手料理 @ 「アーチャー。ご飯」 「…………凛、前々から言おうと思っていたことなのだが」 「なによ」 「君は、自分で作ろうとは思わないのかね?」「ないわね」 「む。なぜだ。台所を見る限りでは別に作れないわけでもなかろうに…「イヤよ」……まて。私は理由を聞いているのだが」 「イヤったらイヤ!! なにがなんでもイヤ!! あんたのじゃなきゃイヤ!! ……って………………………「……ふむ?」………………………えぇ、っと、その…」「ふむふむふむ」 「………なによ」 「いやなに。よもや君がそこまで私の料理を賛美していたとは思いもよらなかったのでな。 ふむ。普段からこのように素直だと作り甲斐もあろうというものだが」 「なっ! ち、違うわよ!!」 「む。では君が作るかね?」 「……それだけは、絶対にイヤ」 「では私が作るしかなかろう。ああ、君が素直でないことははじめから知っている。気にするな」 「ち、違うわよっ!!」 「なにが違うと? ……それとも外で食べると言い出すのか? 君は。それは正直感心しないぞ」 「そんなこと言わないわよ。あまりにも迂闊な行動だし、なにより美味しくない物にお金払うなんて無駄な事だわ」 「うむ。それに栄養も偏るからな。ではやはり私が作るしかなかろう? 君は私の作ったものしか食べたくないようなのでな」 「…だから、そんなこと…………っ」 「ではなんだと? というより、らしくないな。なにをこだわっている?」 「だから、別に、あたしが作りたくないだけで! あんたは大人しく作ってりゃいいのよ!!」 「……君な。そういわれて大人しく作ると思っているのか?」 「う、うるさぁい!! いーから作ってりゃいいのよ!! ていうか作れ!! 命令!! あたしは絶対にご飯つくんないんだからぁ!」 「………く。まぁいい、承伏しよう。 だがなぜ、そこまで君が作る事にこだわる? 以前は作っていたようで、は……………」 「…ちょっと、なんでそこで黙るのよ」 「凛。もしかして、とは思うのだが、君……」 「……な、なに………イヤ! チョット待って聞きたく「もしやと思うのだが。君、まさか私と料理の腕勝負だのなんだのといった事に拘っているのではなかろうな?」ってキャーーーーーーーーーーっ!!!!」 「なななな、なんて事言うのよ馬鹿!!//// ……ってあれ? アーチャー? なんであなたそんな目をして遠くを見てるの?」 「……………イヤ。なんでもない。なんでもないぞ。凛。」 +++ 負けるのも悔しいけど、それ以上にアンタのご飯が食べたいなんて事だけは言わない。絶対に。 A 「あれ? アーチャー?」 いつもよりはやく目が覚めてしまった日。いつも通りに朝食を用意しようと台所に入った途端に、赤い外套が目に入った。 「衛宮士郎か。ああ、勝手に台所を借りているぞ」 振り返らずに手早く手に持っていたらしいオレンジの皮を剥き、その果汁をコップへと注いでいく。 こいつがこんな所にいるなんて、珍しいな。……て言うか手際いいな、こいつ。く。なんかちょっと悔しいかもしれない。 「いや、別にそれはいいけど。なんだ?それ、遠坂にか?」 「ああ。今朝方まで無理をさせてしまったのでな。何か少し胃に入れた方がいいと思ってな」 「ふぅん。じゃああいつ、これから寝るのか?」 「ああ。そんなわけだから衛宮士郎。凛の分の朝食は今日はパスだそうだ」 「判った。でもなんであいつ、そんなに無理したんだ?」 確かに朝はべらぼうに弱そうだけど、どうやら今から寝るようだし……って。あ、もしかして俺の魔術のせいか?だったら後で何か俺も作った方がいいのかもしれないな…… 「…ふむ。衛宮士郎。残念だがおまえの考えていることが原因ではないぞ。安心しろ」 あ。そうなのか。なら……ってちょっと待て。 「なにが残念で安心なんだ? というか、そもそも遠坂の徹夜の原因はなんなんだよ」 わけわからんから説明しろ。という言葉を言外に込めてアーチャーを睨みつけたらこいつは微かに口元を歪めてこう言いやがった。 「ああ、私に朝方まで料理されていたのでな」 …………………………………………は…………………? 「そういうわけだ。衛宮士郎。よかったな。セイバーを裏切る事にはなりそうにないぞ」 +++ 士郎的にはよかったの悪かったのか微妙な所(剣ルート前提 B 「………あーちゃー。なんかのみもの………」 「判っている、凛。なにが良い? 声が嗄れているようだが、紅茶でよいのか?」 朝方。陽もまだ登り切らぬ頃。 微かに掠れた声を出しながら凛と呼ばれた少女は少しばかり考えを巡らせながら 「ん〜……牛乳がいい。でなきゃ、おれんじじゅーす………」 「承知した。少し待っていろ」 「………ん、はやくね」 「ああ。だからまだ寝るなよ。持ってきても君が寝ていたのでは話にならないからな」 言外に寝る前に何か口にしろ、と彼女のサーヴァントはいう。 「………誰のせいだと思ってんのよ……」 眠そうに目をこすりながら凛は不満そうにアーチャーを睨みつける。ただ、その目にはいつもの力がなかったが。 「ふむ。それは失礼した。ああ、だが凛、」 「なによ」 「やはり君の躯は砂糖でできているのではないか? 君の躯はどこを舐めても甘いのだが」 数分後、自身の主人から魔力が尽きるまでガンドを打ち込まれて部屋の隅で転がっている使い魔が遠坂邸で見つかった。 +++ 料理しつつされつつ。 いたづら @ お風呂上がり。温かいお湯に包まれて幸せ気分満載極楽気分満載で居間に入ってみれば。 「…………凛」 ものすごい仏頂面で私の 「…なによアーチャー」 「君な。いくら自分の家だからとはいえ、少しだらしがないのではないか? せめてきちんと服位着たらどうなんだ」 問われて自分の格好を省みてみれば、白のシャーリングキャミに同色のホットパンツ。肩には湯上がりらしくバスタオル。 「なによ。別にこれくらい普通でしょ? それともこれから寝るっていうのに普段着にしろっていうわけ?」 「そこまでは言わぬが、それなら大人しく夜着にでも着替えればよかろう? ああそれと、髪もきちんと拭け。それで彷徨くと床が濡れる」 あからさまにつかれる溜息と共に伸びてきた手とタオルで頭をわしゃわしゃとかき回される。ナニコレ子供扱い? 「るっさいわね。ドライヤー使うと暑いからイヤなのよ」 それに一応バスタオルは羽織っているんだから文句を言われる筋合いはない筈だ。 「……それともなに? あんた、ただ単に私がこーゆー格好するの、イヤとか言う訳?」 士郎みたいに動揺でもしてくれたら面白いのにとか、逆にはしたないとか言ったらはっ倒してやるとかそんな事思いながら口端を微かにあげて笑う。 もっとも、こいつが動揺なんて可愛い事してくれる訳無いんだろうけど。 「─ふむ。そうだな。確かにあまり好ましくはないな」 顎に手を当てて普通に頷くアーチャー。 ていうか言いやがったこいつ。軽い戯れのつもりだったのに。 瞬時に切れた感情の糸のままに顔を上げて拳を握りしめたらいつの間にかアーチャーの手が腰にあった。顔も、なんか近い、様な…… 「ああそれとな。せめて白はやめておけ。濡れて張り付いた様はあまり君にとっては良い物ではないと思うのでな」 ───ワルイアソビを したくなるだろう? +++ 結局アソボウと思ってアソビ返された。とかなんとか。 A 「…………暇ね」 「…………凛」 「ああもうすっごく暇だわ」 「あのな、君はいったい何を考えているんだ」 「どうしてくれようかしらっていうくらい暇でしょうがないわ。ああもう本当、暇すぎてイライラするわ」 「…凛。君、私の話を少しも聞く気が無いだろう…」 溜息と共に、後ろから声が聞こえる。 「いやねアーチャー。私そんなに狭量に見えるのかしら。ちゃんと聞いてるわよ?」 「ならば少しは反応位したらどうなんだ。だいたい、今の状態で暇という方が馬鹿げているとは思わないのか。もしくは巫山戯ているのか?」 時は夜。場所は新都。周りに目をやればビル群よりも先に骨で出来た兵士の方が目にはいる。むしろほどそれで視界が埋まる。おそらく僅かな隙でも見せればおそってくるであろう敵の傀儡達。動かないのはただ単にこちらも動いていないからだ。 「馬鹿げてもふざけてもいないわ。あなたの言葉、きちんと一言一句漏らさずに聞いて覚えているもの。私、記憶力は自信有るのよ?」 「そんな事は知っている。ではなく、少しはこの状況を打破する方法でも考えたらどうなんだ。それを君はさっきから『暇だ暇だ』と。 何を考えているのかさっぱり私には判らんよ」 「…なら少しは考えたら? いっとくけど私、手を出すつもりはないわよ。貴方一人でなんとかなさい。 それともアーチャー、貴方これくらいも出来ないで私のサーヴァントとかいうわけ? それでよく『後悔させてやるー』なんていえたモノね」 「む。それこそ巫山戯るな。私がこれしきの奴らに手こずる訳が無かろう。文句を言いたいのは君の態度だ。敵地においてその態度は些かどうかと私は言っているのだ」 「そっちこそふざけないでよアーチャー。打破なんて言葉、雑魚相手に使う方が無駄ってもんでしょ」 なんの感情すら写さずに。ただ淡々と彼女は告げる。事実だから。事実だけを。 なんの感情すら写さずに、青年は蕩々と言葉を紡ぐ。真実にして。唯一の事を。 「だったらな、君。私の外套で遊んでいるその手を離してくれないかね? 動けないのだが」 「あなたこそ、私の髪を遊んでいる手をそろそろ離してくれない? それと解いたリボンも戻してくれると嬉しいんだけど」 +++ 実はお互いに暇なので悪戯ってましたというオチは不可ですかそうですか B 「命令よ。アーチャー」 「む? なんだねマスター。私に出来る事ならば出来る限りの力を以て応えよう」 「今後この家の中にいる時は普通の服を着る事。でなきゃ執事服」 カキンと音を立てて空気が凍ったのは気のせいではない筈だ。 「……………………………………なぜ?」 しかもかかってくる重圧は、まごう事無く本物であり、 「なんかチョット気分転換。あ、大丈夫よ服ならちゃんとあるから。古いけど父さんのとか昔協会から派遣された召使いのが」 さらにソレは本気を示すものでもあり。 おまけに告げる主人の目は、戯れも多分に含んでいたが令呪に縛られた身分としては断れる筈もなく。 「………承知した。地獄に堕ちろ、マスター」 瞑目してようやく告げた言葉に主人である少女がとても楽しそうに笑んだときは本気で逃げたくなった。 ……………………………… ずだだだだだだだだだだだだだだだだバンッ!!! 「アーチャー!!!!!!!」 扉を蹴破る勢いで(実際に蹴破って)顔を真っ赤にし、肩を怒らせた少女が部屋へと入ってくる。ああこの扉の修理はきっと自分がするのだろうな、とか思ってこっそり溜息ひとつ。 「なんだ? いきなりすごい剣幕だがどうかしたのかね?」 「───っ! どうかしたかじゃないわよ! あなた、私の服、勝手に洗濯した?!!」 「ああ、脱衣籠にそのまま入っていた奴か? ほかの物を洗うのとついでに洗濯機へ放り込んだが? それがどうかしたか?」 「どうかしたか、ですって………?」 静かに静かに、やや顔を俯きがちにしながら静かにこちらを見据えてくる。ああ、これは覚えがある顔だ。忘れもしない、最初に出会った頃に見たアレと同じ。 これはだいぶキてるな。 ただ、こちらとて引く気もないが。 「アンタがその『他の物』というくくりで私の服全部洗っちゃったから着る物が一つもないじゃないの!!」 「む。一応体操着は残しておいてやっただろう」 「なんでよりによって体操服よ!!」 「ああ因みに制服はクリーニングへと出しておいたぞ。安心しろ」 「なにがどう安心なのよ!」 「イヤなに。君の私に対する扱いの意趣返しの一つなだけだよ」 +++ やられたら3倍返し C※微妙女性指向 (………この状態も些か飽いたな) 教戒の地下から流れくる食事を摂りながら彼の英雄王は心中でぼんやりと呟き軽く辺りを見回して、目的のモノを探す。 そして目に留まった空の器。一応この教会の主が大事にしている張り子の虎。 「ふん。下らぬ」 中身のない器など、どんな意味があるというのか。 毎日の日課として、とても大事に磨き込んで。 「……………………………………………」 そう、それはとても、とても。大事そうに。 そして 彼の王は 目の前にある器をじっと眺めて 「………………………………………………………………………………ふむ」 とても楽しげに 微笑んだ。 *** 「………」 その教会の主は、動けなかった。 寧ろ、『開いた口が塞がらない』 この言葉のままに口をぽかりと開けて、微動だにしなかった。 なぜなら。 「ぷきぃ」 からとはいえ、いつも其処に鎮座されているはずの、秘匿され、重要とされているはずの、器が。器があるはずの場所が。 「……………………………………………」 ぶたに占拠されていたのだから。 「どうだ言峰。先日TVで『自分の願いを何でも叶えるぶた』というのをやっていたので、我が変えておいてやったぞ」 涙を流して喜びにむせるが良いぞ!! 「……」 ぎぎぎっと音を立てて首をこちらに向ける神父に、王はとても不思議そうな顔をした。 +++ 微妙に面白くない。ぶたは=晴れぶたで(一昔前のTVアニメ) D※微妙女性指向 「…暇であるな…」 うららかな午後、ぼんやりとした空気の中で彼の英雄王はこう呟いた。 「─ふむ。おい言峰。言峰は居ないのか」 「あいつならこれねぇぞ。教会にセイバーのマスターが来てる」 「なに? ではセイバーは近くにいるのか?」 目的の人物からではない、現界した槍兵からかえってきた返答に、些か眉を上げながらも、意中の人物が来ているかもしれないと言う事実に多少声を踊らせて聞き返す。 「いんや。どうやらマスターだけらしい」 残念だったな。と槍兵は快活に笑う。 だが、それが逆にかんに障った。 「…そうか。では貴様でよい」 「あ?」 つかつかとよって、襟首をぐっとつかんで、にやりと笑う。 そしてそのまま吐息を共有する。 「……………っな、」 心底嫌そうな顔をした槍兵に一言。 「なに、ただの他愛ない悪戯だ」 +++ やっぱり私に男同士は無理だと思う今日この頃。色んな意味でつまらない。 ルールブレイカー @ 「ねぇアーチャー?」 「なんだ?」 「貴方、もしも破壊すべきすべての符【ルールブレイカー】が手に入るとしたらやっぱり欲しいとか思ったり、する?」 「何故?」 「だってそしたら私と契約を初期化する事も出来るし、最初にかけた『何でも言う事を聞く』令呪だって解除されるじゃない?」 「────ふむ。君は私が余程嫌いとみえる」 「は?!! なんでそうなるのよ」 「おや、違ったのかね? ──私は既に、君が私を必要としない限り側にいる事を決めてしまったのでな。そのような事でルールブレイカーなぞ、欲する筈も無かろうよ」 「────────なっ、ば……………っ!!」 「それに私は言ったろう? 私を召還して良かったと君に言わせてみせると。 ああそれと、今更君のわがままなぞ、令呪が有ろうが無かろうが既に慣れてしまっているのでな。気にする事もない。 まぁ、しおらしくするのも偶には小気味よいものではあるが。らしくなさすぎても、大人しすぎても些かつまらん」 やはり君は君のままでいるのが一番らしかろう? 「…アンタ、馬鹿にしてる? それとも私で遊んでる?」 「まさか。両方だよ。マスター」 つまらない事を言う方が悪い。 +++ さていったい何日を想定した会話なのだろうか(そんな今更 A あなたがどんなにいったところで ゆるしてなんかやらない あなたがどんなにねがったところで かなえてなんかやらない 今更なにを言うというの 今更なにを繕うというの 切れた縁なら結べばいい 約束は心にかかる一番簡単な魔術。契約は既に存在している。 だからその契約の元に 「後悔させてくれるんでしょう? アーチャー」 去ってしまえばお仕舞いだなんて、絶対許してやらない こんな気持ちで後悔なんて、出来るはずがない。契約は不履行だわ。 「規則っていうのはね、破るためにあるものよ」 だからもう一度 +++ 再契約。叶わない規則ならいっそ壊してしまえばいい B もしも今、あなたがひとつだけ、絶対に願い事を言わなければいけないとしたら、何を言いますか? 「他者に叶えて貰う願いなんかに興味はないけど… そうね。どうしてもって言うなら今隣にいるでっかい奴の口うるさく気障ったい所をどうにかして欲しいわ」 「む。……………そうだな。では私も、他者に叶えられる願いなぞに興味はないが今隣にいる主人の拗くれて素直ではない所をどうにかして欲しいと願うとするかね」 ありがとうございます。 今ここに用意されておりますボタンを各人押していただきますと、お手軽聖杯が起動致しまして、先程の願いが叶うシステムとなっております。 押しますか?[Y/N] 「ガンド」(どかん!!) 「干将莫耶」(すぱん!) 「やっぱ聖杯なんてモノに頼っちゃ駄目よねウフフフ」 「ああ全く同感だよ凛フハハハハ」 +++ なんて話になると聖杯戦争自体が立ちゆかない C 「あなたは私のモノなんだからね。アーチャー」 「光栄だな、凛。君はそうして強気でいるのが一番輝いて、美しいな」 その台詞自体が +++ お互いに。 D いつも気障ったらしい台詞しか紡がない。 素直な言葉というモノを聞いた事がない。 しかもくちうるさくて、 おまけに意地っ張りで、 皮肉屋な上に自信過剰。 気が短い癖に自信過剰。 いつかあの余裕ヅラを崩してみたいモノだわ。 たまに弱くなったとて悪くはないというのに。
其処にある壁を壊してみたい 進む事の無い関係を崩してみたい もしも、出会い方が違ったなら─ 「 …あ、/ …む、」 「…なに? アーチャー?」 「…いや? 凛こそどうかしたのか?」 「ん? 今ちょっと、全然欲しくないけどキャスターみたいな宝具が有ったらな?なんて思っただけよ」 「ほう? 奇遇だな。私も今同じ事を考えていた」 「あらそう。珍しいこともあるものね」 「まったく。珍しいこともあるものだ」 でも 彼の人物がそうでなくなることはきっと許せない 掟という壁。契約という柵。自己理念という鎖。それらを崩せる訳無いからこそ欲しいもの。 +++ 実際にはありえないからこそ欲しいモノ。 E 型破りで破天荒。 やたら偉そうでしかも小姑みたいに口煩い。 なんだって其処まで強くあろうとするのか判らない。 主人に対してこんな態度で仕える奴って珍しいと思うわ。 存在自体が掟破り。 「アンタなんかに絶対負けないんだから」 「君な、組み敷かれていう台詞ではないぞ」 「そっちこそわたしに脱がされていう台詞でもないと思うわ」 「……まぁ、せいぜい頑張ってみせるが良いよ。マスター」 「当然よ」
この状況下でいう台詞とはとても思えないのに。
だのにこんなに強いなんて反則だ。 +++ 似た者同士で二人揃って定石違反。 F 「命令よ。わたしを抱きなさいアーチャー」 ばさりと、ここに来るまで身体に巻き付けていたシーツを放り投げて、少女が事も無げに言う。 「─正気か? 凛」 「しかも本気よ。わたしはね、負けるのが一番嫌いなの。勝つためならなんだってするわ」 かかる重圧は本物。それが今の自分にとっては致命傷になることなど、目の前の主人も判っている筈なのに。 光も届かぬ、電灯さえない薄暗い地下室で仁王立ちになって目の前の少女は胸を張って言う。 その体は既に一糸纏わぬ姿。均整のとれた躯を隠すことさえせずに毅然とした表情で言葉を連ねる。 「口答えも反論も許さないわ。いいからとっととわたしを抱きなさい。でなきゃ他の誰かの手にかかる前にわたしが引導を渡してやるから」 冷たく、感情を映さぬ瞳でこちらを見据える。 伝えるのは事実であり、起こす行動は信念であり。 「───承知した」 溜息をひとつついて、青年は自らの武装を解いて少女の手を取る。 「ただこちらとしても些か面白くないんでな。多少手荒くなることを覚悟しろよ」 「望む所だわ。いいからさっさとなさい」 情を交わす筈なのに此処まで定石外の出来事になるなんて思ってもみなかった。 +++ けれど逆にらしいと言えばらいいのかもしれない 背伸び @ 学校の帰りとか、新都へ買い物に行った時にとか。必ず目に入る服とか『あ。あの人の服良いな』とか。 判ってる。私には絶対にあわないんだろうな。なんて事。 だってらしくないじゃない? だって柄でもないじゃない? 可愛気が無い事なんて知ってるわ。でもだけど、だから 「どうかしたか? 凛」 「なんでもないわ。行きましょうアーチャー」 「………ふむ」 ………あ。なんか後ろでイヤな予感がうごめいてる気がする。 「なによ。なんか言いたいならさっさと言いなさいよアーチャー!」 「いやなに。あそこの店の服が君が好きそうだな。と思ってな」 「…っ、」 悔しい。 悔しい悔しい悔しい。絶対に見透かされた。見透かしやがったこいつ。 「馬鹿言わないでアーチャー。何を根拠に…っ!」 とっさに反論する。けど絶対駄目だ。だってアーチャーの奴、笑ってやがる。 「いやなに。君の態度から推察してだな。まぁ、気にしなくとも君は十分可愛く、綺麗だと思うぞ凛」 +++ 本人的には背伸びでも、周りから見れば可愛いという範疇。 A 横を見る。 …赤い。 目だけで上を見る。 …まだ赤い。 ぐっと顔を上げる。 やっと視界に入る。でも正直目的のモノを見るにはつらい。 「ちょっとアーチャー。あなた少しは縮んだらどうなの」 「…………………凛。君の言う事はいつも突拍子がなさすぎる。今度は一体なんだ」 「だってあんたの身長いくつなのか知らないけどデカイのよ! 私がつま先立ちしてもアンタと並びやしないのよ?!!」 ぐぐぐっとバレリーナのようにトゥシューズ立ちしても埋まる身長差は3分の2位で。 「……というか君は、私と並んでどうするというのかね……」 言いながらも、背伸びしてぐらつく私の腰を支えて屈んでくれる。やっぱこいついいやつだわ、うん。 「だって人と話す時はその人の目を見て話すものでしょう? でもアンタだと私の首が疲れちゃうのよ」 「ふむ」 なるほど、と言って私に合うように屈んでくれるアーチャー。 「ではこれで、いいのかね? マスター」 視線を合わせてにこりと笑ってくれる。うわ珍しい。 「…………………………………………」 て言うかコレって……………………… 「凛? どうした顔が」 ゴス! 全部言わせる前に勢いに任せてチョーパン一発。 「やっぱヤメ! なんかアンタに見下ろされるよりもムカツクわ!!!」 「……………………………………………………り、りん。君な、抗議するならせめて口で言ってはどうなんだ………」 痛みに蹲るアーチャーを見てフン!と鼻で盛大に息を吐く。 ああやっぱこいつの顔は見えない方が安心するわ。 +++ 間近で見たい顔≠見たくない顔。 月夜 @ 月だけが見ていた。 「…っ」 押さえ込まれて 抱え上げられて 身動きできないまま 大事そうに触られる私を。 イタズラに裂かれ 玩具の様に揺すられて 翻弄されているのに 切なげに見下ろされる私を。 口から出る音は獣じみていて 浅ましく雫を垂らしたまま 縋り付く私を 時折怯えた様に優しく障る。 しってる。コレは求めてはいけない しってる。コレを甘受してはいけない しってる。コレがどんな意味を持つのか そんな事、知りたくもないのに。 星さえも届かない 放つ音さえ彼に飲み込まれる闇の中 ただただ流され崩れゆく私を 月の様な白い目だけが +++ 暗闇にうつるそれは まるで 散り菊 @ 「あら」 店先でふと視界に収まったピンク色の花。 「………ふぅん。珍しいわね」 割と季節外なのに、店頭に並ぶ花。確か秋頃の花だと思ったのだけれど。まぁ、冬木市は暖かいから不思議でもないか。 「いかがですか?」 笑顔で話しかけてくる店員。 正直、こんなの心の贅肉だと思うんだけど。だってお金の無駄じゃない? でも。 「ええ、このコメットピンクを頂くわ」 なんとなく、私も笑顔でそう答えてしまった。 「珍しいな」 「なにが?」 帰宅した途端、背後から心底驚いた。と言う様な空気を纏いながら人には見えない兵士が話しかけてくる。 「否、君がそういったものを好むとは思わなかったのでな。しかもこの忙しい時に」 「なによ失礼ね。忙しいからこそ偶には花だって欲しくなるのよ」 多分。とこっそり心中でごちながら反論する。だってしょうがないじゃない。欲しくなっちゃったんだもの。そんなに高くなかったし。 「しかも蝦夷菊か。君なら月桂樹でも良いだろうに」 「せめてアスターと言ってよね、夢のない。大体月桂樹は一寸季節外じゃない?」 一輪挿しを引っ張り出して、居間に買ってきたアスターを活ける。 桃色に染まった花びらが凛と上を向いて、うん。いいかも。 「…………ふむ。散らなければ、良いな」 「そうね。散らさないでね? この花って割と敏感だし」 「む? 私が散らすのか? ……… 君ではなく?」 「───そうよ。アンタが散らすのよ」 皮肉気に笑った弓兵を視界に納めながら、わたしは居間を後にした。 +++ だからワタシが散らす訳がない。だからどうか散らさないで。 アスターの花言葉は『あなたは私を愛するかしら?』 月桂樹の花言葉は『勝利』 A 部屋を片づけていたら見つけてしまったソレ。 「やだ。残ってたのね」 懐かしみたくないのに、懐かしくなって。何となく手にとって眺めてしまった。 「……また随分季節外れのものを持ってきたな」 「まぁ、確かにね。…でも一応貰い物よ? 桜がね、『藤村先生がたくさんくれたんです』って言うもんだから」 「ふむ」 「まぁ、それでね。その量があんまりにもあんまりだったし季節外だし。だから、つい。ね」 ほら。と見せられたソレの量はゆうに量の手には余る程。 「─で? それをどうするというのだ?」 その量に軽く辟易しながら、自身の主の言葉を待つ。まぁ、何となく予想はつくが。 「は? なに言ってるのアーチャー。だってコレ線香花火だけど花火よ? やるに決まってんじゃない」 「外でか?」 「家の中で花火やってどうするのよ。花火はやっぱ暗い中でやるもんでしょ」 なにわからない事言ってるの。 そんな顔をされて更に従者は心中で溜息をついた。 「……………………………寒いわね…」 「だろうな」 「あんたは寒くないの?」 「この程度で値を上げては夜間警護などとても出来ん」 「あっそう、いいわね便利で」 便利って言うか。 「君が薄着なだけだろう………」 もはや風邪を引くとか無防備だとかそういった説得がこの少女の耳に入らない事などよく判っているのであえて言う気も起きぬまま、少しずつ減ってゆく花火をぼんやりと眺める。 「…線香花火ってね」 「む?」 「これの名前とかの由来ってさ、知ってる?」 「───否」 「線香って、仏壇の線香のことで、あれ、立ってるでしょ? 昔はそうやって『遊んだ』のよ。あーやって、立てて。『キセルの火』って。 それが、仏壇の線香に似てるから『線香花火』」 「ふむ」 「それで、芸者遊びの時に『芸者線香』って、線香をつけるでしょ? 「…ああ、“1本の線香が燃えるまではお前と共にいる”と言う意味のアレか。時間を計る為の」 「ん。で、大阪の淀川あたりで芸者遊びをするときに、『火鉢の上へ“スボ手ボタン”を立てて、キセルで燃やす』っていうのが、ひとつの情緒だったんだって。 そういうとこから、「線香花火」って名前になったんだって」 「…………ふむ」 講釈モードに入った。多分長くなるな、と思いながら静かに抗議に耳を傾ける。 思いついた事、考えついた事は一端全部出さないと、彼女が思考の渦に填り込むのを知っているから。 「──なんかさ、多分これを粋って言うのよね。 紙のこよりの『長手』 そして、藁の先に水練り火薬を付けた『スボ手』 花の中で一番大きいじゃない? しかも、ものすごい華やか。その華やかさを丸い赤い玉になったのを『ボタン』 ボタンが成長し、火花が止まると『休止期』 で、ぱっと散ったのが『松葉』 最後にチカチカするのが『散り菊』 ────────ど? 知ってた?」 「………いや」 「そう? ふふ。まぁわたしも父さんの受け売りだけどね。数少ない思い出のひとつよ」 長々と講釈をたれて満足したのか。それとも亡父を思い出したのか。少女は満足気に笑う。 「でも、この散り菊にまで行くのが実は結構難しくて。いっつも最後まで行かないで玉が落っこっちゃうの」 「…君が忙しなく手元を動かすからだろう…」 躍起になって、動かしては玉が落ち、動かす度に玉が落ちる花火。この分だと減りも早いだろう。 「…アンタは意外に器用よね。全部綺麗に散って、っていうか偶に玉も落ちて無くない? なにそれ」 なんか間違ってると思うわ。その線香花火のやり方。 「む。これが正式だ。それに君の不器用さ加減を私に当たる物ではないぞ。凛」 「るっさいわね。あ、しかももう残り少ないじゃない!!」 がぁっと大きな口を開けて吼える。正直そんな事で文句を言われても困るのだが。 「…では、またやればいいだろう? 買うなりなんなりでもして」 夏にでもなれば、きっとあちこちで見かけるのだろうから 「っったり前よ。そん時は負けないんだからね!!」 「…私も一緒にやるのか?」 「だから当たり前でしょ? なに言ってるのよ」 当然じゃない。馬鹿。 「─────ああ、いや。光栄だよ、凛」 だから、夏にまた。 「…馬鹿みたいね」 手にしたソレは、既に時化ってしまって。 「………本当、馬鹿みたい」 ぎゅっと握りしめて、胸元へと持っていく。 季節なんか、既に何回巡ったか判らない。 忘れ去って、心の隅にしまっておいたのに。こんな、何でもない事で、思い出して。 「……………………………… ………………………っ」 小さく呟く。 手にしたソレは。新たな水気を吸い取って、もう灯が点りそうになかった。 +++ 叶わないと判っていても願いたかった。約束したかった。それがどんな結果になろうとも。 B 「凛、なんだソレは」 自分の主人の手から下げられた、スーパーの買い物袋のこんもりと詰まった物。 「ん? 貰い物だけど線香花火。藤村先生から」 「冬場に良くもまぁ、そんな物を……」 しかも割と大量。 「まぁねぇ。んで、やるしかない訳なんだけどね」 「冬場にか?」 「夏にする?」 きょとんとした顔で小首を傾げながら問うてくる。 「否、その前に何故私に聞く?」 いつも通り、君が決めれば良かろう。 「だって一人じゃそう消費出来ないし。外は寒いし。…ああでもそうね。うん。夏も良いわね。西瓜とか切って貰って」 うん。決めた。 そう一人で勝手に納得して頷く主人。いつもの事ではあるが。 「そうか。それは良かった」 ひとまず主人を無駄に危険にさらす要素が少し消えたので良しとする。夏になればいくらなんでも聖杯戦争は終わっているだろう。 「うん。決めたわ。だからそれまでに浴衣作ってねアーチャー」 「……………………………浴衣?」 「やっぱ夏で花火とくれば浴衣でしょ? あ、あんたの分もね。私一人だけ浴衣ってイヤよ。浮くから」 いや、浮くとかそういう問題ではなく。 「……私も、か?」 そのころまで現界しているとは限らないと思うのだが。 「あったり前でしょ?」 だって私達が勝つんだもの。 そういって少女は胸を張る。 「…いや、これは失言だった。そうだな。約束しようマスター」 夏に、君と花火を。 「うん。今度こそ散り菊までいって終わらせるわ」 「……君、もしかして一度もそこまでいった事がないのか?」 +++ 不器用っぷり発揮マスター。 C 「あ。また失敗した」 「君な。手元の動きが大雑把なんだ。判りやすくいうと、急ぎすぎだ」 隣のクラスの担任から(桜経由で)貰った季節外れの線香花火。 「………煩いわね。どうせ松葉で落ちるわよ」 散り菊にまで行った事無いわよ!! がぁっと文句をたれる。のに、隣のこいつは涼しい顔。 「アーチャー。次」 「もう無いぞ、凛」 「え? 嘘」 「嘘を言ってどうする」 そういって見せられたバケツの中身はこんもりと線香花火で埋まっていて。 げ。あんなに一杯あった筈なのに。 「…仕方ない。リベンジは今年の夏まで持ち越しね」 「まだやるのか?」 「当然でしょ。 私、負けっぱなしは趣味じゃないの」 ふん、と言いながら花火をするためにしゃがんでいた腰を上げる。 「だから、あんたもその時は付き合うのよ」 +++ じゃなきゃ、令呪を使ってでも命令。 D 「────線香花火か」 「あら、知ってんの?」 「ああ。芸者線香から名前の由来が来ている花火だろう?」 「知らないわよそんなの。あんたって、偶に変な事知ってるわよね。………何、あんたって元は中国とか東洋関連?」 衣装もそんな感じだし。とか言いながらじろじろと不躾な視線を送ってくる。 「さて、な。しかしまた、ずいぶんと季節外れだな」 主が持ってきた1本しかないソレを拝借して眺める。 「ん、なんか書棚整理したら出てきた」 「待て。君は一体普段どんな整理をして居るんだ」 よりによって書棚からとは。 「るさい。で、まぁ持ってきたんだけどね」 「するのか?」 「だから持ってきたんでしょ? 外は寒いし、灰皿でもだして此処でしちゃいましょ」 「……正気か?」 「線香花火1本でぐだぐだ言わない。さっさと用意しないと令呪」 主の命令に溜息をつくことで応える事にした。 「…やはり、室内では情緒というものがだな」 「るさいわね。じゃあ次は夏。そしたら外でも出来るわ」 「ああ、まぁそうしてくれ」 「何言ってんの、アンタも付き合うのよ」 +++ 他愛ない、何気ない一言。 E 「────線香花火か」 「あら、知ってんの?」 「ああ。芸者線香から名前の由来が来ている花火だろう?」 大きな火花の牡丹。小休止後流れる松葉。そして最後が散り菊。 「知らないわよそんなの。あんたって、偶に変な事知ってるわよね。………何、あんたって元は中国とか東洋関連?」 衣装もそんな感じだし。とか言いながらじろじろと自分の使用人を眺めてみる。うーん。肌と髪色がソレっぽくないけど顔立ちは東洋系? 「さて。どこかの誰かのせいで覚えておらんのでな。………ああ、だかまた随分と季節外れだが、火はつくのか?」 「…煩いわね。それと時化ってるから火はつかないわ」 「そうか」 …………? あれ? 「なに、残念だったりした?」 「………………………………………………………悪いか」 一寸拗ねた様な、捻た様な顔で言われる。うわ、珍しい。 「………なんだ、凛? 何かおかしい事でもあったか?」 しまった。どうやら顔が笑ってたらしい。ますます機嫌を損ねたらしい。眉根に寄ったしわが増えている。 「いいえぇなんでも? じゃあそうね。夏にでもなってたら買うから、そしたら一緒にやりましょ」 そういったら、面食らった様に吃驚した顔をされた。 む。なんか私変な事言ったかしら? 「…一緒に、か?」 「なに言ってんの? 当たり前じゃない」 「…だが、その。そのころには聖杯戦争も終わっていると思うのだが」 「だから何言ってるの。私達が負ける訳無いからそんなの関係ないでしょ?」 さらりと言ったら、また変な顔をされた後、もの凄く嬉しそうに微笑まれた。 「…………………………ああ、そうか。そうだな。負ける訳がないのだから、当然だな」 「そうよ。だから約束。夏にやりましょう?」 そして私にまた講釈でもたれてちょうだい。 +++ 願うのは自分が知らない未来。だから約束をしよう。 F 「もうそろそろかしら」 「もうそろそろかもな」 「意外に早かったわね」 「君が下手だからな」 「煩いわね。これでも頑張ったのよ?」 「と言うか、君はどちらかというと動きが雑だと思うぞ」 「むかつくわね。じゃ、アンタならどうなのよ」 「ふむ。生憎と証明するには物が足りないな」 「んじゃ……って、あ」 「ああ。そうやって大きく動くから玉が落ちるんだ」 「るさい。」 「自業自得だ。ああ、そういえば、さっき何を言おうとした?」 「─ああ」 「じゃ、次はきちんと大量にかって夏にでもって」 「───ふむ。では夏に証明して見せようさ」 +++ どうせずっと一緒に居るんだろうから。 G 花火の様だ、と思った。 花火の様ね、と彼女は言った。 詩的で余韻を残し、奏でられる控えめな音 儚くて切なく、けれど真ん中にある強い芯 決して華美ではなく、ただただ紅く色残る 「ずっと消えなければいいのに」 ぽつり呟かれた言葉がやたら胸に響いた。 散り菊の様に、いつかは消えると知っているけれど。 ああ、だからこそ 「では幾度もつけよう。消えないうちに。消えない様に」 「そうね。私もつけてあげるわ。何度でも」 君の肢体に紅い刻印を。 +++ あとに残されるものは淡くはかない夏の宵闇。 鳥籠 @ 君にあいたい 君にあいたくない 思い出せない記憶 この手に残る感触 この腕の中に確実に在ったのに 擦り切れて 摩耗してゆくそれは 今は柵の中 無数の剣が突き立てられし丘の上で 静かに佇むばかり +++ 閉じられた箱庭の中でただ静かに A "かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる" しばりつけて(この腕の中) くくりつけて(この大地と引き離し) ずっと、側に入れたら (たとえこの関係が壊れても) 籠の中の鳥はいつ外に出られるのだろう (出す気など微塵もない癖に) +++ 後の正面だぁれ B 「鳥籠の中みたいよね」 彼女は言った。 「抜け出そうと思えば出来る癖に」 そんな事、出来る筈が無かろうに。 「あらそう」 「じゃ、私。貴方じゃなくても良いわ。 鍵は最初から無いのに怖がって外へ出ようとしない鳥なら生憎興味はないの」 でなきゃ貴方、何で此処にいるのか判らないわ +++ だからお願い ここに来て。 C 誰が殺した駒鳥 それは私と 誰かが言った 「●●! ───●●! ●●……………!!」 誰かが彼女の名を呼ぶ。 腕の中で眠った様に目を瞑る彼女はとてもあたたかい。 「……………………っ!」 ─ギリッ 歯ぎしりの音が響く。 あたたかいのに、少しずつ指先が冷えていく気がする。 「──────凛!」 はじめて。 初めて、その音を口にした。今までずっと出せなかった。勇気が出なくて。 けれど、その音が届く事はなく 誰が殺した駒鳥 それは私と 私が言った 腕の中の鳥は、もう歌う事はない 鳥籠の中は空のまま +++ 私の弓矢で 私が殺した D 「あなたって籠の中の鳥みたい」 「む。唐突だな……何故?」 「だって無数の剣が突き並ぶ丘にいつもいるんでしょう? それが柵でなくて何だと言うの?」 「籠の中にいる鳥は外へ出たくとも出れないが、私はこうして外に出ているだろう?」 故に、違う 「そ。それは失礼」 でも、 「出られなくもないのに、出る努力さえしないというのはもっと質が悪いと思うわ。悪いけど」 最後まで一緒にいても 忘れ去られてしまうなら そんなのまっぴら +++ 私は本当のあなたにあいたい E 蝶の様に羽を広げ 伸ばした四肢から 空へと去ってしまわぬ様 自由を奪う 「…っか、は………」 漏れる、吐息とその音色 ああ、けれど これで君は永遠に腕の中 +++ たとえどうなろうとも、側に居て F 「あら、鳥籠」 また随分と懐かしい物が出てきたものね。 「ああ、物置を整理したら出てきたぞ。また随分と古い物だが、虫干しでもした方がよいかと思ってな」 どこの主婦よコイツ。て言うか勝手に物置入るなんて、この整理魔神。 「そうねぇ………ああ、別に虫干しじゃなくて良いわよ。アーチャー」 「む? 何故。この鳥籠は木製だろう? 物置へ放りっぱなしだと痛むぞ」 細い枝を編んで作られた緻密な細工のそれは、とても繊細で。 「ん。だから虫干しじゃなくて、」 貸して。と言って彼から籠を奪い、そのまま背の高い木へと吊り下げる。 「─なんのまねだ?」 「そうね。こうしたらどこかの鳥がくるかしら?って」 クリスマスみたいにね? 「…君な、ヤドリギの木ではないのだぞ?」 しかもクリスマスはとっくに終わっているだろう? 呆れた様に溜息をつく赫い鳥。 「あら、気付かなかった?」 その言葉に私はくすりと笑う。 「この籠、 それに、貴方の色と木々が合わさると、とてもクリスマスだわ。 ──だからほら。鳥は下にやってくる。 +++ そしてここでキスして。 G 「疲れているな? 凛」 「ん、そうでもないわよ」 強がりか、無意識か。 少女はただ笑うばかりで休息を取る事を良しとしない。 そんな事、よく判っているから。 「えっ? ちょ、あ、アーチャー……?」 「ふむ。軽いな」 抱え上げて、休ませるために帰路へ突く。腕の中では暴れ回っているが、そんなのは無理矢理ねじ伏せてしまえばいい。 「何するのよ、ちょ……っ!!」 「君のソレが強がりなら良い。だが、無自覚なら話は別だ」 何故蒼い顔をしてまで笑うのか。 月明かりのせいではない色で、何故そんなに平気な顔をして笑えるのか。 しかもそれが『彼』の為なのかと思うと、なおさら我慢ならない。あんな奴の為に。 其処まで強くあって欲しくないのだ。 だから 「君が飛ばぬよう、捕まえておくのも私の役目だ」 自分を鳥籠にして せめて今は羽を休めて +++ 目を離すと鳥の様に自由に去ってしまう君に H 「信………っじらんない!! サイテー!!」 バッチーン!! 小気味よい音を響かせ、少女が頭から湯気と吹きながら居間を去っていく。立てる足音もドスドスとこれまたイイ音だ。ぶっちゃけ、近所迷惑だ。聞こえてたら。 「アンタなんか知らないんだからね!! 馬鹿!!」 後には割と在り来たりな捨て台詞と共に、床に蹲る青年が残った。 「おーおー。また随分とエライ剣幕で」 「…見てたのか。ランサー」 ひょっこりという体で現れた男に、青年は驚いた様子を見せる事もなく冷静にジト目を送る。 「いんや。割と途中から。しかも遠くからで何言ってんのか聞こえなかったし? ……んで、何したんだ?」 もの凄いい音したよな? な? わくわく。と言う効果音をつけて聞いてくる槍兵士。 「─いや、凛が『桜と自分と比べて、そんなに似ていないのか』とか呟いていたので」 「いたので?」 「燕と雀程度には。と言ったらこうなった」 「うわ」 「それは、どちらの感想だ?」 「両方。いたそー。嬢ちゃんもかわいそー。で、うわ」 見せられたくっきりはっきり手形に思わず指を伸ばす。触ったら痛いだろうな。やっぱり。触ったら怒られるかな。とか思いながら。 「そう思うのなら触るな」 「あー。やっぱだめか。んでもなぁ、自業自得、だろ?」 嬢ちゃんのこった。ぜってー自分を鴻鵠と思ったぞ。 もしくは、どっちも小さい鳥かと思ったかのどっちかだな。 「ふむ。確かに『私は小物か!!』と怒っていたが。 ……だが、別に間違っていないだろう?」 「うわ、マジで?」 真顔でさらりと言った弓兵にランサーは軽く目を剥いて思わず突っ込む。 そんな言葉、あの苛烈な少女にしれたらただではすまなさそうだ。 「嘘を言ってどうする。真実だと思うが」 けれど、当人は否定されたせいか、些か不機嫌そうな顔を浮かべている。これは本気だ。 「うっわ、お前。やっぱサイテーだな」 思わず辟易して舌を出す。 「慰めても仕方のない事だ。本人が気づかなければな」 雀と燕。一緒にされやすい小鳥だが、二つは驚くほど異なっている。 雀は、留鳥で人と暮らす鳥だ。人が居ない場所では生活できない。山地の集落から人が消えると、雀も姿を消すのだ。 対して燕は渡り鳥だ。軒先に間借りしても、冬がくれば去っていく。あの小さな羽根で山を越え、海を越えていくのだ。 桜は雀で、凛は燕だと、アーチャーは言いたいのだ。しかも気づかぬ方も悪いと。それは大分辛辣な意見だったが、否定できない面もある。 雀のようだとされた桜は、どちらかというと、庇護される存在だった。本人の望む望まぬにかかわらず、彼女は庇護がなくなれば消えてしまいそうな儚さがあるのだ。大人しく、ただ静かに其処にいて主張する事が少ないせいかもしれない。 自分に正直に、思うままにひたむきに生きる凛とは、大きく異なっている。 そして凛は、確かに燕の様だった。軽やかで、素早く、風のように傍らを颯爽と通り抜けていく。急旋回を交えた巧みな飛翔は、見た者の目を釘付けにし、傍らに留めておく事は雀よりも難しい。小さな翼は見た目よりも強靱で、本人が行きたいと願えば海を越えることもできる渡り鳥だから。 そもそも、比べる方が、間違っていると。 「やっぱ確信犯か。つーか、それ。嬢ちゃんに伝わらないと意味無くないか?」 呆れた様に言うランサーにアーチャーはニヤリと笑う。 「─いや。そうでもないらしい」 「?」 告げられ、彼の視線を追ってみれば。居心地の悪そうに其処に佇む少女。 「さ、さっきの事、謝るんなら許してあげても………………イイわよ?」 そっぽを向きながら、頬を染めて強気に言う。 それを見てもの凄く嬉しそうに口端を歪める弓兵。 ─うっわ。こいつ。 「……………………」 軽くジト目でアーチャーを睨む。 これさえも狙ってやがったな…………!! つまり、わざと会話を聞かせたのだ。 「………やっぱり確信犯じゃねーか」 「さて? なんの事かな」 うわぁ。言いやがった。 嬢ちゃんを燕と喩えた時に『………なんか、ベタ惚れ?』とか思ったが、口には出さないでおいて良かった。本当に良かった。 「………ま、いっか」 鳥が素直に自分の巣へと戻ってくるのなら。 +++ 留め鳥にならずに渡り鳥なのは、彼女の気性故。 |