トウゴクシダ
Dryopteris nipponensis
*「神奈川県植物誌2001」参考
撮影:2013/01/13 神奈川県
神奈川では林や森をゆく小道の脇などで見られるシダです。この株は水が湧き出ている谷間の奥に生えていたもの。同属別種のベニシダにそっくりで、この株も最初はベニシダかと思っていました。少なくとも近所の公園で見る限り、ベニシダよりは少ないかもしれません。「原色日本羊歯植物図鑑」では”ベニシダに非常に近い種類である。移行型が多くて、これという区別のきめてがない。典型的なものについてベニシダと比較すれば....”とあります。ざっと見ると実際にその通りで、以下で述べる特徴や識別点も、例外があったり、微妙な事例があったりします。
以上のトウゴクシダは、こちらのベニシダとほぼ同じ場所に生えていたもので、両者の距離は5メートル以下です。この2つの株は”典型的”な事例かもしれません。文献を読んだ後なら、かなりはっきりと区別できます。
トウゴクシダの特徴
:葉っぱの柄(正確には羽片の柄)の裏面には袋状鱗片が多い
:胞子嚢群(ソーラス)は円腎形(というかほぼ円盤形)の包膜に覆われる
:包膜は白色(赤いものもあるそうです)
:最下羽片下側の第1〜3小羽片は、羽軸まで切れ込む(以下を参照)
:葉柄には黒褐色で細長くて尖った鱗片がやや密生してつく
*注:以上の特徴とは共有あるいは固有派生形質であることを必ずしも意味しません。
解説
同属別種のベニシダとよく似ていますが、ソーラスを覆う包膜は白色です(ただし赤いものもいるそうです)。
撮影:2013/01/13 神奈川県 以上と同じ個体
以上の写真では、葉っぱの柄(正確には羽片の柄)の裏側に、袋状鱗片がついているのが見えます。この特徴自体はベニシダと変わりません。
トウゴクシダもベニシダも、葉っぱの切れ込みが1回、2回、3回と起きます。言い換えれば、葉っぱが1回、2回と分岐して、3回目は深くまで切れ込みません(以下画像参考)。そのため、切れ込みのある小さな葉っぱ(小羽片)が多数集まってひとつの葉っぱ(羽片)を作り、さらにそれが多数集まって大きな葉っぱを作るように見えます(実際には全体で1枚の葉っぱ)。
トウゴクシダの特徴は、一番下の羽片の、さらにそこから枝分かれし小羽片のうち、最下で下側のものが、柄からちゃんと分離することです。これが「神奈川県植物史実2001」で言うところの、”最下羽片下側の第1〜3小羽片は、羽軸まで切れ込む”の意味(らしい)。とはいえ、慣れないと分かりにくいし、公園を歩きながらベニシダとトウゴクシダの個体変異を見ていくとなんか微妙っぽいものもある様子。
トウゴクシダ
撮影:2013/01/13 神奈川県(個体は同上)
ただ、少なくとも、以上のすぐ近くに生えていたベニシダ(以下参考)は、第1〜3小羽片が葉っぱの柄(正確には羽軸)に沿って流れるようについていたので、少なくともこの2つの株はこの特徴でそこそこ明白に識別できます。
注:以上の画像はベニシダのもの。最下の小羽片を示す。
撮影:2013/01/13 神奈川県
トウゴクシダとベニシダは、葉柄につく鱗片でも識別できます。ベニシダの鱗片は薄茶色で半透明ですが、トウゴクシダの鱗片は黒褐色で尖っており、なんかすごく剛毛。
撮影:2013/01/13 神奈川県(個体は以上で紹介したトウゴクシダと同一)
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