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ウィリアム・キャッスル
WILLIAM CASTLE
(1914-1977)

《監督》
*マカブル(1958)
*地獄へつづく部屋(1958)
*ティングラー(1959)
*13ゴースト(1960)
*第三の犯罪(1961)
*ミスター・サルドニカス(1961)
*ゾズ!(1962)
*オールド・ダーク・ハウス(1963)
*血だらけの惨劇(1964)

《製作》
*上海から来た女(1948)
*ローズマリーの赤ちゃん(1968)
*燃える昆虫軍団(1975)


 私が彼を初めて認識したのは「ヒッチコックのニセ者」としてだった。映画の冒頭で葉巻を燻らせながら口上を述べる彼の姿は、あからさまに『ヒッチコック劇場』でのヒッチコックのそれであり、彼もそれを意識し、パロディを演じているかのようだった。ヒッチコックがスター化した最初の監督ならば、彼はそれの追随者、悪く云えば模倣者だったのだ。作品的にもヒッチコックの模倣が多く、今日評価されているものは少ない。彼に唯一、ヒッチコックを越えているものがあるとすれば、それはギミック(仕掛け)においてだろう。

 キャッスルが最初にギミックを用いたのは『マカブル』だったと云われている。彼はここで観客全員に死亡保険をかけたのだ。すなわち、この映画を見ている最中に観客が死亡したら1000ドルが支払われるとしたのである。つまり、それほど怖い映画だという宣伝であり、これが奏功して『マカブル』は大ヒットした。

 代表作の一つ『ティングラー』ではもっと過激なことをした。客席のいくつかに微電流が流れる装置を仕掛け、ティングラーという寄生虫が劇場に逃げ込むシーンで電流を流したのである。劇場内はパニックに見舞われたという。

『第三の犯罪』はヒッチコックの『サイコ』の模倣作。ストーリーはガチャガチャだが、ラストには観客をアッと云わせるオチが待っている(これには私もだまされた)。キャッスルはラストの衝撃にダメ押しする。種明かしの直前に上映を中断して、自らによるこんな口上を劇場に流したのだ。
「今、後ろに聞こえるのは心臓の鼓動の音だ。諸君の心臓はこれより早く打っているかね?。もし、早ければ今のうちに劇場を出た方がいい。入場料はそっくりお返ししよう」。

『ミスター・サルドニカス』では今日的なこんな面白い仕掛けを施した。オチを2通り用意し、ラストの寸前で投票を行い、主人公であるサルドニカス氏の命運を観客に委ねたのである。
(もっとも、実は1通りのオチしかなかったという説もあり)

『血だらけの惨劇』は『サイコ』の原作者であるロバート・ブロックを脚本に招いた、キャッスルの最高傑作であるが、これ以降からギミックは用いられていない。観客がギャーギャー叫びながら楽しむ時代が終わったということだろうか。

 製作者としての彼の仕事は、オーソン・ウェルズの『上海から来た女』と、ロマン・ポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』の2本に尽きる。この2本の審美眼からすれば、彼はプロデューサーに徹していれば、より多くの傑作を世に送り出すことが出来たことだろう。しかし、彼は自ら監督し、自ら出演して口上を述べ、自らギミックを考えることを選んだ。根っからの興行師だったのだ。晩年に書かれた自伝のタイトルは『さあ、寄ってらっしゃい!』である。


関連作品

燃える昆虫軍団(BUG)


 

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