁ!!」
 バァンという音。本来握るべき銃床部を掴みざまに、引き金を引いた。狙いなんて適当だ。超至近距離の射撃。外すくらいなら、運がなさすぎる。その点、彼は運が良い。
 敵の、腹の辺りが破裂した。叫んだ口の中に、粘っこい液状のモノが飛び込んできて、気持ちが悪い。顔面もぐちゃぐちゃにされた。血と、おそらく腹の臓も
 ――うぐっ!?
 急に吐き気を催して、座り込みそうになりながらも、死体を踏み越えて前のめりに外へ走りだす。後ろで悲鳴。ここはもう破棄するよりない。近くの民家に転がり込む。トイレですべてを吐き出して、それから、ガクガクと震えていた。その後、戦争が終わるまで、彼はそこから出られなかった…
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