遺 言
平成20年3月26日
平成31年1月22日改訂
2019(令和元)年6月18日改訂
2020(令和2)年4月25日改訂
平成31年1月22日改訂
2019(令和元)年6月18日改訂
2020(令和2)年4月25日改訂
遺言は,死後における自分の財産の処分等を自分が決める文書のことです。
遺言は法律の定めに従って法定の文書を作成しなければなりません。
遺言は人の最終意思決定であり,また,遺言者の死後における法律関係を決める重要な文書だからです。
単に口で家族に言ったとしても法律でいう遺言にはなりません。
また,いくら仲が良いからといって,夫婦が同一の遺言書に遺言をすると両方の遺言が無効になります。共同遺言の禁止といいます。(民法975条)
遺言は15才になれば一定の判断能力をもっている以上誰でも作成できます。(民法961条~963条)
毎年でも毎日でも遺言書を作成してかまいません。
最後に書いた遺言書が有効になります。
また,遺言書を書いても遺言内容にかかわらず財産を自由に処分できます。
その処分された財産に関する遺言部分が無効になるだけです。
通常の遺言書の作成方式は以下の3通りです。
- 第1 自筆証書遺言
- 1 平成31年(2019年)1月13日から改正法が施行され,自筆証書遺言の方式が一部緩和されました。
但し,施行日前になされた自筆証書遺言は従前の例によります。(付則第6条)
従前の自筆証書遺言は,遺言者が,遺言書の全文,日付,及び氏名を全部自書し,これに押印する方式です。
全文を自書しなければなりませんでした。
この点が改正法により,自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には,その目録については自書しなくてよいと改正されました。
すなわち,相続財産目録は,パソコンで入力したものをプリントしたり,代筆してもらったり,また,相続財産目録として不動産の登記事項証明書や預貯金の通帳の写しを添付することも可能になりました。(民法968条2項)
契印をすることや,印鑑を同一の印鑑にすることまでは法律上求められていません。
但し,自書しない相続財産目録については毎頁(両面の場合はその両面とも)に署名し押印しなければなりません。
また,遺言書の本文,日付,氏名を自書しなければならないことは,従来と変わりません。
ワープロで遺言書の本文を書いて自署だけやった遺言書は無効です。
ビデオテ-プに録画する方法も,遺言の方式としては無効です。
自筆証書遺言は,全部自分でやるので簡単ですし,金もかからず,遺言の秘密も保てます。
しかし,自筆証書遺言は,筆跡が遺言者のものと違うので無効だとか,誰かが遺言者に手を添えて遺言書を作成させたとか,遺言者が遺言のときには判断能力を失っていてそのような遺言書を作成することはできなかった等という争いが起きやすい欠点があります。
また,遺言書の内容が法的に不明確で実行できないという危険もあります。
さらに,自筆証書遺言は,「検認」の手続をしなければ,相続登記等に用いることができません。
詳しくは,
平成22(2010)年12月1日自筆証書遺言の検認申立
を参照して下さい。 - 2 法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設
法務局における自筆証書遺言の保管制度の実施は,2020(令和2)年7月10日からです。
現行法の自筆証書遺言は,遺言証書原本が公証役場で厳重に保管される公正証書遺言と異なり,作成後に遺言書が紛失し,又は相続人によって隠匿もしくは変造されるおそれがある等の不都合な点がある旨指摘されていました。
そこで平成30年7月6日に「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下「同法」といいます。)が成立しました。
同法の概要は以下の通りです。 - ① 対象遺言書は民法968条に定める自筆証書遺言で無封のものに限ります。
- ② 遺言書保管所の管轄法務局は,遺言者の住所地,本籍地,又は所有する不動産の所在地を管轄する法務局です。
- ③ 遺言者は,遺言書保管所(法務局)に自ら出頭する必要があります。
- ④ 遺言書保管官は,遺言者に本人確認に要する資料の提出を求め,これらの事項について遺言者に説明を求めることができます。
- ⑤ 提出された遺言書は,原本だけでなくデータとしても管理されます。
- ⑥ 遺言者は,遺言書保管所(法務局)に対し,遺言書の閲覧又は撤回を請求できます。
- ⑦ 遺言者が,遺言書の保管を撤回しても,そのことにより遺言書の効力が失われるわけではありません。
- ⑧ 何人も遺言書保管官に対し,死亡した者について自己(請求者)が相続人,受遺者等になっている遺言書(関係遺言書)が遺言書保管所(法務局)に保管されているかどうか,当該関係遺言書が保管されている場合には,遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明した文書(遺言書保管事実証明書)の交付を請求できます。(同法10条)
- ⑨ 遺言書保管官は,遺言書保管所(法務局)に保管されている遺言について,遺言者の死亡後相続人の請求により遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明した書面(遺言書情報証明書)を交付します。(同法9条1項)
遺言書保管官は,遺言書情報証明書を交付し,又は関係遺言書の閲覧をさせたとき(同法9条3項)は,法務省令で定めるところにより,速やかに当該関係遺言書を保管している旨を遺言者の相続人,受遺者及び遺言執行者に通知します。(同法9条5項) - ⑩ この制度によって保管されている自筆証書遺言書については家庭裁判所の検認を要しません。
なお,自筆証書遺言書の検認に関しては,
平成22(2010)年12月1日自筆証書遺言の検認申立 - 第2 公正証書遺言
- 公正証書遺言は2人以上の証人に立ち会ってもらい,遺言者が公証人に対して遺言の内容を説明し,公証人がこれを公正証書として作成し遺言者及び証人の承認をとったうえ,遺言者及び証人に署名押印してもらい公証人が遺言公正証書として作成する遺言書です。
公証役場で保管する原本と正本謄本各1通を作ります。
この方式による遺言は,無効になる場合はほとんどなく,争いになるケ-スが少ないです。
また,公証人は自宅や病院等にも出張してくれますので,遺言者本人が公証役場に行くことが難しい場合でも,利用可能です。(公証人の出張旅費日当は別途発生します。)
公正証書遺言を作成するには,2人以上の証人の立会が必要です。
また,遺産の価額や相続人数,遺言内容等に応じて,公証人の手数料がかかります。
公正証書遺言は,既に存在が公証人によって公証されているので,自筆証書遺言では必要とされる「検認」手続が不要です。
公証人の手数料等の費用は発生しますが,残された相続人の手続負担等の面も考えると,遺言書を作成するのであれば,公正証書遺言を利用した方がよいと思います。
弁護士に公正証書遺言作成事務手続を依頼し,弁護士及びその事務員を証人とすることもできますので,その場合は遺言の秘密を保つことができます。
そして弁護士が遺言執行者に指定された場合は,弁護士が公正証書遺言正本を保管して相続が発生した場合遺言を執行します。 - 第3 秘密証書遺言
- 秘密証書遺言は,遺言書の内容が第三者に漏れることのないように配慮したもので,遺言者が,自分自身または第三者に書いてもらった遺言書に署名押印して,これを封に入れて封印したうえ,2人以上の証人の立合のもとで公証人に対して自分が作成した遺言書であることを述べるなど一定の手続きを必要とします。その手続きの煩雑さが欠点です。
- なお,遺言書があっても,相続人全員で遺言書と異なる遺産分割方法を合意した場合はその合意通りに遺産を分割できます。
但し,遺言書に相続人以外の者に財産を遺贈するなどの遺言の文言があり,相続人以外の受贈者の同意が得られない場合は遺言書通りにするしかありません。
また,遺言で遺言執行者が指定されている場合は,民法1013条で「遺言執行者がある場合には,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができない。」と規定されていますので,相続人や受遺者ら全員でなした遺言と異なる内容の遺産分割協議は,民法1013条に抵触し,原則的に無効となります。
でご紹介しています。
参考文献
・相続実務が変わる!相続法改正ガイドブック
著 者 安達敏男,吉川樹士,須田啓介,安重洋介
発行所 日本加除出版株式会社
・図解でわかる 改正相続法入門
著 者 碓井孝介
発行所 日本加除出版株式会社
・相続法改正と金融実務Q&A
編 者 堀総合法律事務所
発行所 一般社団法人金融財政事情研究会
・Q&A改正相続法のポイント
編 集 日本弁護士連合会
発行所 新日本法規出版株式会社
・法務と税務のプロのための改正相続法徹底ガイド
編 者 松嶋隆弘
発 行 株式会社ぎょうせい