バーチャルリアリティー

「もしドラえもんが何か道具をくれるというのなら何がいいか」ときかれたら、おそらく「タケコプター」「タイムマシン」「どこでもドア」「もしもボックス」あたりをあげる人が多いのではないだろうか。小生もそれらのものはほしいが、日ごろ暮らしていて「ほしい」と思うことが多い道具は「タイムふろしき」「タンマウォッチ」「録験機」の3つである。「タイムふろしき」があれば壊れたものや古くなったものも元通りにして使えるし、「タンマウォッチ」があれば朝起きづらいとき、仕事中疲れたときや眠くなったときもへっちゃら…というのがその理由だが、ここでは最後の「録験機」について考えてみたい。

「録験機」というのは、ヘッドホンのようなものをあててカセットを再生させればカセットに収録された体験をそのまま再体験できるというものである。早い話が「バーチャルリアリティー」という最近はやりのことばを御手軽に体験できるというものだ。

 ではなぜ小生はこれがほしいか…というと、「記憶」とか「経験」なんてものはあやふやなものですぐに忘れてしまうものだからである。特に小生はあちこちに旅行に行っているが、そのとき確かに感動したはずの経験や風景であっても、あらためて帰ってからこれを旅行記にまとめよう…なんて思っても記憶があやふやで書けなくなってしまう。あと、美術館に行って絵や彫刻を目にしたときにも同じことを感じる。小生はこんなとき、「ドラえもん、録験機を出してくれ!」と思ってしまう。

 しかし…、ここでちょっと考えてみた。もしこんな道具が実際に発明されたら、人間の生活はどう変わるだろうか。旅行に行って見た景色を御手軽に追体験できる…なんていうのなら、そのうちに「旅行体験ソフト」「温泉ソフト」「森林浴ソフト」なんてものが売り出されているかもしれない。そしたらその値段がいくらになるかわからないが、わざわざ遠くの目的地に行くためだけに乗り物代や宿泊料に大枚をはたくことはないし、高度な技術がなくても遭難の危険にさらされずにヒマラヤや南極、深海の景色を実体験することもできる。高度なドライバーズテクがなくてもF1の運転士になれるし、さらに今では絶対に体験できない過去の出来事だって体験できるかもしれない。

 …こういろいろ考えると楽しそうだが、こうなってくるとほんとにいいんだろうか?と思ってしまう。もしそうなったらだれも旅行なんか行かなくなって運輸業や旅館業は廃業…なんてことになるかもしれないが、あるいはあやしげな宗教団体がこの機械で神様だの地獄だのを見せて人々をマインドコントロールする…なんてことだって起きるかもしれない。

 それ以前の問題として、このような方法で旅行のいい部分だけをつまみ食いするというのもなんか違うような気がする。やはり旅行というのは、なけなしの金をはたいて手間ひまかけて目的地にたどり着くというプロセスの方に醍醐味があるというのが小生のかねてからの考えだが、もしこうやって自分の部屋で旅行を楽しめる…なんてことになったら、感動もあまりないのではないか。

 そしてこれは、最近いわれている「バーチャルリアリティー」似ついて考える上でも大切なことなのではないか。小生なんぞはむしろ「バーチャルリアリティーのせいで他人の痛みがわからない子どもが増え、そいつがいろいろ問題を起こしている」などと短絡的なもの言いをされると反撥を感じる者だが、こういったことを考えると「録験機」なんて道具はできない方がいいかもしれないと思ったりもする。

 ところで…あなたはもしドラえもんがいて、何か道具を出してくれると言うのなら、どんな道具が欲しいですか? もしよろしければ、掲示板にでも書いておいて下さいませ。

(2001年3月2日)


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