■シャルルマーニュ伝説 |
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モトになっている歴史的事件はどちらも同じ、778年、サラゴッズ(サラゴッサ)を開城させた戦いの後に起きた、ロンスヴァルでの戦いである。ちなみにシャルルが西ローマの皇帝冠を戴いたのは紀元800年となっており、この戦いのときはまだ皇帝できなかったハズだが、なぜか「ロランの歌」では繰り返し「皇帝」という呼び名が出てくる。
まぁ、細かい時間差なので後世の人にはどうでも良かったのかもしれない。
さて、物語はやたらとロランに好意的だが、実際のところ、歴史上の人物としての「ロラン」がやっていたのは、しんがりではなく、サラゴッズから分捕った金品の輸送であった。その点、11世紀ごろに書かれた「ロランの歌」のロランは美化されているが、15世紀ごろに書かれた「ロンスヴァルの血戦」では、はっきりと「ロランは降伏したマルシル(マルシリウス)からの貢物を受け取りにいきました」、と書いてある。
フランク(フランスと名乗る前の国の名前)の軍勢が引き上げるとき、その通り道となるピレネー山脈周辺の首長たち(バスク人)が裏切り、重い分捕り品を担いで、少し遅れていた、しんがりの軍を襲った。険しい山間での、両脇からの不意打ちである。これによって、フランク側の名のある兵士たちが命を落とした。その中の1人が、ロランである。
――つまり、歴史では、ロランの軍が襲われたのは、存在しない架空の人物・ガヌロン(ガノ)の裏切りによってというよりは、最初から忠誠など誓ってはいない未開地域の少数部族による金目当ての略奪行為によってだった、と言えるだろう。
この物語が時を経て、フランク側にとっていいように脚色されたのが「ロランの歌」なわけで、そこでは、キリスト教徒(正義)vs異教徒(悪)という、非常にシンプルな図式が色濃く繁栄されている。
その図式に、さらに過激な脚色を加えて際立たせたのがルネッサンス期の「ロンスヴァルの血戦」。たとえば、裏切り者のガノを新しきユダと呼ぶといったキリスト教的な脚色をかなり加えている。
また、もう一つの注目すべき大きな違いは、リナルド一族が登場することである。
リナルドとその弟リッチャルデット、リナルドのいとこマラジジは、「ロランの歌」には全く登場しない。「ロランの歌」でシャルルマーニュ配下・第二の勇士をつとめるのは、リナルドではなくオリヴィエだ。
そのオリヴィエも、「ロランの歌」ではロランの親友、「ロンスヴァルの血戦」ではオルランドゥ(ロランのイタリア語読み)のいとこ、と、多少人物関係が変わっている。
さらに生存者も変わっている。
「ロランの歌」では名のある戦士は全員死亡するのに対し、「ロンスヴァルの血戦」では遅れて参戦したリナルド、リッチャルデットと、詩人の特殊事情によって決して殺してはならなかったチュルパンの3人だけが生き残る。アストルフォも死んでいる(涙)。
イスパニヤから引き上げようとしたとき、ガヌロンの手引きによってロランとオリヴィエを含む精鋭部隊が不意打ちをくらって全滅、その後、裏切り者ガヌロンは処刑される…と、いう大まかな筋書きは同じだが、細かいところには、かなり違いが見られる。
かぶっているシーンも多いので、そこは省き、異なっている部分を中心に以下、要約してみた。
『ロンスヴァルの血戦』あらすじ シャルルマーニュは、サラセン人との戦いのあと、その戦いでサラセン人側に味方したマルシリウスを罰するため、スペイン(イスパニア)へと攻め入る。戦況は有利に働くが、腹に一物のある廷臣、ガノ(ガヌロン)は、自ら、マルシリウスのもとへゆく使節として使ってくれと申し出、シャルルマーニュに許可される。 このガノは見え透いたおべっかでシャルルマーニュに取り言っているため、オルランドゥ(ロラン)やリナルドなど他の重臣にはことごとく嫌われている。彼らは王に、ガノを使者とするべきではないと忠告するが、聞き入れられることは無かった。 かくて使者としてマルシリウスのもとへ赴いたガノは、かねてより邪魔なオルランドゥを始末するため、「シャルルマーニュはマルシリウスから奪ったスペインを甥のオルランドゥのものにしたがっている」という嘘でマルシリウスを丸め込み、オルランドゥ抹殺に協力しようと持ちかける。(ガノがこの恐ろしい企みを口にした瞬間、かつてイスカリオテのユダが首をつったのと同じイナゴマメの木に雷が落ちて裂けたという。もちろん悪い前兆だが、ガノはこれを受け入れない。) マルシリウスと結託したガノは、シャルルマーニュに手紙を書いた。マルシリウスはおとなしく軍門に下るつもりでいる、貢物も用意している。オルランドゥを貢物を受け取りにこさせてくれないか…。 シャルルマーニュは愚かにもこれを信じてしまった。誰も、ガノの腹黒い企みに気がつかなかったのだ。 ガノはあらかじめマルシリウスから特別な服を貰っており、それを自分の一人息子に着せておいた。そうすれば、いざ戦いとなったときも、その服を着た者は標的とならない…と、いう算段だった。 一方、そのころリナルドは、弟リッチャルデットとともにエジプトにいた。 嫌な予感を感じ取った、リナルドのいとこで魔法使いのマラジジは、しもべたる精霊アシュタロト(メソポタミア周辺で信仰された神。アシュタルテの兄弟と考えられている)を召喚。これから悲劇が起きるだろうと聞き、アシュタロトに、至急リナルドたちを呼び戻すようにと命令する。 企みがなされる時。 オルランドゥは僅かな手勢を率いてマルシリウスの招待に応じる。一緒にやってきた親友のオリヴィエほか部下たちは、途中でガノの裏切りに気づき、今すぐ援軍を呼ぶ角笛を吹けというが、オルランドゥは「そんな卑怯なことができるか、俺に招待者を疑えというのか」と、突っぱねる。 しかし、そうは言ってもオルランドゥも、完全にガノを信用したわけではなかった。予感を抱きながらの待機。果たして、現れたマルシリウスは完全武装、どう見ても戦うつもりとしか思えない。 ガノの裏切りを知ったオルランドゥたちは剣を抜き、戦いが始まる。 魔法によって強制送還されたリナルドとリッチャルデットが到着したのは、戦が始まってからしばらく経った頃だった。 しかし2人増えたくらいでは圧倒的な数はひっくり返せず、戦いはますます激しくなるばかり。ただ一人、ガノの息子ボルドウィンだけが攻撃を受けていないことに気づいたオルランドゥは、思わず、この裏切り者め、その服を脱いで見ろ、などと怒鳴りつける。だがボルドウィンは父の裏切りに憤っており、自分に与えられた服の意味を知らなかった。 そして悲しいことに、ボルドウィンは、それほど強い若者ではなかったようだ…。 服を破り捨てたボルドウィンは、あっというまに集中攻撃を受けあえなく戦死。かっとなって怒鳴ったことが彼の死を招いたと後悔したオルランドゥは、「お前の仇は俺が討ってやる…安心して眠るが良い。っていうか悪いのは全部ガノ、貴様だ!!(滲む涙)」とかいう感じで悲しみを怒りに変えて戦場へ突っ込んでゆくのだった。 その戦場で彼は、親友オリヴィエの死を見る。 もはやこれまでと思ったオルランドゥ、ようやくにして、援軍を呼ぶ角笛を吹く。その音でようやく現状に気がついた鈍いシャルルマーニュ…、大慌てで全軍をロンスヴァルへ向かわせるが、もう遅い。 シャルルマーニュが到着したのは、リナルド、リッチャルデット、チュルパンの3人が見守る中、オルランドゥが力尽きたあとのことだった。 王は死んだ甥を抱きしめ涙すると、復讐を決意し、すぐさまマルシリウスを追ってサラゴッサ(サラゴッズ)の砦に攻め込んだ。マルシリウスはユダと同じくイナゴマメの木に首を吊られ、裏切り者ガノは四肢を引き裂かれて処刑されたという。 -教養文庫「シャルルマーニュ伝説」より要約 |