フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

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第9章
Yhdeksäs runo


 困った…。
 この章はツッコミようがない。全体の流れとしては、ワイナミョイネンが鉄の起源を語り、その起源から老人が呪文を作り出してワイナミョイネンの膝の傷をふさいでやる、という単純なものなんだけど、まんず、間に入る「鉄の起源の物語」がとっても長くて難解なんですなあ。

 しょうがない。鉄の起源について語るとするか。(やる気なさげ?)

 「カレワラ」の世界での最高神、祖神は至高の神ウッコです。このウッコから3人の自然の乙女が生まれ、彼女たちがそれぞれに乳を絞って、生まれたのが、それぞれ軟鉄、鋼鉄、粗鉄。
 つまり、鉄とは物質じゃなく、神々の一員なのですなあ。物質を人格化したもの。

 ところで、この鉄の長兄というのは、火でありました。
 火は粗暴になりつつあり、鉄を焼き尽くさんとしたので、鉄は逃げ出し、沼に隠れてしまいました。(ちなみにフィンランドでは、その昔、実際に鉄は鉱石としてではなく泥沼から採れるモノだったそうです。)
 そうして時は流れ、第7章でも話の中に名前の出てきたイルマリネンという鍛冶の神が誕生します。
 彼は、沼に潜む鉄を説得し、引き出して、火の中に投じ溶かします。鉄は苦しみ、ここから出してくれというのですが、イルマリネンは「いまお前をそこから出せば、お前は自分の兄弟を殺すものとなるだろう」と言い、出してはやりません。

 この「兄弟」とは、人間のことです。
 カレワラ世界では、鉄や火が自然の乙女から生まれたように、人間もまた、自然の乙女の中から生まれたものでした。つまり、ここでは、人も神も、同じくウッコ神の「子孫」にあたる親戚縁者なのです。神と人間の間に明確な違いはなく、ワイナミョイネンやイルマリネンも、ヨウカハイネンやその他の登場人物たちと大して変わることがなかった訳が、おわかりいただけるでしょう。

 イルマリネンの言葉を聞いた鉄は、火の中で、自らの兄弟――人間には噛み付かないこと、つまり、人を傷つけることはしない、と約束します。それを聞いてイルマリネンは溶けた鉄を火の中から取り出し、冷やして固めようとしました。
 ところが――――
 悪霊は、ここにも手を伸ばしていました。イルマリネンが鉄を冷やす水の中に、霊薬と信じられていた蜜を入れようとしたとき、悪霊の化けたスズメバチは、毒の汁をコッソリ紛れ込ませていたのです。

 それに気付かず、呪いのかけられた水の中に鉄を押し込んでしまったせいで、鉄は、ときおり正気を無くして誓いを破り、人間を傷つけるようになってしまったのでした。

 これが、カレワラの中に語られる、「鉄の起源(おこり)」物語の、かなりすっ飛ばした要約です。
 これを聞いた老人は、ワイナミョイネンの膝を傷つけた鉄を叱り飛ばし、(「お前は誓いを破り、兄弟を傷つけたな!」)傷を塞いで、手当てを完了することが出来たのでした。



{この章での名文句☆}

「イルマりネンは夜生まれた、昼間、鍛冶の場所を探した」


いかにして鉄が生まれたか、という話の中に出てくる一文。
神秘的な色合いの強いこの章の中でも、特に不思議な感じがする。



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