重い荷物と空いた手と。 重い荷物抱えて。さぁこれから何処へ出掛けようか?
「………持とうか? それ。」 心配そうな目でこちらを見ながら、ゆっくりゆっくり隣を歩く彼に、夏美はことさら元気良く笑う。心配ないよ、と言う為に。 「大丈夫!! あたしコレでも力あるし。」 にん、と腕を軽く持ち上げる。これでも少しは鍛えているのだから。 「でもさ………」 けれど、彼の心配そうな表情は変わることはない。 そしてその緩やかに刻まれる歩調も。 ………別に、併せてくれなくてもイイのにな、とも思うけど。それが彼の優しさだろうから。 少しくすぐったいけれどもチョット心地良い。 「……矢っ張り駄目だ。僕が持つよ。」 そのまま少し歩いて、ずっと「持つ」「大丈夫」と問答を繰り返した後、意を決したように彼は前へと回り込んで手を差しだした。 「え………だってコレは、あたしの荷物だし。それに自分だって荷物抱えてるじゃない。」 おまけにコレ、結構重いし。悪いから、いいよ。 行く先を塞がれて夏美は少し困った顔をする。確かに重いと言えば重いのだけれど、別に絶対無理!と言う量ではないし。 何より彼も、荷物を抱えているのだし。 「…………僕は、そんなに頼りない?」 頑固に断る夏美を見下ろして、肩を落ち込ませながら小さく呟く。 「僕は、これでも男なんだよ…………?」 自分の荷物を持って、彼女が抱えてる荷物も一緒に持つ位。どうって事、無いのに。 「だから、僕が持つよ。………いや、持ちたいんだ。」 隣で大きい荷物を抱えてる彼女を見てるのが嫌だから。 「………別に、頼りないって言ってる訳じゃ、無いんだけど………」 でも、気になったんなら、御免。 眉尻を少し下げながら夏美は「それじゃあ……」と言って、持っていた荷物を差し出す。 「………ごめんね。それと………ありがと。」 小さく頬を染めながら、笑う。 「―――どういたしまして。」 彼も小さく笑いながら荷物を片手に纏めて空いた手を差し出す。 「じゃ、行こうか。」 「うん。」 元気良く返事して。 さぁ。これから何処へ行こうか?
片手に纏めた荷物が手のひらに食い込んで痛くても、それで君が少しでも楽になれるなら僕は全然構いやしないのだから。 ―了―
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