恐竜学講座2005年4月期 2005年4月〜9月 恐竜学講座は2005年9月に終了しました^^)
最近の恐竜の系統解析について:直接関係ないけど、徒然なるままに、そして今後の講座の参考に
(注:6月11日の講座紹介はこの下)
最近はいろいろな場所から新しい恐竜の化石が幾つも見つかっています。肉食恐竜に限ってみても興味深い化石が見つかっている。新しい化石とは新しいデーターです。それは仮説の検証に使うことができる。例えば10個のデーターから、そのデーターを説明するグラフを引くことができますね?。そのグラフがどのくらい正しいのか、それを調べるには新しいデーターを加えればよい。
11個目のデーターは最初のグラフを支持するか?、あるいは支持しないのか?。同じように12個目はどうか、13、14、15・・・・・2000個目のデーターはいかなるグラフを支持するか?。こうしてデーターを説明するグラフの確からしさを検証することができる。
最近の発見からするとコエルロサウリアの既存の系統仮説は新しい化石によってかなり手堅くサポートされるらしい。また、どうも論文などを読む限りではコエルロサウリアがどのように進化してきたのか、それもかなりはっきりしてきた感触があります。一部の肉食恐竜(注:ここでいっているのは鳥以外の、という意味)、例えばオヴィラプトルは鳥によく似ています。ですから北村の知人のようにオヴィラプトルは鳥ではないのか?、という人がいますし、実際に研究者の肩書きを持つ人からもそういう意見が提案されたことがある。
でも最近のインキシボサウルスとかファルカリウスの発見からするとそういう意見はサポートされない様子。むしろ既存の仮説、
オヴィラプトルはディノニクスよりも鳥から遠い
______オルニトミムス
|____オヴィラプトル
|___ディノニクス
|__鳥
が支持される。そもそもインキシボサウルスやファルカリウスの特徴を見る限りではオヴィラプトルやその仲間の鳥的な特徴は鳥とは無関係に収斂したらしいことがうかがえます。
またモノニクスはどうも鳥ではない様子。うーん、正直いって鳥だろうと思っていたのですけどねえ。ここ10年間くらいの発見や化石から考えると、アルヴァレッツサウルス・ファミリーも鳥からはずれると考えた方が妥当らしいし、そういう解析結果も得られている。テリジノサウルスの仲間もオヴィラプトロサウリアでよいようだし、トロオドンがエウマニラプトラでよいらしいこともほぼ確実。
なんか安定してきちゃいましたね。
最近で度胆を抜かれたのはディロングとペドペンナなんですけど、ディロングの果たした影響力というのはティラノサウリデーの系統的な位置を確定的にしたことでしょうし、むしろ驚かされたのはペドペンナでしょうか?。
中国の若きホープ、徐星さんの鳥の飛翔の起源に関する仮説は正直、弱い仮説だと思っていたのですが、よもや出てくるとは。なにが一番びっくりしたというか仰天したのは、あのメタターサル!!。あれはやられた。確かに彼の仮説が確かになるとしたら外群の比較に使われる動物の特徴からウンヌン・・なのでもうすこし解像度高く資料を見つける必要があるんじゃないのか?、とは思ってはいたのだけど、まさかああくるとはなあ。これがパラダイム・シフトってやつ??。
とはいえ、恐竜研究ってこれからどうなるんでしょうねえ?。どういう風にステップアップするのかねえ。
2005年6月11日
本日の講座は前回の続きトロオドンは何ものか?。そしてシナベナトルの発見はこれまでの結果にどんな影響を与えるか?、という内容。さてオルニトミムス、ディノニクス、ミズナギドリの身体の特徴からこのような分岐図なり、あるいは系統仮説を考えることができます。
______●△▽オルニトミムス
|____●▲▼ディノニクス
|__●▲▼ミズナギドリ
でもってここにトロオドンを入れるとちょっと難しいことになる。なぜならトロオドンと以上3つの肉食恐竜はこのような特徴を持った関係になるからです。
_______●△▽◆■☆オルニトミムス
| ?___●▲▽◆■★トロオドン
|_____●▲▼◇□★ディノニクス
|___●▲▼◇□☆ミズナギドリ
見れば分かりますが、かなり特徴の分布が錯綜しています。こういうこともあってトロオドンは獣脚類の系統のなかで一体全体どこにいくのか、これまでかなり不明確でした。例えば系統解析の結果得られたトロオドンの位置としてはそれぞれ以下のようなものがありました。
_________オルニトミムス
| |___トロオドン
|_______トロオドン
|_____ディノニクス
| |__トロオドン
|____トロオドン
|____ミズナギドリ
さて、いずれの仮説が妥当なのか?。科学における仮説検証の方法、新発見という新しいデーターはいずれの仮説を支持するのか?。最近発見された恐竜にシナベナトルというものがあります。この動物は次ぎのような特徴を持っています。
_______●△▽◆■☆αβγδ−÷オルニトミムス
|?____●▲▼◇■★ΑΒΓΔ+×シナベナトル
| |__●▲▽◆■★ΑΒΓΔ?÷トロオドン
|_____●▲▼◇□★αβγδ+×ディノニクス
|___●▲▼◇□☆αβγδ+×ミズナギドリ
見れば分かりますが、シナベナトルとトロオドンは他の動物が持っていない特徴ΑΒΓΔを共通して持っている(他の動物はこの特徴を持っていないので小文字のαβγδで表記)。そこでシナベナトルとトロオドンが極めて近い関係であることが推測できます。
_______●△▽◆■☆αβγδ−÷オルニトミムス
|?____●▲▼◇■★ΑΒΓΔ+×シナベナトル
| |__●▲▽◆■★ΑΒΓΔ?÷トロオドン
|_____●▲▼◇□★αβγδ+×ディノニクス
|___●▲▼◇□☆αβγδ+×ミズナギドリ
そしてさらにシナベナトルが持っている幾つかの特徴は次ぎのような状態になっていることに注目しましょう。
_______●△▽◆■☆αβγδ−÷オルニトミムス
|?____●▲▼◇■★ΑΒΓΔ+×シナベナトル
| |__●▲▽◆■★ΑΒΓΔ?÷トロオドン
|_____●▲▼◇□★αβγδ+×ディノニクス
|___●▲▼◇□☆αβγδ+×ミズナギドリ
これらの特徴はディノニクス+ミズナギドリに共通のものであることを考えると、どうもトロエドン+シナベナトルは次ぎのような位置にくるらしい。
________●△▽◆■☆αβγδ−÷オルニトミムス
|______●▲▼◇□★αβγδ+×ディノニクス
|____●▲▼◇■★ΑΒΓΔ+×シナベナトル
| |_●▲▽◆■★ΑΒΓΔ?÷トロオドン
|____●▲▼◇□☆αβγδ+×ミズナギドリ
以上のように、シナベナトルと呼ばれる化石はトロオドンの系統仮説の仮説の確からしさに影響を与えます。今回はこのような話を講座で解説。
それにしてもなんか伏せ字のごとく記号だらけですが、話した内容を具体的にべらべら話すわけにもいきませんしね。こういう表記にしました。とはいえこれはヒントみたいなものですから、少し恐竜に詳しい人がこれを見れば、ああ、多分、この記号はあの特徴のことをいっているんだろうなあ〜〜と分かるでしょう。
2005年5月14日
本日の講座の内容はトロオドン。でもその前に前回の続き、ディロングから何が分かるのか?についての話をば。ティラノサウルスの特徴に注目すると、非常に単純化して考えた場合、ティラノサウルス、オルニトミムス、ディノニクスの系統関係は次ぎのように2つ描けます。
1:メタターサルに注目した場合
______ディノニクス
|____ティラノサウルス
|__オルニトミムス
2:イスキアムに注目した場合
______オルニトミムス
|____ティラノサウルス
|__ディノニクス
以上は外群にあたるようなアロサウルスを省略しています。また、他の特徴に注目すれば違う系統関係が描けるのですけど、今回はこの2つだけに注目。さて、ここにディロングを加えるとどうなるか?という話。じつはディロングが持っている特徴を考えると、以上の2つの系統仮説(いかにもおおげさな言い方だけど、これも系統仮説なのだ^^)は積極的には支持されません。むしろ前よりも確からしさが落ちてしまうようです。
受講している人たちがいるのですからすべてをここで説明するわけにはいかないのですけど、まあ簡略化するとこういう状況になるというわけ。
_______●□オルニトミムス
|_____●■ティラノサウルス
| |__○□ディロング
|_____○■ディノニクス
でっ、他の特徴などを考えると、どうも・・・・な系統関係が描けるらしい。こういう点でディロングは非常に興味深い情報を私たちに提供してくれます。
この後、トロオドンの話を展開。ところでTroodon はどう読めばいいんでしょう?。トロオドンと読まれたり、あるいはトロエドンとも読まれます。もしかしたらトロッドンが正しいかもしれません。ともかくここではトロオドンと読むことにしますが、今回はトロオドンティダの系統関係について。
トロオドンとその仲間(つまりトロオドンティダ:トロオドン科)ほど系統解析の結果が不安定なものはあまりありません。まあなんというかそうとう激しく振動しています。詳しくはリンク先のトロオドンティダのコンテンツを見てもらうとして、今回の説明の要点は以下の通り。
1:トロオドンと他の肉食恐竜との共通点を説明する
2:トロオドンとオルニトミムスの共通点
3:トロオドンとエウマニラプトラとの共通点
4:新しく見つかった化石シノベナトル(Sinovenator:シノベナトル/シノヴェナトル/シノヴェナトール)はトロオドンティダと言えるのか?
5:そのシノベナトルはいずれの系統仮説を支持しそうか?
今回は以上の1まで説明。次回は2〜5までいって、できればメイの話をしたい予定。ちなみに、シノベナトルもメイも現在、国立科学博物館で開催中の恐竜展で来日しています^^)。シノベナトルもメイちゃんもきれいな化石だねえ。
あと、今回の講座では次ぎのような質問がでたんですが、以下のように答えておきました。
Q:恐竜は隕石で短時間で滅んだって考えられていますよね?
A:結果的には正しいです。短時間で急激に滅びたんでしょう。でも古生物学者は最初はそう考えていなかったようです(過去形、あるいは一部現在進行形)。事実、隕石衝突説に激しく反対した人(例えばロバート・バッカー)もいたし。そうなった理由はどうも漸進説というパラダイムから彼らが自由になれなかったか、あるいは隕石衝突説を自分達のパラダイムへの重大な挑戦とみなしたからみたいですね。手ごろな参考文献に「白亜紀に夜がくる」青土社があります。あと、何人かの古生物学者は化石記録にバイアスがかかっていないという前提で話を進めていたみたいですが、そのせいもあるんでしょう。しかし有孔虫ならまだしも、恐竜の化石記録に基づいて環境悪化により恐竜が衰亡していたという大胆な推理をするのはいかがなものかと・・・。
Q:ディノニクスは樹上性ですか?
A:さあどうでしょう?。たしかに爪がするどいから登れるでしょうけど、積極的に樹上性といえるかといったらどうでしょうね?。恐竜の大腿骨は哺乳類と違って股割りができるような構造じゃないし、かかとも前後にはよく動くけど回すことはできない。恐竜は明らかに地上を速く走り回ることに適応している動物ですよね。かかとの作りなんかは機能の上では偶蹄類に似ているかもしれません。たしかに樹に登るヤギもいるけど、だからといって樹上性かというと違いますよねえ。ディノニクスが樹上性だというアイデアはあまりサポートされないんじゃないでしょうか。
ちなみに、コロタン文庫で北村が描いたミクロラプトルの脚は股割りしているようですけど、あれはですね、大腿骨が開いているのではなくて、○○○○○が・・・・。
2005年4月9日
さて・・・恐竜学講座はどうなってしまうのかなあ〜〜と思っていたら、結局、今年度も講座は続くことに。今回の講座は4月9日、5月14日、6月11日、7月9日、9月10日の予定(急用とか天候、災害などによって変動する可能性はあり)。
さて、前回の話は、”ディロングはティラノサウルス類なのかどうか?”、という内容。それにたいして今回はディロングの発見でなにが変わるのか?、が主題。
・・・・・・のはずだったんだけど、その主題をしゃべりきれなかったので一部は次回に。
なんでそんなしわよせが起きたのかというと、今回はアロサウルスと比較したり、現在、上野の国立科学博物館で開催中の「恐竜博2005」でやってきたディロングを観察できたから(この話は3/12の授業内容紹介で少ししていますが)、その話をしたのでしわよせが起きました。ともあれ、国立科学博物館で撮影した写真などをもとにあらためてディロングの特徴について解説。実物を比較的まじかで観察すると、ディロングのプレマクシラの形と他の骨との相対的な位置については非常に印象的。またaofの周囲の様子も面白い。
そうした特徴などから考えるとディロングがティラノサウルス類であることは、ほとんど疑いがないように思えます。ちなみにここで北村が言っているティラノサウルス類とはTyrannosauroidea/ティラノサウロイディアのこと。日本語に訳すとティラノサウルス上科ですね。定義はHoltz 2000(参考はウェブの情報上における彼のものなんだけど)。
なお、ディロングがTyrannosauridae/ティラノサウリデー/ティラノサウルス科であるかどうかは、北村には判断がつきません。
いずれにしてもディロングの発見はコエルロサウリアにおけるティラノサウルスの系統上の位置や形質の進化におおきな光を投じるものであることは確実。ティラノサウルスの系統上の位置には幾つか違う解析結果があって、それらは
コエルロサウリアであってマニラプトリフォームスでない
マニラプトリフォームスであってアルクトメタターサリアである
マニラプトラであってエウマニラプトラ+オヴィラプトロサウリアではない
というもの。とはいえ、まあ見れば/聞けばわかりますが、おおむね安定していますね、これ。
こういう言い方が正しいのかどうかはともかくとして、ようするにティラノサウルスの系統解析の結果はオルニトミムスの前後をうろうろしているってわけですな。あるいはその周辺で振動している、ぶれているっていってもいいかもしれません。系統解析についてディロングがどのような影響を与えるのかはちゃんとやってみないといけませんが、ディロングの持っている特徴を見て単純に考えると(<本当はあまりよくないことだと思いますが)、多分、
コエルロサウリアであってマニラプトリフォームスではない
なのだろうなあ、という印象。実際、ディロングの特徴ってあれがティラノサウロイディアだとすると非常に興味深いものなんですよね。
次回はこのあたりの話をして、科学とはなにか?、分岐学とはなにか?を紹介した後、トロオドンの話でもしようかなあ、と思う次第。トロオドンというと、あれほど系統上の位置が不安定な肉食恐竜もめずらしい。コエルロサウリアであることは確実ですが、もう、あっちゃっこっちゃ振動すること振動すること。でも最近の新しい発見で系統上の位置がかなり安定してきた印象があるので、このあたりの話は科学として面白いのではないかと思います。
今期の恐竜学講座のテーマは科学、仮説と検証。
面白恐竜学2004年10月〜2005年3月 2004年10月期講座の授業風景^^) 2005年3月12日
2005年は3月12日、ついに2年続いた恐竜学講座もこれで終わりか〜〜〜と思っていたら、なんかもしかしたら4月からまたも続く可能性がでてきました。これを書いている3月24日の時点では本当に続くかは未定だけど、可能性はあるということで・・・。
さて、3月12日の講座内容は19日から始まっている上野、国立科学博物館の恐竜博2005の展示もからめてディロングの話。ディロング。だいたい1億2800万年ばかし前の中国の地層から見つかっている肉食恐竜の化石のことで、今回の恐竜博に来ています。そしてこの動物、どうもティラノサウリデー(ティラノサウルス科)に近縁らしい。
今回の講座ではどのような根拠でディロングがティラノサウリデーに近い、と言えるのかを講議。代表的なコエルロサウリアの頭骨を並べてディロングと比較。頭骨の特徴を比較することで、たしかにティラノサウルスに近そうだ・・という話にもっていきました。
ディロングを北村が講座で紹介したような根拠でティラノサウリデーに近いといっていいのか??というのは誰もが抱く素朴な疑問なのですが、少なくとも、
自分たちの目で確認できる違いと特徴があり
それらの特徴の多くは他の肉食恐竜とよりはむしろティラノサウルスと共通する
のは事実なので、ディロングは確かにティラノサウリデーに近いといってもいいのだろうなあ、と思うのでした。参考文献はもちろん Xing Xu et al. 2004. Basal tyrannosauroids from china and evidence for protofeathers in tyrannosaurids. nature,vol.431, pp680~684.
ちなみに・・・・
恐竜博にいって実際のデイロングを見たんですけど・・・。たしかにこれは・・・、プレマキシラの形、プレマキシラに生える歯の様子、マキシラの形とネイザルとの関係、ラクリマルの形とジューガーとの関係、ジューガーの形とaofとの位置関係、その特徴・・・・・。
これは確かにティラノサウリデーに近いといってよさそうです。論文の図を見るよりも(当たり前だけど)実物はやはり説得力がある(というかショックだった、正直いって。すげーなーあれ)。
それにしてもディロングの身体の骨格についていうと、こっこれは・・・なんですよねえ。ディロングは羽毛を持っていたけど、それもさることながらあの身体。なんという身体、なんという骨格なのだ!!。
次回はこの話をしよう・・・。
2005年2月26日
2005年、1月の授業は下記に書いた2004年12月の続きでした。でもって2月の授業はこの化石のなにをもってティラノサウルス類であるといえるのか?、と、この発見でティラノサウルス類の推定される系統はどう変わるのか?、という内容を話した次第。おそらく恐竜学講座は次回の3月をもって終了の見通しであることと、来月には国立科学博物館でティラノサウルスも含めた恐竜展があることをふまえての授業です。
エオティランヌス。これはイギリスの白亜紀前期の地層から出たばらんばらんの骨につけられた名前ですが、非常に興味深い特徴をもっています。いくつかの骨の特徴からすると(<このあたりの話は近日中にでる出版物の内容とだぶるので現時点では特にふれません。ちなみに講座に来た人には記載論文のコピーや解説、アロサウルスとの比較などで差別化)、この生き物エオティランヌスはティラノサウルス類にかなり近いらしい。
これがまず第一の話。ようするに断片的な骨の特徴から何に近縁なのか?、それをどう考えるのか?、という話なわけ。ついでにワニの分離したプレマキシラ(プレマクスィラかな?)のスケッチも。
そしてもうひとつの話の主眼は手。エオティランヌスの手はティラノサウルス類のものとはかなり違っている。どう配置したらよいのか良く分からない指の骨などがこまごまとでているだけではなく、手首の骨も断片的ながら見つかっているのだけど、どうもそれからするとエオティランヌスの手首の関節はかなり可動するつくりらしい。この事実はじつはティラノサウルスの初期の系統解析(例えばHoltz 1994 )にある程度の影響を与えうるものなのですね。
ようするに、
AとBにはXにはない共通点がある だからAとBはXにたいして近縁だ
という最初の推論に、Cというデーターが加わった
AとCにはXにもBにもない共通の特徴が幾つかある だからAとCはXとBにたいして近縁だ しかしAとBが共通に持っているが、XとCが持っていない特徴アがある (X((A C)B))ならAとBが持っているその特徴アは同じものではないかもしれない
という話。この話はひどく単純化した話だと思うのですが、他の特徴をトータルに考えてもどうもそういうことになりうるらしい。
さて、講座も(おそらくは)最後なので、新しいデーターを加えるということがどういうことか?。新しいデーターを加えたら以前と答えが変わりうる、それがどういう意味なのか?、を話して終わる予定。まったくこういうところが分からないままいってしまうと、答えがころころ変わるから分岐学や系統解析はおかしい、という大人になってしまう。これはぜひとも避けてもらわないと・・・、じっさいにこんなことを言う人は新しいデーターによる答えの検証を否定しているわけだから、科学を否定しているのとなんら変わらない。
それにしてもなんでこうなっちゃうんだろうと考えるに、そういう人たちは暗記や暗記に役立つ体系にこだわるという共通の特徴なり動機が見つかるように思えるので、多分、暗記にこだわって暗記しやすい安定的な体系を渇望するようになった結果なんでしょうね。体系が安定的であることにこだわるのなら、そりゃあ検証なんてしないよなあ。反対に科学は、”この答えは安定的なのか?”とテストするんでしょうけど、暗記したい人は体系が安定していなくちゃあ困る(新しい体系を喜ぶ時も、それは新しい知識を知りたいという動機のように見える<知りたいとは理解ではないですね)。
いずれにしても暗記だ、体系は安定していて欲しいだのって科学の話でもなんでもないんですよね。それはむしろ事務の話ではなかろうか?。
一方で授業に来ている子供さんがエオティランヌスが系統解析に与える影響の話を算数のようだ・・といったのは直感的な言い様ですけど頼もしいかな、と思った北村でした。そういえば分岐学が嫌いな人を何人かみたけどみんな数学が嫌いだったなあ・・・・。もっとも、これはちゃんとサンプルを集めて検証しなくちゃいけない話ですけどね^^)、かたっぱしから人間をとっつかまえて質問しデーター化する。
次回はより原始的なティラノサウルス類でありうるディロングの話とデイロングがティラノサウルス類に近い生き物ならどのようなことが推論されるかを話ます。
2004年12月11日
10月の講座は台風22号のために休講。そして10月にするはずの話は11月に。そして本日はプラテオサウルスの頭骨レプリカのスケッチをして授業をする予定・・・のはずだったのですが、11月に話し終わるはずであったサウロポードモルファの系統をどう考えるのか?(以下の10月9日の講座を参考)の説明に意外と手間取って、本日はスケッチだけで終わりました。
ともあれ、プラテオサウルスの頭骨はこんな感じ
この頭骨レプリカの長さはおよそ36センチ。推定するにこの頭骨の持ち主の体長は多分7メートルぐらいでしょうか。プラテオサウルスはだいたい2億2000万年前のヨーロッパから知られているプロサウロポーダ、非常によく知られているのでプロサウロポーダの話ではかならず取り上げられる種類です。
このスケッチは受講生の人たちに配ったものなのですが、そういう資料をHP上でアップしてどうするのだ?、という見方もあるかもしれません。すなわちお金を払ってきている受講生の人に配った資料をHPで公開してどうするのか?、と。でもこれはあくまで参考スケッチでしかありません。
かたや講座の内容自体は北村が持ってきたレプリカそのものを受講した人たちにスケッチしてもらって、
この頭骨はプラテオサウルスのものである ではなぜそういえるのか? それを説明できるか? できるとしたらどう説明するのか? ということが主旨。
恐竜をある程度知っている人ならこの頭骨がプラテオサウルスのものである、と答えることはできる。逆にいえばこのイラストを見て、これがプラテオサウルスと分かること自体はまあどうでもいい話でしかないんですね。
むしろ重要なのは、そう判断した根拠は何か?、その根拠を理路整然と説明できるのか?、その説明には説得力があるのか?、というところにあります。例えばの話、答えを当てるだけならサイコロでだってできる。だから答えられるのが重要なのではなく、答えを説明できるのかが重要。説明できなければ無意味だし、説明できてもその説明がどこまで十分であるのかがとわれるでしょう。だからこのスケッチ自体にはたいした意味はありません。
ではどう説明するのか?。例えばプラテオサウルスの記載論文の図と並べてみて「同じでしょ^^)ノ」、という説明もあるはずです。記載論文とくらべて同じであるかどうか判断する。たしかにこれは必要なことではありますね。それでもいいのですが、それだけではまだまだ十分ではない。人間というのは面白いもので、あるAとBとを見比べて、この2つのものが同じであるということが直感的には分かっても、どうして同じと言えるのか?、それを具体的に説明しようとすると困ってしまう場合がままあります。直感的な理解は理解としては不十分。
だから見て同じでしょ、ではなくてもう少し説明できるところまでいかないといけません。
次回の講座では代表的な古竜脚類、テコドントサウルス、ユンナノサウルス、マッソスポンディルス、ルーフェンゴサウルス、コロラディサウルスと以上の頭骨とをくらべて、これらがどのような共通点を持つのか?、どのような固有の特徴を持っているのか?を見ていきながら、彼らがどのような系統関係にあるのかを見ていく予定。
とはいえ、古竜脚類の頭骨の特徴はかなり矛盾した分布を示すように見えるので、なかなかすっきりしたことをいうのは難しいものがあるように感じました。参考はいまのところ
Sereno 1999, Science, Vol.284, pp2137~2147
Benton,etal, 2000, Journal of Vertebrate Paleontology, 20(1)pp77~108
2004年10月9日
本日は台風22号が関東をもろに直撃。当初は激しい雨だけだったのだけど、北村の住んでいる神奈川の某所では14時頃から猛烈な雨と風。どうにもならなくなりました。受講生の人も家から動けず講座は休講。じっさい、本来なら帰りの時間になる6時ぐらいに電車が止まるしまつ。休講になってよかったねえ・・・・・。まさに講座の時間に直撃でしたからね。
ともあれ、本来、講座で話すはずの内容を簡単に紹介。この日はサウリスキア(竜盤類)の話をテコドントサウルスとヘルレラサウルスをからめつつ話すはずでした。
ヘルレラサウルスは原始的な肉食恐竜、テロポーダ(獣脚類)です。あまりに原始的で恐竜であるのかどうか疑われることがあります。というか昔は恐竜でないって意見が一般的でしたね。
テコドントサウルスはプロサウロポーダの一種。いわゆる古竜脚類。これも非常に原始的な動物です。完全な2本脚で歩く動物で、プロサウロポーダであることをロジカルに説明することがなかなかむずかしい生き物です。
サウリスキアを説明する。その説明にテコドントサウルスを使う。
テコドントサウルスがサウリスキアであることを説明する。
テコドントサウルスがプロサウロポーダでサウロポードモルファであることを説明する。
プロサウロポーダとサウロポードモルファがサウリスキアであることを説明する。
これは思ったよりも難しい仕事で、どうロジカルに説明したものか???。かな〜〜〜り悩みました。
テコドントサウルスは原始的すぎてサウロポードモルファの特徴のほとんどを持っていません(2つしかないという意見もある:Galton 1992, Basal Sauropodomorpha-Prosauropoda, [The Dinosauria] Univerity of California Press)。
おまけにプロサウロポーダ(古竜脚類)もオルニスキア(鳥盤類)も草食動物なので似た特徴を持っている。これは系統を反映した形質か?、それとも単なる収斂か?。
サウリスキアの単系統性を説明するのも、テコドントサウルスがプロサウロポーダであること、またサウロポードモルファであることを説明するのもちょっと難しい。一応、以上の図のようなロジック(?)で説明しようかと思うのですけど、どうでしょうね?。ちなみに一般的に支持されている系統関係は以下のようなもの。
__________Lesothosaurus
|________Thecodontosaurus
| |___Plateosaurus
| |___Brachiosaurus
|______Herrerasaurus
|______Allosaurus
それにしてもテコドントサウルスを論じる時にはプロサウロポーダのあり方が問題になると思うのです。プロサウロポーダの単系統性は時々疑われます。これに関しては議論の余地がありそう。Gauthier 1986, The Origin of Birds and the Evolution of Flight [Memoires of the California Academy of Science Number 8] ではプロサウロポーダは側系統。最近の Sereno 99 の論文(Science vol.284, pp2137~2147 [The Evolution of Dinosaurs])ではプロサウロポーダは単系統です。でもセレノのデーター・マトリックスを読んでいたらこんな内容が!!、
This dataset includes 32 characters in 9 prosauropod genera. Successively more remote outgroups include Sauropoda and Theropoda.
うわおう!!、こりゃあ萌えですよドクターセレノ。もちろんこれでプロサウロポーダの単系統性がぶっつぶれるわけじゃあないですが^^)。科学と論文ってやっぱり楽しいと思いますね。
でも一番、おおーと思ったのはこれ。
Maxillary vascular foramina, form: irregular (0); 1 directed posterior, 5-6 anterior (1)
さすがって感想。