「はっはっは…今日この瞬間を待っていた」
「なんか前にも似たようなセリフを聞いたような…」
コナン君の前に仁王立ちしているのは言わぬもがな浅見君だ。
「おりゃーなぁ本当は新撰組が好きなんだ!!だがなーーてめーが沖田なら味方につくわけにはいかねーんだよ!さぁーこい!言っとくがな、オレは3歳から剣道はやってんだ。てめーなんぞに負けるかよ!」
「もー浅見君、君は長州側なんだから沖田総司にやられなくちゃいけないんですよ?」
脚本&監督を兼ねている僕、円谷光彦の言葉も聞かず二人は竹刀を振り回している。
まったく、あれじゃただのチャンバラごっこだ。
本番もあの調子になりそうで怖いですよ。

今日で夏休み中の集まりは最後。
あとは9月中旬の文化祭まで授業の合間をぬって作業を続ける。
来年は3年に一度の合唱コンクールになってしまうから、中学の文化祭はラストということになる。



「成功するとかしないとか」ホントはどうでも


-04-







だいたい劇の形もできてきたし、大丈夫だろう。
コナン君は親が女優なだけに、演技も上手かった(しかし、コナン君はあの人は叔母さんだとか、年の離れた従兄弟だとか、遠い親戚だとか何時も言うことが違うので一体どういう関係なのか謎だ。まぁきっと母親なんだろう。苗字が違うのはいろいろあるんだろうということで勝手に納得しておく)。
運動神経がいいのと、誰かにしごかれたのだろう。
刀の振り方も避け方も足の踏み出しも男の僕が見てもかっこよかった。
出来上がった大道具は使っていない教室や倉庫に預かってもらえることになっている。
ただ、こちらはまだ三分の一が出来上がってないけど。

僕が気になっているのは女子の方だ。
っていうか、歩美ちゃんと灰原さん。
なんだか妙にぎくしゃくしている。
特に歩美ちゃんのほうがよそよそしい。
…何かあったんだろうか…。
まぁ敵同士の役柄だから妙に仲良しな雰囲気を出すのもあれだけど、たかだか文化祭の役作りにそこまでするとは思えない。
何かあったのか、と聞いても曖昧にごまかすだけ。

解散ということになり少しずつみんなが帰りだした頃、だだだっとBの教室に走ってくる女の子がいた。
「コナン君、まだいる!!??」
「…九十九さん…」
ちなみに、公立の学校にクーラーなんてものは存在しない。
彼女は汗をタオルで拭うと、赤いリボンを揺らしてコナン君に駆け寄った。
「よかったぁ、まだいて。ま、いなかったら家に行くつもりだったんだけどね♪」
「…なんか用?」
「今夜暇?」
にっこーり、彼女は微笑んで尋ねる。
「暇?ね、暇よね。暇じゃなきゃおかしいわ。一体全体何の理由があって暇じゃないっていうわけ?ね?」
「…はぁ」
押され気味のコナン君を見て、九十九さんは見とれてしまうほど綺麗な微笑みで言った。
「花火見に行こうvv」
「浅見爆発5秒前…」
「え?」
コナン君の視線をたどると教室のドアからクラスメイトに押さえつけられ強制的に出て行かされている浅見君が見えた。彼の声は廊下に響き、教室にも聞こえている。が、九十九さんは全く動ぜず続けた。
「今日米花町のお祭りで花火やるの。結構すごいらしいんだよー。知ってるでしょ?ね、行こうよ〜〜」
「彼氏と行きなよ」
「今フリーだもん。私はコナン君と行きたいって言ってるの」
「悪いな、今日は見たいテレビがあるか…」
「録画して」
「…生憎、ビデオ壊れて……」
「じゃ録ってあげる。ねぇー行こうよぉ。去年は旅行行っちゃって一緒に行けなかったんだもん〜〜。行く行く、絶対行くの!」

結果からの考察。
江戸川コナンは微妙に押しに弱いところがある。
まんまと約束を取り付けた(というより無理やり押し付けたというか…)九十九文乃嬢は満面の微笑みで教室を出て行った。
僕としては九十九さん登場からどんどん雲行きが怪しくなっている歩美ちゃんが気になってしょうがなかった。

「ったく…我侭なお嬢さんだよな…」
大きくため息をついて椅子に座る彼に僕は横目でつぶやく。
「コナン君がちゃんと断ればよかったんだと思いますけど」
「そんな隙全く無かったじゃねーか」
もう一度はぁとため息をつくコナン君を見てそれもそーだなとは思う。
それくらい九十九さんのテンションは高かったし、隙もなかった。
「あ、そーか。光彦、おめーも来い」
「え?」
「どーせおめーだって行くんだろ?多いほうがいいじゃねーか。あ、まだ外に浅見いるか?浅見〜おめーも祭り行かねーー??」
コナン君は廊下側の窓を開けると外でふてくされている浅見君に声をかけている。
僕は側にいる歩美ちゃんと灰原さんにも声をかけておいた。彼女たちを誘うのが当然になっていることを意識したことはない。
二人はお互い気まずそうに(どちらかといえば歩美ちゃんが、かな)ちらりと相手を見ると、歩美ちゃんが行くと呟き、灰原さんは考えておくと返事した。
元太君は訊ねなくったって当然来るだろう。
その他残っていた生徒数人と約束し僕たちは教室を出た。
都合のつく女子は全員来るというから…まったく。

灰原さんは図書室に寄るといって教室から一番近い渡り廊下で別館にある図書室に行ってしまった。
僕の前には帰りにアイスを食べに行く場所を言い合っている元太君とコナン君と浅見君がいる。
僕は、その輪に入れないでいた。
隣で歩く、歩美ちゃんが気になってしょうがなかったから。
何時もならデザートに一番詳しい彼女が率先して美味しい店に連れまわすのに、今日は彼らが一番近い駄菓子屋さんに決定したのにもかかわらず何も言わなかった。
「…歩美ちゃん」
「ん?」
彼女はすっと僕に笑顔を見せた。
でも、それは心からのじゃない。
何時もの彼女の屈託ない笑顔とは違った。
「何か、ありましたか?」
「…ううん。何もないよ」
「そう…ですか…」
僕はそれ以上、何も言えなかった。
そんなわけないことは、分かる。
でも、なんていって良いのか分からなかった。
ただ、黙って…隣を歩く以外、できなかった。










「おかぁーさぁん、浴衣どっちがいいと思う?」
「あら、お祭り行くの?」
「うん、クラスの子と」

結局白のひまわり柄と赤チェックの帯で家を出た。
お母さんがさしてくれたかんざしの金魚が揺れる。
かこんかこんと音がする下駄が重い。

本当なら、もっと…もっと楽しいはずなのに。
哀ちゃんと、コナン君と…光彦君や元太君。
ずっと一緒にいた友達。
なのに…今、こんなにも心が重いよ。

もう、やめたい。
コナン君をすっぱりあきらめれば、今までと同じみんなでいられる。
なのに、それができない…。
好きじゃなくなることなんて、できないよ。
でも、これ以上想いを募らせることは哀ちゃんを裏切ることになる?

「あ、歩美ちゃん!」
「…文乃ちゃん」
文乃ちゃんは綺麗な長い髪を頭の高いところでお団子にしてまとめていた。
白い小さな花の髪留めがバランスよくとめられてて可愛い。
浴衣も濃紺に淡く桃色が混じる白い花だった。
「歩美ちゃんの浴衣可愛いね。それ米花デパートで買った?私もそれとこれで悩んだんだぁ」
そう言って文乃ちゃんはくるりと回った。
後れ毛がふわっと揺れるのと同時に甘い香りがした。
「そうだよ。文乃ちゃんも可愛い。髪留めとお揃いの花だね」
「うん、バランスに苦労したんだぁ。あんまり付けすぎてもね〜」
ふふっ、と文乃ちゃんは微笑むと一緒に行こうと歩き出した。
「どーせ同じ待ち合わせ場所に行くんでしょ?」
「文乃ちゃん…知ってたの?」
「そりゃーねぇ、あそこで周りの女子が黙ってるとは思わなかったもん。あーあ、やっぱコナン君一人の時を狙えばよかったぁ」
文乃ちゃんは振り返ると、なーんてね、とおどけて笑った。
「ま、来年は二人っきりを狙えばいいのよ。今年のことを思い出話にしちゃうもんね」

文乃ちゃんはいいな。
いっつも明るくて前向きで…。
他の女の子から睨まれることなんて、全然気にしてなくて…。
私、欲張りなのかな。
コナン君だけに気持ちを向けられない。
哀ちゃんに嫌われたら、コナン君の事だって好きでいられないよ。
今だって、コナン君と同じくらい、哀ちゃんのこと考えてる。

…もし、コナン君が他の誰かと付き合ったら…文乃ちゃんはどうするんだろう…。

「あの、さ」
「ん?」
「…もし…もしもだけど…コナン君が誰かと付き合ってたら…文乃ちゃん、諦められる?」
「え?」
からんと、文乃ちゃんの下駄が鳴って止まった。
「もしかして…歩美ちゃん付き合ってるの?」
「え!!???」
私は予想外の文乃ちゃんの言葉にびっくりして顔を上げた。
「ハズレ?なぁんだ、コナン君が誰かと付き合うとしたら絶対吉田歩美だって予想ははずれかぁ…」
「な、なにそれ…」
「だって一番仲がいいじゃない?少なくとも私コナン君が女の子と話してるところ歩美ちゃん以外であんまり見たことないよ?」
「そ、それは…」
ただ、私がコナン君と一緒にいたくて…。
「それにコナン君が名前で呼んでるのって歩美ちゃんだけじゃない?」
私も文乃って呼んでもらいたいなぁ、なんてため息をつく文乃ちゃんの言葉も聞こえず呆然としてしまった。

…びっくりした。
まさかそんな風に自分が見られているなんて…思わなかった。
でも、そんなの、全然違う。
…人間って馬鹿だなぁ。
目に見えるものが全て真実だと思ってる。
ちゃんと、見てれば分かるはずなのに…。
コナン君が哀ちゃんには、すごく優しい目するってこと…。
コナン君が哀ちゃんを呼ぶ声は、すっごくあったかいことだって…。

何も知らない人たちに、お似合いだって言われたって嬉しくない。
見かけだけで、勘違いされたって嬉しくない。


「なーんて、それは周りの意見ね。私の意見はちょっと違うの」
おっと、話がそれちゃったと彼女は話を戻した。
「でも、もし誰かと付き合ってたりしてもコナン君言わないかもね」
「え?」
「だって、絶対女の子の方がひがまれちゃうもん。知らない?前に哀ちゃんが他校の子に彼女だと勘違いされて川に落とされたことあるらしいよ」
「嘘…」
「まー結構前の話だし、私も塾の友達に噂でちらっと聞いただけなんだけどね」
知らなかった…。
そりゃ、コナン君は…もてるし…。
他校に子からも告白されてるとこ、見たことあるけど…。

それが原因…だったの…?

「今ンとこ、この学校でひがまれないっていったら歩美ちゃんぐらいよ、きっと。他の子じゃ黙ってないだろうなぁ…」
「そんな…」
「少なくとも、私はもーーこてんぱんよ。この前だってA組の女子に睨まれちゃったし。灰原さんが勘違いされたときだって、耳ざとい一部の女子だったけど怖かったよー。あんな何考えてるかわかんない女認められない!とかいってさー」
肩を竦めて言う文乃ちゃんは男の子には絶対向けないような呆れた顔でまるでそこにその女の子たちがいるかのようにべーっと舌を出した。

「歩美ちゃんはどんな子とも仲良くできるじゃない。明るくて優しくて、男子の前も女子の前も同じ態度だし。好感度NO1!って感じだもん。私にはできないなぁ〜。あんまりみんなで仲良くーって柄じゃないもん」
両手を後頭部にあててはぁとため息をつく文乃ちゃんの後ろをゆっくり歩いた。

彼女の言う女の子がとても自分のこととは思えなくて変な感じだ。
そんな、そんな可愛い子じゃない。
本当は、どろどろで。
いっつも誰かに嫉妬して…。

「あ、気悪くした?聞いただけじゃ、漫画のヒロインみたいでかえって嫌味な女って感じに聞こえるもんね」
私はどう答えて言いか分からず、ちょっとだけ首を傾げた。
「だけど歩美ちゃんはね、実際話しててもそう思うよ。ああ、いい子だなぁって誰にでも思わせちゃうの。それってすごいと思う。100人いて100人が同じ風に思うなんて保障はしないけど、でもね、同性には厳しい私でもそう思うんだからびっくり」
そして、遅い私を待つように振り替えると微笑んだ。
男の子にしか見せない、最上級の微笑み。
「だから、羨ましい」
「そんな…」
文乃ちゃんに、そんな風に思われてたなんて…。
全然思わなかった。
変なの。
私だって、さっき文乃ちゃんが羨ましいって思ったばかりなのに。

「コナン君ってさ、なんか他の子と違うよね」
「え?」
「っていうかさ、みんなの王子様なのよ。見てるだけで十分なの。なのに、彼に特定の彼女が出来るのは気に入らない。ずっと皆の憧れでいて欲しいって思うわけ」
「…そっかな…」
「気づいてない?コナン君好きって女子はいっぱいいるけど、告白してくる女子ってほとんど他校の生徒なんだよ。なんかね、うちの学校の子達はもうお互いで誰かのものになっちゃうのを阻止しているっていうか…」
「ふーん…」
「それっておかしいじゃない?好きって言えるの?そんなのテレビのアイドルで十分よ」
「…うん」
「好きだったら想いを伝えなきゃ。じゃなきゃ、はじまんない。せっかく言葉を交わせる距離にいるのに見てるだけなんて馬鹿みたい」

ゆっくり、お祭りの音が聞こえてくる。
ちょうちんの明かりが、ぼんやり浮かぶ。
だんだんと溶けるように、夜が落ちてくる。

「私、歩美ちゃんは違うなって思ってたんだ」
「何が?」
「歩美ちゃんは、ちゃんとコナン君を一人の男の子として好きでしょ」
「…え?」
「だからライバルって認めてるんだ〜。私ライバルには優しいの」
「なにそれ〜〜」

なんだろう、いつもはコナン君の話をする文乃ちゃん苦手だったのに。
今日は…なんだか、少しだけ嬉しかった。
他の人から言われて認識するなんて可笑しいけど、ちゃんとコナン君のこと私は好きなんだって認めてくれる人がいることが…。

「あとはね、哀ちゃんよねーー。哀ちゃんって読めないのよね」
「…去年の体育祭のことでは何ともなかったの?」
「あ、借り物のこと?そーいえばなんなかったなぁ…。二人とも特に急接近したわけでもないし。第一、あの二人あんま喋ったりしないじゃない。よっぽど歩美ちゃんのほうが仲良く見えるもん。それに、…なんだっけかなー。何か他にも理由あった気がするだけど…忘れちゃったわ」
「そうなんだ…」


「でも、時々コナン君って…」
「ん?」
「哀ちゃんのこと好きかもなぁって思う」


ああ、そっか。
やっぱり文乃ちゃんも、コナン君のこと好きなんだなぁ。
ちゃんと、見てるんだ。

何時もただ単純にアタックしてるって思ってたけど…。
文乃ちゃんだって、色々考えたり思ったりしてるんだ…。

「わかんないけどね」
「…うん」

少しだけ、自分だけが知っている後ろめたさを感じながら少しだけ早歩きで文乃ちゃんの隣に追いついた。

「で?誰なのーーコナン君が好きな子って」
「…そんなこと、言ってないもん」
「大丈夫だよぉー私口堅い方だよ?それにコナン君が今誰が好きだろうが付き合ってよーがあんまり関係ないしね」
「え?」
「だって、どーせ私と付き合うことになるから」
「はぁ…」
「だぁってー漫画じゃあるまいし、くっついたら二度とは離れないなんて保障どこにもないじゃない。結婚したって離婚するのよ?たかが中学生、諦めるのは早いと思うけど?」
それとも、もう歩美ちゃんは諦めちゃったの?と彼女は少しだけ意地悪く言った。
「諦めてなんか、ないもん」
「じゃ、頑張ろうよ。暗くなってる暇なんかないよ。自分の気持ちに素直になんなきゃ肌に悪いわ!」
一体どこからこの自信が出てくるんだろう…。
私は、好きな人に好きな人がいるって苦しい。
両思いなら、余計。

「文乃ちゃんは辛くないの?好きな人に好きな人がいたら」
「ん?だって、試練は大きい方が燃えちゃうもの。好きな人がいるって幸せよ。こんなに夢中になれる人がいるってなかなかないわ。振り向かないなら、振り向かせる。その為に、自分を磨くでしょ?そしたらもっと綺麗になれる。自信が持てる」
「それでも振り向かなかったら?」
「押し倒すわ!」
「あたっ」
思わず転びそうになった私を文乃ちゃんがとっさに支えてくれた。
「ごめんごめん、歩美ちゃんには刺激的すぎた?」
「〜〜〜もう〜」
「ほら、急ごうよ。コナン君来ちゃうよう」

文乃ちゃんは本当に楽しそうに、微笑んだ。
私も、コナン君の前であんな風に笑ってるのかなぁ。
哀ちゃんが、コナン君と一緒の時だけふと見せる微笑みたいに…。

好きな人のためにしかできない、微笑みを。


でも、うん。
そうだよ、好きだもん。
諦めるなんて早いよ。
コナン君が、哀ちゃんが好きでも。
哀ちゃんが、コナン君を好きでも。
私がコナン君を好きなことは変わんない。
哀ちゃんのことが大切なのも、変わんないよ。

ねぇ、そうだよね。
コナン君が好きなら、好きでいてもいいよね。

諦めるなんて、早すぎる。
まだまだ先は、長いんだから!