● シーンI
「ベクトルシグマが狂った!」
「それはいったいどういうことです?司令官?」
コンボイは銃を取った。
「いや、今は説明している暇は無い。最下層へ行く。ベクトルシグマを押える」
「しかし」
「危ない!」
いきなりコンボイはウルトラマグナスを突き飛ばし、天井に向けて発砲した。
指令室の天井に備えられていた対侵入者用のスタン・レーザーが白煙を上げている。
「くるぞ!」
司令官の檄に一同はすばやく反応し、銃を構える。
天井一面にスタン・レーザーが出現するのはほとんど同時だった。
指令室内の対侵入者用設備との戦闘はものの数秒で終わった。
局地的勝利を収めた一同を前にコンボイは宣言する。
「諸君。見てのとおり非常事態だ。ベクトルシグマは狂気に陥り、われわれを敵と誤認している。これを放置すれば惑星全土に広がる恐れがある。なんとしてもベクトルシグマを押える。」
「しかし、どうやって」
「彼を・・・破壊する!」
● シーンJ
セイバートロンの地表を疾走する真紅のスポーツカー。
ホットロディマスの新しいボディだ。
チャー、アーシー、ロードロケットらが続き上空からはエアロレード、スプラングも続く。
「まてよ!」
「どうしたというんじゃ?ロディマス」
「どうしたもこうしたもないよ、チャー」
「コンボイ司令官が無事だという知らせに何か問題でも?」
とスプラング。
「そうだ」
「何があった?」
「・・・コンボイ司令官が無事でいるはずは無いんだ!」
「いったいどういうことなの?」
「あれは・・・」
● シーンK
<狂気の惑星@>
・・・銀河の中核でわれわれはあの奇妙なエイリアンに遭遇したのだった。
銀河の中核、そのほぼ真ん中に位置するところに、漆黒の空間が感知された。
解読不能の言語系ではあったが、ある種のメッセージ性を推測することの出来るシグナルが、その外縁に位置する小惑星から発せられていることをわれわれは突き止めた。
それは救難信号と思われた。
急行したわれわれがその星で見たものは・・・。
最初に惑星に下りたのはアイアンハイドだった。
「気をつけろよ、アイアンハイド」
「わかっているさ、おまえさん、案外心配性だな、ロディマス。若者はもっと無鉄砲でいいくらいだが?」
「時には慎重さが大切なこともあるってことを学んだだけさ」
・・・上空から都市があることが分っていたし、相応の文明を持つ知的生命体の存在は疑いない状態だった。しかしわれわれがやがて到達したそこは、まるで廃墟のようだったんだ。
「誰もいやしない」
「おかしいな。これだけの規模の都市で住人に出くわさないとは・・・」
「おい!今、何か動いたぞ!」
「どこだ?」
アイアンハイドの指す方に確かに人影が見えたように思えた。
その影を追って、都市の深部に進んだわれわれを待ち受けていたものは・・・
●シーンL
<狂気の惑星A>
「まるで廃墟だ」
「しかしそう古いものでもないようだが・・・」
異文明の都市の調度はギラギラとした光沢を保ち、時間の流れに朽ちた遺跡とは思えないものだった。
「あら不思議。いったいどこへ行っちまったんだろうな?」
「茶化すなよ」
「なんだよ」
「あ、あれをみろ!」
いつの間にか林立する建築郡を抜けたわれわれの前に急に開けたスペースが現れた。
都市の中心部に位置する。
奇妙な場所だった。
円形のスペースは中央にむかって落ち窪んだすり鉢状になっており、中心部には丸く盛り上がった高台があった。
・・・広場か、集会場のようなものと思われた。
そこに、エイリアンと思しきものたちが折り重なるように倒れていたのだ。
何百、あるいは何千のものたちが倒れている。この都市に住人に違いなかった。
すばやく駆け寄ったのはアイアンハイド。
「おい、いったいどうしたんだ?」
「まて、アイアンハイド、危険かもしれん」
警告を発したのはパーセプター。
「おい!皆、あれを見ろ!」
トレイルブレイカーの指差す先、広場の中央のせりあがった台の上に一人立ち尽くしているものがあった。
有機的な外皮に覆われたそのエイリアンは老人に見えた。
「おまえは何者だ!?」
コンボイ司令官の声にそれは応えた。
「・・・待っていた・・・」
憔悴しきったうつろな声だった。
「待っていたよ、『門を預かる者』よ・・・」
「答えろ、おまえは何者だ?何があった?」
「私の名にもはや意味など無い・・・破滅の前に・・・すべては・・・」
「この有様は!おまえがしたことなのか?」
「わたしが?・・・そうだ、私の行いだ・・・。私の・・・私の意志?・・・そのようなものがあったのだろうか・・・?すべては破滅の意思の下・・・すべての事象は闇に通じる・・・わが行いのすべては、ただ、『破滅の種子』を育てるためだけにあったとは・・・」
「司令官、やつはココがおかしいに違いないですよ。ブレインサーキットにパン屑でも詰まらせたに違いない」
「いや、危険です。やつにはただならぬ気配があります」
パーセプターの言葉にコンボイも頷く。
「あんたいったい何者なんだね?」
とパーセプター
「・・・奴隷よ。・・・哀れなるかな隷属するほかに存在を見出しえぬ憐れなもの・・・供物を捧げるほかになにができようか・・・」
「やっぱりやつは頭をやられてる」
「何があったんだ?」
「もはや言葉は意味を持たぬ・・・そしてすぐに知ることとなる。これを・・・」
その手に奇妙なケースが握られていた。
中に漆黒の球体が収められている。
漆黒の、光りさえも逃さぬブラックホールの光沢を具えたおぞましい黒い球体が!
「ようやく解放される・・・これで・・・」
かつてプリマクロンとよばれたそのエイリアンは黒い球体を高々と掲げた。
「気をつけろ!」
コンボイは警告を発したが、何が起こるのかわからなかった。
奇妙なことだが、黒い光がほとばしったように思えた・・・。
それは一瞬の出来事であった。
「・・・なんだ?何が起こった?」
「なんともないな」
一同、自分のボディを確かめる。特に異常は無いように思われた。
「まやかしか?」
「何か光ったようにも見えたが・・・」
そのときゴールドバグが声を上げた。
「みろ!やつがいない!消えちまった!」
壇上にいたエイリアンは忽然と姿を消していた。
「・・・いったいなんだったんでしょう?司令官」
一同はコンボイ司令官を顧て、このとき初めて異常に気がついた。
「司令官?」
コンボイのオプティクセンサーは大きく見開かれ、アイアンハイドの言葉は届いていないようだった。
「司令官!」
再度呼びかけたアイアンハイドが歩み寄り手を伸ばした次の瞬間
太い腕がその首をつかみ、ねじ上げた!
それはほかならぬコンボイの腕だった!
「ぐ・・・し、司令・・・官・・・な、なにを・・・」
アイアンハイドが片手で吊り上げられる。
ゆっくりと顔を上げるコンボイ。
その眼に異様な光が宿るのが見て取れた。
「や、やめてください!司令官!」
一同騒然となる。
しかしコンボイは答えない。
そうしている間にアイアンハイドは動かなくなった。
混乱から恐怖が蔓延するのに何秒も要らなかった。
コンボイを包囲し、銃口を向ける。
エフェクトロはかろうじて一同を制した。
「どうしたんです、司令官、落ち着いてください!」
コンボイのうつろな眼がエフェクトロに向けられる。
「われわれにあなたを撃たせないでください!これ以上するなら・・・わ・・・われわれも・・・」
エフェクトロの言葉が途中で途切れる。
エフェクトロは頭を押え、何かに必死に抵抗するように見えた。
しかし、銃を向けた右腕がゆっくりと下り・・・オプティクセンサーが二三度明滅すると、その場に崩れるように倒れこんだ。
「エフェクトロ!」
驚愕する一同
コンボイがゆっくりと視線をめぐらせ、一同を睥睨すると声を上げた他のサイバトロンも次々に、言葉も無く倒れてゆく。
・・・何が起こったのか、誰も分るものはなかった。
ただ一人、コンボイを除いて。
ロディマスは後ずさる。
後ずさるロディマスの前で最後のサイバトロン、オートボルトが昏倒した。
コンボイがゆっくりとロディマスを見る。
「コンボイ司令官!」
そのときコンボイから言葉が発せられた。
「・・・ロ・ロディマス・・・に、逃げろ・・・」
「!?コンボイ司令官!正気に戻ったのですか!?」
「私にはすべてが分った・・・もはや・・・これしかない・・・。ロディマス、この危機をセイバートロンに知らせるのだ・・・」
「コンボイ司令官!」
「破壊が・・・破滅が・・・来る。・・・『プライマス』・・・。伝えよ・・・」
●シーンM
<疾走するホットロディマス>
・・・ホエールに走るオレの背後ですさまじい声が上がった。
そして、黒い霧のようなものがどっと押し寄せてきたのだ。
俺は走った。
ただ一心に。
知覚センサーはまったく正常に機能していたが、一切の感情が麻痺していた。
何も考えられなかった。
ボディだけがまるで他の誰かのそれであるかのように黙々と正確に稼動してた。
俺のボディはホエールにたどり着き、俺を脱出艇にもぐりこませ発進させた。
・・・俺にはわかっていた。
あれは・・・コンボイ司令官の断末魔の声であったと・・・