展覧会の紹介
2002年 春陽会道作家展(絵画部) | 2002年1月21日(月)〜26日(土) 札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3) |
春陽会ホームページへのリンク 昨年の春陽会道作家展の紹介 2003年
春陽会は、春の上野(都美術館)で展覧会を開く有力公募団体。道内でも、毎年1月に絵画部が研究会を開いており、熱心です。
筆者が見に行ったときは、会場にどなたもおられず、事情はわかりませんが、道内の会員5人のうち、馬を題材にした絵を得意とする函館の宮西詔路さんが今年は出品していません。午年なのに、どうしたのでしょう。
残る会員4人のうち、今年は安田完さん(網走管内美幌町)の「受胎告知」(F100)が、気になりました。
安田さんはかつて、縛られて砂漠に立つマネキンなどをモティーフにした連作をかいていました。色彩は黄色を主にした暖色系なのですが、題材は、人間の存在を正面から問うているようで、いささか深刻でした。
年とともにマネキンは崩壊の度を強めていき、ある年ついにわずかな破片だけが残る空虚な絵になりました。
筆者は「安田さん、大丈夫なんだろうか」とつい心配になりました。が、99年あたりから画風が一変し、キリスト教に題材を得た作品になりました。しかも、 人物の輪郭線がはっきりかかれているので、どこか漫画ふうの感じがして、かつての苦悩はあまり感じられません。
ことしの作品も、西洋美術ではおなじみの題材です。ルネサンスのフラ・アンジェリコや、レオナルド・ダ・ビンチで有名ですね。天使がマリアのもとにやってきて、救世主を身ごもっていることを告げるというルカ書の一節に基づいています。
この絵では天使は左側にいて、口元に手を当てています。だいたい昔から、天使が左と決まっているようです(理由をご存知の方はご教示ください)。
右の女性が聖母でしょう。しかし彼女は、三つの方向を同時に向いています。正面を向いた聖母はどこかしら不安げに両手を胸に当て、天使のほうを向いた聖母は、複数の像で描かれています。なんだか、天使にお辞儀している様子を連写して1枚のプリントにおさめた連続写真のようです。観音像のようなしぐさの左手は、天使の右手の指先とふれあっているかのように見えます。
また、正面右側には、葉をくわえた鳩がとまっています。これは「受胎告知」の場面よりも、ノアの箱舟の情景にふさわしいような「登場人物」のように思えます。
多くの受胎告知の絵で描かれる背景の木立は、ここでは省略され、ただ手前にユリの花束が配されるだけです。これは、イエスの成人後の言葉を暗示していると解釈できなくもありません。
木立があれば、そこで緑が用いられるはずですが、この絵は、安田さんのこれまでの絵ではまったくみられないほど、色彩に対して禁欲的です。ほとんどモノクロームだといってもよいくらいです。ユリの葉のわずかな緑などがアクセントになっています。
あるいは作者は、マリアをキュビスム的な手法で描き、天使の羽を線だけで透明に描いたことからもうかがえるように、色彩という要素を後退させて、線によってつくられるフォルムを強調したかったのかもしれません。
八木伸子さん「冬日」(F50)は、近年八木さんに多い、前景に冬枯れた木を配し、郊外の雪野原を描いた構図です。ただし、縦長は少ないかもしれませんね。木の枝の描き方などには、伝統的な日本美術の残響があるように思えます。
白を基調に、風景の空気感を描く折登朱実さん「たそがれ」(同)、フクロウをレリーフした巨大な岩塊という幻想的なモティーフに挑む谷口一芳さん「古代幻想(OWLS MUSEUM)」(F100)も健在です。
以上3人の会員は、いずれも札幌在住。八木さん、谷口さんは全道展会員でもあります。
こうしてみると、道内の春陽会の会員、会友、出品者は、同じモティーフを何年も追い続けるタイプが多いといえそうです。
会友の飯田辰夫さん(函館)も、舟を浜辺に曳き上げるための巻胴を毎年執念深くかいています。
以前は、水色などを使って、巻胴の存在感を強調していたが、昨年、新道展で会員に推挙された作品や、今回の「朽ちゆく巻胴」(F130。写真が傾いています、すいません)などは、対象をリアルに描き、迫力があります。朱のペンキも効いています。
また、背後に置かれた浮き球などの道具類が、手前の巻胴よりもややあいまいなタッチで描かれているのも、浮胴を目立たせるのに貢献しており、いいんじゃないでしょうか。
ただ、飯田さんはうまくなっているのであえて書きますが、背景の防波堤はよくないんじゃないでしょうか。遠近法が狂っています。絵の下半分と、消失点が全く食い違っているのです。これは、リアル路線にはよくないと思うので、上野での本展までにはぜひ改善を望みたいところです。
居島恵美子さん(苫小牧)も昨年新道展会員に推された絵あたりから、がぜん良くなってきたような気がします。というのは、以前は、赤を基調に、ピアノやグラスといった、いかにもおしゃれなモティーフで無難にまとめている−という印象があったからです。
それに対し、今回の「雪祭り」(S100)は、ほとんど抽象画といってもいいくらいの画面構成です。雪像などのモティーフはいちおう、左寄りの中央部分に描かれてはいますが…、 画面の大半は、水色、灰色といった色で占められています。その配分と構成の妙が、作品のよさのように思えました。
このほかの会友にもふれておきます。
佐藤愛子さん(函館。新道展会友)「With dog」(F120)は、だいぶ整理されてきましたが、奔放な筆使いと色彩の氾濫が持ち味。
友井勝章さん(胆振管内鵡川町。全道展会友)の「遠い記憶」(F100)と「黒い花」(F80)は、昨年より絵の具も練れてきて、月夜らしい幻想的な雰囲気がかなり出てきていると思います。
新出リヱ子さん(札幌)も、長年枯れたヒマワリに向かい続けています。青など、色彩の試行を続けてきて、ことしの「輪」(F100)「誕生」(同)は、ヒマワリらしい黄色に戻って、生命の讃歌をうたっているようです。
そういえば、横浜美術館の内部を描く石畑靖司さんが今年はいませんねえ。
出品作は次の通り(すでにふれた作品は除く)。
会友
安達ヒサ(旭川) 「スプリング・シャドー」(F100)「スプリング・シャドー」(同)
小黒雅子(函館) 「街」(S100)
崎山和子(札幌。全道展会友) 「湿地 うつろい」(F100)
高野弘子(函館) 「楽器のある風景」(同)
豊嶋章子(札幌) 「冬陽」(F80)
中井孝光(同) 「屋根並2」(F120) 「都会2」(同)
西田四郎(同) 「目の無い鮭」(S100) 「目の無い鮭」(同)
山形和子(函館) 「市の女」(同)
米沢史子(同) 「雍布拉康」(F100)
一般
荒川敬子(札幌) 「冬原」(F100)
大塚富雄(函館。新道展会友) 「焼却炉」(F120)
奥田順子(渡島管内上磯町) 「工場」(同)
小原敦美(同森町) 「深山T」(F100) 「深山U」(同)
片野美佐子(函館) 「古い家」(F130)
加藤薫(札幌) 「風に吹かれて」(P100)
川真田美智子(函館) 「BACK ALLEY」(S100)
斉藤啓子(十勝管内新得町) 「風の証人」(同)
佐藤かずえ(札幌) 「青い風景」(F130) 「コート開き」(S100)
柴田郁子(釧路) 「黙するものT」(F100) 「黙するものU」(同)
高田裕子(函館) 「景観」(F120)
山本周子(札幌) 「希望へT」(F130) 「希望へU」(F100)
和嶋和子(函館) 「ひまわり」(F120)
渡辺洋(深川) 「パッサカリア(Bachへ)」(F100)
研究生
川股正子(函館) 「くつろぎ」(S80)
佐藤史奈(札幌) 「黒い海(T)」(F60) 「黒い海(U)」(F100)
田中春陽(登別) 「想い」(F50) 「空」(同)