この話は、百姓とオーディンが知恵比べをする民話系の話のようだ。
あるとき百姓が道を歩いていると、空に、激しい馬のひづめの音と、犬の吼える声とを聞いた。
雷鳴のことだろうか。こんなとき、人々は、地面に突っ伏していなくてはオーディンの怒りを受けるとされていたのだが、この百姓は大胆な男で、ひとつ立ったままで、どんなことになるとか確かめてみよう、と思いたった。
すると、空から男が降りてきて、「無礼者、何をしている」と怒鳴りつけた。
この男は片目で、つばの広い帽子を被っていたため、百姓はすぐにオーディンだなと気づく。(サガでは、これだけ分かりやすい格好でもオーディンと気づかれないのが普通だが…。)
そこで百姓は、ひとつオーディンを試してみよう、と「力比べをしたい」と申し出る。
オーディンは笑いながら、なら鎖を渡すから、その端を握れ、と言って、鎖を渡し、馬に乗って空に飛び上がってしまう。要するに「綱引き」だ。
百姓はズルをして、鎖の端を大木にくくりつけた。木とオーディンは引き合って、鎖はぴんと張られている。
オーディン「なかなか素晴らしい力を持っているな。何かずるいことをしていないか?」
百姓「(鎖を自分に持ち替えながら)いーえ。ほら、このとおり、鎖の端を持ってますよ。」
ふたたび綱引きが始まった。こんどは、大木が抜けそうになるくらい、ゆさゆさと揺れている。百姓はヒヤヒヤしながら見守っていたが、どうやら、これも凌げたようだ。
冷や汗もあって、汗だくの百姓は、オーディンが降りてくるよりはやく鎖を解いて、自分の手に握る。
オーディン「すばらしい大力に免じて、今宵の無礼は不問にいたそう。」
言うと、オーディンは鎖を受け取り、懐に収めると、何も言わずに去って行ってしまった。
百姓は、オーディンをへこませたので、ひどくいい気持ちになって、家路を辿り始める。
ところが…。
いくらも行かないうちに、突然、「それ、褒美をやろう」という声とともに、空から何かが降ってきて、百姓を押しつぶしてしまった。
幾らもがいても抜け出すことが出来ず、百姓は、そのまま気を失ってしまった。
朝。
何事かと集まってきた人々が見たものは、
大量の頭巾(ずきん)に埋もれて気絶している、百姓の姿だったという。
オーディンを引き止めるくらいの力の持ち主なら、埋もれてもどーってこと無いとは思ったんだろうが、それにしたって、何故ご褒美が頭巾なのか…。
それで雷を避けろという意味だろうか?
頭巾に「メイド・イン・アスガルド」と書いてあったかどうかがとても知りたい。
残念ながら、百姓が実はロキの化けたものでした、といったオチは無い。(笑)