重い荷物と空いた手と。 重い荷物抱えて。さぁこれから何処へ出掛けようか?
さてこれから出掛けようかと、夏美が自分の荷物へと手を伸ばしたら肩口に手をかけられた。 「? 何?」 「俺が持つ。」 そのまま手に力を入れて、屈みかけた夏美の半身を押し返す。もう片方には、自分の荷物と彼女の荷物を纏め上げて。 「え? いいよ。悪いよ。あたしが持つよ。」 「いいから。」 うーっと身体全身をばたつかせて荷物を奪おうとする夏美を、自信の身体半分を使って防御する。こうでもしないと、彼女なら力ずくで取り上げてしまうだろうから。 「いいよ。持つって。大丈夫だから。」 「いいって言ってるだろ。それにコレ、結構重いぞ。」 「だ・か・ら! あたしも持つって言ってるんでしょお?」 「だから! おまえに持たせたくないって言ってるんだろう?!」 うーっと二人して眉根を寄せながらお互いの顔を軽く睨み付ける。 こうなったらどちらも引けない。 二人ともとても頑固だ。今更だけれど。 でも。 だから。 「だからってあたしの分まで持たせて良いなんて法はないでしょ?! あたしは、あたしの分位は自分でもって歩きたいの!!」 最初に夏美が盛大に抗議する。 自分で出来ることは、自分でしたいから。 「だからといっておまえに荷物を持たせるって言うのは俺が嫌なんだよ! 俺は、自分の分だけじゃなくておまえの分の荷物だって持って歩きたいんだ!」 大声で抗議されても、引く気にはならない。引きたくない。 少しでも、彼女の力になりたいから。 「〜〜〜〜〜ああもう! この強情ッパリ!!」 「どっちがだよ!!」 そのまま二人で口喧嘩をしながら歩き続ける。 「決まってるでしょ!」 「じゃあ、おまえだな。」 「ちっがーう!」 キーッと夏美が叫いて、ぐるっと小走りで前方に躍り出る。 「もう、あったま来た!!」 フン!と大きな鼻息を一つついて彼が持っていた荷物へと手を伸ばす。 「あ! 何するんだよ!!」 「そーれーは最初からこっちの台詞!」 えい!と奇襲をかけて荷物を奪う。 けれど。 「………ちょっと。もう半分。」 奪えたのは半分だけ。もう半分も寄越せと夏美は半目で彼を軽く睨み付ける。 「嫌だ。」 いきなりだったとはいえ、簡単に奪われてしまった事がとてつもなく悔しいので、彼も夏美を睨み付ける。 これだけは、絶対に死守したい。 「なによもう!意地っ張り!」 「どっちがだ!」 そのままその場でぎゃんすか言いあって、そして暫く時間が経って。 「ああもう。もうこんな時間じゃないー。」 気付けば太陽も大分傾いてしまっていて。 「ああ。大分時間を食ってしまったな。」 溜息を一つ。 今更だけれど、どうして自分達はこうなんだろう。いつもいつも。 それでも。 もー。と元気良く呻き声を上げる彼女の片手を軽く握る。 「………え?」 な、何?といきなりで少し慌てる夏美を見ながら、軽く笑う。 チョットだけ、胸がすく思いだ。 「おまえが半分取ってくれたお陰で片手が空いたからな。」 これなら良いだろう?と、口元で笑みを作って歩き出す。 「………うん。」 まだちょっと不満が残らない訳でもないけど。 でも。 まぁ。これなら。 手も、繋げるし。 「じゃあ、行くか。」 「うん。行こうか。」 二人で手を繋いで。 二人で重い荷物抱えて。さぁこれから何処へ出掛けようか?
―了―
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