北欧神話−Nordiske Myter

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「幸薄いヘズに花をもたせてやろう計画」

ヘズは何故バルドルを殺したのか。



 オーディンの息子たち、バルドルとヘズは、正妻フリッグから生まれた兄弟である。
 ロキ関連でも有名な話だが、バルドルの死は、神々の没落「ラグナロク」の避けがたい前兆とされ、しかも、殺害者は弟のヘズだったという。
 このとき、ヘズにバルドルを射るよう唆したのが、ロキだったとされる。

 だが、罪をロキだけに着せるのは、どーだろうか。
 バルドルのいる方向を教えたのはロキだとしても、一撃必殺ってどうよ。いくら目が見えなくても、手加減くらいは出来ただろう…。
 ロキに手渡されたヤドリギの枝を力いっぱい投げつけたってことは、それなりにバルドルのことがキライだったんじゃないかな、と、思ってみた次第である。

 問題は、ヘズが、「なぜバルドルの殺害者になったのか」と、いうことである。結果には原因があり、運命にだって必然はある。それが運命だったとしても、きっと何か、予兆となるエピソードがあったはずだ…。
 と、いうわけで、やたらと名前は出てくるのに人格無視されてる彼のために、花のある考察をしてみよう。というのが、このページである。(笑)

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 まず第一に、「フリッグは息子を傷つけないようこの世のあらゆるものに誓約を取り付けさせたが、若すぎるヤドリギにだけは誓いを求めなかった」と、いう状況がある。
 つまり、石でも鉄でも棍棒でも傷つけられることのないバルドルの、唯一の弱点が「ヤドリギ」という武器だったことになる。
 無敵と思われた英雄が、唯一の弱点を突かれ死亡する、というパターンは、英雄サガに登場するシグルズ(ジークフリート)の物語でも見られるが、この場合、殺されるシグルズには、「女性への偽り」という罪がある。
 バルドルに、罪が無かったとは言えまい。
 神話や叙事詩のパターンからいくと、無敵であるはずの登場人物が、劣ると思われた者に弱点を突かれて倒されるとき、そこには何らかの必然があると言っていい。

 ところで、エッダとは別の資料、「ゲスタ・ダノールム」(サクソ箸)では、バルドルは、ヘズにあたる人物の恋人・ナンナをムリヤリ奪いにいく、ヤな男と化している。ナンナといえば、北欧神話ではバルドルの妻になっている女神だ。
 アイスランドの資料はともかく、もしかするとサクソの時代(スノリとほぼ同時代だが…)のスカンジナヴィア系の伝承では、バルドルが死ぬのは「自業自得」という話が、あったのかもしれない。少なくとも、バルドルが単なる「いい人」という伝承ででは、無かったのだろう。

 バルドルには可哀想だが、弟に殺されるその運命がたとえノルニルたちの定めたものであったとしても、悲劇的な結末は、何か本人が悪いことをしたからだと思う。その悪いことって何だろうか。「ゲスタ・ダノールム」のようにナンナをどっかから奪ってきた? それともヘズに何かしたのか?

 本当の理由は、今となっては分からない。
 しかし、だからこそ、幾らでも想像できるというものだ。そう、たとえば、「そのときヘズは、ロキに手渡されたものがヤドリギだと知っていたのかもしれない」とか。

 ヘズがどうしてバルドルを殺害するに至ったのか、また光の神はどうして殺されなければならなかったのか…。
 神話はすべて自然現象を表す、とする神話学者の意見も面白いが、やはり神話は、人の心も映すべきではないだろうか…。



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