交通事故における被害者の加害者に対する損害賠償請求権に関し、保険会社が被害者に対し損害保険金を支払ったことによる保険会社の請求権代位、及び被害者が損害保険金を受領したことによる損益相殺
2021(令和3)年9月13日
- 第一 保険金を支払った保険会社の請求権代位
- 1 保険法25条1項は、「保険者は、保険給付を行ったときに、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(・・・・)について当然に被保険者に代位する。」と規定しています。
- 2 これは、第三者(加害者)が引き起こした損害に対して損害保険会社が被保険者(被害者)に保険金を支払った場合に、損害保険会社が支払った保険金を限度に、被保険者(被害者)が第三者(加害者)に対して有する損害賠償請求権を取得することをいいます。
- 3 保険者は、「当該保険者が行った保険給付の額」(同条1項1号)又は「被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)」(同条1項2号)のうちいずれか少ない額を限度として代位を行うことができます。
- 4 傷害保険に関し、定額給付方式がとられている場合には保険会社の代位を否定し、不定額給付方式がとられている場合には、損害てん補契約性を理由として保険会社の代位を肯定する見解が通説のようです。
- 5 すなわち、定額給付方式の傷害保険契約について、保険会社代位の適用を否定し、傷害疾病損害保険契約については、保険法25条が適用されると解されています。
- 6 搭乗者傷害保険
最高裁平成7年1月30日判決(民集49巻1号211頁)は、搭乗者保険金の損益相殺を否定しています。
そして、保険会社の代位に関しては、搭乗者傷害保険金を支払った保険会社による代位は生じないと解されています。 - 7 無保険車傷害保険
無保険車傷害保険は、被害者側で付保する傷害保険です。
保険会社が無保険車傷害保険金を支払った場合、被害者(被保険者)が加害者に対して有する損害賠償請求権を代位する旨の規定があります。
従って、保険会社が代位しますので、被害者は受領した無保険車傷害保険金を限度として損害賠償額が縮減することになります。 - 第二 損害保険金の損益相殺
- 1 損益相殺とは、不法行為に関連して被害者が何らかの利益を得た場合には、損害賠償額の決定に際し、その利益分を損害額から控除しなければならないこと、又は不法行為の被害者が不法行為によって受けた利益分を控除して損害額を算定することをいいます。
- 2 搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険契約及び自損事故保険契約等の広義の自動車傷害保険契約には保険会社代位の規定が定められていないこと、及び損害の発生の有無、発生した場合の損害の額にかかわらず所定の保険事故から死亡又は後遺障害等の直接の結果が生じたことを事由にして約定の保険金が支払われる定額保険であることから、損益相殺に馴染まず、控除することは認められないと考えられます。
そして、上記の最高裁平成7年1月30日判決は、搭乗者傷害保険による死亡保険金は、被保険者が被った損害をてん補する性質を有するものではないとして、搭乗者保険金の損益相殺を否定しています。
- 第三 交通事故における損害賠償請求の方法
交通事故による損害賠償請求について訴訟が有利なことに関しては、
令和2年7月1日改訂交通事故における重大な損害ないし死亡事故による損害賠償請求をするについて訴訟をすることが相当有利なことについて
でご紹介しています。
参考文献
- ・損害保険の法律相談Ⅰ(自動車保険)
伊藤文夫・丸山一朗・末次弘明 編著
株式会社青林書院 発行 -
・実務 交通事故訴訟体系 第2巻
藤村和夫・伊藤文夫・高野真人・森冨義明 編集
株式会社ぎょうせい 発行 - ・保険法
山下友信 著作
株式会社 有斐閣 発行 - ・裁判官と弁護士で考える 保険裁判実務の重要論点加藤新太郎・高瀬順久・出張智己 編集
第一法規株式会社 発行
- ・損害保険の法務と実務
東京海上日動火災保険株式会社 編著
社団法人金融財政事情研究会 発行