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ダグラス・クラーク
キャロル・バンディ

Douglas Clark & Carol Bundy
a.k.a. The Sunset Strip Slayer (アメリカ)



ダグラス・ダニエル・クラーク


キャロル・バンディ

 胸クソの悪くなる事件である。これほど人間性が欠落しているケースも珍しい。しかし、事件を解決に導いたのは、相棒であるキャロル・バンディに残されていた、ほんのひとしずくの人間性だった。ダグラス・クラーク単独の犯行だったならば、犠牲者はこれだけでは済まなかっただろう。

 1980年6月12日、2人の女性の遺体がロサンゼルスのフリーウェイ付近で発見された。
 ジーナ・マラノ(15)
 シンシア・チャンドラー(16)
 共に頭部を撃たれて、全裸で遺棄されていた。2人は典型的な不良少女だった。家出して、サンセット大通りで「たちんぼ」をしていた。早い話が売春である。商売絡みで殺されたのであろうことが推測された。

 12日後の6月24日、またしても2人の女性の遺体がほど近い場所で発見された。
 エクシー・ウィルソン(20)
 カレン・ジョーンズ(24)
 やはりサンセット大通りの「たちんぼ」だった。同様に頭部を撃たれていたが、エクシーの首は切断されていた。頭部はまるで宝箱のような木箱に入れられて、近所のガレージ前に遺棄されていた。冷凍された頭部はきれいに洗浄された上に、まるでバービー人形のような化粧が施されていた。口の中からは精液が発見された。

 6月30日、今度はサンフェルナンド・ヴァレーでミイラ化した女性の遺体が発見された。
 マーネット・カマー(17)
 やはり家出娘の「たちんぼ」だった。彼女は少なくとも3週間前に殺害されていた。

 6人目は意外にも男性だった。8月9日、45歳のカントリー歌手、ジャック・マレーの遺体が、自宅付近に停められた彼のヴァンの中で発見された。死後5日は経過しており、腐敗がひどい。やはり首を切断されていた(頭部はとうとう見つからなかった)。

 翌日の8月10日、キャロル・バンディという37歳の看護婦がジャック・マレー殺害の容疑で逮捕された。良心の呵責に堪えかねた彼女が看護婦長に相談したために、逮捕されるに至ったのだ。
 その恋人である32歳のボイラー技師、ダグラス・クラークも共犯者として逮捕された。そして、尋問を通じて、その恐るべき犯行の数々が明るみになったのである。


 ダグラスとキャロルが出会ったのは1979年の暮れ、殺されたジャック・マレーが歌手として働いていたカントリー・バーにおいてであった。
 その頃のキャロルは、暴力をふるう夫と離婚して、看護婦として働きながら5歳と9歳の息子を育てていた。そして、肉体関係を持ったジャックに結婚するように迫り、その妻を脅迫したために捨てられた。いまやキャロルはストーカーだった。「♪私、待つわ。いつまでも待つわ」と、ジャックが勤めるバーに通い続けていたのである。
 これに目をつけたのがダグラスである。彼はバーで一人酒を飲むオールドミスが金になることを経験的に知っていた。一見ハンサムな年下の男に声をかけられたキャロルは、たちまち首ったけになってしまった。
 さて、ここで思い出されるのがフェルナンデスとベックのカップルである。子持ちで肥満した看護婦と女ったらしのコンビネーションはそっくりだ。もっとも、本件ではダグラス・クラークの異常性が飛び抜けている。キャロルは彼の妄想に飲み込まれて人の道を踏み外した感が強い。

 ダグラス・クラークは、多くの連続殺人犯がそうであるように、過剰な性欲を持て余していた。しかし、性器が小さめであることに多大なコンプレクスを抱いていた。24歳の時に結婚した女に散々馬鹿にされたらしい。そのため、女を人とは思わなくなった。そして、復讐のためにテクニックを磨いた。
 このあたりはテッド・バンディーを連想させる。
 ところが、キャロルだけは別だった。おそらく、看護婦としての彼女の母性が彼を包み込んだのだろう。自らのコンプレクスを打ち明け、女に対する憎悪と、拷問や殺害の夢を語って聞かせた。そして、「女は愛する男のためなら人を殺すことができる」と力説し、妄想の世界へと引きずり込んで行ったのである。

 2人が共有する妄想は、当初は売春婦を雇って3Pする程度のものだった。ところが、キャロルという理解者を得てダグラスが次第に暴走し始めた。己れの夢を実現し始めたのである。
 それは1980年4月のことだった。ダグラスは血みどろでキャロルの家に現れた(マーネット・カマーを殺害したのだと思われる)。その時はケチャップだと云い張っていたダグラスであったが、後日にジーナとシンシアを殺害した時は、その詳細を語って聞かせた。フェラチオさせながら頭を撃ち抜き、ガレージに運ぶと様々なポーズを取らせて屍姦した云々。恋人からこんなことを聞かされればゲロゲロゲロとなるのが普通だが、キャロルはどういうわけか好奇心を抱いた。そして、実際に「フェラチオ→射殺」を目の前にし、性的な興奮を覚えたというのだから、このド変態め。

 なお、エクシー・ウィルソンが首を切断されたのは、頭部を撃たれた時に性器に噛みついたからである。怒り狂ったダグラスは、遺体を路上に引きずり出すと、その場でナイフで切り落とした。そして、トランクに投げ入れて、自宅まで持って返った。以下はキャロルの証言である。
「車がカーブを曲がるたびに、トランクからゴロゴロと転がる音が聞こえました。それを聞くと、ダグは大声で笑い出しました。私も釣られて笑いました。今になってみると、あの頃の私は正気を失っていたと思います。どんなに恐ろしいこともダグのためなら平気だったのです」
 キャロルは生首の血を洗い流し、化粧を施した。たいそう気に入ったダグラスは、生首をバスルームに持って行った。もちろん、フェラチオさせるためである。

 ジャック・マレーの殺害はキャロルの単独犯だった。動機は、口封じのためだとも、ダグラスへの愛を証明するためだとも云われているが、とにかく、彼女が頭部を撃ち、その首を切り落として棄てたのである。結果として、この件がキャロルの人間性を呼び戻し、事件を解決へと導いたのだった。

 ダグラス・クラークは6件の殺人(うち1件は逮捕後の証言に基づいて発見された身元不明の女性の殺害容疑)で有罪となり、死刑を宣告された。裁判中にヴェロニカ・コンプトンとラブレターを交わし、エクシー・ウィルソンの生首の写真を送ったりして話題になったが、結局、ケニー・ケニストンというプリズン・グルーピーと結婚し、彼女と共に現在も無罪を争っている。
 一方、キャロル・バンディは1件の殺人とその他の幇助で有罪となり、終身刑を宣告されたが、2003年12月9日に獄死した。
 2人はサンセット大通りで犠牲者を拾っていたことから「サンセット・ストリップ・スレイヤー」と呼ばれて、今日もなお語り草になっている。


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
『愛欲と殺人』マイク・ジェイムズ著(扶桑社)
『世界犯罪百科全書』オリヴァー・サイリャックス著(原書房)
『LADY KILLERS』JOYCE ROBINS(CHANCELLOR PRESS)


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