心のどこかで縛られている事に気付いている
背負う物に。大切な物に。
けれど自分の手はたった2本しかなくて。
支えを持たない自分は、
いつか倒れゆくしかないのだろうかとも思えて。
けれども、そんな悲壮感に酔える自分が居る事実に

吐き気がする。

こころが。ちぎれそうにいたい。


 空心 - カラノココロ -


「っかぁー。何でこんなクソせまい所に。何が虚しくてヤローばっかりと・・・・」
 一人のチンピラ風の男がぼやいた。
「黙れ。今日はもう遅いだろう。村の人達の無事を確かめたからといって、安易にそこの住居を借りるわけには行かない。雨風がしのげるだけでも有り難く思うのだな」
深緑の髪をした無愛想な男が言った。
「だからってよー。こんなちっせぇ車の中ってどうよ?あぁ?」
「・・・・嫌なら出ていってくれて構いませんよ?」
 にこやかに濃紫の髪をした男が言った。
 けれど、その目は少しも嗤っていない。
「・・・あぁ?イイゼー?別に。そしたらオレはアッチの方に行くだけだからな」
 その目に多少たじろぎながらも、男はなおも続ける。
 けれどその言葉は、もう一人の男にとっては享受できるモノでは無かったらしい。
「・・・貴様・・・」
 静かに。けれども異様な威圧感を発しながら睨み付ける。
「水守達が居る小屋の方に行くとでも言うのか・・・・?」
「んだよ。あっちにはかなみもいるしな。それともー?オレは小屋に行くのにいちいちアンタにお伺いを立てなきゃいけないってのか?」
 一気に車内の仲が険悪な雰囲気に変わる。
 否、元々がギスギスしていたのだから、仕方ないと言えば仕方のない話なのだが。
「あぁもぅ!劉鳳もカズマも!!そんなにケンカしたいんだったら外出てやって下さい!! ここは僕の車の中なんですからね!」
 とうとう、この車の持ち主である橘あすかが怒鳴った。
 劉鳳と呼ばれた深緑の髪の男も、カズマと呼ばれたもう一人の男も、この車に乗ってから。否。再会してからこっち、ずっとこうだった。
『もういい加減にしてくれないと、僕の車の存在自体が危うい・・・・!』
 橘はそんな危機感をひしひしと感じていた。


 そんな風に橘が危機感に頭を痛めている頃。
 車から割と近くにある小屋の一室。
「・・・カズ君。大丈夫かなぁ・・・・」
 一人の幼い少女、かなみが窓に手を起き、ぽつりと呟いた。
「心配するだけムダよぉ。」
「カズマさんなら・・・きっと大丈夫よ。」
 テーブルに突っ伏してだらけていたシェリスと、お茶を入れていた水守が答える。
「でも・・・」
 幼い顔が崩れる。
「カズ君、寒くないかな?風邪、ひいたりしないかな?」
 車内とはいえ、夜は寒い。
 そんな意味では、この小屋も似たようなモノであったが、寝るために用意してあった毛布は当初予定されていた劉鳳・シェリス・かなみの3人分しか無く、当然、急に増えた人口には追いつかず、「風邪を引いてはいけない」と無理矢理男性陣に(と、言うよりも劉鳳に)押し切られてしまい、向こうには無い。
『・・・・劉鳳も大丈夫かしら・・・・』
 かなみにつられて水守も心に不安がよぎる。
「・・えっと。じゃあ。このお茶の用意が終わったら、一緒に様子を見に行きましょうか?」
 元々。水守も劉鳳達の様子が気になっていたので丁度良いとばかりにかなみを誘う。
「・・・はい・・・!!」
 満面の笑顔で喜ぶかなみ。
「・・・・御二人で御自由にどうぞー」
『大体、今日はもぅアルターの使いすぎで動きたくないのよねー・・・・・寒いし。』
 劉鳳と水守が会うのはしゃくに障るが、コブ付おまけ付では何もないだろうと踏み、更にテーブルの上に崩れるシェリス。
 どうやら、恋心と休息を天秤に掛けて、休息の方が勝ったらしい。
『そもそもあんな野蛮人が風邪にやられるタマかっての。』


 軽く呑気な思惑が錯綜する小屋とは違い。
「おぉ。いいぜぇ。望むところだ!!」
 車内は相も変わらず険悪なままだった。
「いいだろう。外に出ろ。・・・橘。暫しの間居させてくれたことを感謝する」
 お互いにらみ合ったまま、外に出る二人。
『へぇ。・・・あの劉鳳が。珍しいな・・・・・』
 自分で外に出ろと言っておいてなんだが、あすかはまさか劉鳳が出ていくとは思わなかった。
 どうせ適当にあしらって出ていくのはカズマだけだと思っていた。
 そして、「感謝」の言葉。
『・・・やっぱり、変わったかな・・・』
 ホーリーにいた頃はもっと人を寄せ付けない。感情を露わにしない。そんな人物かと思っていたのだが。
「もっとも。僕はこっちの方が親しみが持てて良いですけどね」
 以前の、どこか冷たい印象の時よりはずっといい。
 それに意見をお互いぶつけないと分かり合えないこともある。
 ソレが喧嘩と言う手段は少し考え物だが、あの二人が穏やかに意見を交わす場面など気持ち悪いし。
 何か思っているだろうに、何も言わずにむっつり黙られるよりずっといい。
「と。言うよりも僕やこの車に害が及ばなければいいんですよね」
 そう言って橘は車のシートに深く体を預けた。


「・・・おぃ。何処まで行くんだよ。」
 イライラとカズマは先達している劉鳳に声をかける。
「少し黙っていろ。・・・ここらで良いだろう」
 小屋がかすかに見える位置で、劉鳳が立ち止まった。
「おぉっしゃぁ!じゃあ・・・・」
 アルターを発動させようと拳を上にあげるカズマ。
「断る。」
「あぁ?!!」
 気合い充分。いつでもきな。とばかりに力を込めていたカズマは肩すかしを喰らい脱力する。
「マジか?!じゃあ何でわざわざここまで来たんだよ?!!」
 当然の如く、劉鳳に詰め寄るカズマ。
「がなるな。貴様なぞ潰すのはいつでも出来る。だが。こんな近くでやっては水守やかなみの居る小屋まで音が届く。夜も遅い。もし寝ていたりしたら起こしてしまうだろう。」
 淡々と劉鳳が語る。
「それに橘もだ。あれは橘の車だ。オレは別にここで眠るので構わない。だが、それでは車という場所を提供してくれた折角の橘の好意を無にしてしまう。だからこうやって外に出た。」
 元々、劉鳳は外で眠るので構わなかったのだ。ただ、それを知った水守が不安げな顔になり、橘が「それなら」とフォローしてくれた結果だった。だがそれでは橘に気を使わせてしまいそうだし、劉鳳としては「喧嘩するならでていけ」と言った橘の言葉はとても都合の良いものだった。
「・・・だけじゃあないだろう?」
 詰め寄りながらカズマは不適に嗤う。
「・・・・なにがだ」
 嗤うカズマとは対照的に、劉鳳の表情は変わらない。
「とぼけんじゃねぇ。素直に言ったらどうだ?オレと一緒の空気は吸えませーん。ってな?」
 カズマが劉鳳の胸ぐらをつかむ。
「・・・この手を離せ」
「テメェの!その!何でも上から見てるような考え方が気にいんねぇんだよ!」
「上からだと・・・・?」
 劉鳳の眉間にしわが寄る。
「あぁそうだ。今日にしたって、今だってそうだ。テメェは。いつだって上からモノを見てやがる」
「俺には人を見下した覚えはない・・・!!」
 カズマの言葉につられてか。劉鳳の言葉に怒気がはらむ。
「じゃあ気付いていないのか?なおタチが悪いな。このお坊ちゃんは。」
 あざける様にカズマが顔を近づけて嗤う。
「・・・・貴様に。貴様に俺の何が判ると言うのだ!!!」
「わかんネェよ。あぁわっかんねぇ。敵を目の前にして戦う力を抜くような奴の考えなんぞはな!!」
「来夏木達との戦いのことを言っているのか?!あの時は村の人達が人質となっていただろう!!」
 激昂し、カズマの手を振り払う劉鳳。
「大体貴様。あの時は偶然上手くいったから良かったが!人質に傷でも付いていたらどうするつもりだった?!!」
「死ンでねぇじゃねえか。」
 ハッと鼻で笑うカズマ。
「それは結果論だろう!!」
「じゃあ言ってやる。死ンでなきゃかまわねーよ。俺には関係のない話だ。」
 淡々とカズマは言葉を紡ぐ。
「なんだと?!!」


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