フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

サイトTOP2号館TOPコンテンツTOP

第16章
Kuudestoista runo


 ようやく話はワイナミョイネンへと戻ってきました。
 第16章が始まるなり、ジジイは何故か船を造っています。何で? と聞きたいところですが、船作りに夢中のワイナミョイネンは、何でなのか答えてくれません。
 「おい、サンプサ。ちと船の材料を取って来い。」
…大地の女神の息子にして農耕の神、サンプサ青年を、またもコキ使っております。

 この「カレワラつっこみモード」を最初からお読みになった方は、彼方の記憶を掘り起こしていただきたい。
 サンプサとは、第2章で、ワイナミョイネンにコキ使われていた、あのサンプサ・ベッレルホイネンです。相変わらず、彼はいろいろと力仕事をさせられている模様。
 神なのに。

 コキ使われるままに、サンプサ青年はオノを担いで船の材料なる木を探しに行きます。しかし、ウロがあったり節くれだっていたりと、なかなかよい木にめぐり合えません。
 ちなみに、「腐っている」だの「自分は船に向いてない」だの言うのは、木の自己申告です。切られるのがヤだから嘘ついてんじゃないの、とも思いますが、相手が神なのに嘘つかないでしょう…木は。(っていうか、木が喋ること自体、不思議なんだけど…神だから許されるのか?)

 最終的に、サンプサが選んだ船の材料は樫の木。この木をサクサクと板に直して、ワイナミョイネンのもとへと運んできます。
 で、彼の出番終了。相変わらず、使われるだけ使われてサヨナラです。なんだかなぁ。

 しかし、ここで問題が起こります。
 サンプサの運んで来た板を魔法で船に組み立てようとしたところが、なんと、仕上げの呪文が思いつかない!
 またか、ジジイ!
 えらいド忘れの多い大賢者さまです。神をコキ使うイヤンな呪文は覚えてても、生活に必要な呪文は忘れてるらしい。
 「うーむ…。仕方が無い、呪文を探しに行くか」
と、腰を上げたジジイ。
 なんと! 呪文を探すと言いながら鳥の虐殺。

 出会った白鳥の群れを皆殺し。鵞鳥の群れも全滅。おいおい…それって…ただの八つ当たりじゃないの?
 「どーもインスピレーションが来んのう…。」
ツッコミも無視ですか。
 「む、そうじゃ! ひらめいたぞい。トゥオネラに殴りこんでみよう!
 …はァ?
 ……トゥオネラって、まさか…死者の国へ行くというのか??

 正気の沙汰とも思えないこの思いつき、しかしジジイ自身はかなり本気のご様子です。さっそく船づくりほったらかして旅に出ちゃいます。そんでもって、正々堂々、真正面から殴りこみ。
 「トゥオニの娘! 渡し守りよ、船を寄越さんかい!」
はっきり言って、態度デカすぎます、ジジイ。

 ちなみに、トゥオニは死者の国の王です。トゥオニの住んでるところだからトゥオネラ。分かりやすいですね。
 で、トゥオネラへ通じる川の渡し守はトゥオニの娘さんなのです。残念ながら美人ではありません。いちおう嫁入り前っぽいですが、ガンコで気丈な、地下世界の入り口の番人に相応しい性格です。渡し守りというと、どーしてもギリシア神話のカロンや三途の川のバアさんなど思い出してしまいそうですが、むくつけき若い乙女というのは、なかなか奇抜なキャラクターです(オイオイ)。
ぎぃ〜こ、ぎぃ〜こ…

 今さら言うまでもなく面食いのジジイは、彼女にあまり優しくはあたりません。当然、トゥオニの娘も横柄な態度です。
 「あんた、何しに来たのよ。寿命じゃないし、何が原因で死んだワケ?」
ワイナミョイネンの悪評(?)は、ここまで伝わっていた様子。見た限りジジイなワイナミョイネンですが、ちょっとやそっとじゃ死なないことは、誰でも知っているのです。
 「うむ、トゥオニに呼ばれてな。わしは死んだのだ。だからここを渡してくれ。」
 「ウソをお言い! トゥオニはあんたを呼んだりしていない。」
 「…鉄がわしを殺したのだ」
 「剣で殺されたって言うの? だったら、あんたの体は血まみれになってるはずよ。」
どうやら、死んだ人間は、死んだときの格好で死者の国に行くようですね。じゃーバラバラ殺人に遭った人は、体バラバラのまんまで川を渡るんだろうか…。

 いろいろと言い訳してみるワイナミョイネンですが、トゥオニの娘は見え透いたウソをあっさりと破ってしまいます。そりゃそうだ、だって死んでない人間が架空の死亡理由をあれこれ言うんだもの。
 困ったジジイ、しまいに苦し紛れにこんなことを言い出しました。
 「そんな怒らんでもええじゃろー? ちょっとお茶目に1、2回ウソ言ってみただけじゃい。あのな、本当はな、船つくる呪文が思い出せんかったんで、冥界からブン取って来ようかなーって思ったんじゃあ。」

 正直すぎだ。

 賢者なんだから、もっと他になんか言いようもあるだろーよ、って気がしなくもないんですが。
 「バッカなんじゃない? あんた。」
トゥオニの娘も呆れ顔。
 「殴りこみはいいけど、マナの館(トゥオネラのこと)へ来たものは、もう戻れないのよ?」
 「んなこたぁわかっとる。ほれ! ごちゃごちゃ言わんと、さっさと船を寄越せ!」
 「……。」
はっきり言って、こんな迷惑なヤツは冥界に入れたくなかったんだと思うけど、それでも娘は小船をワイナミョイネンのもとへ差し向けます。いちおうお仕事だし。死にたいって言ってるんだから、死なせてやるのも死の国の門番の情けですか。


 さて、こうして冥界へやって来たワイナミョイネン。冥界の女主人の出迎えを受けますが、こちらも、かなり嫌そうです。
 「呼ばれもしないのに来るなんて、迷惑な話ねえ。」
ごもっとも。
 フツーの人は、お迎えもなしに自分から冥界に殴り込んだりしませんね。でも、来ちゃったもんは仕方ないです。女主人は、冥界に来たものが飲むことになっているビールを汲み出し、ワイナミョイネンに与えようとします。
 「とりあえず、お飲みなさい。」
 「ヤじゃ。わし、まだ死にとぅないモン。」
そう、冥界の食べ物をひとくちでも口にしてしまえば、もう二度と死者の国から出ることはできなくなってしまうんです。同じような話は、世界中にありますよね。

 自分から冥界に来ておいて、冥界にいるのがイヤだと言うジジイ。身勝手ボンバー炸裂です。冥界の女主人の額に、怒りの四つ角がピキっ、と浮かぶのが目に浮かぶよう。
 「…じゃ、あんた、何しに来たのよ。」
 「うむ。呪文くれ。」
ピキピキピキっ。
 ああ…ダメだジジイ、その人は、冥界の神ヘルに相当する女神さまなんだってば。けっこうエライのよ。お、怒らせちゃあ…。
 「いい加減におし! 魔法はフリーウェアじゃないのよッ! ここへ来た以上、お前を絶対に帰しはしないからねッッ!!」

 ドォン!

 恐るべき冥府の女王の力で、ワイナミョイネンは瞬時に眠りに落とされます。さしものジジイも、フイ打ちでくらった魔法には耐え切れなかったか。
 そして、眠っている間に、ジジイには強力な監視がつけられました。トゥオニの子供たち、おそるべき魔法使いのジジイ&ババア(やはり2人で「必殺! トゥオネラドリーム☆」とか合体技が出せるんだろうか…フフ…。)で、ワイナミョイネンを逃がすまいとガッチリ見張ることに。
 ジジイはぽそりと呟きます。
 「むー。わしの命運も、尽きたかのー…。」
 いつもながら、アンタ、諦めんの早いよ。

 と、思ったら、実はジジイ、諦めたフリしてただけなのでした。諦めたように見せかけて、素早くカワウソに変身してコソコソと水の中に逃げ込み、蛇となってトゥオネラの川を渡り(そんなんできるんだったら、最初っからトゥオニの娘に話し掛けなくても良かったんじゃ?)、みごと脱出。
 気付いたトゥオニの息子が大慌てで水の中を探りますが、ジジイは逃げおおせたあと。

 無事に生者の世界に戻って来たジジイは、一息ついて呟きます。
 「やれやれ、疲れたわい。それにしても、ヒドいとこじゃったのートゥオネラは。ヤッパ、生きてるモンは行かないに限るのー。」
ひどいのはアンタだよ、ワイナミョイネン。

 ところで、ジジイ、トゥオネラまで一体、何しに行ったんだ…?



{この章での名文句☆}

言葉を見つけに出かけた、白鳥の群れを殺し、
鵞鳥の仲間を滅ぼした、容赦なく燕どもを。

呪文さがしに出かけたシーン。どう考えても、ソレは八つ当たりでしょ?


ページ写真;ヴェルッティ・テラスヴォリ「トゥオニの娘〜プレ・カレワラシリーズより」(1997)
著作権切れてないので見つかったらマズいというか。よく見るとおヌードさん。

Back Index Next