重い荷物と空いた手と。 重い荷物抱えて。さぁこれから何処へ出掛けようか?
「ん……しょっと。」 ふぅ、と息を一つ付きながら夏美は顔を上げる。 手に持った荷物は結構重い。けれど同行してる人物はそんな彼女の事情などお構いなしにすたすたと普段通りの歩幅で先行している。ただでさえ、本来の体のつくりの差が出るから常に隣で歩くにはこっちが苦労して足早に歩かなければいけないというのに。 「……………」 むぅっと、すたすたと歩く人物の背中を軽く睨み付けながら、手に持った荷物を抱え直して小走りで追いかける。 でも。 「…………手前ェ。いい加減にしろよ。」 息を切らせて、わざわざ走ってまで追いついてきた夏美に、不機嫌そうに彼は眉を顰める。その歩みは止めぬまま。 「いちいちトロ臭ェんだよ。どうせならもちっと早く歩きやがれ。」 「……しょうが、無い、でしょう? 荷物、重いんだ、もん………ッ」 荒い息を吐きながら、それでも喰らいついて。更にキッと相手を見上げて反論するその根性は大した物だ。とは思うが。 それでも彼女は、『だから荷物を半分持て』とは言わない。 言わないことなど、知ってる。そんなの今更だ。 「………チッ。勝手にしやがれ。」 舌打ちを一つついて歩き続ける。腹が立つ。 でもそれは、多分彼女にだけではなく、自分に対しても。 「―――あのね。あたしね。」 「ああ?」 追い付いたので、喋る余裕が出てきた所為だろう。小走りにしていた歩調を少し緩めながら、夏美がクスリと笑いながら口を開く。 「こうしてね。ずっと隣で歩いていたいなぁって思うよ。」 重い荷物を抱えていても。 歩調が違っても。 「別に無理するとかそんなんじゃ、無くてね。」 そんなんじゃなくて。唯単に。 「自分の荷物は、自分で持ちたい。」 だってコレは自分が選んだ荷物だから。それは自分の責任だから。 「それで、片手に全部纏めて持つの。」 くすくすと笑いながら荷物を持ち替えて、空いた片手は目的のモノへと手を伸ばす。 「だから、ね。」 てをつなごう? 「自分のことは自分でするの。そして空いた片手で好きな人と手を繋いで歩きたいの。」 それが理想のイイオンナ。
「………知ってるさ。」 がりがりと頭を空いた方の手で掻きながら、複雑そうな顔をして彼が呟く。 「うん。だからありがとう。」 にっこり笑ってお礼を言う。 それを知っていて歩調を緩めないで居てくれることも。 それを知っていて荷物を持とうとしないことも。 それを知っていて我が儘を通させてくれることも。 甘やかされるのは嫌いじゃないけど、それじゃあ寄り掛かりすぎて動けなくなるから。 優しくしてくれるのも好きだけど、それじゃあ自分に甘くなってしまうから。 だから、ありがとう。 「手加減無しで付き合ってくれるから。」 だから、君と一緒に居たいんだ。
重い荷物抱えて。さぁこれから何処へ出掛けようか?
―了―
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