「私は、あなたの盾、あなたの心、あなたの慰めになります。」
――騎士は誉れを求め、貴婦人たちの愛を求めた
英語つづりではガウェイン。そう、ランスロットと対を成す、円卓最上の騎士の一人です。「パルチヴァール」ではランスロットは登場しませんが、聖杯探求に乗り出しながら、聖杯にたどり着くことなくアルトゥースのもとに戻るあたりは同じです。
主人公にくらべて、ちょっと「お兄さん」な感じですね。女性の扱いも慣れているし(笑)、旅に出たあたりで、10代後半から20代前半といったところでしょうか。
本来の主人公、パルチヴァールが妻一筋の貞節の人なのに対し、こちらは、女っ気が非常に多い人です。
「不完全で、成長していくパルチヴァールとは対照的に、最初から理想的な騎士として登場する…」と、研究書にも書かれているように、ガーヴァーンの態度は最初から最後まで首尾一貫しており、パルチヴァールのように迂闊に罪を犯すことも、あぶなっかしげな失敗をすることもありません。にもかかわらず、両者は同時に円卓の前で名誉を汚され、アルトゥースの宮廷を去ることになるのです。
いえ…他の「アーサー王伝説」でも、ガウェインといえば女性についてのウワサが事欠かない人ですが(笑)
この物語では、大きく3つのアヴァンチュールが彼を待ち受けています。一つは、おしゃまな姫気味オビロード、「ガーヴァーンのちいさな恋人」と呼ばれる、ちっちゃな女の子の熱烈アプローチ。次は敵対する城で出会った、女性とは思えないくらい力強い王女アンチコニーエ。最後が、聖杯王アンフォルタスの罪の原因となった女性、公妃オルゲルーゼ。
この、3人目の女性が、ガーヴァーンの妻になります。
彼の旅は、とにかく恋と冒険、剣と貴婦人と名誉と騎士と。魔法の城にとらわれた女王や乙女たちまで救い出して、いかにも理想的な騎士物語です。ひとり、悩みながら荒野をさすらうパルチヴァールの旅とは対照的に、俗世間くさいです。(そのために聖杯にたどり着けないわけですが…)
物語上、このガーヴァーンの旅にどんな意味があるのかといえば、もちろんパルチヴァールの旅と対照するためというのもありますが、もうひとつ、円卓を去って行方不明になったパルチヴァールの足跡を追う、という意味も持っています。
ガーヴァーンが行く先々で、パルチヴァールの姿が見え隠れ。同じ戦場に居たり、同じ道を通ったり…。オルゲルーゼにいたっては、「今まで私の色香に迷わなかったのは、あの人だけだわ」と、未練たらしく言っているほど。
赤い鎧なんか着てうろついているせいで、とても目立つ人なのです、パルチヴァール。それなのに、何故行方不明になれるのか? 中世は実に謎が多いですね。
理想的な騎士、と、呼ばれているわりに、かなり勢いで行動するガーヴァーンの行動も必見です。
それが当時の「理想像」なのか。それでいいのか?
心の中で親しげにツッコミを入れつつ、楽しく読めるのがガーヴァーンの冒険譚。真の主人公パルチヴァールが聖杯城へ向かうときを最後に、登場しなくなりますが、彼のその後の物語を想像してみるのも面白いかも。