心のどこかで確信している事がある。 心のどこかで求めている事がある。 けれど絶対認めない。 けれど絶対表に出さない。 それ、でも。 もしそれが叶ってしまったら、 きっと自分は。 「じゃあ大人しくこっちがやられるってのか? それで大人しく水守もさらわれてか?ふざけてんじゃねぇ。 それで大人しくこっちがやられたって、どうせ村の奴らもやられるに決まってる。 それで今度はこっちの大切なモノが守れなくなるのはもぅ勘弁ならネェ。 勘弁ならねぇんだよ!!」 優先順位の差だ。とカズマは吐き捨てるように言う。 あの時、カズマは自分の心の赴くままに力を使った。自信はあった。 出来ると思った。だが劉鳳の言うような危険がなかったとは必ずしも言い切れない。 「結果論」と言った劉鳳はある意味正しい。 「だから、貴様は他の人の命を切り捨てるとでも言うのか」 気圧されながらも、反論する劉鳳。 「言っただろう。何とかなる自信はあった。」 不遜に嗤うカズマ。 「もっとも。何とか『なる』んじゃなくて、なんとか『する』事を考えないようなヤツには判るわけねぇだろうがな。」 「なんだと・・・・?」 訳が分からないといぶかしむ劉鳳。 「テメェが上から見ているという理由を教えてやる。」 「質問に答えろ」 「っせぇ。最後まで聞け。・・・テメェは何でも抱え過ぎなんだよ。」 「インナーの人々を守ろうとして何が悪い?」 「それが上からの物言いなんだよ。お優しい劉鳳様。ここの奴らがオマエに守って下さいとでも頼んだのか?」 「それは・・・・・だが。俺は自分に誓った。ここの人々を守ると!」 言いよどむ劉鳳。 「だがここの奴らはそれを望んではいない。」 そんな劉鳳とは対照的にカズマは少しも揺らがない。 「勝手に責任感じて背負い込むのはそっちの勝手だ。だが。オマエはここの責任者じゃない。しかも受け身。最悪だ。」 全てを背負い込み、全てを自分の思うままに動かすことが楽なときもある。 責任を感じるあまり、他者の力を借りず、自分の力だけでどうにかしようとする事は、他者の力を信用していない事でもあり、いつか破綻する危険性を孕んでいる。 他者を守ろうとするあまり、自らの身すら大事にしない考え方は、その責任者が倒れた時に守ろうとした者達も一緒に、またはあまり時を経たずに破綻する。 その考え方は責任者の考え方だけではなく。 それは支配者の考え方にも似ている。 「え?劉鳳とカズマさん、外に出ていったんですか?」 「えぇ。どうも二人で話す事でもあったようで。」 自分から喧嘩するならでて行けと言ったのも何のその。 しゃあしゃあと水守とかなみが持ってきたお茶を飲む。 むろん、美味しいですね。とにこやかに礼を言うことも忘れない。 『劉鳳とカズマさん。もっと仲が悪いと思っていたんだけど・・・』 「じゃあ、仲良くなったんですね。良かった・・・・」 カズマさんが非合法の闘技場に居たことも「何となく判る」と言っていた訳だし。 再会したときに険悪な雰囲気になったときはどうしようかと思ったけど。 ほやほやとそんな事を言う水守に橘は脱力して「そうですねー。」と笑っている。 「あの。あの。カズ君・・・どこに行ったか判りますか?」 ただ一人、笑っていないかなみがカップを二つ持ちながら必死で聞いてくる。 このままではカズマと一緒に飲もうと持ってきたお茶が冷めてしまう・・・・ 「そうですねぇ・・・あっちの方向に行ったのは判りますが・・・」 「わたし、探してくる・・・!!」 「あ。待って。私も行くわ。」 ぱたぱたとかけて行くかなみと、それを追う水守。 「え?あー・・・・まぁ。いいか。」 どうせ自分の分のお茶がついでなのは判っていたし。 カズマと劉鳳がこの近くでアルターを使って争っている感触や爆音はないから、おそらく大丈夫だろう。 もっとも、かなり遠くで争っているのだとしたら流石に判らないだろうが、そこまで遠くならかなみと水守も諦めて戻ってくるだろう。 『それに、水守さんも自分の分のカップを持ってきてたし。』 おそらくかなみと同じように、一緒に飲むことで少しでも長く一緒にいたかったのだろう。 でももう少しぐらい。一緒にいても罰は当たらないんじゃないかなぁ。と思う橘であった。 劉鳳は一人で居た。 あの後、カズマは「白けちまった」とか言ってさっさとどこかへ行ってしまい、劉鳳は一人でぼーっと岩に腰を下ろして考えに没頭していた。 『・・・俺が。受け身・・・』 カズマの言った言葉が頭から離れない。 確かにあの時。カズマが現れたときも、自分はダースに捕らえられ、何もできなかった。 あの時、あそこでカズマが現れたから。攻撃をしたからこの村の人達は無事で、水守もまた無事だった。 『・・・俺がカズマに言った言葉は。俺自身にも当てはまる言葉でもあるのか・・・?』 カズマを非難できるのは、あの時カズマが村の人達を救ったからで。それでなければきっと自分は後で自信を責めていただろう。 『・・・だが。』 けれど。カズマのやり方が享受できるモノでもない。 「・・・水守・・・?」 人の気配を感じて劉鳳が顔を上げる。 「・・・あの。劉鳳・・・・」 どうしてこんな所に?とぼんやりした面持ちで声をかける。 「お茶を、持ってきたの。寒いかと思って。・・・少し、冷めてしまったけど。」 「いや。構わない。・・・・ありがとう。」 「どういたしまして。・・・隣、良いかしら?」 「あぁ。」 はにかんだように笑い、劉鳳の隣に腰掛ける水守。 「何か考え事をしていたようだけど。何を考えていたの・・・?」 本当は、何か考え事をしていたようだから、暫く待っていようとか思っていたのだが、劉鳳に先に気付かれてしまったため、出ていくざるを得なかったのだ。 「あぁ。いや・・・・」 なんだか自分の弱さを出すようで、言いよどむ劉鳳。 何となく、カズマに指摘されたことを言うのは、口に出すのは認めてしまうようで、癪に障る気がしてならない。 「あ、あのね。言いたくないなら、別にいいのよ・・・?」 誰だって言いたくないことはあるのだし。 何か悪いことを聞いてしまったような気がして、しゅんとする水守。 「いや。水守は何も悪くない。・・・悪いとするなら、おそらく俺だ・・・」 「劉鳳・・・?」 「水守。あの時。君が人質となった時。俺は君を止めなかった。君の意思を尊重したかった。」 「? えぇ・・・」 「だが君は?・・・君は。不安ではなかったか?止めて、欲しかったか・・・・?」 そう思う事は。俺のエゴなのだろうか・・・・・ そしてこう思うことも。カズマの言うような「独りよがり」の考え方なのだろうか。 「不安ではなかった、と言えば嘘になるけど・・・」 ゆっくりと、劉鳳の目を見ながら真剣に言葉を探す水守。 「でも。私はあの時にも言ったわ。『私が選んだことだから』って。あの時、あなたが私の考えを尊重してくれたのは凄く嬉しかった。・・・以前は、「本土に帰れ」と言われていたから。不謹慎かも知れないけど。私が戦う事を認めて貰えた気がしたの。だから・・・・」 「水守・・・」 「・・・御免なさい。上手く言葉にならないわ・・・」 「水守。」 劉鳳は。なんだか水守に触れたくて水守の髪に触れた。 それだけで、なんだか全てがいい様な気がした。 カズマに言われた事も。そのままは受け入れられなくても、全てが間違っている訳ではないような気がした。 「・・・劉鳳・・・」 水守は。本当は劉鳳に弱音を言いたくなかった。あの時、確かに不安だった。 けれども、自分は強く在りたかった。自己を律して。自分の理想を求めるために。 自分の理想に近づくために。 その為に今まで色々無理を言って。他人に迷惑をかけて。ロストグラウンドに来ていたのだから。 だから迷惑をかけた人達の為にも、自分は理想を全うしなければいけないと思っていた。 けれど、劉鳳が今。近くにいて。髪を撫でてくれて。 それだけでなんだかどうでも良くなってしまった。 今。ここには自分と劉鳳しかいない。 今。この時だけは自己を律しなければならない理由はない。 そしてこれを思う事は不謹慎かも知れないけれど。 『・・・どうしよう。今ここにこうしていることが何よりも安心するだなんて・・・』 それはきっとあのまま本土へ行っていたら得られなかった心。 「ねぇカズ君?寒くない?」 橘と別れた後、かなみは追いかける水守に目もくれずにカズマを捜した。 そして劉鳳と別れて戻ってきたカズマを見つけ、カズマは水守に劉鳳の居た方向を教え。その後、ずっと二人寄り添ってお茶を飲んでいた。 「あぁ。寒くねぇよ。・・・オマエは?寒くないか?」 「カズ君が居るもん。・・・寒いわけ、ないよ。」 カズマに甘えるようにすり寄るかなみ。 「何だよ。甘えたか?」 「・・・だって。ずっとこうしたかったんだもん。ずっと。」 「あぁ。悪・・・」 「謝らなくていいよ。謝らなくていいから・・・」 「・・・あぁ。」 カズマの声を遮って、かなみが言う。腕になおも力が入る。 カズマもかなみを抱く手に力を込める。 『謝らなくていいから。ずっとこうしていて・・・・』 怯えていた情熱を。 痛みと共にある暗闇を。 完全に許すことは出来はしないけれど、 せめてこの時だけでも享受してやろう。 例えその幸福が。一時の物だとしても。 甘美なる泡沫の夢だとしても。 それを支えにしていく為に許してやろう。 浅ましい考えだと判ってはいる。 けれど。こころにふる いたみは。 |