二十世紀初頭の「ほんとにあった怖い話」である。
ジョセフ・ブリゲンはカリフォルニア州サクラメント郊外で農場を営む勤勉な男だった。手塩に掛けて育てたバークシャー種の豚が、彼の唯一の自慢だった。州の品評会ではほとんど毎年、金賞を受賞していた。仲間に秘訣を訊かれると、彼は決まってこう答えた。
「餌のおかげさ」
どんな餌かと訊ねると、彼は笑ってはぐらかした。
「そいつは企業秘密だよ」
ジョセフの農場は、彼と、始終入れ代わるアルバイトの2人で切り盛りされていた。
「不景気だからなあ、うちは1人を雇うのが精一杯だ」
ジョセフの吝嗇ぶりは仲間うちでは有名だった。アルバイトを雇う時も口入れ屋の世話になることなく、自分で街まで車で出掛け、道端でゴロゴロしているプー太郎を口説いて連れてくるのだ。しかし、長続きする者はいなかった。
「どいつもこいつもすぐに出て行きやがって」
ジョセフは口癖のようにボヤいていた。
「まあ、根性なしどもにはキツい仕事は向かねえんだろうけどな」
1902年のとある日、新顔のアルバイトがキモを潰した。彼の部屋のベッドの下に人間の指が2本落ちていたのだ。通報を受けた警察がジョセフの農場を捜索すると、少なくとも12人分の人骨が発見されたよ豚小屋で。頭蓋骨を含む様々な形の骨が散乱していたわけだが、いずれも豚にしゃぶり尽くされていたというからあんまりだ。
秘訣は人肉だったのである。
ジョセフは浮浪者を散々こき使っておいて、いざ報酬を要求されると、殺して遺体をバラバラにして、豚の餌にしていたのだ。2本の指が発見されなかったら、その年もジョセフは金賞を取っていたことだろう。ああ、怖わ。
ちなみに、この事件をモチーフにしたのがケヴィン・コナー監督の『地獄のモーテル』である。『殺人豚』という映画もあったが、これは見ていないのでなんとも云えない。
それから、あのパゾリーニに『豚小屋』という人喰いの映画があるが、おそらくこの事件とは関係がない。
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