古本屋と出版文化

 最近マンガ家の皆さん方が「21世紀のコミック作家の著作権を考える会」なるものをつくって、「ブックオフ」をはじめとする新古書店、およびマンガ喫茶に対する抗議の声明を出したそうだ。小生はこれをコンビニでたまたま立ち読みした雑誌でちらりと見ただけだが、乱暴に要約すると「古本屋でマンガが流通するようになったり、マンガ喫茶でマンガが読まれるようになると、マンガ家に収入が入って来なくなり、世界に冠たる日本のマンガ文化の衰退につながる」というものらしい。

 小生にとってこれはなかなか痛い問題である。確かに、マンガ家という稼業はヒットすれば長者番付にも名を列ねることができるほどの収入を得られるが、そのような人はほんのごく一部であって、ほとんどの人はろくに収入も入らず、しかも執筆活動に追われて睡眠時間すらろくにとれないという劣悪な環境で仕事を続けているというのは事実である。その意味で、さらに中古の書籍が流通して印税が入ってこなくなったらおまんまの食い上げだ、こんなことになったらマンガ文化が衰退する…というのは理解できる。

 しかし、そうは言っても小生自身、この手の古本屋はけっこう利用してきた。実際問題、すでに単行本が十冊以上にもなっているマンガのシリーズを買いそろえようとすると、出費がけっこうかさむものである。(ちなみに小生は本屋に寄っていろいろ立ち読みをするのが好きだが、もしこれらの本をみんな買っていたら、小生の家計は破綻し、部屋は書物の山で身動きが取れなくなるに違いない。)さらに厄介な例もある。本屋で「このマンガおもしろそうだな」と思ってマンガを買ったところ、つまらなくて「金返せ〜」と言いたくなった経験は多くの方がお持ちなのではないだろうか。(うう、ビニールがうらめしい。)しかしこれが古本だったら、つまんなくても金銭的なリスクを小さくおさえることができる。もしこれがおもしろければ、続きの巻を買いそろえていけばいいわけである。でも厄介なのは、実際に「このマンガ、ヒマつぶしや息抜きにはいいだろうけど定価を払ってまでして読む価値はなさそうだしなあ」というのが実際にあることだ。(マンガ家の先生のみなさん、ごめんなさい!)

 それに、「古本屋」というものの効用は、本を安い値段で手に入れるということのほかに、今ではなかなか手に入らないような絶版本やマイナーな本、小出版社の出した本をを手に入れることができるということもある。実際、出版不況とかなんとかいいながら、今でも毎日膨大な量の書物が出版されているが、これらのほとんどはたとえ一時的には話題になったものであっても、すぐに店頭から姿を消してしまう。だいたい、書店などというものは、都心にあるような大形書店以外、売れ筋の本くらいしか置いていないようなものである。小生自身、古本屋を徘徊してみて掘り出し物を手にすることはままある。(この点は中古ゲーム屋についてもいえることである。)

 なお、「考える会」はマンガ喫茶も問題にしているが、小生はマンガ喫茶というところに行ったことは今まで数回しかない。というのは、やはりほんとに面白い、そして読みたいと思うマンガは実際に所有して本棚に飾っておきたいと思うからである。しかし、マンガ喫茶で読むのがいけないのなら、公立の図書館はいったいどうなるのかねえ。まあ小生も、ベストセラーになっている本にリクエストが殺到して順番待ちになってるなんて話を聞くと、たかが数千円の本くらい買って読めよなどと思ってしまうものだが。

 そもそも「マンガ文化の衰退」なる現象が本当に起きているのかどうか、小生にはいまいちわかりかねる面がある。しかし仮にそうだとしても、その責任を新古書店やマンガ喫茶になすりつけるのは少々筋違いなところもあるのではないか。今どきのガキはゲームだのケータイだのに金を使うのでマンガに使う金がなくなったとか(余談だが、「親のスネをかじってるやつはケータイなんぞ持つな」というのが小生の持論である。)、近ごろのガキの知的水準が低下していてマンガすら読みこなせないような人が増えているとかいろいろ言われているが、確かにそう思いたくなるような面があるのも事実である。しかし小生自身の感覚から見ると、マンガの中にワンパターンな作品、内容の薄い作品が増えてきて、心に残るような作品が減ってきたというのも事実である。これは小生が大人になってマンガなんて卒業…ということもあるのかもしれないが、安易に作品を粗製濫造してきたということもあるのではないか。むしろ、このような古本屋で手軽にマンガに触れることによって、マンガに対する興味か関心を持つ…なんて子どもが出てくることだってあるかもしれない。

 以上、「考える会」の主張はわからないでもないがちょっと言い過ぎではないか…という意味のことを言ってきたが、だからといって新古書店を肯定しているわけではない。小生もこういう店にマンガを売りに行ったこともあるが、このときの値段は一冊数十円とかそういうのだった。このとき、これを何百円かで売るなんて、あこぎな商売してるよなとか思ったものである。また新刊本を読んですぐに売り飛ばすというのは、本好きな人間としてさすがにどうかと思わざるを得ない。

 以上いろいろ書きましたが、この問題についてのみなさんの意見を聞かせていただければ幸いです。

(2001年5月19日)

(5月22日追記)

 今日の『朝日新聞』夕刊によると、「書店で本の万引き被害が深刻化している」そうだ。この記事によると、被害金額は年間で1店平均約70万円、つまり1日あたりおよそ2000円というから穏やかではない。

 しかしその理由が「『新古書店』が登場し、本の換金が容易になったことが原因」というのは…いくらなんでもあてつけではないかという気がしないでもない。小生が書いたように、新古書店に売ったって大したカネにはならないわけだし。昨今言われている青少年のモラル低下なんていうのもあるかもしれないが、新古書店も発売から数カ月以内の本は買い取らないくらいの措置は必要ではないか。


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