第18章
Kahdeksastoista runo
前章まで、ずいぶん苦労して船を造っていたワイナミョイネン。んで、その船、一体何のために造ってたんですか?
「むふふ、聞きたいかの〜?」
うん、聞きたい。(嫌な予感するけど。)
「そぉじゃの〜。教えてやってもええぞい。わしはな〜、あの別嬪さんに会いに行くんじゃあv」
はい?
それって…まさか…。
「ポホヤの美人じゃよv」
ああああ!! あ、あんた、まだ諦めとらんかったんですかい!
求婚の条件としてサンポ鋳造を申し付けられたものの、それが出来ず、親友イルマリネンをだまくらかして造らせたくせに…。その人はサンポ造ったイルマリネンの婚約者でしょ!
「やかましい。いつまで経っても迎えに行かんし、あいつはオクテじゃからのぉ。嫁に貰わんのじゃったら、わしがもろてもええじゃろうが。恋は一瞬! 早いもの勝ちじゃい!!」
うっわー、メチャ非道ですがな。何てお人だ。
ですが、そんな抜け駆けがあっさり成功するはずもありません。船に乗って颯爽と漕ぎ出す彼の姿を、見つけた者がいました。
岬で洗濯していたイルマリネンの妹、アンニッキです。
えっ妹なんて居たんですか、ってカンジですが、そう、居たんですねぇ。どういうわけか。で、かなりの美人みたいな描写をされているのですが、なぜか、ワイナミョイネンは手を出していない様子です。
なぜ?
もしかして、すっごい性格が悪いとか? それとも、…手を出したあとの兄貴の報復が怖いからか?(笑)
ワイナミョイネンが兄の婚約者を掻っ攫いに行くつもりだと知った彼女は、洗濯物をほうりだし、家に駆け戻ります。イルマリネンは仕事場でいつものように仕事に没頭していました。
「たいへん、大変よ兄さん! そんなことやってる場合じゃないわよ。あの厚かましい人が(やはりイルマリネンの家人もそう思っていたらしい)、兄さんの思い人を奪いに行ったわ!」
がしゃん!
イルマリネンの手から仕事道具が落ち、仕事場に重苦しく張り詰めた空気が漂います。
「…すぐに婚礼用具を準備しろ!」
オクテ、オクテ言われてる彼ですが、やる時ぁやります。男です。
花婿らしくピシっと身支度を整えた彼は、立派な馬にソリをつけ、魔法で雪を降らせます。なるほど海をゆくワイナミョイネンに、陸路から追いつこうというのですな。考えました。
ソリに飛び乗ったイルマリネン、猛スピードでワイナミョイネンの魔法の船を追っかけます。それでも追いついたのは3日目のこと。傲慢なジジイを殴り倒すのか、と思いきや、彼は公明正大にもこう言います。
「おい、ワイナミョイネン! もし競争で求愛するんだったら、花婿はあの人に選んでもらおうじゃないか!」
自分かジジイかどっちがいいかは、ポホヤの乙女自身に決めてもらおう、というわけです。
「ふぉっふぉっふぉ、エエじゃろう。わしのほうが男前じゃぁ。ふふんふーん」
傲慢さ炸裂。
それにしても、イルマリネン、なんて懐具合の深い人なのでしょう。婚約者にコッソリ手を出そうとした卑怯者を許してやるとは…。だからこそ、ワイナミョイネンと友人でいられるのですね。いい人です。
こうして、2人は同時に陸と海からポホヨラへの地を目指すことになりました。
一方、こちらはポホヨラの女主人宅。
「おや・・・?」
ロウヒの夫は、表で犬が騒いでいることに気付き、何事だろうと思います。「おい、表が騒がしい。何事か、ちょっと見て来い」
「はあ?」言われた娘は、眉をしかめます。「…あたし、忙しいの。今からウシ小屋の掃除するから。そんな暇ないわ。」
「じゃあ妻、お前行ってこい。」「何言ってんだい。あたしゃ、今から食事の仕度だよ。ああ忙しい」
「息子、お前はどうだ。」「ええ? 本気かよ、父さん。僕はオノ研ぎの途中だぜ? その後でまき割りもしなくちゃならないし。」
「……。」
父の威厳、形無し。どうやら、魔女ロウヒの旦那は家族全員に尻に敷かれているようです。頼りない日本の父・代表(いやフィンランドの北の人だけど)。ちょっと親近感沸きましたね?
「…ちぇ。何だよ何だよ、みんなして。ええい、くそっ」
スネた父は、まだ騒ぎ立てている犬たちに八つ当たりするつもりで表へ出ました。と、その目に移ったものは、やたらケバケバしい船とソリがこっちへ向かってくる様子。そりゃ犬も騒ぐさ。
それでなくとも先日、無礼な若僧(レンミンカイネン)と恐ろしい老女(レンミンカイネンの母)の殴りこみを受けたばっかりです。また妙な連中が殴りこみに来たと思い込んだ彼は、大慌てで家の中へ転げ込みました。
「た、大変だ! 異人がやって来る!」
しかし流石は魔女ロウヒ。落ち着いた様子です。
「そう騒ぐんじゃないよ。やって来るのはどんな連中か、確かめてみようじゃあないか。」
食事の仕度をしていたカマドに、ナナカマドの木をくべます。
その木から流れ出たのは、戦いを表す血でも、平和を表す水でもなく、蜜でした。
「これは…。ふむ」
「ど、どうなんだね」
「求婚者だね。」
「は?」
そう、ナナカマドが蜜を流すのは、求婚者たちがやってくる証しなのです。
ロウヒとその娘は庭に出て、遠くからやって来る船と橇を眺めました。それぞれ、乗っているのはワイナミョイネンとイルマリネンです。
後ろで息子は父をじろりとひとにらみ。
「…父さん、ちゃんと確かめなかっただろ。」 「……。」
またも父の威厳形無し^^; バッカだなぁ父ちゃん、っていうか、父はたぶんフツーの人間だったんだろうねぇ。魔法とか使えない。
「さて、どうするね娘?」
魔女ロウヒは娘に問います。「あたしゃ、船に財宝を積んできたワイナミョイネンのほうがいいと思うんだけど。」
娘はすぐさま反論します。「冗談じゃないわ。財宝目当てにあたしを売るの? あたしはイヤよ。ジジイなんて。イルマリネンはサンポを造ってくれた人だし、婚約もしてるもの。あたしはイルマリネンのほうへ行くわ。」
さすがは稀代の魔女の娘。言うことはハッキリ言う、乙女と言うわりに気丈な人なのですな。
そんなことも知らず、最初に到着したのはワイナミョイネン。
「ワシの嫁になってくれ!」
「イヤ。」
と、打ち返すようにキッパリと。「あたし、海の男ってキライなのよ、なんか浮ついてそうだし。残念だけど、あなたのもとへは行けないわね。」
ジジイだから、と言わなかったのは、せめてもの心使いでしょうか。でも、結局のところ、船でやって来たワイナミョイネンに対するあてつけ、というか、言いがかりのような理由づけです。
断られたジジイが戸口でストーン化している間に、イルマリネンも到着。
場面は婚約の儀式19章へと続く!
{この章での名文句☆}
わたしのもとに来ないか乙女よ、幾久しい友人として、
一生の伴侶として、小脇に抱かれる雛として?
ジジイのプロポーズ台詞。さすが賢者、イカした台詞を使います。ただ…相手がジジイじゃイマイチ嬉しくない。