戦後、エテルテア教団は戦場となった平野に横たわる戦士たちの躯を集め、敵味方、将校も兵士も関係なく、等しくその英霊たちの死を悼み、導主のそれに劣らぬほどの、壮重な儀式をもって彼等の、失われた生命の光を、セルーシアの名を持って天の彼方へと導いた。街に住むすべての人間が、放射状に広がる街路上に列を成し、その中を粛々とひつぎ棺の列が進む。大聖堂の裏手に運ばれたそれは、浄化の火の中で灰となって土に還り、魂は大気の一部となって世界に満ちるのだ。天使はそれを、より高いところへ運ぶ。より良き世界を創るために。より良き世界に住まう、人々の為に。セルーシア・エテルテアは、神にならねばならない。より多くの人々の、魂に支えられて――。
 火葬場の高い煙突から、白い煙が立ち昇っていく。
 その魂が、天に届きますように。翼なきセルーシアは、ただ、ただ、そう祈り続けた。自分にできることは、ただ、教団の導主を――天使を演じること、それだけであったから。
 戦場で家族や大切なものを失った人々の多くが、その行為に、感銘を受けたものに違いない。エリアのもとには、より多くの人間が訪れるようになった。密かに使者を寄越し、礼を述べる貴族もいたし、弔儀の費用を「少ないながら」と置いていく者、勝手なことをするなと怒る者。様々な人間がエテルテアを訪れ、そのすべてをエリアは歓迎した。人が交流してこそ、街は発展する。帝国の主要都市とエテルテアを繋ぐ街道も、少しづつ整備されていった。馬車が行き交い、物資の往来も頻繁になる。エリアは、上機嫌であった。葬儀の費用は莫大であったが、充分に、もとは取れたからである。そのあたりが、彼女を宗教家としてよりも政治家として評価すべき部分であるのだと思う。
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