この「その2」では、「その1」とは異なるもう一つの母等式1/sinx=2(sinx + sin3x + sin5x + ・・・)を中心に
調べます。
<1/sinx=2(sinx + sin3x + sin5x + ・・・)の重回積分-重回微分にπ/3を代入>
「その1」では、cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + ・・・) を中心に調べましたが、ここでは、もう一つの母等式
1/sinx=2(sinx + sin3x + sin5x + ・・・) -------@
を調べます。
やはり、π/3、π/6代入を調べていきますが、まずはπ/3代入を見てみましょう。
「その1」とやり方はほぼ同じですので、本質的なところを中心に書いていきます。
本論に入りましょう。まず@式を重回積分、重回微分した結果を書き下します。
[重回積分、重回微分した一連の式]
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4回微分
{3(cosx)^2・(sinx)^2+5(sinx)^2+4(cosx)^4+20(cosx)^2}/(sinx)^5
=2(sinx + 3^4sin3x + 5^4sin5x + 7^4sin7x + ・・・・)
3回微分
{(cosx)^3+5cosx}/(sinx)^4=2(cosx + 3^3cos3x + 5^3cos5x + 7^3cos7x + ・・・・)
2回微分
{1+(cosx)^2}/(sinx)^3=-(sinx + 3^2sin3x + 5^2sin5x + 7^2sin7x + ・・・・)
1回微分
-cosx/(sinx)^2=2(cosx + 3cos3x + 5cos5x + 7cos7x + ・・・・)
0回積分
1/2・sinx=sinx + sin3x + sin5x + ・・・
1回積分
1/2・log(cot(x/2))=cosx + cos3x/3 + cos5x/5 + ・・・
2回積分
1/2∫log(cot(x/2))=sinx + sin3x/3^2 + sin5x/5^2 + ・・・
3回積分
1/2∫∫log(cot(x/2))=-(cosx + cos3x/3^3 + cos5x/5^3 + ・・・) + (1-1/2^3)ζ(3)
4回積分
1/2∫∫∫log(cot(x/2))=-(sinx + sin3x/3^4 + sin5x/5^4 + ・・・) + (1-1/2^3)ζ(3)x/1!
5回積分
1/2∫∫∫∫log(cot(x/2))=(cosx + cos3x/3^5 + cos5x/5^5 + ・・・)
+ (1-1/2^3)ζ(3)x^2/2!- (1-1/2^5)ζ(5)
6回積分
1/2∫∫∫∫∫log(cot(x/2))=(sinx + sin3x/3^6 + sin5x/5^6 + ・・・)
+ (1-1/2^3)ζ(3)x^3/3!- (1-1/2^5)ζ(5)x/1!
7回積分
1/2∫∫∫∫∫∫log(cot(x/2))=-(cosx + cos3x/3^7 + cos5x/5^7 + ・・・)
+ (1-1/2^3)ζ(3)x^4/4!- (1-1/2^5)ζ(5)x^2/2!+ (1-1/2^7)ζ(7)
8回積分
1/2∫∫∫∫∫∫∫log(cot(x/2))=-(sinx + sin3x/3^8 + sin5x/5^8 + ・・・)
+ (1-1/2^3)ζ(3)x^5/5!- (1-1/2^5)ζ(5)x^3/3!+ (1-1/2^7)ζ(7)x/1!
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・
と、このように上に下に延々と続いていきます。すべての∫は0〜xの定積分、またdx・・dxは略しました。
さて、上の一連の式の x にπ/3を代入してみます。すると、次のようになります。途中計算は省略。
[π/3代入の式]
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4回微分
LA(-4)=2/3
3回微分
ζ(-3)=1/120
2回微分
LA(-2)=-2/9
1回微分
ζ(-1)=-1/12
0回積分
√3・{1 - 1 + 1 - 1 + 1 - 1 + 1 - 1 + ・・・}=1/√3
よって、LA(0)=1/3
1回積分
(1-1/2)(1-1/3^0)ζ(1)/2=1/2・log(cot(π/6))
2回積分
√3/2・(1+1/2^2)LA(2)=1/2∫(0〜π/3)log(cot(x/2))
3回積分
-(1-1/2^3)(1-1/3^2)ζ(3)/2 + (1-1/2^3)ζ(3)=1/2∫(0〜π/3)∫log(cot(x/2))
4回積分
-√3/2・(1+1/2^4)LA(4) + (1-1/2^3)ζ(3)(π/3)/1!=1/2∫(0〜π/3)∫∫log(cot(x/2))
5回積分
(1-1/2^5) (1-1/3^4)ζ(5)/2 - (1-1/2^5)ζ(5) + (1-1/2^3)ζ(3)(π/3)^2/2!
=1/2∫(0〜π/3)∫∫∫log(cot(x/2))
6回積分
√3/2・(1+1/2^6)LA(6) - (1-1/2^5)ζ(5)(π/3)/1!+ (1-1/2^3)ζ(3)(π/3)^3/3!
=1/2∫(0〜π/3)∫∫∫∫log(cot(x/2))
7回積分
-(1-1/2^7) (1-1/3^6)ζ(7)/2 + (1-1/2^7)ζ(7) - (1-1/2^5)ζ(5)(π/3)^2/2!
+ (1-1/2^3)ζ(3)(π/3)^4/4!=1/2∫(0〜π/3)∫∫∫∫∫log(cot(x/2))
8回積分
-√3/2・(1+1/2^8)LA(8) + (1-1/2^7)ζ(7)(π/3)/1!- (1-1/2^5)ζ(5)(π/3)^3/3!
+ (1-1/2^3)ζ(3)(π/3)^5/5!=1/2∫(0〜π/3)∫∫∫∫∫∫log(cot(x/2))
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・
と、このようにζ(2n+1)とLA(2n)が出現してきます。
上で、右辺の重回積分は一番左の(最後の)∫だけが0〜π/3の定積分で、その他の∫はすべて0〜xの定積分
です。
ζ(s)はもちろんリーマン・ゼータ関数で次のものです。
ζ(s)=1 + 1/2^s + 1/3^s + 1/4^s + ・・・
またLA(s)は、「その1」でも出てきた
LA(s)=1 - 1/2^s + 1/4^s - 1/5^s + 1/7^s - 1/8^s + 1/10^s - 1/11^s + ・・・
というゼータ関数です。
ζ(s)もLA(s)も、どちらもディリクレのL関数であることは、「その1」で説明した通りです。
さて、ここで次々と出てくるζ(2n+1)とLA(2n)も、「その1」での全く同類の議論で、
ζ(2n+1)=[偶数ゼータの無限和]
LA(2n)=[偶数ゼータの無限和]
となるのですが、その理由を簡単に示します。
[理由の説明]
log(cot(x/2))は、
log(cot(x/2))=log{cos(x/2)/sin(x/2)}
=log(cos(x/2)) - log(sin(x/2)) -----A
と変形できます。さらに、
log(πx/sinπx)= 2{1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・ } -----B
( 0 < |x| < 1 )
log (cos(πx/2))= -{x^2(1-1/2^2)ζ(2) + x^4(1-1/2^4)ζ(4)/2
+ x^6(1-1/2^6)ζ(6)/3 + ・・・} -----C
(0 < x < 1)
という、二つの式があります。 Kは「logのトンネルを抜ける式」参照。
B、Cより変数変換などして、log(sin(x/2))=・・・、log(cos(x/2))=・・・としたものを、Aに代入すれば
log(cot(x/2))=[偶数ゼータを係数にもつべき級数]
となることはすぐにわかります。
これを上の[重回積分、重回微分した一連の式]の∫・・∫log(cot(x/2))に代入しても(項別積分を行っていくが、
この場合収束半径の問題もうまくクリアされていく)、
∫・・∫log(cot(x/2))=[偶数ゼータを係数にもつべき級数]
となるため、結局すべてのζ(2n+1)とLA(2n)が[偶数ゼータの無限和]になるのです(全ての∫は0〜xの定積分)。
このような仕組みになっています。
[理由の説明終わり]
本題に戻る前に、ちょっとだけ寄り道をします。
[寄り道]
上では、本質だけをあぶり出したいために、途中のややこしい計算は一切省略しましたが、それでも追試する
読者のために、ちょっとだけ述べておきます。
上でLA(s)が出ていますが、その過程では、まず次のような式が出てくるのです。
例えば、2回積分のところでは、
1 - 1/5^2 + 1/7^2 - 1/11^2 + 1/13^2 - 1/17^2 + 1/19^2 - 1/23^2 + ・・・
というL(χ,s)ではないような式が出てきます。
ところが、よく見ると、これは次のように変形できるのです!
1 - 1/5^2 + 1/7^2 - 1/11^2 + 1/13^2 - 1/17^2 + 1/19^2 - 1/23^2 + ・・・
=1 -1/2^2 + 1/4^2 - 1/5^2 + 1/7^2 - 1/8^2 + 1/10^2 - 1/11^2 + 1/13^2 - 1/14^2 + 1/16^2 -1/17^2・・・
+ (1/2^2 - 1/4^2 + 1/8^2 - 1/10^2 + 1/14^2 - 1/16^2 + ・・・)
=LA(2) + 1/2^2(1 - 1/2^2 + 1/4^2 - 1/5^2 + 1/7^2 - 1/8^2 + ・・・)
=LA(2) + 1/2^2LA(2)
=(1 + 1/2^2)LA(2)
こういう変形を上では使っているのです。他の偶数回積分も全く同様。
奇数回積分のζ(2n+1)だけ出現する式も、この種の悩ましい?変形が必要とされるのですが、そちらは
省略させてもらいます。
[寄り道終わり]
話を戻します。
大事なことは、
1/sinx=2(sinx + sin3x + sin5x + ・・・) -------@
という等式の重回積分の結果にπ/3を代入しても、やはりディリクレのL関数が出た、ということです。
深い構造が潜んでいることが予感されます。
それでは、π/6代入でも、ディリクレのL関数L(χ,s)が出てくるのでしょうか?
実際にそうなるのですが、次で見てみましょう。
<1/sinx=2(sinx + sin3x + sin5x + ・・・)の重回積分-重回微分にπ/6を代入>
1/sinx=2(sinx + sin3x + sin5x + ・・・) -------@
では、早速、@の重回積分の式(一つ上の[重回積分した一連の式]参照)にπ/6代入の結果を並べます。
[π/6代入の式]
・
・
4回微分
L(-4)=5/2
3回微分
LB(-3)=46
2回微分
L(-2)=-1/2
1回微分
LB(-1)=-2
0回積分
2・1/2・{1 + 2 + 1 - 1 - 2 - 1 + 1 +2 + 1 - 1 - 2 - 1 + ・・・}=2
これから(1 + 3)L(0)=2 よって、L(0)=1/2
1回積分
√3/2・LB(1)=1/2・log(cot(π/12))
2回積分
(1+1/3)L(2)/2=1/2∫(0〜π/6)log(cot(x/2))
3回積分
-√3/2・LB(3) + (1-1/2^3)ζ(3)=1/2∫(0〜π/6)∫log(cot(x/2))
4回積分
-(1+1/3^3)L(4)/2 + (1-1/2^3)ζ(3)(π/6)/1!=1/2∫(0〜π/6)∫∫log(cot(x/2))
5回積分
√3/2・LB(5) - (1-1/2^5)ζ(5) + (1-1/2^3)ζ(3)(π/6)^2/2!
=1/2∫(0〜π/6)∫∫∫log(cot(x/2))
6回積分
(1+1/3^5)L(6)/2 - (1-1/2^5)ζ(5)(π/6)/1!+ (1-1/2^3)ζ(3)(π/6)^3/3!
=1/2∫(0〜π/6)∫∫∫∫log(cot(x/2))
7回積分
-√3/2・LB(7) + (1-1/2^7)ζ(7) - (1-1/2^5)ζ(5)(π/6)^2/2!
+ (1-1/2^3)ζ(3)(π/6)^4/4!=1/2∫(0〜π/6)∫∫∫∫∫log(cot(x/2))
8回積分
-(1+1/3^7)L(8)/2 + (1-1/2^7)ζ(7)(π/6)/1!- (1-1/2^5)ζ(5)(π/6)^3/3!
+ (1-1/2^3)ζ(3)(π/6)^5/5!=1/2∫(0〜π/6)∫∫∫∫∫∫log(cot(x/2))
・
・
と、このようになりました。
なんと、ζ(2n+1)、L(2n)、LB(2n+1)という3種類のゼータが出てきました!
ζ(2n+1)はリーマン・ゼータで、これがディリクレのL関数L(χ,s)の一種であることは述べた通りです。
L(s)とLB(s)は次のゼータ関数ですが、じつはこれらもL(χ,s)の一種です。
L(s)=1 - 1/3^s + 1/5^s - 1/7^s + 1/9^s - 1/11^s + 1/13^s - 1/15^s + ・・・
LB(s)=1 - 1/5^s - 1/7^s + 1/11^s + 1/13^s - 1/17^s - 1/19^s + 1/23^s + ・・・
L(s)の方は、教科書などでよく見かけるものでよくご存知のものと思われます。
このL(s)は、a≡0, 1, 2, 3 mod 4に対しそれぞれχ(a)=0, 1, 0, -1としたときのL(χ,s)に一致します。
このL(2n)は、「いくつかの点」シリーズで、”偶数L関数”などと呼び、その正体を佐藤郁郎氏とともにしきりに
追い求めていたものでもあります。
また、LB(s)は、ちょっとややこしいですが、 mod 12に対応したディリクレ指標χ(a)をもち、
「a≡1 or 11 mod 12-->χ(a)=1、a≡5 or 7 mod 12 -->χ(a)=-1、それ以外のaではχ(a)=0」という
χ(a)に対応したL(χ,s)となります。
(なお、LBとかLAとかいう呼称は、私が勝手につけたものにすぎませんのでご注意ください。)
[寄り道]
追試する読者のために、少し述べます。
上でL(s)が出ていますが、その計算過程では、まず次のような式が出てくるのです。
例えば、2回積分のところでは、
1 + 2/3^2 + 1/5^2 - 1/7^2 - 2/9^2 - 1/11^2 + 1/13^2 + 2/15^2 + 1/17^2 - 1/19^2 -2/21^2 + ・・・
というドキリとするような式が出てきます。
ところが、これは次のように変形できます。
1 + 2/3^2 + 1/5^2 - 1/7^2 - 2/9^2 - 1/11^2 + 1/13^2 + 2/15^2 + 1/17^2 - 1/19^2 - 2/21^2 - ・・・
=1 - 1/3^2 + 1/5^2 - 1/7^2 + 1/9^2 - 1/11^2 + 1/13^2 - 1/15^2 + 1/17^2 - 1/19^2 + 1/21^2 - ・・・
+ (3/3^2 - 3/9^2 + 3/15^2 - 3/21^2 + ・・・ )
=L(2) + (3/3^2 - 3/9^2 + 3/15^2 - 3/21^2 + ・・・ )
=L(2) + 3/3^2(1 - /3^2 + 1/5^2 - 1/7^2 + ・・・ )
=L(2) + 1/3L(2)
=(1 + 1/3)L(2)
と、うまい具合に変形できるのです。
このような変形を使って、上の一連の結果を出しています。他の偶数回積分も全く同様。
[寄り道終わり]
話を戻します。
上の結果は、やはり面白いと思います。
予想通り、またまたディリクレのL関数ばかり出てきました。
こんな風に具体例が蓄積されてくると、「その1」の最後で述べた予想はやはり正しいのではないかと思えてき
ます。読者のみなさんは、どう思われるでしょうか?
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