「だから、連携がなっちゃいねえってんだ、お嬢ちゃんはよ!」
 アーヴァインが、周囲の将兵たちに聞こえよがしにがなりたてる。彼の大隊と、レン中隊の連携が、いまいち上手くいっていないのが原因である。消極的なのだ、彼女の攻撃は。部隊の踏み込みが甘い。せっかく敵の側面を衝いても、それだから壊滅させられない。敵は敵でまた、じりじりと引いては、盛り返される、その繰り返し。こちらが押せば、銃撃の雨あられだし、引けば引いたで、騎兵と槍兵が突っ込んでくる。攻撃の合間には、大砲がドカン。またしても弐礼の小娘に、いいようにやられているではないか。
「だから、もっと押せってばよ!」
 左腕をブンブンと振り回しながら、アーヴァインが怒鳴る。同時に、右腕で麾下の大隊から別けたばかりの騎兵二個中隊に指示を出す。右行け、右――。

「だから、やってるって」
 アーヴァイン隊からの、「もっと攻めろ」のメッセージ。煩瑣いくらいの陣太鼓の音を、砲撃の轟音で打ち消されながら、リアレイアは顔をしかめた。なんて煩瑣い場所だ。こんなことなら、家で本でも読んでた方がずっといい。それが出来ないから、こうしてここにいるわけだが。なんでこんな不毛な争いを、しなくてはいけないのか。
「埒があきませんな。ここは一つ、敵の側面より銃剣突撃を試みてみては?」
 ずっと父の参謀を務めていた、背の低い男が言う。冗談じゃない。
「ここが、ギリギリなの。これ以上出たら、あの大砲が飛んでくるんだって!」
 前方の、内瀬藤樹(ないせふじき)の砲兵隊を指差して、リアレイア。この位置で弐礼隊に銃撃を加えるのが最も安心だと、年若い貴族の御令嬢様は仰る。しかし、銃というものは、標的から遠くなれば、遠くなるほど威力も命中率も落ちるものだ。それを、アーヴァインにも責められている。――知ったこっちゃない。こっちは素人なんだから。そんなの無理なのっ!
「しかし、虎穴に入らずんば…という格言もありますが」
「私は、虎の子供なんていらないわ。猫の方がかわいくていいもの」
「ここは戦場ですぞ、お嬢様」
「来たくてきたんじゃ…。そんなに突撃したきゃ、やればいいじゃない勝手に」
 わたし、もう知らないっ――と、リアレイアはそっぽを向く。
「その科白を、お父上がお聞きになったら…」
「煩瑣いわね。お父様が、つまらない怪我なんてするから。お兄様だって、あんなツマラナイ死に方をして…。わたしは、勉強がしたいの。そのために、大学だって
 ――ドォォン
「あーもう、煩瑣いッ!!」
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