「エテルテアの天使」

 帝国の北、エテルテアと呼ばれる地方に一人の騎士がいた。辺鄙な土地の痩せた大地を治めたそのしがない地方領主には、一人の娘がいた。やがて領主は病に倒れ、一人娘が後を継ぎ、新たな領主となった。彼女は館の周りに貧しい人々を集め、決して裕福でもない暮らしの中で、食糧や水、衣類などを分け与え、人々の崇敬を集めていく。そして、彼女の施しを受けた人々を中心にして、一種の宗教のようなものが形成されていった。
 しがない地方領主ヘスティア・エテルテアの、そのちっぽけな慈愛に溢れたその手こそが、後のマルザス帝国の国教、聖エテルテア教の、その小さな奇蹟の始まりであったのだと――、今なお続く聖エテルテア教会では、伝えられている。
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