まずは「アブノーマルな愛」と、いうものを思い浮かべてほしい。
不倫、幼女趣味、同性愛、援助交際、近親相姦、あまりに年令の掛け離れた愛…。
現代において存在するそれらすべてが、古代王国にも、既に存在していた。まぁ人間、考えることは今も昔も大して変わりませんな。
−これは人類5000年の、さまざまな愛の形の物語である。−
<兄妹ドリーム>
古代の日本では、恋人のことを「妹」と呼んだ。和歌で親しい女性を「妹」と呼ぶとなにやら雅な雰囲気だが、現代の「血の繋がらない妹」とか、妹・姉萌えという属性になってくると、ちょっと世俗的すぎるというか下世話なカンジ。
とかツッコんではいけない。
古代エジプト人も恋人のことを「妹」と呼んでいた。いやマジで。逆に女性は恋人のことを「兄」と呼ぶ。
どうしてそういうことになったのかは、よく分からない。ただ神話上の最初のカップル、大地と天は兄と妹である。そこから生まれる神々、オシリスやイシス、セトやネフティスも、兄と妹で結婚している。
実際には兄妹での結婚は庶民にはタブー(王族は可)だったようだが、男女は見ず知らずのまま結婚することは少なく、親戚や近所同士といった、よく知った仲で結婚していたようだ。ということは幼馴染みとか兄妹同然とかの仲の場合が多かったわけですな。
いや、きっとこれはアブノーマルじゃない。女性からのラブレターが「お兄ちゃんへ。今すぐあなたに会いたいです」なんて内容だったとしても、きっと…普通なんだ。うん。
<浮気・不倫>
当たり前だが、古代エジプトの人たちも人間である。人間である以上、やること・考えることは現代人と大体同じ。(笑)
隣の若奥さんが美人だったら邪まな想像もするだろうし、お金が余ってくると若い美少女なんかを囲ってみたくもなるだろう。
しかし、古代社会では、姦通は死刑にされることもあった。
全ての時代の資料が揃っているわけではないので、すべての王朝の法律がそうだったかどうかは確認すべくもないが、少なくとも、浮気はかなり重い罪だったようである。古代エジプトの人々は家族愛を重んじる文化を持っていたらしく、家庭崩壊につながるような浮気、秩序を乱す男女交際は非常に嫌われた。
「ウェストカー・パピルスの物語」序文では、魔法で作り出したワニに妻の浮気相手を襲わせ、水死させる神官の話が登場するし、「二人兄弟の物語」では、兄弟のうち兄のほうが、弟を誘惑した不貞の妻を殺して遺体をバラバラにしてしまう。
死刑を免れても、不貞を犯した妻は無一文で家をたたき出されたり、相手の男性が耳を削り取られたりと、相当重罪であったことには違いない。(参考;イシスの娘 古代エジプトの娘たち ティルディスレイ 新書館)
時代によって多少異なるが、妻の側から離婚を申し立てることも出来たし、離婚の際、妻は自分の取り分を持って家を出ることが出来たというから、もちろん、夫が浮気をして追い出される場合も、あったということである。
と、このように男女のゴタゴタが起こっているのは人間世界だけではなかった。神々の世界でも問題が起きている。「イシスの妹ネフティスが、姉の夫オシリスに夜這いをかける」…などという神話が、あるのだ。
このあたりのエピソードは、生々しく言うと18禁な物語になってしまうので置いておくが。
なお、男性の側は、財力があって家族を養える限り第二・第三の夫人を抱えることが許されていたらしい。
妻にする女性に対しては保証が必要だし、生まれてくる子にも責任をとらなくてはならない。と、いうわけで、妻を何人も持つことは非常に金がかかったわけだが、富豪・王族なら、何人かの妻をめとり、ハーレムにすることも出来た。
有名なのは、ラメセス2世(子供200人伝説)など。200人は多すぎるとしても、少なくとも100人は名前まで判明している。妻の数だけでも何十人にもなるだろう。並の人間なら、一人で十分だというのに…。
「男は、そのことを考えさせたらロバ以下だ。男を思いとどまらせるのは、ふところ具合だ。」
(By 書記アンクシェションク)
<少女趣味>
50才のオヤジが12歳の少女を妻にしたら、普通は「ロリコン」と呼ばれるだろう。幼女趣味とかでヤバいと思われるかもしれない。
しかし、これで許容されるのが、古代社会の恐ろしいところ。なんと古代エジプトでは、女性の結婚適齢期は10代前半だというのである。
古代エジプトでは、少女の成熟期が12歳。少年は15歳と推測されているとのこと。しかも、「女は早く結婚するべきだ、沢山子供を生めるように」と、いうのが、社会の常識だったようだ。…もはや、幼な妻とかヤンママというレベルではない。現代で言えば、中学生で結婚しているようなものなのだから。
一般大衆はともかく、貴族や王家の少女たちは、子孫を残す意味と、望まない相手との関係を持たせないため、適齢期になったら、すぐさま有力者のもとに嫁がされるのが普通だったという。もちろん、政略結婚もあっただろう。一般庶民のように、好きな相手と自由に恋愛、とはいかない。
10代の少女が、はるかに年上の男性に嫁がされることもあった。その場合は、おそらく、再婚か、もしくは第二夫人に迎えられるというケースだったのだろう。(相手が50才のオヤジだったりした場合、50までひとり身だったら、さすがに娘を嫁がせないと思う。)
すさまじいのは、これが、「本人たちの合意」である場合も存在する、ということ。10代の少女でも、お金持ちと結婚するために自ら男性を誘惑することもあったそうなのだ! 援助交際も真っ青。
ただし、いくら年令に達しても、初潮があるまでは「こども」である。子供と性行為に及ぶことはもちろん大人としてしてはいけないことで、それゆえか、「プタハホテプの教訓」には、”まだ幼い少女と寝てはならない”などという項目が出てくる。わざわざ教訓に登場するということは、実際、そういうことをしてしまった輩がいたわけで。
まあ、相手が既に月々のもののある身かどうかなんてパッと見で確かめられるわけもないのだから、誘惑されるままに閨に入ってしまう男性も、いたかもしれない。それでも、たとえデキちゃっても、正式に結婚しさえすれば責任はとれます。
神話では、侮辱された太陽神ラーが自分の娘のエロティックなポーズ(どんなだ)に魅了されて、怒りを忘れるというものがある。さすがに一般に売られている本で生々しい表現はされておらず、このシーンは非常に曖昧に訳されているため、ラーがどのように怒りを忘れたのか、娘ってのがどんなことをしたのか…は具体的には分からなくなっているが、まあ大体の予想はつこうというもので。
神様だって若いほうが良かったのに違いない…
<同性愛>
ここだけの話ですよ、奥さん。
今度の王様ね、若くして即位なさったでしょ。あの人ね、…デキてるんですって! 年上の、ほら、あの色っぽい将軍様と。ええ、私見ちゃったんですから。お二人が、王宮の裏庭で、…ああ! それ以上言えないわ、あたし、恥ずかしくッて…!
はるかな過去のこととはいえ、そーんな話もあったりなかったり。
男色は確かにエジプト全土に存在したが、特にメンフィスでは禁じられていたとのこと。メンフィスといえばプタハ神の聖地だから、きっとプタハ様は認めなかったのだろう。
しかし、「特に禁じる」ということは、逆にあったんだなってことで。
実際、国王自身が男色に走ったという記録は残されている。古王国時代末期の王、ペピ2世が、将軍シセネと肉体関係を持った、というのである。
後世に書かれた文章とのことだが、もちろん王と同時代にそんなこと書けるはずもない(検閲されるだろう)から、ひとまず、この記録は信じておくことにしよう。
ただし男好きな同性愛者が女性嫌いだったという証拠はない。むしろ、妻子持ちのくせに男に手ェ出してるケースが普通のようだ。ペピ2世にしても、王妃も王子もいたわけだから、一応、両刀使いなのか。もしかして第六王朝が途切れたんはアンタがそんなことして王家の権威を落としたからじゃないんですか? …とか、余計なお世話ですが言いたいよ王様。
神話にも男色に関係するエピソードは、ある。
最も有名な、セトとホルスの戦いの神話で、すこし脇にそれるような形で追加されているエピソードの中である。
ストーリーは、こんな感じだ。
セトとホルスの王権を巡る戦いが和解に持ち込まれた時、セトはホルスを和解の宴に招待する。二人はそこで打ち解け、飲み食いし、その夜はともに床につくわけだが…
寝るとき、なぜかベッドが一つだけしか、無かった。
いくら親しくなったからって、いきなりソレはないだろう。気がつけよ、ホルス…。
案の定、「企みの神」セトは、夜中にむっくり起き上がって、ホルスの足の間にタネをまきだした。
タネ…。
15歳以上の皆さんなら、この意味は理解出来るだろう。そう、顕微鏡で見るとピクピク動いている、アレである。
しかし! こんなこともあろうかと、ホルスは足の間に手を挟んで、蒔かれた種をキャッチ! 危ういところでセーフになる。(何がセーフなのか)
翌朝、その話を聞いた母・イシスは怒りくるい、汚れた息子の手を切断(!)、魔法で新しい手を生やしておいて、逆にセトの食べ物に息子のタネを仕込んでおくのである(…)。
自分の企みが破れたことを知らないセトは、翌日、神々の法廷で「ホルスは女になった」と証言するのだが、ホルス側は逆に、セトが自分のタネを食べたと証言する。結果は…もうお分かりのとおり、セトは気付かずにホルスのタネが仕込まれた食べ物を食べてしまっているので(しかもここで、彼が実は菜食主義者だったことが判明)、ホルスの勝ちとなる。
なんていうか…どっちが上になるかでエジプトの王権争いが決まってしまったような凄まじいエピソードだ(深読み希望)。
これでホルスは正式なオシリスの後継者として認められ、叔父セトは追放されてしまう。
セト策に溺れる。っていうか、逆に××されちゃってる。(泣)
男色で叔父・甥で獣姦ときたもんだ。
神様がここまでやらかしてしまっていると、人間のやらかすことなんて、もはや取るに足りない事と思えてしまう。と、いうより、そもそも神様たちがやりたい放題なのが、いけない気もしたり。
そんな欲望渦巻くさまを見て、真実の女神マアト様は地下世界に潜りっぱなしになってしまったそうな。
魂の判定場で、死者が口にする「否定告白」というものがある。それは、神々が「罪を犯したか」という問いかけに対し、「いいえ、やってません」と一つずつ否定していくというものだ。
「私は少女を恋人にしませんでした。少年にも手を出しませんでした。ええ! 妻を愛してましたとも、とっても。」
しかし真実の秤は、心臓のほうが重く傾いてしまう。
「…ウソつきですね。あなたの心臓が抱く罪は、この真実の羽根よりも重い。…アムドゥアト入りを拒否します。」「ああッ、そんなぁ!!」
−たとえ現世で罰せられなくても、愛と罪は、つねに永遠のものなのです。−